対話で理解する!リース会計基準(案) 第2回 借手の会計処理

週刊 経営財務(株式会社税務研究会発行)の2023年7月10日号、2023年7月17日号、2023年7月24日号にあずさ監査法人の解説記事が連載で掲載されました。

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この記事は、「週刊 経営財務 No.3613」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

本連載解説では、リース会計基準(案)の本質をより理解しやすくするため、ポイントを絞り、会計士と経理課長の対話を通じて、3回にわたって説明しています。

なお、文言は公開草案に対してよく聞かれるコメントに基づき構成しております。意見にかかる部分は筆者の個人的な見解であることをお断りしておきます。

第2回 借手の会計処理

リース会計についての公開草案がリリースされ、経理課長のBさんが、公開草案に詳しい会計士のAさんにいろいろと聞いています。先日は公開草案の総論及びリースの定義が話題に上がっていましたが(本誌No.3612・11頁)、今日は借手の会計処理について話しているようです。

借手の会計処理:全体像

B(経理課長):A(会計士)さん、今回の基準改正は借手の会計処理を見直すことがメインですよね?

A:はい。昨今リース取引を全く利用しない会社はほぼ無いと言っていいと思われるので、そういう意味ではほぼすべての会社に影響があるといえます。

B:要するに全てのリースがファイナンス・リース取引になったと思って会計処理すればいいのでしょうか?

A:一言でまとめると、当たらずとも遠からずというところです。

B:手間はかかりますが会計処理はおなじみですよね。

A:現行基準でファイナンス・リース取引は「ノンキャンセラブル・フルペイアウト」のもので、リースの対象期間もリース料総額も契約で確定しているものが一般的と思います。将来のリース料が一定の指標により変動するリース取引などは特殊なリース取引とされ、現行適用指針でも対象にされていませんでした。
これに比べてオペレーティング・リース取引に分類されるようなリースは、もっと多様で様々なオプションが付くなど自由度の高いものも多いです。ファイナンス・リース取引のような処理といっても、実際にどう適用するかは難しい面もあります。

B:会計処理がファイナンス・リース取引とほぼ同じと言いましたが、リース開始時の処理は少し違いますね。資産・負債の計上額は、現行のファイナンス・リース取引ではリース対象資産の購入価額等とリース料総額の現在価値を比べていずれか低い値で計上しますが、このような比較のステップは公開草案にはありません。

A:はい。ファイナンス・リース取引の会計処理は「リースで借りている資産であっても、その資産を購入したかのように扱う」というものでしたから、リース資産として計上されるものは、リースという形態で調達した「機械」や「不動産」です。
しかし、公開草案の「使用権資産」は、借りてきた「機械」や「不動産」自体ではなく、それらの「使用権」という権利を資産認識しようというものです。
そのため、リース対象資産の購入価額等はもはや関係がなく、使用権を取得するために払った対価で使用権資産を当初測定します。この対価がリース負債、つまり、リース開始日時点における借手のリース料の現在価値というわけです。

契約の対価

B(経理課長):しかし、借手のリース料とは契約に基づいて貸手に支払う金額とは限らないですよね?
契約にリースとそれ以外、例えばサービスの提供が含まれているような場合は、まず契約の対価をリースの対価とリース以外の対価に分ける必要があり、さらに、リースの対価として識別されたもののうち、固定リース料など「借手のリース料」の定義を満たすものだけがリース負債の算定の対象になる。この理解であっていますか?

A(会計士):その通りです。契約の対価をリースの対価とリース以外の対価に分けるのは実務上大変ということで、リース部分と関連するリース以外の部分とを分けずに両者を一体として全体をリースとみなしてしまうことも借手については認められています。
リース以外の対価のうちリースと全く関連のない部分についてはこの一体処理扱いの対象にはならず、分離しなければなりません。

B:その借手にのみ認められる一体処理ですが、全体をリースとみなす方法しかないのはなぜでしょうか?
サービスの利用者に対して、サービスの利用に必要な特定の資産を契約期間中に貸与する取引はよくあります。この特定の資産の貸与が公開草案ではリースと識別され分離してリース処理が要求される可能性がある、というところはまだ理解できます。しかし契約の中心がサービスであり、対価を配分したとしても大半はサービスの対価に配分されるような場合に、「全体をリースとみなす」一体処理は財務報告を歪めるように思います。サービスが中心なら「全体をサービスとみなす」のが適切なのではありませんか?

