日本初の女子プロサッカーリーグとして、2021年7月に誕生した「WEリーグ」。その正式名称「Japan Women’s Empowerment Professional Football League」のとおり、同リーグでは女性活躍社会の実現を目指し、さまざまなステークホルダーとともに行動を起こす「WE ACTION」を実践してきました。

KPMGコンサルティング株式会社は2023年7月より、WEリーグの「ソーシャルインパクトパートナー」として、その取組みを後押ししています。今回のパートナーシップの内容と、スポーツとビジネスが結びつくことによる社会変革の大きな可能性について、WEリーグ 髙田春奈チェアとKPMGコンサルティングでビジネスイノベーションを統轄する佐渡誠が対談を行いました。

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左から KPMG 佐渡、WEリーグ 髙田氏

WEリーグをハブに、新しい女性活躍の「場」を作る

―WEリーグの3シーズン目がスタートしました。リーグの現状を、どうご覧になっていますか?

WEリーグ_髙田氏

WEリーグ 髙田氏

髙田氏:2022年9月にWEリーグのチェアに就任してからのこの1年間で、さまざまな基盤固めを行いました。ですから、外から見てわかりやすい変化が起こるのは、これからになります。

この間、世界の女子サッカーを取り巻く環境が進化していること、そして、国際大会における日本女子代表の活躍を通して日本の競技力が大きく向上していることを、たくさんの方に感じていただけたのではないかと思います。今季は私たちが渋谷に拠点を移して初めてのシーズンでもあり、いよいよ女子サッカーの裾野の拡大に、本格的に注力していきます。

佐渡:私はプライベートで子どもたちにサッカーを教えていることもあって、女子サッカーはもともと身近な存在で、“日本を輝かせる存在”として高い関心を持っていました。もちろんスポーツなので競技の魅力がコンテンツの柱にはなりますが、女子サッカーは「人を惹きつける」とか「社会課題を解決する起爆剤になる」といった部分でも、大きなポテンシャルを秘めていると感じています。

髙田氏:今季からは、パートナー企業を増やす活動にも本腰を入れています。そこに今回、KPMGさんが「ソーシャルインパクトパートナー」として加わったことで、私たちの取組みもグッとドライブをかけることができるのではないかと期待しています。

―パートナーシップを結ぶことになったきっかけについて教えてください。

髙田氏:私はV・ファーレン長崎の社長を務めていた時も、その後Jリーグの理事を務めた時も、クラブチームが地域社会のハブ的な存在になれることを実感していました。そんななかで知ったのが、湘南ベルマーレとKPMGがパートナーシップを組んで進めている取組みでした。そこでは、デジタルを活用した地域共創型のプラットフォームを構築されていて、まさに自分が長崎でやりたかったようなことだったので、素晴らしいなと感銘を受けました。

その後WEリーグのチェアとなり、まさに今こそKPMGさんと一緒に何かできるのではないかと佐渡さんに相談したところ、「そうしたことをWEリーグで一緒にやるのは絶対に価値があるのでぜひ」と言っていただいて。そこから、話がトントンと進んでいきました。

佐渡:当社としても、とても良いお話だと感じました。女性活躍社会をつくるには、もちろん「女性の役員を30%以上に」といった取組みも大切です。ただ、現在の産業構造の多くは男性が作ったもので、そこに単に数値目標を落とし込むだけでは限界もあります。

では、どうすればいいか。私は、女性の活躍を前提に“新しい場”を生み出すことが、何より重要だと考えます。それは、コミュニティだったりビジネスだったりとさまざまな形が考えられますが、そうした女性が当たり前に活躍している「場」を1つでも多く生み出すことが本当の意味での女性活躍社会につながると思いますし、そのような「場」を生み出すプラットフォームとして、WEリーグには非常に大きな可能性を感じました。

KPMG_佐渡

KPMG 佐渡

WEリーグには、確かな「商機」がある

―今回のパートナーシップでは、具体的にどのような取組みを行っていくのでしょう?

