対話で理解する!リース会計基準(案) 第3回(最終回) 貸手の会計処理/特殊な取引

週刊 経営財務(株式会社税務研究会発行)の2023年7月10日号、2023年7月17日号、2023年7月24日号にあずさ監査法人の解説記事が連載で掲載されました。

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この記事は、「週刊 経営財務 No.3614」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

本連載解説では、リース会計基準(案)の本質をより理解しやすくするため、ポイントを絞り、会計士と経理課長の対話を通じて、3回にわたって説明しています。今回は最終回になります。

なお、文言は公開草案に対してよく聞かれるコメントに基づき構成しております。意見にかかる部分は筆者の個人的な見解であることをお断りしておきます。

第3回(最終回) 貸手の会計処理/特殊な取引

リース会計についての公開草案がリリースされ、経理課長のBさんが、公開草案に詳しい会計士のAさんにいろいろと聞いています。今日は貸手の会計処理やその他の特殊な取引について話しているようです。

セール・アンド・リースバックはIFRS®会計基準とは別路線

B(経理課長):A(会計士)さん、セール・アンド・リースバック取引にはIFRS会計基準ではなく米国会計基準の考え方が取り入れられたと聞きました。

A:はい、そうです。セール・アンド・リースバック取引の会計処理では(1)売却が認められるかどうかと、(2)売却損益が認識できるかが主なポイントです。このうち、主に(2)売却損益が認識できるか、という点にIFRS会計基準と米国会計基準では考え方の違いがあります。米国会計基準では売却が認められれば売却損益は全額が認識されますが、IFRS会計基準では売却が認められてもリースバックを通じて売手が借手として権利を保持し続けている部分について売却損益を認識できません。

B:なぜここだけIFRS会計基準ではなく米国会計基準の考え方が取り入れられたのでしょうか? 公開草案のほかの部分は基本的にIFRS会計基準を取り入れていますよね。

A:まず、売却が認められる以上、売却損益も認めるべきでは? という概念的な観点があります。さらに実務においてIFRS会計基準の方法はいろいろ煩雑というのが大きかったと思います。実際にIFRS会計基準ではセール・アンド・リースバック取引の会計処理について議論が起こり、2019年に強制適用開始された基準を去年早速改訂しています!

セール・アンド・リースバックで簡単に益出しが?

B(経理課長):なるほど。米国会計基準のやり方が取り入れられたということは、売却要件さえ満たせば、たとえリースバック部分がファイナンス・リースに分類されたとしても売却益を全額認識できることになりますか? 今までは繰延が要求されていたので、益出ししやすくなったということですよね。

A(会計士):それはちょっと違います。公開草案では、フルペイアウトのリースバックを伴う場合は、そもそも売却を認めないことになります。

B:フルペイアウトのリースバックというのはファイナンス・リースバックのことでしょうか?

A:リースバックがフルペイアウトかをどう判定するか、具体的な判定基準は示されていません。ただし、ファイナンス・リース取引は「ノンキャンセラブル・フルペイアウト」なリースですので、ファイナンス・リースバックを伴う場合、売却処理は認められないと考えられます。
また、中途解約が可能だとファイナンス・リースにはなりませんが、解約できるオプション期間を借手がリースし続けることでフルペイアウトとなる場合もあると思います。現行基準ではオペレーティング・リースバックと判断され売却損益を全額認識しているケースでも、公開草案では当初の売却が否認され売却損益は全く計上できないことも考えられます。

B:それは、現行基準より厳しくなるということでしょうか? しかも明確な判定基準がないのでは、監査人によって言うことが違わないようにしてもらいたいですね。

A:これは手厳しい。しかし原則だけ述べて細則は設けない方針だそうですので、実務判断にある程度の幅が出ることは避けられない気もします。

貸手への影響

B(経理課長):当社には貸手としてのリースも若干あるのですが、収益認識基準と整合させるために割賦基準がなくなるのですね?

