新型コロナ禍の景気後退局面における労使関係の解除について

新型コロナ禍の景気後退局面において中国子会社の通常、整理解雇、任意解散、破産清算に伴う労使関係解除の詳細を解説します。

新型コロナ禍の景気後退局面において中国子会社の通常、整理解雇、任意解散、破産清算に伴う労使関係解除の詳細を解説します。

ハイライト

景気後退の影響ならびに新型コロナウイルスの流行により、ケータリング、観光、エンターテイメント、小売、運輸、およびその他のサービス業は大きな打撃を受けました。製造業においても、操業再開や原材料の調達が困難となることで、多くの企業が財政難に陥ったり、キャッシュフローが枯渇したり、管理が行き届かなくなったりしています。これらの企業は事業の縮小や停止、人員削減、事業再編や、場合によっては破産申立てを余儀なくされており、これは多国籍企業の中国子会社も例外ではありません。
本稿は、長引く景気低迷が企業の成長を阻害している局面における労使関係解除の詳細について解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 通常の労使関係解除の事由としては、リストラ、整理解雇(経済的裁員)、任意解散、破産清算が挙げられる。
  • 中国では、企業再編や経営困難等理を理由に人員削減を行う場合、法律の規定に基づき、法定の手続を履行する義務がある。
  • 人員削減の実施過程で抽出された実務上の問題点等を今後のリスクマネジメントに活かし、景気後退局面における周到な対応策を策定すること、自社の成長戦略に合致したコスト・トランスフォーメーションに取り組むこと、および従業員に対し誠実に対応していくことが非常に重要である。

I.通常の場合の労使関係の解除

1. 労使関係解除の類型

景気が悪化した結果、経営不振に見舞われた多くの企業が、経営合理化とリストラによるコスト削減・抑制を余儀なくされています。

(1) 協議一致による解除

企業は従業員との合意により、労働契約を解除することができます。


(2) 従業員の責任による解除

従業員が下記のいずれかの状況にある場合、企業は労働契約を解除することができます。

1. 試用期間中に採用条件に合致していないことが証明された場合

2. 企業の規則制度に甚だしく違反した場合

3. 著しい職務怠慢、不正利得行為により、企業に重大な損害を与えた場合

4. 従業員が同時に他の企業と労使関係を形成し、企業の業務任務の完成に甚だしい影響を与えたか、またはそれを企業が指摘しても是正を拒否した場合

5. 詐欺、脅迫の手段または危機に乗じて、相手側に真実の意思に背く状況下において労働契約を締結または変更させたことにより、労働契約が無効とされた場合

6. 法により刑事責任を追及された場合


(3) 無過失責任解除

下記の状況のいずれかがある場合、企業は30日前までに書面により従業員本人に通知するか、または従業員に対し1ヵ月分の賃金を別途支給した後に、労働契約を解除することができます。

1. 従業員が罹病または業務によらない負傷により、規定の医療期間満了後も元の業務に従事することができず、企業が別途手配した業務にも従事することができない場合

2. 従業員が業務を全うできないことが証明され、職業訓練または職場調整を経てもなお業務を全うできない場合

3. 労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となり、企業と従業員が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できなかった場合

ここで特にご留意いただきたいのは、以下の状況においては、無過失責任解除は適用してはならない点です。

1. 職業病の危険を伴う作業に従事する従業員で、職位を離れる前に職業健康診断を受診していない場合、または職業病の疑いのある病人で、診断中または医学的観察期間にある場合

2. 当該従業員が職業病の罹患または業務上の負傷により、労働能力を喪失または一部喪失したと確認された場合

3. 罹病または業務外の負傷により、規定の医療期間内にある場合

4. 女子従業員で妊娠期、出産期、授乳期にある場合

5. 当該従業員が満15年連続勤務し、かつ法定退職年齢まで5年未満の場合

6. 法律、行政法規で規定されているその他の状況

7. 新型コロナウイルス感染症患者、疑似症患者、隔離治療中または医療観察期間中の濃厚接触者、政府の実施した隔離措置その他の緊急措置により通常の業務に就くことができない従業員

2. 通常の場合の労使関係解除の一般的なプロセス

(1) 背景調査

解雇予定の従業員の基本的な状況について背景調査を行い、当該従業員に適用される労使関係終了の状況を判断します。


(2) さらなる対応

背景調査の結果に基づき、さらなる措置を講じます。

1. 従業員が業務上の過失や罹病、または業務によらない負傷によって業務を全うできないことが証明される場合(職業訓練または職場調整を経てもなお業務を全うできない場合)においては、企業は関連証拠を収集して従業員に通知します。

