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LME(ロンドン金属取引所)によるポジションペーパーの公表

LME(ロンドン金属取引所)によるポジションペーパーの公表

2018年10月、英国ロンドンにある非鉄金属取引所であるロンドン金属取引所(LME)は、LMEに登録しているブランドに対して責任ある調達に関する要求事項を示したポジションペーパーを公表しました。

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LME(ロンドン金属取引所)とは

LMEは、1877年設立という長い歴史を持つ、英国ロンドンにある非鉄金属の取引所であり、LMEにより公表される価格は非鉄金属相場の世界的な指標として用いられています。世界各地にLMEの指定倉庫があり、LMEを介した現物決済の受け渡し場所として機能しています。この指定倉庫で扱っている現物は、品質や重量に関する厳しい要求事項を満たしたブランド(登録ブランド)のみであり、各ブランドの生産者や所在国等についての情報は登録ブランドリストにおいて公開されています。

ポジションペーパーの発行の背景とその目的

近年、責任ある調達に関する世界的な注目が高まっており、鉱物がどこでどのように採掘されたものであるのかに関する消費者や一般市民の関心が高まっています。LMEは、このような課題に対処するエンゲージメントの一環として、2017年、「責任ある調達に関する調査」を実施しました。その結果、LMEは、その登録ブランドが形状、重量、および化学組成の物理的な要求事項だけでなく、責任ある調達に関する最も優れた基準に準拠していることを保証する必要があるとの結論に至ったことから、そのための道筋や当調査結果を示すため2018年10月にポジションペーパーを発行しました。

ポジションペーパーは、世界の産業や下流の製造業者および消費者によって期待される、責任ある調達の基準について登録ブランドが準拠していることを確かなものにするための道筋を示したものであり、登録ブランドが、LMEの示すタイムラインに沿って、LMEコンプライアンスステップに従って対応を実施することが想定されています。

ポジションペーパーが対象としている鉱物は、コバルト、スズ、アルミニウム(プライマリー・アルミニウム、アルミニウム合金、NASAAC(北米特殊アルミニウム合金))、銅、鉛、モリブデン、ニッケル、亜鉛の全8種類です。また、コバルトについては、特に重要性が高いことから、過渡的な措置が設けられています。

LMEコンプライアンスステップ

LMEコンプライアンスステップの概要と各期限

ポジションペーパーは、責任ある調達に関する基準について登録ブランドが準拠していることを確かなものにするための道筋としてLMEコンプライアンスステップを設けており、登録ブランドは各ステップで求められる対応を実施する必要があります。LMEコンプライアンスステップは、(1)エンゲージメント及び開示、(2)ブランド分類、(3)ブランドコンプライアンスの3つの段階から構成されており、各々に期限が設定されています。また期限は、「コバルト・スズ」と「その他の鉱物」で異なっており、コバルト・スズはより早期の対応が求められています。ポジションペーパーでは、LMEコンプライアンスステップのほか、ISO14001やOHSAS18001/ISO45001の認証取得も求められており、その期限も設定されています。期限に間に合わない企業に対しては、LMEによる「ブランドアクション(開示、登録ブランドの停止やデリスティングを指す)」が検討されています。

図表1 各要求事項に関するタイムライン

  実施事項 コバルト・スズ その他の鉱物
(1)エンゲージメント及び開示 責任ある調達に関する調査の未回答企業による情報提供 2019年第3四半期 2019年第3四半期
(2)ブランド分類 レッドフラッグ評価 N/A 2019年第4四半期
(3)ブランドコンプライアンス 基準特定 2019年第4四半期 2020年第4四半期
基準整合性評価 2020年第2四半期 2021年第2四半期
基準の実施
第三者監査
2020年第4四半期 2021年第4四半期
ISOコンプライアンス ISO14001
OHSAS18001/ISO45001
2021年第4四半期 2021年第4四半期

(1)エンゲージメント及び開示

2017年に実施したLMEの「責任ある調達に関する調査」について未だ回答していない企業は、調査の質問に関して現在実施中の取組内容をLMEへ開示する必要があります。この情報は極秘の取り扱いでLMEへ提供され、それらを集約した情報のみが公表される予定です。

