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フィリピン税制改正の影響と今後の課題

フィリピン税制改正の影響と今後の課題

本稿では、ドゥテルテ政権の最重要施策である2018年1月より施行した税制改正について、概要や日本企業にとって影響の大きな主要な改正項目について解説します。

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税制改革を断行できるか、ドゥテルテ政権はターニングポイントを迎えています。

ドゥテルテ政権は、フィリピンの将来ビジョンを掲げました。短期的には2022年までに、貧困率を現在の26%から17%に、一人あたりの国民総所得(GNI)を現在の3千米ドルから4千米ドルに、長期的には、2040年までに貧困層を根絶、GNIを1.2万ドルに倍増するビジョンです。そのための、安定的な経済成長の維持、人材や社会インフラなどへの投資の強化・集中施策を打ち出しました。そしてこれら投資を実現するための財源確保手段として税制改正による税収増を見込んでいます。

本稿では、ドゥテルテ政権の最重要施策である2018年1月より施行した税制改正について、概要や日本企業にとって影響の大きな主要な改正項目について解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 納税者の99%が減税となる個人所得税の改正がされたものの、ROHQ(地域事業統括本部)とRHQ(地域統括本部)の個人所得税優遇や、PEZA(フィリピン経済特区庁)登録企業の商品やサービスの間接輸出にかかるVAT免除規定について大統領が拒否権を発動するなど流動的な状況にある。
  • 中流・下流階級の納税者に対する所得税を減税する一方で、石油、たばこ、砂糖などの特定商品に課される税金が引き上げられ、小売価格の上昇に繋がり間接的に経費が嵩む。
  • 税制改正第2弾パッケージである法人税率の減税およびタックスインセンティブの合理化法案は、2018年内にも法案が可決される状況にあり、引き続き状況に注意を払う必要がある。

I.フィリピン税制改正概要

ドゥテルテ政権が進めるインフラ整備や貧困削減の実現に繋がる税制改正法案(共和国法第10963号: Tax Reform Act for Acceleration and Inclusion : 通称TRAIN)が、2017年末に成立しました。一部は、実に20年ぶりの税制改革であり、世界中から注目を集めています。

ドゥテルテ大統領は、TRAINに含まれる一部の条項について否認しており、なかでも、独立した関税地域および観光経済特区にモノとサービスを提供する際の間接輸出に関するVAT(付加価値税)をめぐり、実際にモノ・サービスが国外に提供される直接輸出のみにゼロVAT適用を継続したい意向があり、ゼロVAT措置が廃止された場合には、日本企業の登録も多いPEZA企業(一定期間の免税や特別税率の適用の恩恵などの優遇措置を受ける企業)へのサプライヤーには大きな影響を及ぼすものと思われます。

新税法施行にあたって、2017年12月13日に上院下院の両院により承認され、同年12月19日に大統領によって署名されました。これにより、税制改革案が、共和国法第10963号(Republic Act:No.10963)として法制化され、2018年1月1日より施行されました。同法は、一連の税制改革案の第1段パッケージとして位置づけられています。また、署名に際して、一部の条項に対して大統領による拒否権が発動され、以下のような重要な改変が加えられました。

(1)地域統括本部、地域事業統括本部などの所得税優遇税率廃止。
(2)ゼロ%VAT(付加価値税)は直接輸出のみに適用。
(3)自営業者の百分率税の免税規定の廃止など。

現時点でVATに関しては、大統領による否認が行われたもののPEZAより通達(MC No.2018-03)が発行され、従来と同様の取扱いが継続されております。こうした状況のもと、2017年までの旧税法と新税法の相違点を把握するとともに、BIR(Bureau of Internal Revenue : 税務当局)が今後発行する歳入規則等について最新の情報を入手し、今後の動きに備えることが肝要です。

II.主要な税制改正項目

以下において、特にフィリピンにおいて事業展開をする日本企業にとって影響の大きいと思われる税目について、旧税法と新税法の比較における重要な改正項目について解説します。

1.個人所得税

フィリピンの中心部であるマニラ近郊では、生活するために月額最低3.5万フィリピンペソ(以下PHP、1PHPは2018年5月末現在約2円)必要とされ、当初より少なくとも月額2~2.5万PHP程度の給与所得者に関して免税となるような改正案が検討されていました。今回の個人所得税率の改正は、富裕層がより多くの税負担をすることで、貧困率を引き下げることを目的としています。この改正により約99%の納税者が税制改正の恩恵を受け、残り約1%の富裕層は、税負担が増加することになります。

