ブラジルの移転価格制度:規範指令RFB 2, 161号/23

ブラジル連邦歳入庁は、2023年9月29日、法律14, 596/23号に基づき、2022年OECDガイドラインに適合した移転価格税制を規定する規範指令2, 161号/23を公表しました。規範指令2, 161号/23は、RFBの移転価格税制の草案に対する意見公募でのディスカッションを反映したものです。

ブラジル連邦歳入庁は、2022年OECDガイドラインに適合した移転価格税制を規定する規範指令2, 161号/23を公表しました。

ブラジル連邦歳入庁(Receita Federal do Brasil、RFB)は、2023年9月29日、法律14, 596/23号に基づき、2022年OECDガイドラインに適合した移転価格税制を規定する規範指令2, 161号/23を公表しました。規範指令2, 161号/23は、RFBの移転価格税制の草案に対する意見公募でのディスカッションを反映したものです。

この度、KPMGブラジルでは、規範指令の中で注目すべきトピックを挙げた規範指令2, 161号/23に関するニューズレター(ポルトガル語版および英語版)を発行しました。
 

(ポルトガル語版)
KPMG no Brasil_TAX-NEWS-Precos-transferencia-IN-RFB-2161     

(英語版)
Brazil: New transfer pricing rules published - KPMG United States


ポルトガル語版および英語版の記載内容は同様ではないことから、以下にそれぞれ日本語訳を記載します。なお、これらの翻訳文は一般的な情報の提供を目的に作成しているものであり、正確性を期すためにも必ず原文をご参照ください。また、何らかの行動を取られる場合は、ここにある情報のみを根拠とせず、必ずプロフェッショナル等の適切なアドバイスをもとにご判断ください。

(ポルトガル語版)

移転価格制度:規範指令RFB 2, 161号/23

2023年9月29日、長く待ち望まれていた規範指令RFB 2, 161号/23が公表されました。当該法令は、ブラジルの移転価格制度を国際基準に適合する目的でさまざまな変更を施行した法令14, 596号/23の細則を定めるものとなっています。

当該条項は、規範指令2, 161号/23は、今年7月に行われた意見公募(過去Tax News:ブラジルの移転価格制度:ブラジル連邦歳入庁による意見公募 - KPMGジャパン参照)でのディスカッションを経て作成されています。
当該法令の主なポイントは次の通りです。

関連当事者

  • 第4条§5では、「ブラジルを含む同じ国内に所在する事業体は、事業体間の取引が移転価格の対象とならない場合であっても関連当事者としてみなされる」としています。
    当該条項は、海外の関連当事者と移転価格の対象となる取引を行わない在ブラジル企業の機能、リスク、資産を、移転価格目的で評価する必要性を強調しています。一例として、関連当事者である在外親会社から在伯子会社へ商品が供給され、在伯子会社から在伯販売会社へその商品を供給した場合、在外親会社および在伯子会社の取引のみならず、在伯子会社および在伯販売会社間の国内取引も検証対象として考慮する必要があります。
  • 連邦政府によるプロセスの導入に関する体制の明確化

損失が生じるケース

  • 第9条§2では、「多国籍企業グループまたは対象となる取引を行う関連当事者が利益を上げている一方で、ブラジルの納税者が継続的に損失を出しているケースでは、第2条に規定された原則(アームズレングス原則)が遵守されていないことを示している可能性がある」としています。
    上述の解釈は国際的に一般的ではあるものの、条項として明確化されていることは、税務当局が上述の状況が発生しているケースに焦点を当てることを示唆している可能性があります。そのため、ブラジルで活動する多国籍企業は移転価格ポリシーを適宜更新することが重要となります。