2. 客観的な状況に重大な変化が起こることを理由に労使関係を解除する場合においては、企業の状況に応じて一部の部門や役職を廃止したり、一部の業務を停止したりすることを決定し、人員削減に備えます。


(3) 従業員への説明と社内解除手続

解雇される従業員に事情を説明し、協議・交渉を経て、労使関係を終了させるための社内解除手続を行います。


(4) 従業員が労使関係の解除に同意しない場合

従業員が労使関係の解除について同意しない場合、具体的な状況に応じて次の措置を講じます。

1. 従業員が業務上の過失や罹病または業務によらない負傷によって業務を全うできないことが証明される場合(職業訓練または職場調整を経てもなお業務を全うできない場合)においては、企業が一方的に従業員に対し解除を通知し、関連する解除手続をすべて行った後に労使関係を解除します。

2. 客観的な状況に重大な変化が起こることを理由に労使関係を解除する場合においては、従業員との間で、労働契約で定めた報酬、職務内容、勤務先、労働条件などの変更について協議・交渉し、変更について合意に至らなかった場合には、企業が一方的に従業員に通知書を発行し、該当する手続きを経て解雇します。労働組合が設置されている場合、企業は一方的に労働契約を解除する前に、その理由を労働組合に伝えなければなりません。

3. 客観的状況の重大な変化による労働契約解除

(1) 実体的要件 - 客観的状況に重大な変化が生じ、元の労働契約が履行できなくなった

不可抗力とされた事態が発生した場合、またはその他労働契約の全部または一部の条件を履行することができない状況が発生した場合が想定されます。たとえば企業の移転、合併、企業資産の譲渡などが挙げられます。また、部署の廃止や合併、事業再編、事業停止、事業譲渡、販売拠点の撤退、業務委託、店舗の閉鎖、事業所の閉鎖などの原因による従業員職位の廃止も含まれます。
ただし、企業の経営難、生産の余剰、ビジネスモデル、業務の調整等により、人員の余剰・冗長・重複が生じた場合には、「客観的な状況の著しい変化により契約を履行できない場合」には該当しません。


(2) 手続的要件 - 従業員と労働契約変更について協議し、合意に達しなかった

契約内容変更協議とは、労働契約における労働報酬、職務内容、勤務先、労働条件などを変更するための当事者間の交渉であり、企業と従業員の協議による労働契約の解除は契約内容変更協議には該当しません。
交渉方法としては、企業が「労働契約の変更に関する照会書」を従業員に送付し、具体的な取決めを提案したうえで従業員と相談します。従業員は書面で自らの選択および意見を述べることができます。もし従業員が企業によるすべての取決めに同意しないことを明確に意思表示した場合、合意に達していないとみなされ、書面による証拠も残されます。なお、仕事の取決めは合理的であるべきであり、調整前後の待遇や等級に過度の格差があってはならず、著しい不利益変更があってはなりません。

II. 整理解雇

1. 整理解雇とは

企業が重大な経営不振に見舞われ、法令を遵守する前提で労働者を解雇する場合、労働者に責任はなく、使用者の経営上の理由による人員整理が解雇をもってなされることを「整理解雇」(中国語では「経済的裁員」)と呼びます。財務圧力の緩和または事業調整の目的を達成するために行う1つの手段であり、通常は、複数の労働者が同時期に解雇されることになります。整理解雇は関与する従業員の人数が多いことから、法律上では整理解雇と個別解雇※1について異なる規定が定められています。

※1 個々の労働者との間の、個別的な問題を理由とする解雇。

2. 整理解雇の要件

(1) 実体的要件

1. 「企業破産法」の規定に従い再編を行う場合

2. 企業の生産、経営が極めて困難となった場合

3. 生産製品の転換、重大な技術革新または経営方式に調整があり、労働契約変更後においてなお人員削減が必要である場合

4. その他の労働契約締結時に依拠した客観的な経済状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となった場合


(2) 手続的要件

1. 企業は人員削減30日前までに工会(日本の労働組合に近い仕組み)または従業員全体に対し、労働契約締結の「当初」と人員整理に至った「現在」の経済状況における「重大な変化」、ならびに現在までの経営努力の経緯について具体的に説明し、賃借対照表、損益計算書または監査報告書等企業の生産経営状況に関する資料を提供する必要があります。