(2)ブランド分類

鉱物の種類によってリスクは様々であるとの認識に基づき、LMEは「コバルト・スズ」と「その他の鉱物」に分けて、ブランド分類の手法を定めています。具体的には、コバルト・スズについてはリスクが高いことから、自動的に高フォーカスブランドに分類されるのに対して、その他の鉱物については、OECD紛争鉱物ガイダンスのレッドフラッグ評価を登録ブランドが行った結果により、高フォーカスブランドと低フォーカスブランドに分類されます。高フォーカスブランドに分類されると、LMEコンプライアンスステップの3つ目であるブランドコンプライアンスを実施する必要があります。一方、低フォーカスブランドに分類されると、ブランドコンプライアンスを実施する必要はありませんが、年次のレッドフラッグ評価を実施し、LMEによるレビューを受ける必要があります。

OECD紛争鉱物ガイダンスでは、高リスクの判断指標としてのレッドフラッグ(危険信号)を以下のように挙げています。
 

鉱物の原産地および経由地に関連した危険信号:

  • 鉱物が、紛争地域または高リスク地域を原産地とするか、またはこれら地域を輸送の際に経由している。
  • 鉱物が、既知埋蔵量が限られ、期待資源または予想生産水準が疑問視されている国を原産地として申告されている。(つまり、ある国から出荷されたとして申告された鉱物の量が、同国の既知埋蔵量や予想生産量の水準と調和しない場合。)
  • 鉱物が、紛争地域および高リスク地域からの鉱物が輸送中に通過することが知られている国を原産地として申告されている。


供給業者に関する危険信号:

  • 企業にとっての供給業者もしくはその他既知の上流の企業が、前述の危険信号の原産地や経由地のいずれかから鉱物を供給したり、そこで操業したりする企業の株式を保有しているか、またはその他の利害関係を有する。
  • 企業にとっての供給業者もしくはその他既知の上流の企業が、過去12ヵ月間に前述の危険信号の原産地や経由地から鉱物を調達したことが知られている。


出典:OECD 紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデューデリジェンスガイ ダンス(仮約)

図表2 ブランド分類のフロー

(3)ブランドコンプライアンス

高フォーカスブランドに分類された場合には、ブランドコンプライアンスのステップに移行します。このステップでは、以下を実施することが求められます。

  1. 基準の特定:準拠する基準を選定します。基準は、内部のものでも外部のものでも構いません。
  2. 整合性評価:選定された基準がOECD紛争鉱物ガイダンスと整合しているか否かについてLME認定評価者が評価を行い、整合していると評価された場合には当基準がLMEにより承認されます。
  3. 基準の遵守、第三者監査:選定された基準の遵守状況について、第三者監査を受審します。また、監査の結果はLMEによりレビューされます。

基準について、LMEはその独自の基準を作成する意向はなく、OECD紛争鉱物ガイダンスに整合している既存の社内外の基準を用いることを認めています。ガイダンスや基準に変更があった場合には、整合性評価を再実施する必要があります。なお、整合性評価を行ったLME認定評価者は、整合性評価後2年間は第三者監査を実施できないと定められています。

ISOコンプライアンス

鉱物産業における環境と労働安全衛生に関する懸念に対処するため、LMEは登録ブランドに対してISO14001(環境マネジメントシステム)並びにOHSAS18001もしくはISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)の認証を得ることを求めています。OECD紛争鉱物ガイダンスは、上流のサプライチェーンを含んだ範囲に適用されるものであるのに対して、このISOの認証は、登録ブランド自体の操業に関してのみ求められることに留意する必要があります。

コバルトについての過渡的な措置

過渡的な措置の必要性

コバルト市場では、責任ある調達という観点で懸念のあるブランドは、大きくディスカウントされて取引されていると考えられています。すなわち、LMEを介した取引における現物の売り渡しの際に、売り手は、LME登録ブランドである限り、どのような現物を買い手に渡しても自由であることから、合理的な売り手であれば、所持している現物の中で一番価値の低い現物を売り手に渡すと想定されます。LMEにおける取引価格は、実際に受け渡しされた現物の価値に基づいて決定されることから、結果として、最も価値の低いブランド(つまり、責任ある調達という観点で懸念のあるブランド)の価格に収斂する傾向にあります。このような課題に対して早期に対処する必要がある一方、LMEコンプライアンスステップを完了させるには相応の時間が必要であることから、LMEコンプライアンスステップ完了期限までの過渡的な措置として、LMEはコバルトの登録ブランドを「通常のブランド」と「ポテンシャルローバリューブランド」に分ける措置を講じることとしました。