A:借手のみに認められているこの規定はIFRS®会計基準にも同様に存在するもので、当時も同じような議論がありました。しかし、「リースのオンバランス処理」を達成することが大前提だったので、そこは譲れなかったのでしょう。リース以外の部分がオンバランス処理の対象になるのはおかしいということであれば、原則的な処理に従ってリースとリース以外を分けて別々に処理すればよい、というわけです。

B:厳しいですね。

A:実務的な話をすると、サービスの提供に必要な付随的な資産はそれほど高額ではないことも多く、リースとして識別したとしても少額資産のリースとしてオンバランス処理を要しないケースが多いと思われます。国際的な基準ではオンバランス処理しなかったとしても発生額を開示する必要がありますが、公開草案では少額資産のリースにかかるリース料の開示は必須ではありません。

B:そうなると、表示科目その他の細かい論点は残るとしても、大枠としては、全体をサービスとして処理するのとあまり変わらない出来上がりになりそうですね。ちょっと安心しました。

A:逆に言うと、少額とは言えないレベルの重要性のある資産の貸与を受けるのであれば、それがサービスの提供に付随して貸与されるものであっても、リースとしてオンバランス処理しましょうということです。

「指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料」

B(経理課長):借手のリース料のうち変動リース料については、日本基準に特有の定めが提案されているのですよね?

A(会計士):はい。借手の変動リース料は指数又はレートに応じて決まるものと、それ以外のものに分けられ、前者は借手のリース料を構成するものとして負債計上の対象になります。将来的に指数又はレートが変動することでリース料が変わるだろうと見込まれていたとしても、実際にリース料が変わるまでは、当初のリース料がずっと続くとみなしてリース負債を計算します。国際的な基準も同じ扱いです。
IFRS第16号が開発されたとき、見積りを織り込むことを要求する、若しくは見積りが可能な場合は見積もることを許容することも当初は提案されていました。しかし、情報の有用性に対してコストが見合わない、また、選択肢を設けることで比較可能性を阻害するなどの点が懸念され、見送られたという経緯があります。
一方、公開草案では、合理的に見積もることができる場合は将来の変動を見積もってリース負債に反映することを認める提案がされています。

B:海外では見送られたのに、日本で取り入れられたのはなぜですか?

A:合理的に見積もることができるのであれば、それを使ってよいのではないかという意見がありました。指数又はレートに応じて決まる変動リース料といっても物価指数や金利に連動するようなものは日本では一般的ではありません。
指数又はレートに応じて変動する最も一般的なものはマーケットレントレビュー条項のついたリース料です。

B:比較的長期の不動産賃貸借契約によくある「数年ごとに貸手借手協議の上賃料を見直す」となっているものですね。指数又はレートに応じて決まる、といわれてもピンとこないのですが、「指数又はレートに応じて決まる変動リース料」なのでしょうか?

A:そうです。マーケットレントレビューの仕組みは指数又はレートに応じた変動とみなされています。対象物件が古くなってくると賃料も下がることが多いのに、「当初賃料が何十年も維持される前提でリース負債を計算するのは明らかに負債の過大計上であり適切ではない」という意見がありました。

B:それはそのような気がします。

A:ただし、賃料は需給で決まる側面も非常に大きいです。10年後20年後の賃料を合理的に見積もることができるのか、現実問題として非常に難しい場合が多いと思います。しかも、この見積りに基づいてリース負債を計上する方法を採用した場合は、決算日ごとに見積りを更新してリース負債を計算し直さなければなりません。見積りを見直すたびにリース負債の計上額が変動し、使用権資産の計上額もこれに連動して変わります。使用権資産の減価償却費も増えたり減ったりすることになり、手間もかかります。

B:見積りが合理的なものといえるかについても、監査人と打ち合わせる必要がありそうですね。確かに実際にこのアプローチを採用できるかは、よくよく考えてからになりそうです。

「借手のリース期間」の見積り

B(経理課長):何年間分の「借手のリース料」をリース負債の計算に含めるのかの見積りも大変そうですね。

A(会計士):「借手のリース期間」ですね。ファイナンス・リース取引で期間が論点となることはまずありませんでしたが、すべてのリースとなると、途中解約可能なものや延長・更新が可能なものなどいろいろです。

B:解約不能期間にオプション行使が合理的に確実な期間を加算するのですね?