文書化されていない商業または金融関係の例

  • 第12条§4では、文書化されていない商業または金融関係の例を示しています。

 I. 技術移転を伴う文書化されていない契約

II. 意図的な行動の結果として創出されたグループ内でのシナジー

III. 役務提供を目的として特定の地域に配置または派遣された従業員を通じた役務提供

一体化された無形資産

  • 第15条§1では、何が有形資産と一体化した無形資産の譲渡とみなされるべきか、また、状況に応じてどのように評価すべきかを明確にしています。

現実的に利用可能な選択肢

  • 第19条では、現実的に利用可能な選択肢による商業的合理性の検証を満たさないことによる取引またはその一部を検証対象から除外することについて規定しています。同条項の§1、§2および§3では新規ルールが設けられ、対象取引の一部の規定または条件を検証対象から除外または置き換えることが認められ、またその方法に関する形式が定められています。

    さらに第19条§5では、非関連当事者が契約の交渉や事業の遂行の際に、明らかに有利かつ現実的に利用可能で商業的に合理的な選択肢を選んだと判断された場合、対象取引の除外または置き換えを行わなければならないとしています。当該文言は、納税者に安堵をもたらしていますが、非常に主観的であることに留意する必要があります。

    最後に同条§6では、「商業的合理性」は、税務上の利点やその他の非商業的利益を理由とすることができないことを明確にしています。

複数の期間を含むベンチマークと比較対象

  • 信頼性のあるデータベースから取得したベンチマークが特定した比較対象企業の数が4社未満であった場合、税務当局は、比較対象企業の範囲の信頼性を高めるのに役立つ限りにおいて、議決権の保有率が25%までの比較対象企業を比較対象として使用することが認められます。
  • 第30条§6のI、II、IIIでは、複数年の比較対象企業の使用に関する細則が定められています。
    • 複数年の比較対象企業は、原則として過去3年間の平均から求められる。
    • 例外的に、異なる期間のデータを使用することが認められる可能性がある。
    • 複数年の加重平均において財務指標がマイナスである非関連当事者および複数の期間で財務指標がマイナスである非関連当事者は、算定範囲から除外する必要がある。
  • 最後に、第30条§7では、複数年に及ぶデータを使った財務指標の範囲の設定について例示している附属書IIIに言及しています。

算定方法の組み合わせ

  • 第34条§3では、単一の方法を用いても結論が出ない場合、複数の算定方法を組み合わせて用いることを認めています。

補償的調整

  •  補償的調整とは、対象となる取引を行ったブラジルに所在する法人と他の関連当事者の帳簿において、対称的かつ確定的にその価値を調整し、対象となる取引の条件がアームズレングス原則に従って設定されていた場合と同等の結果が得られるようにすることを目的として、対象となる取引の当事者によって行われるものです。
  • 当該調整に関して、第50条第4項により新たな項目が設けられており、ブラジルに所在する法人が税制優遇国に所在する法人と行った取引の場合、補償的調整の実施によって下記のいずれかが発生しない限り、補償的調整を行うことが禁じられています。
    • 税金の算定標準の加算
    • 法人税の欠損金の減少
    • CSLLの算定標準がマイナスとなっている場合、そのマイナス額を減らす調整

他の税金への影響

  • 第51条では意見公募の初期段階で公表されていた草案の文言を維持し、自主的調整もしくは補償的調整は、他の税金の算定を自動的に調整することを意味しないと定義しています。
  • 上述の定義にある「自動的」という文言については注意が必要であり、この文言(そして税法の一般原則に照らし合わせて)から、事実関係と当事者の意図によっては、移転価格目的の調整が他の税金の算定に影響を与える可能性があると推測することができます。