2017年12月31日まで、年額50万PHPを超える課税所得に関して32%の最高税率が課されましたが、改正後の最高税率は35%となる一方で、課税所得のブランケットは、大幅に変更されております(詳細は図表1参照)。

なお、大統領が地域統括本部、地域事業統括本部などの15%の所得優遇税率に対して否認を行ったため、今回の税制改正により当該優遇税率は廃止され、通常の所得税率(0%~35%)が課されることとなりました。

また、その他の個人所得税に関連した旧税法と新税法の主要な差異については図表2をご参照ください。

図表1 個人所得税率

2018年1月1日以降~2022年12月31日まで
年間課税所得の範囲   税務債務
超(PHP) 以下(PHP)
- 250,000 無税
250,000 400,000 250,000PHPを超える金額について20%
400,000 800,000 30,000PHP+400,000PHPを超える金額について25%
800,000 2,000,000 130,000PHP+800,000PHPを超える金額について30%
2,000,000 8,000,000 490,000PHP+2,000,000PHPを超える金額について32%
8,000,000 - 2,410,000PHP+8,000,000PHPを超える金額について35%
2023年1月1日以降
年間課税所得の範囲 税務債務
超(PHP) 以下(PHP)
- 250,000 無税
250,000 400,000 250,000PHPを超える金額について15%
400,000 800,000 22,500PHP+400,000PHPを超える金額について20%
800,000 2,000,000 102,500PHP+800,000PHPを超える金額について25%
2,000,000 8,000,000 402,500PHP+2,000,000PHPを超える金額について30%
8,000,000 - 2,202,500PHP+8,000,000PHPを超える金額について35%

図表2 その他の個人所得税に関連した旧税法と新税法の主要な差異

旧税法 新税法
基礎控除50,000PHPあり
扶養控除25,000PHPあり (4人まで)
基礎控除50,000PHP廃止
扶養控除25,000PHP廃止
13ヵ月目給与に関する特別控除 82,000PHP 13ヵ月目給与に関する特別控除 90,000PHP
拡大外国通貨預金制度の預託銀行から受け取る利息収入は、7.5%の分離課税 拡大外国通貨預金制度の預託銀行から受け取る利息収入は、15%の分離課税
非上場企業の株式売却によるキャピタルゲイン課税
100,000PHPまで5%
100,000PHP超える金額は10%
非上場企業の株式売却によるキャピタルゲイン課税
15%

2.フリンジベネフィット

フリンジベネフィットも個人所得税の税率変更に伴い、同様に32%から35%へ税率が変更されました。このため、各社フリンジベネフィットのコスト負担が増加見込です。日本企業の在フィリピン駐在員にかかる住居費用、社用車、メイド、運転手、その他の家事使用人の各種費用などフリンジベネフィット対象コストが発生している場合、2018年度から新たな税率を適用しているのか留意する必要があります。場合によっては、手当などへの変更を実施し、個人所得税として取り扱うこともご検討ください。個人所得税のブランケットでは、8百万ペソの課税所得者が35%の対象となりますのでその金額を超えない場合は、32%以下の税率となります。そうすることにより、税率が35%よりも少ない税率が適用され、コストの最適化につながる可能性もあります。専門家と相談するなどして検討および対策を視野に入れる必要があります。

3.付加価値税(VAT)

付加価値税に関しては税率に変更はなく、12%のままです。

ただし、現在最も着目されているゼロ%VATは、図表3の取扱いとなっています。

図表3の太字部分は今回新たに追加された条文です。PEZA企業への売上に関しては、SEC106(2)(a)(2)(i)でゼロ%売上であることが明記されています。また、条件付きであるものの、下線部の条文は旧税法のまま残っています。一方、当該条文は、申請してから90日以内に還付を行う新たなVAT還付システムを導入および運用し、2017年12月末までに申請したVAT還付申請が現金で2019年12月31日までに還付された場合には、ゼロ%VAT取引としてみなされなくなり、通常の12%VATが課される点に留意が必要です。

冒頭の説明のとおり、大統領が拒否権を発動したことにより太字の条文が拒否されています。これにより、本条文のみ2018年1月1日で有効となっていません。しかしながら、歳入規則およびPEZAの通達において上記に記載したとおり新しい還付制度が適用され、2017年12月末の還付申請が現金還付されるまでは、物品販売は間接輸出とみなされ、ゼロ%VATが適用されることが明確にされております。また、サービスに関しても以前の条文が残っているため、ゼロ%VATが享受できる状況ですが、物品と同様に今後はゼロ%VATが廃止される動きにあることに注意することが必要です。

