本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

拡大する民間主導の宇宙ビジネスとアジャイル型事業

宇宙航空研究開発機構(JAXA)による新型ロケットの打ち上げは失敗しましたが、産業のフロンティアとして宇宙ビジネスへの世界には熱い視線が注がれており、宇宙はかつての国家主導から民間の「ビジネスの場」へと変貌しつつあります。
宇宙進出は従来、冷戦時代の米ソの競争に代表されるように大国の威信をかけた国家事業であり、人類初の人工衛星打ち上げ、月面着陸などが競われました。冷戦後には国際宇宙ステーション(ISS)建設などで国際協力も加速し、2000年以降は民間による商業化の動きも強まり、スタートアップの勃興や異業種からの参入が相次いでいます。現在、宇宙は最も注目を集める産業領域の1つと言えるでしょう。
そうしたなか、宇宙産業に新たな2つの潮流が生まれています。

1つは、政府および民間の役割変化です。これまでロケット開発などをけん引してきた政府ですが、近年は自ら開発製造するのではなく、民間サービスを購入するケースが増えています。欧米などでは宇宙ビジネスに関連したスタートアップが続々誕生し、技術・サービスの水準も向上、民間主導のビジネスが立ち上がってきました。これを受けて、日本国内でも政府主導から民間による宇宙ビジネスの拡大を後押しする姿勢へと変わっており、政府は民間企業の顧客へと役割を変えています。

2つ目の潮流は、従来の計画重視から、実行しながら改善する柔軟性や俊敏性の高い「アジャイル型」への変化です。衛星の小型化が進み、製造コストも格段に下がってきました。民間企業の台頭で打ち上げ機会も増え、打ち上げの順番待ちに数年という時代は終わりました。
これにより、民間が失敗を恐れることなく、むしろ失敗を選択肢の1つとして据え、技術向上やサービス高度化のために打ち上げを重ねる手法で事業を進めることが可能となりました。結果として、顧客のニーズや状況の変化にも迅速に対応できるようになり、多様なサービスを生む要因にもなっています。

これらの潮流は、宇宙をより身近なものに変えています。今日、世界では2日に1回の頻度でロケットが打ち上げられ、5000基を超える衛星が頭上を飛び交っていると言われています。各国の宇宙機関や打ち上げ企業の発表によると、2021年に宇宙に行った人は50人弱であり、民間の宇宙旅行者が職業宇宙飛行士を上回る結果もでています。
今後、宇宙領域の商業化が進むことは想像に難くありません。宇宙ビジネスのスタートアップが10年後、20年後には世界の経済を席巻している可能性もあるでしょう。
日本は宇宙開発で多くの実績を有しており、スタートアップも多数誕生しています。一方、トップランナーの米国は他の追随を許さない圧倒的な存在感を見せており、最近は中国やインドなどの宇宙開発の動きも活発化しています。宇宙ビジネスは今後、各国の官民を挙げた激しい競争が繰り広げられることになるでしょう。
本連載では宇宙ビジネスの最前線について、20回にわたってさまざまな視点から解説していきます。

日経産業新聞 2023年3月20日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター 宮原 進

宇宙ビジネス新潮流