M&Aにおける無形資産と移転価格税制

M&Aにおける無形資産と移転価格税制

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はじめに

これまで数多くの日系企業による海外企業又は事業の買収(以下、"M&A")が行われてきました。海外事業展開を迅速に進めるにあたり、海外企業または事業を買収することは、多くの場合有効な事業展開の手段の一つである一方で、海外企業またはその事業の一部との経営統合の難しさに直面してきました。企業文化や事業の方針の違いなどから、管理面においても様々な困難に直面してきました。特に、会計や税務面の整理は、M&A後の体制如何に関わらず、オペレーションを行う上で避けては通れません。中でも日本を含む世界の多くの国々で導入されている移転価格税制においては、買収後のオペレーション上において、関連者間の取引価格を適切に管理することが求められるため、取引フローや費用の負担関係、各国に所在する子会社の機能やリスクの負担関係を整理する必要があります。本稿では、特に税務上問題となりやすいM&Aにおける無形資産の管理につきまして、国際税務の最重要項目の一つである移転価格税制の観点から説明します。

税務上の無形資産とは

税務上の無形資産の定義は、会計帳簿上に記載される無形資産とは必ずしも同一ではなく、その具体的な範囲や価値評価を含む無形資産の定義については不明確な点が多いのが実態です。移転価格税制上、無形資産は、企業活動における利益の源泉の主要因と考えられており、国際的な課税所得のグループ会社内における分配を決定する重要な要素となっています。

OECDやG20を中心に議論が進められてきた税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下"BEPS")プロジェクトにおいても、無形資産をどのように捉え、定義すべきかという難題が、重要な議論のひとつになっています。OECDのBEPS行動計画に関する最終報告書(以下、"BEPSに関する最終報告書")においては、無形資産は「有形資産又は金融資産でないもので、商業活動における使用目的で所有又は管理することができ、比較可能な独立企業間の取引において、その使用又は移転に際して対価が支払われるような資産」という幅広い定義がなされました。OECDにおけるBEPSの議論には利益が相反する可能性のある様々な国が関与しており、また実際には産業や個々の事業環境等ごとにユニークな無形資産が形成されるため、無形資産を厳密に定義するのは困難と言えます。各国の無形資産に関する移転価格税制上の規定やその解釈においても、必ずしも個々の具体的な事案に落とし込めるレベルでの統一的な見解が明確に示されているとはいえないため、無形資産の捉え方については国際的に軋轢を生じさせる課題となっています。

無形資産の課題

無形資産から生じる課税所得の分配についての移転価格税制におけるもっとも一般的な考え方1は、相対的に付加価値の低い活動に対して相応する低い課税所得を配分し、残った課税所得を重要な無形資産を有する拠点間で分け合う(または独占)するというものです。したがって重要な無形資産の所在地が低税率国であれば(又は無形資産の所在地を意図的に低税率国に移すことによって)、当該低税率国に多大な課税所得を分配することで、グローバルにグループ会社全体での実効税率を低下させることが可能となります。OECDにおけるBEPSの議論の中で、注目すべきポイントの一つとして、法的権利の所有や資金提供のみでは、その無形資産から生じる課税所得の分配を十分に期待することができない、という点を明確にしていることが挙げられます。日系企業と米国企業では、親会社所在地の税制や税務当局の考え方、企業文化の違いなどもあり、概して日系企業が一部の米国企業のように積極的な税務戦略に基づき税負担を極端に軽減していたわけではありませんが、BEPSの議論は日米企業を問わず、無形資産に関する税務戦略に影響を与えることが予想されます。