文書化

  • 第56条では、マスターファイル(Arquivo Global)およびローカルファイル(Arquivo Local)の提出期限と様式が定められています。対応する年度のECFの提出期限から3ヵ月以内に、税務当局のデジタルサービスセンター(e-CAC)から利用可能な電子手続きを通じて提出する必要があります。
  • 第57条では、移転価格文書の提出に関する区分を規定しています。つまり、ローカルファイルを提出する年度の前年度において、納税者の対象取引の移転価格調整前の総額によって提出が義務付けられる文書が変わります。当該区分は以下の通りです。
    • 移転価格調整前の総額が5億ブラジルレアル以上:完全な文書化
    • 移転価格調整前の総額が1,500万レアル以上、5億レアル未満:簡略化された文書化(サマライズされたローカルファイルのみ)
    • 移転価格調整前の総額が1,500万レアル未満:移転価格文書の提出を免除(ただし、アームズレングス原則の適用自体は免除されない)
  • 第58条§1項では、マスターファイルを英語またはスペイン語で提出することが認められます。その場合、ポルトガル語への翻訳は、税務当局が要求した場合のみ提出が義務付けられます。ただし、先述の言語以外で作成された文書は、必ずポルトガル語への翻訳を添付する必要があります。
  • 最後に、第59条§1項により導入された非常に重要な点として、2022年度に行われた無形資産の譲渡に関する情報を2024年度のローカルファイルに提出することが義務付けられました。これにより、税務当局はより綿密な評価のために、特定の企業を選択することが容易となります。DEMPE機能に従い、無形資産の経済的所有権が実質的に海外に存在しないと判断された場合、極めて大きな影響を及ぼす可能性があります。なお、今後新たな規則が制定されない限り、上述の情報の提出は完全な文書化の提出義務を負う納税者のみに義務付けられています。

附属書

  • 附属書Iでは、間接取引および一連の取引を含めた取り決めに関する例を示しています。
  • 附属書IIでは、比較可能性の調整について取り扱っています。
  • 附属書IIIでは、MLT法を適用する際の複数年データの取り扱いについて規定しています。
  • 附属書IVでは、ネットバック調整と呼ばれる、バリューチェーンの異なる段階から独立企業間価格を入手できる場合に、商品価格を調整するために使用される調整の例を示しています。
  • 附属書Vでは、中央値と四分位範囲について定めています。
  • 最後に、付属書VIでは、2023年度中の早期適用を申請する際の様式が規定されています。

(英語版)

ブラジル:OECDガイドラインに適合した移転価格税制に係る規範指令RFB 2, 161号/23を公表

ブラジル連邦歳入庁(Receita Federal do Brasil、RFB)は、2023年9月29日、法律14, 596号/23に基づき、2022年OECDガイドラインに適合した移転価格税制を規定する規範指令2, 161号/23を公表しました。

規範指令2, 161号/23は、RFBの移転価格税制の草案に対して関係者から意見を募集した意見公募(過去Tax News:ブラジルの移転価格制度:ブラジル連邦歳入庁による意見公募 - KPMGジャパン参照)でのディスカッションを反映したものです。

規範指令2, 161号/23の最も重要なポイントは、選択期間に関するガイダンスです。

  • RFBは、2023年にこの制度を採用する(つまり、2023年1月1日に遡って適用する)か、2024年1月1日までに強制適用するかの選択肢を納税者に与えています。
  • 当初、任意適用を選択する期限は2023年9月(規範指令2, 161号/23)でしたが、2023年11月に延期されることが、規範指令の草案公表時に既に発表されていました。当該期限はさらに延長され、納税者は、2023年12月31日までにRFBのオンラインポータル(e-CAC)で早期適用を選択できるようになり、早期適用による影響についてより詳細な分析を行う時間が確保されました。


