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“少し先を見た”グループガバナンスの再考 不確実性と個の時代への対応

“少し先を見た”グループガバナンスの再考 不確実性と個の時代への対応

本稿では、不確実性と個人の時代を乗り切るための組織とガバナンスに求められる新しい要件や検討要素、現実的なアプローチについて解説します。

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技術の進化、競争ルールの変化などにより、企業経営を巡る不確実性はこれまでになく高まっています。企業の経営戦略の前提となることが想定外の環境変化に脅かされるようになり、環境認識や将来予想の必要性が疑われるようにすらなりました。

このような時代では、組織とガバナンスの在り方を有効に作り出すことが極めて大きな意味を持つようになったともいえます。本稿では、不確実性と個人の時代を乗り切るための組織とガバナンスに求められる新しい要件や検討要素、現実的なアプローチについて解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

I. 100年に一度の大変化が起きている今、一層求められる「不確実性を乗り越えるための経営」

近年、地政学と企業経営を巡る議論が盛んに行われています。地政学リスクは、企業経営の内外環境の不確実性を表す代表的なキーワードとして扱われ、時にVUCA(Vulnerability、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)といった表現も用いられています。100年に一度の社会と経営環境の大変化が起こっているともいわれるこの時代において、企業経営を巡る不確実性は、たとえば以下の点によって高められているといえます。これらはいずれも、企業の経営戦略の前提となる環境認識や将来予想に対して、著しい「想定外」の変化をもたらし、経営戦略そのものの必要性すら脅かしています。

  1. 従来の国際秩序への挑戦
    中国を筆頭とする新興国の台頭や欧米の保護主義化に見られるように、自由貿易と多国間協調を基軸とした国際関係が退潮し、新しい秩序作りが進んでいます。
  2. 技術の進化
    AIやモビリティ、仮想通貨、新エネルギーなどのテクノロジーの進化が従来産業に破壊的な変化をもたらし、新しい産業パラダイムを生み出しつつあります。
  3. 競争ルールの変化
    FCPAやGDPR1に見られるような国境を越えた法規制の展開や対応、#Me Tooに見られるような特定の社会的課題認識や社会運動が、国境を超えて急激に高まりつつあります。


グループガバナンスとは、グループを組織として機能させるための一連の手法でもあります。従来は「組織は戦略に従う」という発想が一般的でしたが、その戦略が上記の環境下にあって機能し難い時代では、むしろガバナンスの在り方が事業価値を大きく左右することも考えなくてはなりません。言い換えれば、不確実性を乗り越えるための組織の形態を有効に作り出すことそのものが極めて大きな意味を持つ時代になったともいえます。

これは、不確実性を克服し新たな事業価値を創出するには、組織とガバナンスにも新しい質的要件(組織の力)が求められるようになったということです。そして、その新しい質的要件がInnovationとResilienceの2つです。

ここでいう「Innovation(オープンとスピード)」とは、オープンイノベーションを進めるための組織内外とのコラボレーションの活性化や、ビジネスの最前線での変化に対応するためのスピードを実現する組織の力のことです。時として「現地化」という動きとなって表現されることもあります。そして、「Resilience(感受性と弾力性)」とは、組織内外の変化、特にリスクを感じ取り、組織そのものの変化を産み出す力と、想定外のリスクへの対応力、そして危機によるダメージからの復元力のことです。


1 2018年5月25日より適用されたEU一般データ保護規則のこと。General Data Protection Regulationの略。EU内に居住する人の個人データ保護を強化することと、EU内の規則を統合することでビジネス環境を簡潔にすることを目的とする。

II. 「組織」よりも「組織を構成する個人」へのアプローチが問われている

前述のようなグループガバナンスの質を実現するうえで、重要なアプローチは「個人」です。組織や法人といった単位ではなく、従来よりも一層、個人または個人を中心としたチームに着目したアプローチが求められるようになりました。それには次の3つの理由が考えられます。