無形資産の定義や考え方に加えて、BEPS行動計画では情報開示についても議論しています。特に今後各国において導入される新移転価格文書化規定においては、企業の移転価格分析に関連する幅広い情報の開示が求められており、日系企業においてもグループ会社全体のオペレーション、バリューチェーンの把握、無形資産の所在、経済的実態に関する詳細な分析、文書化が必要となりました。移転価格の妥当性を税務当局に説明するにあたり、想定される大きな問題として、国家間の利益相反があります。自国にある利益の源泉(例えば、技術やノウハウ、天然資源、ブランド、販売市場など)を税収に結び付けたいと考える国家(税務当局)の立場からすれば、その国の状況に応じて、自国にある利益の源泉をより重視した見解が導かれる可能性があります。そのため、自社の移転価格の妥当性を税務当局に説明する際には、当該税務当局以外の各国税務当局の視点も考慮しておくことが重要になります。更に、BEPSの議論において無形資産のあり方やその情報開示についての議論がなされたことにより、特に租税回避を意図しない取引についても、企業はグループ会社全体のオペレーションや重要な無形資産を有する拠点の経済実態についての説明責任を負うことになることには注意が必要となります。企業は、BEPSに関する最終報告書の新移転価格文書化規定(例、マスターファイルや国別報告書)に基づき開示した上で、重要な無形資産の所在地を含む移転価格のグローバルな実態像と自社の移転価格の妥当性を各国税務当局に対して説明していくことになります。 特に、相対的に低税率国との間で無形資産取引を行っている場合や、近い将来そのような取引を計画している場合、さらには、M&Aによって意図せずとも無形資産が各国に分散してしまった場合等に、今後どのような対応が求められるか、という点には注意しておく必要があります。

BEPSにおいて、無形資産の定義や経済的実態の説明にあいまいな部分が残っているにもかかわらず、新移転価格文書化規定は、無形資産に関する種々の説明責任を企業側に要求することになり、各国の税務当局もこれらの情報にアクセスできるようになるため、今後の対応については慎重に期すべきものと考えられます。

無形資産取引に伴う経済実態

無形資産取引に関する経済実態の有無に関する議論は、租税回避と密接に関連するテーマであることから、BEPSやOECDの議論のみならず、税務訴訟の場においても議論されてきた重要な論点といえます。BEPSに関する最終報告書を受けて、グループ会社全体の経済実態と不適切な納税実態については、世界的に意識が高まってきており、今後、日系企業に対しても無形資産の所在地及びその経済的実態と、課税所得の分配の相関関係については、各国税務当局によって厳しく調査されるようになる可能性があります。

重要な無形資産を保有する関連者としての経済実態を考える上で、無形資産の開発、改良、維持、及び保護に関する機能の所在地が重要となります。BEPSの議論においても、これらの活動に従事し、かつ無形資産の形成に対する費用を負担している関連者を、無形資産の経済的所有者であるとしています。ただ一方で、先に述べたとおり、BEPSに関する最終報告書においても、いまだに無形資産に関する明確な定義や基準が設定されておらず、また、各国税務当局はBEPSの議論を最終的には独自に自国の移転価格税制に反映させますので、最終的な解釈や移転価格税制上の運用は、各国ごとに異なることとなります。従って、移転価格税制上の無形資産の問題を説明していく場合、税務当局が要求する内容は、個々の企業、ビジネスのみならず、対する税務当局ごとに異なると想定されます。例えば、IT関係のビジネスであれば、無形資産の経済実態及びその所在地の判定においては、各国税務当局ごとに、開発計画の意思決定者や開発の指揮を担うエンジニアの所在地、ローカルの技術者の所在地、外部委託技術者の管理機能の所在地、プロジェクトの管理機能の所在地など、多岐に渡る要素のうち、それぞれの税務当局が異なる要素を重要な判定要素として挙げて来る可能性があります。

また、無形資産の議論は必ずしもテクノロジーに限定するものではなく、例えばブランドに関する戦略立案や管理、認知度向上のためのマスマーケティング、他社との重要な提携交渉、主要顧客と契約なども含まれます。これらの無形資産を含め、企業が重要な価値を生む活動に従事している場合には、適正な分析を行い、経済的実態を含む事実関係を的確に説明できるようにしておくことが肝要と考えられます。

一方、M&Aの際には、後述する費用分担契約(以下、"コストシェアリング")という手法を用いて関連者間で無形資産を共有することで、無形資産の経済的実態や価値評価などの問題をクリアしやすくなる可能性があります。しかしながらコストシェアリングを採用した場合の実際の事業運営体制などに一定の制約が生じる場合もありますので、被買収企業の管理体制なども含め、買収時の無形資産戦略については、よく検討しておく必要があります。

海外M&Aに伴う無形資産の所在

海外M&Aに伴う無形資産の所在については、買収形態を買収対象企業の株式を購入し会社ごと譲り受けるケース(株式譲渡)と、事業資産を切り出して譲り受けるケース(事業譲渡)に分けた場合において、それぞれ取り扱いが異なりますので留意が必要です。

