欧州、カナダの先行事例の開示から見えるIFRS予想信用損失会計 | KPMG | JP
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欧州、カナダの先行事例の開示から見えるIFRS予想信用損失会計

欧州、カナダの先行事例の開示から見えるIFRS予想信用損失会計

本稿では、銀行の開示内容から、欧州の銀行及びカナダの銀行においてIFRS第9号の予想信用損失会計の影響と適用上の主要課題にどのように対応しているかについてまとめました。

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2018年1月1日、欧州の銀行はIFRS第9号「金融商品」の適用日を迎えました。
G-SIBs(Global Systemically Important Banks:グローバルなシステム上重要な銀行)といわれる銀行は、IFRS第9号の適用による影響について、アニュアルレポートなどにおいて情報提供を行っています。2017年11月1日から一足早くIFRS第9号を早期適用したカナダの大手銀行も年度末開示及び四半期開示において、適用による影響を明らかにしています。

IFRS第9号の予想信用損失会計では、各銀行それぞれのリスク管理をベースとした見積もりが計上されるため、定量的、定性的に詳細な開示が行われることによって、比較可能性が担保されることが期待されています。本稿では、銀行の開示内容から、欧州の銀行及びカナダの銀行においてIFRS第9号の予想信用損失会計の影響と適用上の主要課題にどのように対応しているかについてまとめました。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 欧州及びカナダの銀行のほとんどは、IAS第39号からIFRS第9号に移行した際、引当金額が増加している。
  • 著しい信用リスクの増大について、定性的指標、定量的指標で判定を行っているが、定量的指標の閾値を示している銀行は少ない。
  • 将来経済シナリオは3つ以上を採用しており、ほとんどの銀行はGDP、失業率をマクロ経済指標として使用し、ポートフォリオによって住宅価格インデクスなど適切な変数を用いている。

I. はじめに

2018年1月1日、欧州の銀行はIFRS第9号「金融商品」の適用日を迎えました。G-SIBs(Global Systemically Important Banks:グローバルなシステム上重要な銀行)といわれる銀行は、IFRS第9号の適用による影響について、アニュアルレポートなどにおいて情報提供を行っています。また、欧州の銀行の中には、IFRS 9 transition report(以下「移行レポート」という)と称するIFRS第9号の適用に関する情報をまとめた公表物を発行しているところがあります。一方、2017年11月1日から一足早くIFRS第9号を早期適用したカナダの大手銀行も年度末開示及び四半期開示において、適用による影響を明らかにしています。

IFRS第9号の予想信用損失会計では、各銀行それぞれのリスク管理をベースとした見積もりが計上されるため、定量的、定性的に詳細な開示が行われることによって、比較可能性が担保されることが期待されています。本稿では、銀行の開示内容から、欧州の銀行及びカナダの銀行においてIFRS第9号の予想信用損失会計の影響と適用上の主要課題にどのように対応しているかについてまとめました。本稿に記載の内容は、2018年5月18日時点で公表されている欧州13行、カナダ6行の財務資料、報告書等の記載や数値に基づいております。

II. 財務数値への影響

これまで適用されてきたIAS第39号「金融商品:認識及び測定」は、発生損失モデルによって信用損失を計上する基準です。発生損失モデルでは、信用事象が起きて初めて損失を計上します。したがって、将来予想を加味して前倒しで信用損失を計上するIFRS第9号の予想信用損失モデルの適用により、一般的には引当金の金額が大きくなることが想定されます。

1. 移行日における引当金額の変化

分析対象とした銀行に関して、IAS第39号による引当金の金額から、移行日時点のIFRS第9号による引当金額への増減率をみると、図表1のようになります。

図表1 IFRS第9号移行日前後での引当金の増減率

図表1 IFRS第9号移行日前後での引当金の増減率

増減率

(注)青は欧州の銀行、緑はカナダの銀行。Q、R、Sは金額の明示がないため、増減率を算定していません。

カナダの銀行の2行が減少しているものの、その他の銀行ではIAS第39号に比較して、引当額は増加しています。

増加している銀行の増加率にはばらつきがあり、個別にその要因は異なるものと思われますが、移行レポートにおける各行の分析では、以下のような記載が見られます。

  • 複数の将来経済シナリオを使って計算したことによって、ベースシナリオからの追加の引当金額が計上されたことが増加要因である
  • ステージ2の商品に対して、全期間の予想信用損失を計上したことが主な要因である。特にクレジットカード債権に対する引当金の算定が影響している
  • IAS第39号の発生損失モデルでは損失発現期間が12ヵ月よりも短かったが、予想信用損失モデルにおいてステージ1の商品に12ヵ月の予想信用損失を計上したことにより増加している