過渡的な措置の内容

LMEは、市場において他のブランドに比べて2%以上ディスカウントされて取引されていると考えられる1つ以上の登録ブランドを「ポテンシャルローバリューブランド」に分類します。LMEは、これを自身の市場の理解に基づいて行いますが、市場参加者はどのブランドを「ポテンシャルローバリューブランド」にするかについて提案することも可能です。LMEによる「ポテンシャルローバリューブランド」 のアナウンス後、30日間の異議申立期間が設けられ、生産者も含めた市場参加者は証拠(例:ディスカウントのない価格で取引された実績)に基づき異議を申し立てることができます。LMEが最終的に「アクチュアルローバリューブランド」と分類したブランドについて、LMEはブランドアクション(開示、登録ブランドの停止やデリスティング)を行うことができます。なお、このコバルトについての過渡的な措置は、2019年第3四半期から開始されます。

ポジションペーパー以降の予定

ポジションペーパーの内容について、LMEは2018年11月30日までフィードバックを受け付けています。また、ブランドの登録に関する要求事項を定めたLMEルールブックのパート7(“Requirements for the Listing of Brands”)はアップデートされ、ポジションペーパーの内容が反映される予定です。また、この変更について、2019年第1四半期にコンサルテーションが予定されています。

登録ブランドにおいて想定される今後の対応

LMEコンプライアンスステップについては、ステップごとに以下の対応が必要であると考えられます。

  1. エンゲージメント及び開示:責任ある調達に関する調査に対して未回答である場合には、情報提供を行います。
  2. ブランド分類:コバルト・スズ以外の鉱物の登録ブランドは、レッドフラッグ評価を行う体制を整えます。レッドフラッグ評価結果は、LMEによるレビューが行われることから、評価の判断資料を残しておくことに留意が必要です。
  3. ブランドコンプライアンス:コバルト・スズの登録ブランドおよびその他の鉱物で高フォーカスブランドに分類された登録ブランドは、適切な社内外基準を選定し、当基準がOECD紛争鉱物ガイダンスと整合しているか検討します。また、第三者監査を受ける必要があるため、受審の準備を行います。

ISOコンプライアンスについての対応としては、自社の登録ブランドに関する操業を行っている事業所におけるISO14001(環境マネジメントシステム)並びにOHSAS18001もしくはISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)の認証状況を確認し、取得していない場合には認証の準備を進めることが必要です。

また、コバルトについての過渡的な措置に対しては、自社の登録ブランドが「ポテンシャルローバリューブランド」に分類される可能性があるか検討し、その可能性がある場合には、異議申立期間に「ポテンシャルローバリューブランド」ではない証拠を示すことができるように準備を行うことが必要です。

非鉄金属を取り巻く潮流(考察)

非鉄金属のサプライチェーンについての関心が高まるにつれて、サプライチェーンの透明性が要求される非鉄金属の範囲が拡大しています。振り返れば、対象鉱物は3TG(スズ、タンタル、タングステンおよび金)から始まりました。まず、2010年には、OECD紛争鉱物ガイダンスが公表され、また、同年、米国において金融規制改革法(別名ドッド・フランク法)が成立し、コンゴ民主共和国およびその周辺国で産出された紛争鉱物(金、スズ、タンタル、タングステン)を製品に使用しているかどうかについて、情報開示が義務付けられました。また、2011年にはLBMA(ロンドン地金市場協会)から、金のサプライチェーンに関するデューデリジェンスの具体的な要求事項を定めた「LBMA Responsible Gold Guidance」(以下、LBMA RGG)が公表されました。その後、2017年LBMAから銀について、また2018年6月LPPM(ロンドンプラチナ・パラジウム市場)からプラチナおよびパラジウムについてもLBMA RGGと同様のガイダンスが公表されています。さらに、今回のLMEポジションペーパーに伴い、3TGから始まった対象鉱物は、銀、プラチナおよびパラジウムに広がり、さらにコバルトだけでなく、銅やアルミニウムなどのベースメタルにまで拡大をみせています。

また、サプライチェーンにおいて考慮すべき問題についてもその範囲は広がっています。つまり、OECD紛争鉱物ガイダンスやドッド・フランク法は紛争に焦点を絞っていましたが、LBMA RGGは紛争に加え人権侵害やマネーロンダリングについてもデューデリジェンスの考慮事項として捉えており、さらには、LMEポジションペーパーは、環境と労働安全衛生にも配慮することを求めています。また、今後LBMAは環境やサステナビリティに係る法令遵守状況についてもデューデリジェンスの考慮項目に加える予定であることをそのウェビナーで明らかにしています。

このように対象鉱物や考慮すべき問題の範囲が拡大する中で、鉱物産業に身を置く企業は責任ある調達を全うするために厳しい要求事項を満たす必要がありますが、このような潮流は世界の社会問題を解決する一歩となり、また責任ある調達を実施する企業の企業価値向上につながると考えます。

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