A(会計士):ファイナンス・リースの貸手の処理はその通りです。リース料受取時に売上高と売上原価を計上する、いわゆる第2法は公開草案では廃止が提案されています。なお、収益認識基準が適用されてからもリース会社については割賦基準の適用が認められているのですが、これも今回廃止が提案されています。

B:第2法が取れないと、リース開始日に売上高を全額計上する、いわゆる第1法か、売上高を計上しないで受取利息を認識する第3法のいずれかを選択しないといけないのですね?売上が上がらないのは困るから第1法かな。

A:いいえ、会計処理の選択はできません。第1法が適用されるのは製品や商品を販売する会社が、販売に代えてファイナンス・リースの形態でその製品や商品を顧客に提供する場合だけです。なお、延払いによる利息部分が売上に算入できないなど現行の第1法とは少し違いますので注意が必要です。

B:多くの貸手リースは利益が利息収益として計上される現行の第3法になるのですね。まあ、影響があってもファイナンス・リースの場合ですからね。

リース分類はサブリースに注意

B(経理課長):ファイナンス・リースの判定は現行と変わらないのでしょう?

A(会計士):貸手のリース期間、貸手のリース料に基づき現行基準と同じ経済的耐用年数基準や現在価値基準が適用されます。貸手のリース期間は借手のリース期間と違って解約不能期間ですので、公開草案に基づくリース分類が現行基準での分類と異なるケースは基本的に想定されないと思います。解約不能期間に、借手が再リースする意思が明らかな場合の再リース期間を含める点も現行基準と同じです。

B:そうなると、大半の貸手リースはオペレーティング・リースだから今後も同じでほとんど関係ないかな…。

A:サブリースだけは気を付けてください。例えば、不動産会社から借りたスペースが不要になって第三者に転貸する場合、転貸しているのは不動産だからオペレーティング・リースだと思いこまないでください。公開草案ではリース分類の判定にあたり、転貸は使用権資産のリースとして扱われます。「オフィスの賃借契約が後3年間残っていて他の会社に残りの全期間転貸します」みたいなケースは、ファイナンス・リースになってしまいます。

B:不動産を貸していてもファイナンス・リースですか?

A:はい、不動産を貸しているのではなくてヘッドリースで獲得した不動産の「使用権」を貸していると考えてリース分類を判定するのでファイナンス・リースになります。

B:そうですか、転貸するときは気を付けないと。オペレーティング・リースであれば現行と会計処理ほとんど変わらないですよね?

A:そうですね。フリーレントが貸手のリース期間で均されるなど、改正が提案されている点もありますが、一般の事業会社にとって重要な影響を与えるようなものはないといえるでしょう。

貸手と借手の会計処理は整合していない

B(経理課長):しかし不思議ですね。現行基準では借手がリース資産を認識するときには、貸手も原資産の消滅を認識し、代わりにリース債権とかリース投資資産を認識しますよね。

A(会計士):はい、売買に準じた処理ですから。

B:公開草案によると借手は使用権資産を認識するのに、オペレーティング・リースの貸手もリース対象資産をそのまま認識し続けるのですよね? 同じ資産が二重計上されますね。

A:「5年分の使用権がない機械」とか「2年分の使用権がない土地」とかを貸借対照表に載せるかという問題です。Bさんは自社ビルの1フロアを1年間第三者にオペレーティング・リースで貸出すとして、1年分の使用権の移転を自社ビルの部分的な消滅の認識としてリース対象資産を減額する会計処理を支持しますか?

B:それは…会計処理が複雑すぎますね。

A:借手と貸手の会計処理が整合していないため、単体で適用されると、例えば連結グループ内取引の相殺消去はちょっと面倒になります。

B:そこまで考えていなかったです。

A:今までは賃貸料と賃借料を相殺消去すればよかったですが、今後は借手の使用権資産とリース負債を貸借対照表から落とし、減価償却費と金利費用を消去、一方で貸手は賃貸料を消去します。当然数字は合わず、損益に影響が出ます。