IAS第39号をどのように適用していたかによりIFRS第9号の適用による影響は異なります。また、IFRS第9号は金融資産の分類にも変更をもたらすため、一部の資産について、純損益を通じて公正価値測定を行う、いわゆるFVTPL区分への分類変更により引当金が減少している場合もあると考えられます。

2.移行日における規制資本への影響

IFRS第9号の適用によって、引当金の金額が変動するほか、金融資産の分類変更も起こります。IFRS第9号適用による普通株式等Tier1(CET1)比率への影響の開示をまとめたものが図表2です。

図表2 IFRS第9号適用による普通株式等 Tier1(CET1)比率への影響

図表2 IFRS第9号適用による普通株式等 Tier1(CET1)比率への影響

CET1比率の変動(bps)

(注)単位はベーシスポイント。B、C、N、Pは、「重要な影響なし」と開示しています。I、Mは開示がありません。

なお、欧州連合は、2018年1月1日から5年間にわたり、IFRS第9号適用による資本への影響を緩和するための措置を導入しており、その措置を利用する予定の銀行もありますが、下記の影響は、Fully-loadedと呼ばれる、当該移行措置を考慮しないCET1比率に基づいています。

III. 著しい信用リスクの増大

IFRS第9号の予想信用損失モデルの最大の特徴は、すべての信用エクスポージャーについて、当初認識時においては12ヵ月の予想信用損失を計上し、その後は、当初認識時の信用状態と報告日の信用状態を比較して、著しい信用リスクの増大がある場合に、全期間の予想信用損失を計上する、というものです。銀行は、「著しい信用リスクの増大」の程度を自身で定義づけを行い、運用していく必要があります。このため、どのような判断指標を用いているかも開示対象であり、各行の開示から以下の情報が明らかとなっています。

1. 定量的指標

著しい信用リスクの増大は、債務不履行となる確率(Probability of default、以下「PD」という)の比較によって判定します。分析対象とした銀行ではPDの相対的な比較を主要な指標としていますが、具体的な閾値を開示している銀行は多くありません。閾値を示している事例においては、以下のような記載があります。

  • 全期間PD(lifetime PD)が250%超相対的に変化した場合、または150bps絶対的に増加した場合のいずれかをステージ移動の指標としている
  • ホールセールは、一定の格付までは格付ごとに全期間PDの特定の変化幅を閾値とする。また一定の格付以下においてはPDが2倍となった場合を指標としている。リテールは12ヵ月PDを比較している

2. 定性的指標

分析対象の銀行のほとんどが、定量的指標に加え、定性的指標を用いて、著しい信用リスクの増大の捕捉を補完しています。採用している定性的指標には以下が含まれています。

  • 条件緩和
  • ウオッチリストの対象となること
  • より詳細なモニタリングの対象となること

ほとんどすべての銀行が30日超の延滞の場合にステージ2に移動するというバックストップを用いています。

3. 低い信用リスクの規定

報告日時点で信用リスクが低いと判断される場合に著しい信用リスクの増大はない、とする推定規定がありますが、いわゆる銀行業のメイン・ポートフォリオである貸出債権のエクスポージャーにこの規定を用いている銀行はありません。ただし、保険事業の債券ポートフォリオに使用すると明記した銀行が1行、負債性証券に適用する予定と明記した銀行が複数ありました。