間接輸出に関してゼロ%VATが廃止された場合には、最終の輸出者にインプットVATが蓄積される状況が考えられます。その場合には、実務上の課題として、(1)インプットVATを支払ってから還付されるまでタイムラグがあるため、キャッシュ・フローの見直し、(2)還付できるインプットVATを整理し、適切な還付申請を行うための管理体制の構築が求められます。特に税務当局より還付申請書類が非適格として否認された場合には、インプットVATは損金算入不可とされておりますので、子会社の損益が悪化する可能性もあります。

その他のVATに関する税制改正のなかで最も着目すべき事項として、還付制度の条文が大幅に変更されていることです。以前は、税務長官が、120日以内に還付判断を行わない場合はみなし否認となり、納税者は120日を経過したとみなされる日から30日以内に税務裁判所へ控訴するかどうかの判断を迫られました。今回の条文は、120日から90日と判断期間が短くなり、還付申請が一部または全部が認められない場合には、税務長官は書面にて納税者にその根拠とともに通知することが明文化されました。また、新たに税務担当官が一定期限内に対応しない場合の罰則規定を設けています。このことから、フィリピン政府としてより迅速な還付処理を実施することを目指していると推測できます。なお、2017年12月31日までに申請した還付に関しては従来の120日が適用されることとなります。

一方、還付方法が現金還付のみになったことで、納税者に不利益を与える可能性があります。従来、納税者は、現金還付とTCC証書(Tax Credit Certificate)のいずれかを還付方法として選択できました。TCCは、還付相当額を将来の国税の支払に充てることができる効力を持っており、また、TCCは、BIRの裁量で発行することができ、予算省に根回しをする必要がある現金還付よりも迅速に取得することができました。今後、現金還付のみが認められ、予算省に還付予算がない場合は、納税者への還付の遅れが生じる可能性があります。

こうした事態の回避のため、新税法では、BIRおよびBOC(関税当局)は、還付のワンストップサービスを行い、速やかに現金還付を行うことが規定されています。また、BIRとBOCで回収したVATの5%に相当する額を、自動的に特別口座として割り当て、還付目的と明文化され、より迅速な現金還付が行われる見込みです。

図表3 VATの取扱い

新税法

税法第106条 (2)(a) ゼロ%VAT物品売上

(2)

(i) 特別法の下、規定されているフィリピン関税とは別個に独立した関税地域にて登録されている企業への製品の販売および実際の搬
(ii) 観光業法の下、観光インフラおよび企業誘致区庁(TIEZA)に管轄されている観光事業地域に登録されている企業への製品の販売および実際の搬送

(3)フィリピンに所在する輸出型製造企業に製造等のために配送される原材料や梱包材料の非居住者に対する外貨建ての売上

(4)原材料や梱包材料の70%の生産が輸出される輸出型製造企業への売上

(5)オムニバス投資法またはその他の特別法によって間接輸出とみなされる売上

税法第108条 サービスに対するVAT

(B)ゼロ%VATが課される取引

(1)外国通貨で行われ、外国で事業を行うその他の者のために、後ほど輸出する製品を加工、製造、再梱包するサービス

(3)特別法の下、免税を受けている個人または企業、あるいはフィリピンが当該サービスに対してゼロ%VATを約することに同意した国際協定の下、免税を受けている個人または企業へのサービス

(5)70%以上の輸出を行っている企業への加工、製造、改造に従事するサブコンあるいは契約者が行ったサービス

(8)

(i)特別法の下、フィリピン関税とは別個独立した関税地域に登録している企業へのサービス

(ii)観光業法の下、観光インフラおよび企業誘致区庁(TIEZA)に管轄されている観光業者地域に登録されている会社に対するサービス

4.印紙税

印紙税に関してもほぼすべての項目において現行法の倍額に設定されています。特に日本企業にかかわりが深い事項を、図表4で示しています。今後印紙税を伴う取引を行った場合、新税法の下での印紙税が適用されるため、誤って担当者が過年度の印紙税率を適用していないかモニタリングする必要があります。