髙田氏:私は、以前から女子サッカーには確かな価値があると感じていましたし、この立場になってからは、女子サッカーには人の心を揺さぶる力があると確信を持っています。たからこそ、その価値をきちんと可視化できれば仲間が増えますし、パートナー企業のみなさんには参画のメリットをしっかり実感してもらえると思っています。そこで今、KPMGさんと一緒に進めているのが、WEリーグの「価値創造ストーリーの策定」です。

佐渡:これまで企業のスポーツ投資は、広告価値やマーケティング価値だけで語られることがほとんどでした。そこに、社会的な価値も加えて語れるようになることが、WEリーグに共感するパートナーを増やす第一歩だと考えています。より広く的確に伝えるために、言葉だけでなくイラストなどビジュアルにも訴えかけることができるようなものにする予定です。

パーパスを起点として「ありたい姿」と「そこに至るまでの道程」を端的に示した「価値創造ストーリー」をつくり、発信していくことで、今度はそれが日本全体の課題を解決する武器になるとも思っています。広告媒体として見るだけではなく、社会変革を実現するリーダーやフォロワーを育む「場」として、WEリーグを活用する。産業界にとって、ESG経営はまったなしの状況なので、そこには確実にニーズがあるはずです。「場」ができれば、必然的に人や仕事、資金がWEリーグに向いてくるでしょう。

髙田氏:非常に共感します。投資対効果で見ると、現状では、WEリーグのトップチームは、JリーグのJ3クラブを運営するのと同じかやや少ないくらいの投資額で運営することができます。一方で、女子チームでも十分に“地元の希望”になれますし、地域を元気にするポテンシャルではJクラブに劣りません。それにもかかわらず、女子チームはJクラブほど注目されておらず、だからこそ、そこに商機がある。そうしたことも、しっかりとお伝えしていきたいですね。

佐渡:「価値創造ストーリー」を策定した後は、社会価値を可視化する「インパクトマップ」の作成、ステークホルダーとの対話・共創を促す「場」となる「価値共創プラットフォーム」の構築へと進んでいきます。女性活躍社会の実現ひいては社会価値創出には、1つの企業でできることには限界があり、同じ課題意識を持った多様なステークホルダーとの共創が欠かせません。価値創造ストーリーで共感を促し、インパクトマップで社会価値を可視化、周囲を巻き込みつつ価値共創プラットフォームでWEリーグを中心とした社会価値を共創・具現化する仕組みを作ることで、社会変革を促していきます。

WEリーグ対談_図表1

出典:KPMG

KPMGの最大の強みは、社会価値の“可視化”

―「社会価値の可視化」とは、どんなものですか?

佐渡:WEリーグのビジョンに共感していただいたとしても、やはりWEリーグに参画することで、具体的にどのような価値がもたらされるか見えなければ、企業も自治体も投資判断ができません。だからこそ、社会変革によってもたらされる価値を、きちんと可視化していく必要があります。

たとえば、子どもや地域在住者向けに、サッカースクールを開くとします。その社会価値は、スクールの開催回数や参加人数だけでは測れません。サッカーの技術だけでなく楽しさを伝えることで、みなさんが日常的にサッカーに触れるようになる。その結果、フィジカル的にもメンタル的にもヘルスコンディションがどれくらい高まるのか。その結果、将来起こりうる地域医療費の削減効果がどの程度得られるのか。少しロジックに寄った話に聞こえるかもしれませんが、社会価値を貨幣価値に換算することで、説得力のある発信が可能になります。「それならやってみようか」と感じる企業はグンと増えるでしょう。

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左より WEリーグ 髙田氏、KPMG 佐渡

髙田氏:私たちとしても、WEリーグが社会に良いサイクルを生み出せると自信を持っているので、それをいろいろな形で算出していただけるのは、とても意味のあることだと感じています。

佐渡:そこはコンサルティング企業であり、会計監査系というバックボーンを持つ当社ならではの強みだと自負しています。金額や数字を曖昧にせず、本当に価値のあるものを可視化し、さまざまな産業、ステークホルダーと結びつけ、新しい価値を共創していく。それが、KPMGが伴走させていただく最大の意義の1つでもあると考えているので、しっかりと取り組んでいきます。