  1. 個人の役割の変化
    AIやRPA等の発達と普及に伴い、個人(人間)に求められる組織上の機能や役割が変わっていくことが想定されます。単純な処理やチェックはもとより、一定の判断や感性、アイデアが求められる領域にまで機械化が進むでしょう。企業は、従来以上に個人に求める活動領域に対して慎重に検討し、またより高次元の組織文化や価値観に依った業務を個人に求めるようになります。
  2. 個人の生き方の変化
    既に一部の企業に拡がりつつある副業や働き方改革に見られるように、個人の会社組織に対する所属の関係が変化し、より対等なものとなります。個人から構成される会社組織はますます流動的となり、会社自身の内と外の垣根が曖昧になるでしょう。
  3. 個人を管理する技術の変化
    センシング技術やアナリティクスの発達によって、組織を構成する個人の活動の管理、特にポリシーやルールからの逸脱や不正行為の兆候等が検知しやすくなります。これに伴って、組織や上長が負っていた個人の活動に対する管理監督機能に変化がもたらされます。管理者と一定数の被管理者の塊から成るピラミッド的な組織の必要性が薄れ、フラット化が進行するでしょう。

個人の時代においては、法人という単位のグループガバナンス上の意味は相対的に薄れていきます。今後のグループガバナンスを考えるうえでは、グループという組織を構成するそれぞれの個人が何によって連帯し、どのように考え、どのように動くべきなのか、そのデザイン力が問われる時代になっています。

III. 価値観、ポリシー、プロセス……。これからのグループガバナンスは何を優先すべきか?

グループガバナンスを実現するための要素(enabler)は、次の5つから構成されます。これら要素が時代を跨いで大きく変わることは少ないと考えられますが、前述のとおり、今後の個人の時代にあっては、その個人に影響を与えうる強さに応じて優先度を検討し、グループとしてのInnovationとResilienceを促し実現するために再配置/再構成を図る必要があります。

  1. 価値観
    個人やチームの行動や判断に直接影響を与える価値観や思考のことで、Core ValueやCode of Conductとも称されています。組織の流動性の高い時代にあって、その重みはますます増しています。
  2. ポリシー
    個々の業務において、組織の価値観を実現するための基本原則やルールの総称です。経理や人事、調達といった各業務で備えるものが多いですが、その適用範囲や粒度はまさに企業のグループガバナンスの考え方に依拠します。
  3. プロセスとIT
    ポリシーを実現するための業務の流れや役割、責任と権限、それらを支える情報システムのことです。
  4. モニタリング・報告・評価
    上記が機能し、個人とそれが属する法人が望ましい活動を行っているかを判断するための仕組みです。一般的に、内部監査活動や業績モニタリングなどが想定されています。
  5. 法人と資本
    上記を実現するために適した会社法および資本の観点からの組織機構の設計のことです。一般的に、資本形態や取締役構成とその運用などが含まれます。


グループガバナンスの再構築にあたっては、まずはこれらの5要素について、その在り方や考え方を整理し、グループガバナンスポリシーとして取りまとめ、全体の作業指針とすることが想定されます。

IV. グループガバナンスを再構成するには、どのような取組みから着手するのがよいのか?

現実的なアプローチとしてグループガバナンスの再構成を目指すにあたり、比較的着手しやすい入口としては次の3つが想定されます。とはいえ、いずれも中期的な取組みとなることが必至であり、続けるための仕組みと短期的な効果創出が肝要となります。また、そのさらに先には、InnovationとResilienceを実現するグループガバナンスの姿を描く必要があることはいうまでもありません。

1. グループ会社のBOD(取締役会)の見直し

日本企業の親会社のレベルにおいて、CGC(Corporate Governance Code)を巡る議論や取組みが盛んです。一方で、子会社をはじめとするグループ会社におけるそれについては、本来果たすべき役割を果たしきれていないといわれています。グループ会社の取締役会が形式的な書面決議に終始しており、また親会社から派遣されている取締役自身も兼務するグループ会社の数が多く、当該決議において検討のための十分な時間とエネルギーを割いていない、という状況は決して珍しいことではありません。

無論、グループ会社の位置づけと形態によっては、取締役会の実質的に持ちうる意味が薄くなることは十分考えられます。一方、より自立した運営のうえで、より確実かつ最小限な本社の関与を目指すとすれば、取締役会を一層充実したものにして、かつ執行サイドとの線引きを明確にすることが望ましいといえるでしょう。