B:ロジックは難しくないですが、簡単には消えないのが面倒ですね。間違って会計処理してもすぐにはわからず、見逃してしまいそうです。

財務諸表の見え方には大きな影響

B(経理課長):いろいろお話を聞いてきましたが、改めて、結構大変だという気がしました。原則としてすべてのリースがオンバランスされるということは前から言われていました。すべてのリースをファイナンス・リースとして処理すればいいので、会計処理は別に難しくないのではないかと、内心思っていましたが、ちょっと甘かったかもしれません。

A(会計士):そうですね。しかも今回の基準は財務諸表の見え方にも大きな影響があります。

B:借手は負債が増えるということですね? 財務制限条項すれすれの会社は影響があるでしょう。総資産も増えるからROAも悪化してしまいます。

A:貸借対照表については影響がわかりやすいですが、損益計算書やキャッシュ・フローにも影響があります。リース料が大きく減少し、代わりに金利費用が発生するので一般的な会社では営業費用が減り営業損益が好転して見えます。
また、今まで営業区分のキャッシュ・アウトフローとして処理されていたリース料の支払いは、今後は主にリース負債の返済として財務区分で扱われますので、キャッシュ・フロー計算書では営業キャッシュ・フローが好転したように見えます。

B:実態が変わっていないのに悪く見えたりよく見えたり。負債が増えるのは、オペレーティング・リースでも支払義務は負っているので、今まで簿外だった債務がオンバランスされます、というのは分からなくもないです。しかし営業損益や営業キャッシュ・フローが変わるのは、感覚的についていけないところがあります。
貸手は会計処理があまり変わらないので、財務諸表の見え方もあまり変わらないことになりますか?

A:貸手の会計処理は大きく変わるわけではありません。しかし、リースの貸手としての業務が本業のリース会社や不動産会社にとっては、例えばファイナンス・リースの第2法が廃止されたりフリーレントを均すことが要求されたりすることで売上の数字が直接影響受けます。

国際的なコンバージェンス

B(経理課長):財務諸表は大きく影響を受けますが、国際的な基準との整合性が取れることで、海外企業との比較可能性は高まるのですよね。

A(会計士):借手についてはそう言えるでしょう。貸手はちょっと違いますが。

B:貸手は米国会計基準やIFRS会計基準もあまり変わっていないということでしたよね。ということは日本基準も含めてそれぞれ三者三様と。

A:IFRS会計基準と米国会計基準も貸手について完全に同じではないですけれど、日本基準はその二つとはちょっと違う感じです。リース料やリース期間の考え方が日本基準の公開草案では借手と貸手とで異なりますが、IFRS会計基準や米国会計基準では借手と貸手で基本的に同じです。日本基準では公開草案でも経済的耐用年数基準のファイナンス・リース判定を解約不能期間に基づいて行います。IFRS会計基準や米国会計基準では、これを「借手のリース期間」即ち、解約可能であっても借手によるリースの継続が合理的に確実である期間は含めた期間で判定します。つまり、オペレーティング・リースと判断されるリースの範囲が、日本基準の方が広いのです。

B:新しい基準が導入されるときはいつも大変ですが、今回もちゃんと準備しないといけないことがよくわかりました。

A:まだ公開草案ですから、最終的にどうなるかはわかりません。Bさんも公開草案を再度読んで、自社の取引に照らして「公開草案に沿って処理をするとおかしな結果になってしまう」といった疑問がある場合は、まだコメント提出期限に間に合います。

B:公開草案も重要ですが、使用権資産を管理するシステムを探さないといけないと思いました! 契約書の整理も始めないと間に合わないかもしれないです。経理では賃貸借契約にどのようなオプションが付いているか気にしたことがほとんどないですから。契約管理している総務では公開草案を読まないだろうし。

A:それと、気づいていないところにリースが隠れている可能性もあります。賃貸借契約だけチェックするのでは不十分かもしれませんので気を付けてください!

今回の会話のまとめ

  • セール・アンド・リースバック取引の会計処理は判断を伴う。
  • 貸手は売上の表れ方が大きく変わる。
  • サブリースのリース分類に注意。
  • 財務諸表の見え方がKPIに影響する。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
植木 恵(うえき めぐみ)

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