―ステークホルダーとの共創で新たな価値を生み出すという点について、「共感パートナー」となる企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

佐渡:企業価値の向上です。人が集まって場が盛り上がれば、新しいビジネスの芽もいろいろ生まれてきます。何より、WEリーグを通して新しい価値観をインプットできるはずです。自社やその業界の内側にいるだけでは得られないステークホルダーとつながり、新しい企画やナレッジ、気付きを持ち帰っていただくことで、企業が変わり、発展する。また、WEリーグや他のステークホルダーとのつながりのなかで、自社ではアプローチできない層にリーチすることもできるでしょう。

髙田氏:共感パートナーと並行して、「WE ACTION」に一緒に取り組んでいただく「WE ACTIONパートナー」も見つけていきたいと思っています。WE ACTIONパートナーになっていただいた企業とは、その企業が得意なことと、WEリーグがやりたいことが重なる分野で、一緒に取り組んでいきます。それにより、「WE ACTION MEETING※1」で挙がるような課題をいろいろ解決できるようになり、WEリーグも、社会も、そのパートナー企業も良くなる。そのようなサイクルを、ぜひ実現したいです。

※1 WE ACTION MEETING:選手やクラブ、パートナー企業、メディアなどの関係者らが集まり、自身や社会の課題を見つめ、どう解決していくかのアクションを社会に示すことを目的としたミーティング。

WEリーグを日本発展の起爆剤に

―取組みを進めるうえで、現状の課題は何ですか。

髙田氏:2022年に行われたUEFA女子チャンピオンズリーグのエル・クラシコ※2の観客は、9万人を超えました。その背景には「女性の立場を絶対に押し上げる」という機運が、スペイン社会全体にあったようです。こうした海外の事例を学ぶほど、日本社会のジェンダーギャップの問題に直面します。日本の女子サッカーの競技力は世界レベルですが、女子スポーツを社会全体で後押しするような環境という点には課題があると言わざるを得ません。ただ、そのせいにしていても何も変わらないので、逆に私たちが変えていこうという気概を持つようにしています。

その意味で、女子サッカーには可能性しかないと思っています。こうして何をするべきか、何ができるのか、みなさんと議論するだけでも前進につながると思いますし、女性活躍社会を目指して定期的に集まれる場は、国内にはあまりありません。もちろんハードルはたくさんありますが、私自身はスタッフやみなさんとお話するなかで可能性と希望を感じていますし、ある意味で楽観的に捉えています。

WEリーグ_髙田氏

WEリーグ 髙田氏

佐渡:そのとおりだと思います。もちろん課題はありますが、その分伸びしろがあるということだと思います。何より、我々も含めて女子サッカーの力を心から信じている人が多く、会話するたびにこちらも前向きになれます。そういう仲間を増やしていくことで、世の中の空気も自然と変わっていくのではないでしょうか。

※2 エル・クラシコ:スペイン語で「伝統の一戦」。FCバルセロナとレアル・マドリードの試合を指す。

―WEリーグとKPMGコンサルティングのソーシャルインパクトパートナーシップの先には、どのような“ゴール”のイメージを描いていますか?

髙田氏:プロ野球やJリーグには、どんな時でも観戦・応援をしてくれるファンがたくさんいます。ぜひWEリーグを、プロ野球やJリーグのように、みなさんの「生活の一部」としたいです。そうすることで、選手たちの処遇もよくなるでしょうし、結果的に女性活躍社会の実現にもつながっていくと思います。

佐渡:最後は結局、「人」ですね。ストーリーでもプラットフォームでも、ただ在るだけでは意味がなく、大切なのはそこに魂を吹き込むことです。だからこそ、WE ACTIONのような取組みを繰り返し行っていくことが、何より重要なのです。その執念こそがWEリーグの発展はもちろん、WEリーグを、日本を発展させる“起爆剤”へと押し上げていくと思います。

髙田氏:もともと、コンサルティング企業とパートナーシップを組むなら、WEリーグに絶対的に可能性を感じてくださるところとご一緒したいと思っていました。KPMGさんは、まさにそんな企業でした。本当にありがたい存在です。一緒に、夢のある仕事をしていきましょう。