図表4 印紙税における旧税法と新税法の差異

項目 旧税法 新税法
株式発行 200PHPにつき1PHP 200PHPにつき2PHP
株式移転 200PHPにつき0.75PHP 200PHPにつき1.5PHP
借入金 200PHPにつき1PHP 200PHPにつき1.5PHP
オペレーティングリース 最初の2,000PHPに関しては3PHP
超過する金額に関して1,000ペソ毎に1PHP
最初の2,000PHPに関しては6PHP
超過する金額に関して1,000PHP毎に2PHP

5.寄付金課税

寄付金課税に関しても、抜本的な見直しがなされています。旧税法では累進課税あるいは30%の固定レートであったものが、25万PHPを超える場合に一律6%に置き換えられ、減税が図られました。また、税法第100条には、寄付の意図がない場合は、当該取引は寄付金課税の対象とならないことが明確化されました。納税者にとっては、通常の取引のなかで、市場価格より低い値段で取引したとしても寄付金の意図がないことを立証すれば寄付金の課税の対象外となる機会が与えらました。

6.物品税(石油、鉱産物、加糖飲料、車両)

2018年度より、すべての石油品目において増税が実施されております。企業に2018年度からの影響をヒアリングした結果、電気代の増加、燃料費の増加が発生しており、また、一部製品およびサービスの小売り価格に当該影響が転嫁され、値上がりが生じています。今後、2020年度まで一年毎に値上がりが決定しております(図表5参照)。

また、同様に鉱産物(石炭およびコークスならびにその他の資源)に関しても大幅な増税が行われております。

加糖飲料に関しては、以前は税金がかからなかったものの国民の健康維持が目的で砂糖税が導入され、異性化糖や甘味料を使用している飲料は、増税がなされております。

車両の物品税については累進課税から変更され、カテゴリーごとの単純課税が適用されることとなりました。一部車両では、小売価格が上昇しております。

図表5 石油関係物品税

品目 旧税法 新税法
2018/1 2019/1 2020/1
潤滑油、グリース
(PHP/リットル)
4.5 8 9 10
加工ガス
(PHP/リットル)
0.05 8 9 10
ワックス、ワセリン
(PHP/キロ)
3.5 8 9 10
変性アルコール
(PHP/リットル)
0.05 8 9 10
レギュラーガソリン
(PHP/リットル)
4.35 7 9 10
プレミアムガソリン
(PHP/リットル)
5.35 7 9 10
ジェット燃料
(PHP/リットル)
3.67 4 4 4
ケロシン
(PHP/リットル)
0.00 3 4 5
ディーゼル
(PHP/リットル)
0.00 2.5 4.5 6
液化石油ガス
(PHP/リットル)
0.00 1 2 3
アスファルト
(PHP/キロ)
0.56 8 9 10
バンカー重油
(PHP/キロ)
0.00 2.5 4.5 6
石油コークス
(PHP/メトリックトン)
0.00 2.5 4.5 6

7.その他の影響を与える変更

未払の税金に関する延滞利息の利率に関して改訂が行われ、従来の年率20%から中央銀行が定める法定金利の2倍へと変更がなされています。現在の法定利率は6%となっており、延滞利息は2018年1月1日以降は、12%となっています。税務調査時の追徴金額の最終支払額に影響を与えますのでご留意ください。

III.最後に

フィリピンにおける20年ぶりの税制改正について、背景、新旧税法の主要な相違点および留意点について解説しました。

繰り返しになりますが、流動的な状況も考えられるため、今後の税務当局から発行される歳入規則等の動向にはご注意いただきたいと思います。

なお、税制改正第2弾パッケージである法人税率の減税およびタックスインセンティブの合理化法案は、今期の早い内に議会で提出され、法案可決が急がれる状況にあります。現在提出されている法案の内容では、30%から20%への法人税率の減税および無期限の5%グロスインカムタックスについて、時限設定を行うサンセット条項(一定期間の経過によって自動的に終了)の設定が有力視されています。インセンティブの期間としては、最高5年のみとなり、VATおよび地方税に関しては免税措置はありません。また、関税に関しても5年のみ設備と原材料に関する関税を免税とする一方で、拡張投資に関して設備を輸入する場合には、関税の免税を設備にのみ適用できます。しかしながら、当該法案に対しては、各所から反対意見も多く上がっており、今後どのようにこの反対意見が取り入れられ、反映されているのかに注意が必要です。

本稿がフィリピンおよびアジア太平洋地域における海外事業を考察するうえで参考になれば幸いです。

執筆者

KPMGフィリピン
マニラ事務所
グローバルジャパニーズプラクティス
ディレクター 山本 陽之
シニアマネジャー 谷本 智則

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