規範指令2, 161号/23の最終版では、文書化要件に関してもかなりの改善が見られます。

  • 納税者は以下の3つのカテゴリーに分類されます。
    • 関連当事者間取引が5億ブラジルレアル(現在の為替レートで約1億米ドル)以上の納税者は、完全なマスターファイルとローカルファイルを提出する必要があります。規範指令の草案時と比較すると、ブラジルのマスターファイル(Arquivo Global)とローカルファイル(Arquivo Local)は、OECDガイドライン第5章附属書に概説されているOECDモデルにかなり近いものとなっています。RFBは英語とスペイン語のマスターファイルを受理しますが、RFBが翻訳を要求する場合があります。
    • 第2のカテゴリーには、関連当事者間取引が1,500万ブラジルレアル以上(現在の為替レートで約300万米ドル)、5億ブラジルレアル未満の納税者が含まれます。これらの納税者は、移転価格に関するごく基本的な情報を含む簡易的なローカルファイルを提出する必要があります。
    • 最後のカテゴリーである1,500万ブラジルレアル未満の関連当事者間取引を行う納税者は、移転価格文書の提出が免除されますが、取引において独立企業間原則を遵守する必要があります。
  • 興味深いのは、規範指令2, 161号/23第56条です。規範指令2, 161号/23第56条では、納税者は電子法人所得税申告書(ECF)の一部として、一定の移転価格情報を提示することが義務付けられています。原則として、移転価格文書はECF提出後3ヵ月以内に提出しなければならないことから、納税者はそのかなり前に、少なくとも部分的な準備をしておく必要があります。2023年と2024年分の移転価格申告書は、早期適用者は2024年12月31日までに、通常適用者は2025年12月31日までに提出する必要があります。
  • 1回限りの意外な要素として、旧ルールに基づく無形資産の譲渡に関するものがあります。2022年度中に無形資産を譲渡した大口納税者(例:5億ブラジルレアルを超える取引)は(アウトバウンドのみか、インバウンドのケースも含むかは不明)、2024暦年のローカルファイルにおいて、当該譲渡に関する情報を提供する必要があります。旧ルールが適用されますが、RFBはこの情報をグループ内のDEMPE機能を確認するために使用する可能性があります。


RFBはまた、比較可能な会社・取引のベンチマークに何を期待するかについても、示唆を与えています。

  • 信頼性の高いデータベースから得られるベンチマークが4社未満の場合、税務当局は、比較対象企業の範囲の信頼性を高めるのに役立つ限り、議決権の保有率が25%までの企業を比較対象として使用することが認められます。一般的には、国内比較対象が望ましいが、比較可能性における潜在的な差異を説明できるのであれば、国内以外の比較対象も許容されます。RFBは例としてカントリーリスク調整を挙げています。
  • RFBは、OECDガイドラインと同様に複数年データや加重平均の使用も認めており、四分位範囲等の計算例も示しています。


移転価格算定方法に関するRFBの解釈は、OECDガイドラインに非常に近いものです。また、独立企業間価格をもたらす限り、他の手法の使用も認められており、無形資産の移転価格決定で広く使用されている算定方法が主に参照されています。例えば、非標準的なビジネスモデルや複雑な取引等において、独立企業間価格をもたらすことが可能な他の算定方法の使用が認められることは、納税者に一定の柔軟性を与える可能性があります。

規範指令2, 161号/23は、RFBが独立企業間原則をどのように解釈するかも示唆しています。予想通り、従来の「定型的」で粒度の細かい取引に基づく見方に代わって、形式よりも実態を重視した総合的なアプローチが採用されています。これは、一般的に収益性の高いグループにおいて経常的な損失が発生する場合、独立企業間原則が遵守されていないこと示している可能性があるという認識に反映されています(規範指令2, 161号/23第9条第2項)。

なお、他の税金に対する補償的調整の影響については、不確実性が増しました。補償的調整とは、対象となる取引を行ったブラジルに所在する法人と他の関連当事者の帳簿において、対称的かつ確定的にその価値を調整し、対象となる取引の条件がアームズレングス原則に従って設定されていた場合と同等の結果が得られるようにすることを目的として、対象となる取引の当事者によって行われるものです。最も一般的な補償的調整は、取引単位営業利益法(TNMM)の枠組みの下で、取引の複雑性の低い当事者に目標営業利益を確保するための期末移転価格調整です。規範指令の草案時の文言では、特定の条件下での補償的調整の実施は他の税金に影響を与えない、という解釈の余地を残していましたが、この度公表された規範指令では、このような文言はなくなり、補償的調整が自動的に他の税金の調整の引き金になることはないという文言だけが残っています。特に輸入に依存し、TNMMの論理を適用する納税者にとっては、解釈はより不確実なものとなりました。

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