2. 以下の内容を記載されている人員削減案を提出します。

・解雇予定の人員リスト

・削減時期および実施手順

・法令および労働協約の規定に基づいた、解雇される従業員に対する経済補償

3. 人員削減案について労働組合または従業員全体に意見を聴取したうえで、当該削減案の修正を行います。

4. 現地の労働行政部門に人員削減案および労働組合もしくは従業員全体の意見を報告し、労働行政部門の意見を聴取します。

5. 企業が正式に人員削減方案を発表し、解雇者との間で労働契約の解除手続を行い、関連する規定に基づき解雇者に経済補償金を支払い、解雇証明書を発行します。


(3) 整理解雇におけるその他の留意点

1. 人数要件

・削減する必要のある従業員の人数が20人以上である

・20人未満の場合、企業従業員総数の10%以上を占める必要がある

2. 優先して継続雇用する従業員

・企業と比較的長期間の、期間の定めのある労働契約を締結している者

・企業と、期間の定めのない労働契約を締結している者

・家庭内に他に就業者がおらず、扶養が必要な老人または未成年者を有する者

3. 労働契約を解除してはならない従業員

「無過失責任解除」が適用されない従業員の人選と同様です。詳細は上記I - 1 - (3)をご参照ください。

III. 任意解散に伴う労使関係の解除

企業の上層部が中国国内における子会社の解散を決定し、権力機構が解散決議を行って企業が清算される場合、従業員に対する措置を講じなければなりません。任意解散に伴う労使関係解除の一般的なプロセスを以下説明します。

1. 清算委員会の設立

法律に基づき清算委員会を設置し、各種清算事務を行います。

2. 背景調査の実施

従業員に対する背景調査を実施し、従業員の基本的な状況を明確にするとともに、企業による賃金、社会保険料および積立金の滞納の有無を調査します。

3. 従業員配置計画の作成

従業員配置計画を作成し、従業員と対等に協議します。企業が従業員との労働契約を終了させる場合には、手続上の要件に従い、解雇理由や契約解除方法、補償方法などについて、会議または掲示などの形式により従業員に通知するものとします。

4. 労働契約の終了

企業は従業員との間で労働契約を終了させる協約を締結し、その従業員に対して離職証明書、人事記録、社会保険の引継ぎ手続を行います。
実務上では、通常労働契約の終了時期は、労働契約終了協約書にて双方が合意した終了時期であり、終了協約書がない場合には、企業が労働契約が終了する旨を通知した時点で終了するものとします。

IV. 破産清算に伴う労使関係の解除

企業が期限の到来した債務を弁済できず、債務超過の状態に陥った場合、または明らかに債務を弁済する能力が欠如している場合や、企業もしくは債権者からの申立てにより破産清算に入る場合は、それに伴って相応する従業員に対する措置を講じなければなりません。破産清算における労使関係解除の一般的なプロセスを説明します。

1. 背景調査の実施

企業の従業員に対する背景調査を行い、従業員の基本的な状況を明らかにし、企業が賃金・社会保険料・積立金関連の滞納状況の有無を調査します。

2. 従業員配置計画の作成

従業員配置計画を作成し、従業員代表大会または従業員全体での討議・協議を経て修正を行い、最後に公表または周知します。

3. 裁判所への破産申立申請

裁判所へ破産申立と従業員配置計画書を提出します。

(1) 債務者による破産申立て

破産申立と同時に従業員配置計画書の提出および賃金・社会保険料の支払いが必要となります。


(2) 債権者による破産申立て

債務者は、従業員の賃金の支払いと社会保険料の納付証明を提出しなければなりません(従業員配置計画書は不要)。

4. 裁判所で受理された後の従業員債権の扱い

従業員債権の範囲は、企業が従業員に滞納した賃金、医療費、障害者補助および救済費用、従業員の個人口座に振り込むべき未払いの基本養老保険、基本医療保険料、および法律、行政法規の規定に基づき従業員に従業員に支払うべき経済補償金となります。管理人が職権で調査した後に公開し、破産財産の分配過程における優先順位は、破産費用と共益債務に次ぐものとします。また、債務者の特定の財産に担保権を有する債権者は、当該特定財産の弁済は労働債権に優先して行われるべきです。

V. 最後に

新型コロナウイルスの影響により、中国における一部事業の撤退や拠点縮小、再編や統合を検討し、人員削減を視野に入れている日本企業は少なくないと思われます。法律の規定に基づき人員削減を行うと同時に、実務上の問題点に十分に注意を払いながらリスクマネジメントを行い、また従業員に対しては誠実に対応することが、非常に重要だと考えます。

執筆者

SF Lawyers 上海事務所
パートナー 余 承志
アソシエイト 王 佳

SF Lawyersは、KPMG中国およびオーストラリアにあるKPMG Lawと提携した法律事務所であり、香港と上海に拠点があります。SF Lawyersは独立した法律事務所であり、KPMGグローバルリーガルサービスネットワークのメンバーでもあります。

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