IV. 将来予想の織り込み

IFRS第9号の予想信用損失モデルの特徴のもう一つは、将来予想を織り込んで予想信用損失を測定する、というものです。債務不履行と関連性の高いマクロ経済指標を分析によって選定し、複数の経済シナリオ毎に当該マクロ経済指標の数値を決定し、それぞれのマクロ経済指標に関して予想されるパラメーター(PD、LGD、EAD等)に基づき算定される予想信用損失を、将来経済シナリオのそれぞれの発生可能性により加重平均して計算します。通常、将来の経済シナリオと信用損失の間には非線形の関係が存在するため、それを反映させるために複数のシナリオが用いられています。また、将来予想情報は、ステージ移動にも反映させる必要がありますが、測定において複数シナリオを用いてパラメーターを算定している銀行は、ステージ移動にもその将来経済シナリオに基づくPDの相対的な変動を使って将来予想を織り込んでいます。

なお、ある事象について不確実性の程度がかなり高いために、シナリオに織り込めないような場合には、オーバーレイ・アプローチにより追加的に不確実性の影響を予想信用損失に反映させている、と開示している銀行もあります。

1. 利用したマクロ経済指標

保有するポートフォリオの特徴によっても異なりますが、開示されているマクロ経済指標を図表3でまとめました。

図表3 利用したマクロ経済指標

(注)リテール、ホールセール別に開示している銀行についても合算しています

利用したマクロ経済指標に関する具体的な開示を行っている銀行は15行あり、リテール、ホールセール別の開示がある銀行については、住宅ローンなどリテールポートフォリオには、GDP、失業率、金利、住宅価格インデクスが用いられています。ホールセールポートフォリオについては、その特徴によって、さらに、商品価格(例えば、原油価格)や、株価指数、インフレ率などを用いています。

2. 将来経済シナリオの数

単純に複数のシナリオを使用する、と記載した銀行もありますが、3つ(あるいは最低3つ)のシナリオを用いるとした銀行が最も多く10行、続いて、5つのシナリオが3行、4つのシナリオが1行となっています。3つのシナリオを使用しているある銀行は、ポートフォリオの地域性を加味し、地域別に3つずつのシナリオを作成しています。また、モンテカルロシミュレーション法により50のシナリオを用いるとした銀行もあります。

なお、分析対象の銀行において、採用している将来経済シナリオの発生確率を開示している例はほとんどありませんが、ベースケース、アップサイドケース、ダウンサイドケースの3つのシナリオを作成し、ベースケースに80%の確率を加重し、残りの2つを10%ずつ、としている例が見られます。

V. 信用リスク開示から読み取れる内容

IFRS第7号「金融商品:開示」の改訂された規定では、新しい開示が要求されています。

1.信用リスク・エクスポージャーの開示

信用リスク格付毎にステージ毎の金額を提供することが求められています。この開示からは以下が読み取れると考えられます。

  • 低格付先にステージ1の金額が多い場合は、当初から低格付先に貸出を行っていることが判明する
  • 格付毎にステージ区分の金額の割合が算出できるため、これを四半期ごとに時系列で追うことにより、信用リスクの悪化の全体的な状況が明らかとなる

2. 信用損失引当金の調整表

信用損失引当金の調整表では、ステージ毎、商品区分ごとに区分し、再測定による引当金の増減と、ステージ移動による増減が開示されます。この開示からは以下が読み取れると考えられます。

  • ステージ1からステージ3への移動が多くある場合、著しい信用リスクの増大の指標が適切ではなく、ステージ2を捕捉できていない恐れがある
  • 再測定の金額が大きい場合、同一ステージ内の債権全体に信用状況の悪化があり、PDが上昇している可能性がある
  • 引当額が増加している場合でも、新規実行分の増加に基づく部分が大層を占める場合には、信用リスク・エクスポージャーが増大しているわけではない

VI. 終わりに

IFRS第9号の予想信用損失会計の導入による、ビジネスや貸出実務への影響について明確に記載している銀行はありませんが、ステージ毎のエクスポージャーや引当金額がどのように推移していくかは、適用後の継続的な開示において今後明らかになってきます。その変化がリスク指向やリスク管理方針にも影響を及ぼすことになるのかについては注目していきたい点です。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融事業部
テクニカル・ディレクター 中川 祐美
ディレクター 曽我部 淳

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