日本企業の統合報告書に関する調査からの考察 | KPMG | JP
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日本企業の統合報告書に関する調査からの考察

日本企業の統合報告書に関する調査からの考察

本稿は、日本企業の統合報告書に関する調査結果を通じて見えてきた課題を、3つのポイントに基づいて解説します。

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企業と投資家との建設的な対話の必要性への理解は一層高まってきています。KPMGは、この対話のツールの1つとして注目されている統合報告書を作成している日本企業の開示動向について、2014年から継続して調査しており、今年で4年目となります。発行企業数はこの4年で141社から341社に増加し、東証一部に上場する2068社の時価総額のうち、統合報告書を発行する317社が占める割合は51%(338兆円)にまで拡大しました(2018年2月28日時点)。一方で、その内容には課題も少なからず見られます。

本稿は、調査の結果を通じて見えてきた課題を、下記3つのポイントに基づいて解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 経営者は、企業の長期ビジョンに基づく価値創造の仕組みと道筋について語るべきである。
  • 伝えるべきマテリアリティとリスクは、経営の意思決定において認識されている事象である。統合報告書において、伝えるべきことが伝えられていないのはリスクとなる。
  • 統合報告書の内容は、経営者の認識と最終的なコミットメントによってこそ信頼性が生じる。

I.統合報告書の根幹となる経営者メッセージ

1.経営者として何を強く伝えたいのか

今回の調査では、トップメッセージでどのような事項が説明されているのかを確認しました。その結果、単なる挨拶文にとどまっていたり、過年度の実績を説明するだけであったりと、「読み手に何を強く伝えたいのか」がわかりにくいメッセージが散見されました。多くの報告書で冒頭に配置されている経営者メッセージで、長期ビジョンが語られ、その実現に向けた経営者の思いが感じられるならば、読み手は先を読み進めることになるでしょう。しかし、思いが伝わるトップメッセージは、まだ少ないという印象です。


2.経営者が語る長期ビジョンにこそ価値がある

具体的には、トップマネジメントがメッセージで何を語っているか、11項目にわたり調査を実施しました。しかし、価値創造ストーリーの軸となる長期ビジョンが明確に語られている報告書は半数に留まっています(図表1参照)。

図表1 トップマネジメントメッセージでの説明事項

トップメッセージは、統合報告書全体を通じて伝える価値創造ストーリーのサマリーであることが望まれています。そして、その価値創造ストーリーの軸となるのは、組織のありたい姿の実現にむけた長期ビジョンです。ビジョン実現へのトップのコミットメントが明確であると、レポート全体の説得力が増すとともに、読み手の理解獲得にも繋がっていきます。


3.CFOが担う役割の大きさ

多くの企業が統合報告書の読み手として想定している投資家は、価値創出の結果としての財務的成果、またその根拠としての資本コストに対して大きな関心を有しています。事業を行うために必要不可欠である財務資本に関する戦略を語ることで、価値創造ストーリーの確からしさを示すことになります。そして、CFOには、その実行可能性について適切な数字を用いて伝える役割があるのです。

しかし、調査結果では、CFOが財務戦略について語っている企業は、全体の17%と少数にとどまっていました。

II.伝えるべきマテリアリティとリスク

1.中長期的価値創造に影響を及ぼすマテリアリティ

統合報告書において、経営者の認識が説明されるべき要素として、マテリアリティとリスクが挙げられます。

まず、統合報告におけるマテリアリティの検討は、「中長期的な価値創造に影響を及ぼす事象や課題」が対象となります。そのうち、影響が大きいと想定する事項について、経営者の認識や取組みを統合報告書で表明すべきです。

しかし、統合報告書において説明されているマテリアリティ分析の結果をみると、CSR活動を選定する目的を主とするマテリアリティ分析となっている企業が、いまだ大半であることが明らかとなっています。組織の持続的成長のために経営者がマテリアルだと認識する課題が伝えられているとは言えない現状です(図表2参照)。