A:延長オプションについてはその通りです。解約オプションについては行使しないことが合理的に確実かどうかを見ます。要するに、リースを継続する方向に「合理的に確実かどうか」です。

B:合理的に確実という表現がどうも日本語として感覚的にしっくり理解できません。蓋然性としては何パーセントくらいですか? 海外ではコンセンサスが取れているのでしょうか?

A:確かにIFRS第16号の前身のIAS第17号「リース」の時代からIFRS会計基準ではこの概念が使われていました。しかし実際にどの程度の確度を指すかについては必ずしも統一されていませんでした。IFRS第16号が開発されたときに、改めて定義して多様性を排除しようという議論もありましたが、「IAS第17号の時と同じ」とすることが優先され、あえて定義されなかったという経緯があります。

B:そうですか。各法域でそれなりの実務がすでに確立していたから困らなかったということですね?

A:そんなことはないです。IAS第17号の時代は現行日本基準と同様にオペレーティング・リースとファイナンス・リースがあり、オペレーティング・リースについては資産負債の計上は不要でしたから。

A:米国でもリース期間は「合理的に確実」な期間を見積もるのですか?

B:はい。米国基準も「合理的に確実」の表現を使いますが「高い閾値」であることが基準上強調されていることもあり、現場ではIFRS会計基準適用企業より若干保守的、つまり短めにリース期間が見積もられているのではないかともいわれています。

A:日本基準の「合理的に確実」はどのレベルに収まるのでしょうか?

B:いずれそれなりの「目線」に落ち着く可能性がありますが、はじめは手探りになりますね。正解がある世界ではありません。ただ、高い閾値といっても「解約不能期間を超えればいつ解約するかわからないのだから弊社ではリース期間=解約不能期間とみなす」などと決めつけるのはダメです。もちろん解約する可能性もそれなりにあるケースでは、結論としてリース期間が解約不能期間となる場合もあると思いますが、現実的なシナリオとして解約が想定されないような期間より短い期間をリース期間とするのは基準の趣旨と異なります。

リース負債の見直し

B(経理課長):会計処理としてはファイナンス・リース取引のようなものとはいっても、会計処理の手間が全く違うことを痛感します。

A(会計士):そうですね。取引に自由度が高いということは会計処理に判断や見積りが多く要求されるということです。その見直しも当然に必要となります。ここも面倒なポイントです。

B:見積りの見直しということですか?

A:はい。それと、条件変更もあります。当初はオプションを行使するつもりでも、実際には行使しないかもしれません。契約更新自体は想定通りでも更新のタイミングに合わせて契約が変更され、若しくはレントレビューを受けて、借手のリース料が変わるかもしれません。オフィスビルの賃借でも、増床したり一部解約したりするでしょう。

B:リース期間などは決算日ごとに見直すのですか?

A:そんなことはありませんが、見積りの見直しや条件変更は、購入した有形固定資産では通常生じない処理ですから、手間は比較にならないです。

B:普通の固定資産は一旦購入したら台帳に記録して後は減価償却という感じですが、リースは見積りの見直しや条件変更のたびにリース負債が見直され、使用権資産の帳簿価額も変わり、減価償却のベースとなるリース期間も変わるということですね。

A:はい。そこにさらに減損も加わる可能性があります。通常の固定資産より台帳管理はずっと大変です。

今回の会話のまとめ

  • ファイナンス・リースと似た処理だが売買処理の対象は「モノ」ではなく、「権利」。
  • オペレーティング・リース取引の自由度の高さが会計処理を複雑化する。
  • 借手には非リース部分を分けずリース部分とみなす便法も。
  • リース期間の「合理的に確実」の定義はない。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
植木 恵(うえき めぐみ)

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