具体的な取組み事項としては、たとえば以下の標準やガイドラインの策定が想定されます。

  • グループ会社へ派遣する取締役の選任基準
  • グループ会社へ派遣する取締役の(取締役会における)行動指針/審議にあたってのチェックポイント
  • グループ会社の取締役会の開催ガイドライン
  • グループ会社における標準的な取締役付議事項


グループ会社が置かれる現地の会社法の定めによっては、必ずしも取締役会の設置が求められなかったり、また取締役会の選任基準が厳格であったりもしますが、現地実情に応じて同等の機能を整備することも有効となります。いずれにしても、現地化(現地に根差した迅速・適切な意思決定)と、本社から見た経営の透明化をバランスよく実現する施策となります。

2. コーポレート部門の役割再定義

海外事業の拡大や経営の現地化に伴い、親会社やグループ会社の「コーポレート機能」の在り方が問われています。伝統的に、コーポレート部門はグループを構成する各法人に紐づくものであり、各法人の経営判断に沿って整備・運用がなされてきました。単一事業の色合いが強いグループにおいてさえも、コーポレート部門の強化や改善に向けた投資は、各法人単体の業績や予算に強く影響されています。

しかし、今日のグループガバナンスの観点からは、少なくともグループ全体に影響を及ぼす管理事項については、グループとしての強い意志の下でのコーポレート機能強化が求められます。さらに、進出や再編、撤退などの経営環境の変化への対応スピードを上げるには、法人単位によるコーポレート機能の整備や運用に時間をかけることは許されません。

そこで、グループとして改めてコーポレート機能にかかるグループ全体での位置づけ、そして責任と役割を再整理することが重要となります。たとえば、具体的には以下のような施策が想定されます。

  • グループのプロセスオーナー(CxO)機能の明確化
  • 地域統括会社や中核事業会社等のいわば「中二階」の法人役割整理
  • 各機能が担う管理テーマ/リスクテーマの明確化と、その内外動向の観測
  • 上記について、関係会社管理規定や職務分掌、グループ内の決裁権限への反映
  • 各コーポレート機能の標準化と、オフショア提供やクラウドを介してのサポート
  • 上記を背景とした経営者による重要な意思決定時の判断材料の提供

3. 内部監査の戦略的活用

内部監査は本来、3rd Line Defense(3線)といわれるように、業務執行そのものから独立して、経営者のモニタリングをサポートするための機能です。そのため、グループガバナンスの強化にあたっては、本来であれば内部監査の強化は、1線(現場部門)と2線(コーポレート)の整備に対して劣後すると見る向きも強くなります。そのため、前項で紹介したように、グループとしてのコーポレート機能を強化して、各機能におけるポリシーやシステムを整備することに経営資源を割くことが定石となります。

しかし、コーポレート機能の見直しは、その対象となるテーマの広さやグループ内の関係者の多さから、さまざまな実務上の障害が想定されます。そのため、あえて2線強化の優先度を落とし、内部監査すなわち3線から着手するアプローチを採る企業もあります。それは、グループ子会社への内部監査を通じて、ガバナンス上の懸案や具体的課題を個々に経営トップにまで直接吸い上げ、トップダウン的に改善を進めていくというやり方です。

このアプローチは着手しやすい反面、改善活動がモグラ叩き的になり、対策の一貫性を失う可能性や、枝葉末節に陥らない価値ある検出事項を得るには高い内部監査スキルとグループ会社業務知見を持つ内部監査人を相当数抱えなければならない、という留意点があります。グループガバナンス再構築の端緒を担う以上、最終的に目指す1,2線全体の姿を見すえつつ、その実現に向けた「経営としての本気」は示し続ける必要があるということです。

V. おわりに

ここまで説明してきたように、グループガバナンスの再検討は、不確実性と個人の時代を乗り切る組織を作り出すための重要対応事項の1つです。しかしながら、その性質上、実現への道筋は決して平坦ではありません。これは、経営者の強い想いとリーダーシップがあっても、です。そこで、“少し先を見た”うえで、今回紹介したような比較的着手しやすく、かつ効果的な施策から取組みつつ、持続性のある改革を進めることが望ましいといえるでしょう。

執筆者

KPMG コンサルティング株式会社
Risk Consulting
パートナー 足立 桂輔

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