図表2 マテリアリティの評価対象

図表2 マテリアリティの評価対象

2.経営者が認識するリスク

重大なリスクとは、すなわちビジネスインパクトの高いマテリアルな事象であり、統合報告書においても説明が求められています。経営者の認識と異なるものが記載されてるとすれば、企業として一貫性のないメッセージの表明となりかねず、価値創造ストーリーそのものへの疑義が生じかねません。今回の調査で、経営者が懸念するリスクと、統合報告書で提示されているリスク情報に乖離があることがわかっています(図表3参照)。統合報告書の信頼性を損ね、企業価値にマイナスのインパクト(ディスクロージャー・ディスカウント)を及ぼす恐れのある状況である点も否定できません。

図表3 日本における、統合報告書とCEOとの認識のギャップ

III.信頼される統合報告書とするためには

1.経営者によるコミットメントの表明

経営者にも、投資家にもそれぞれに受託者責任があります。信頼性の確保への取組みは、統合報告書が意思決定に資するものとするために、不可欠なものです。

投資家は、統合報告書に対し、画一的ではない、企業の競争力の源泉にかかわる内容の記載を期待しています。経営者の役割は、個別事業や部門にとらわれない、組織横断的な「全体最適」な判断を行うことであり、その結果、統合報告書に結合性と適合性が備わっていくことになります。

経営者による開示に対するコミットメントの表明や、取締役会が情報提供や開示の充実に取り組むことは、現在推進されている、エンゲージメントの深化にも繋がっています。

現状では、経営者のコミットメントがみられる報告書は11社(3%)となっています。統合報告書の内容充実と活用の両面から、経営者のさらなるリーダーシップの発揮が求められていると思われます(図表4参照)。

図表4 経営者による報告書の発行についての言及

2.価値創造ストーリーと一体化したKPIの選定

信頼性を高め、相互理解を深めていくための方法として、適切なKPIを用いることは有効です。統合報告書におけるKPIは、事業の効率性や収益性を示すだけでなく、価値創造ストーリーを実現するための様々な活動や、資本活用の実態を示し、将来の価値実現にむけた取組みの実効性を表す手段となります。

このため、統合報告書で、「なぜこのKPIを示しているのか」を表現できるならば、記述内容の信頼性が高まっていくでしょう。しかしながら、現状はまだまだ関連性は希薄なものであり、社会的な議論の深化の必要性も指摘されてきています。

IV.おわりに

企業価値の80%以上が「目に見えないもの(Intangibles)」で決定される時代となっています(注)。財務的な数値で表すことのできない内容について企業を代表して伝える役割が経営者に期待されています。経営者は、企業が有する価値を的確に伝えたいと日夜、奮闘しておられるはずです。統合報告書は「経営者からのメッセージレター」であり、「自分の思いを伝え、理解してもらい、行動に繋げる」ツールなのです。

自社の統合報告書を手に取って「全体」を客観的な視点で読んでいただけたらと思います。自らが普段伝えたいこと、感じていることが、十分に表現されているでしょうか。

 

注:Ocean Tomo による Intangibles Asset Market Study 2017によれば、Sep 500企業の時価総額の構成要素のうち、Intangible Assetsが占める割合は87%となっている。

経営者へのチェックシート

自社の統合報告書を読んでいますか?
ターゲットとする読み手を検討し、記載内容の決定において考慮していますか?
自らの思いがトップメッセージとして伝えられていますか?
自社の業績や社会的な存在意義に影響を与えるとみなしている事象や課題が、統合報告書のなかで説明されていますか?
投資家との対話(エンゲージメント)を行う際に、利用しやすい統合報告書ですか?
統合報告書の記載内容は、あなたがコミットメントできるものですか?

調査の概要

統合報告書の厳密な要件については、いまだ広く合意されたものが存在していません。このため、企業価値レポーティング・ラボのご協力をいただき、「国内自己表明型統合レポート発行企業リスト2017年版」で公表されている企業(全341社)の報告書を対象として、調査・分析を行いました。

調査項目は、統合報告書に期待される内容や、主たる読み手と想定される投資家にとっての有意性を鑑みて選定しています。

執筆者

KPMGジャパン
統合報告センター・オブ・エクセレンス(CoE)
パートナー 芝坂 佳子

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