  • 株式譲渡

株式譲渡の場合、被買収会社の株式を他の株主から譲り受けることになります。例えば日系企業が米国企業を買収した場合、米国法人はそのまま存続しつつ、株主が日系企業になります。米国法人は無形資産を含む全ての事業資産を所有し続けるわけですから、被買収企業の有していた無形資産は基本的に米国にそのまま所在します。

  • 事業譲渡

事業譲渡の場合、現地の子会社が現地の被買収会社の事業を譲り受けるケースと日本の親会社が直接に被買収会社の事業を譲り受けるケースがあります。米国に新規に子会社を設立、または米国の既存子会社を通じて被買収会社の事業譲渡を行う場合、無形資産は米国内で譲渡されるので、税務上も無形資産は米国に残ることになります。一方、例えば、日本の親会社が直接事業を譲り受ける場合、無形資産を除く米国事業に必要な事業資産のみを現物出資することで、日本の親会社に無形資産を帰属させることができます。

日系企業が海外M&Aを実施した後にどのような移転価格方針で事業を運営していくかを検討するにあたり、無形資産の所在地は重要な論点となります。一般的に、十分なグループ会社全体で課税所得が出ている場合、無形資産の所在地1に相応の課税所得を帰属させることが求められるため、M&Aを通じて取得した無形資産を日本へ帰属させるか、そのまま現地に残すか、またはM&Aを機に第三国へ移転させるか、といった選択は、その後の取引形態や課税所得の分配を決定する要因となります。また、無形資産のグループ会社内移転については、BEPSの議論に代表される租税回避に関する重要なテーマのひとつであり、無形資産の適正な価値評価や、経済的実態との整合性がおもな論点となっています。無形資産の価値評価方法については、BEPSプロジェクトでも議論がなされていますが、どのような評価方法を採用した場合においても、不確実性を伴う無形資産の価値をどのように決定するかについて、明確な解決策を求めることは容易ではありません。しかしながら、M&Aを行った場合、譲渡価格を各購入資産項目に配分するパーチェス・プライス・アロケーション(以下、"PPA")を通じて、第三者との取引価格(市場価格)をベースに無形資産の価値が一定程度特定できるため、厳密には移転価格税制における評価方法とは異なりますが、評価金額の妥当性を説明する際の基準となり得ると考えられます。会計と税務の視点の違い、並びに無形資産移転と評価のタイミングのずれなどの個別事情により確認・調整すべき項目はありますが、無形資産の会計上の評価において依拠した情報を参考にできる可能性が高く、また事業再編の必要性を説明しやすいことから、M&Aを機にグループ会社内における無形資産の所在地を、事業戦略並びに税務戦略の一環として、再構築することを検討する会社も少なくありません。

無形資産管理

日系企業が海外の企業を買収した際の無形資産の管理方法には幾つかありますが、最もシンプルな無形資産の管理は、日本の親会社が被買収会社の無形資産を引き受けることで、無形資産を日本に一極集中させる形態(「集中型」)があります。このような場合には、その後の無形資産が分散されることを防ぐために、買収後は海外の研究開発拠点に対して、親会社からの研究開発の委託という取引形態を採用するのが一般的です。この場合、フローや取引形態が比較的シンプルになり、移転価格の管理がし易いというメリットがありますので、日系企業の無形資産管理方法としては典型的といえます。ただし、M&A時に無形資産を日本の親会社に移転するという難しい問題に対応する必要があることと合せて、海外開発拠点の適切な管理体制の構築が必要となること、親会社に投資負担や研究開発リスクが集中することにより、税務面においては継続的な欠損金の発生などの問題が起こることがあります。例えば研究開発リスクが高く、大きな投資負担が継続する場合、関連者間の課税所得の分配が一方に大きく偏ることで、結果としてグループ会社全体での過剰な税負担等の問題が生じるケースもあります。

一方、海外拠点に事業権限を移譲する、研究開発を含む事業上のリスクを負担させる、業績評価の透明性を図るなど、ビジネス上の理由からあえて無形資産を集中させないケース(「分散型①」)もあります。ただし、事業環境の変化により、分散した無形資産が相互に影響し始めたり、複数拠点が参加する共同研究開発などが行われてくると、個々の無形資産の価値評価、経済的実態、所在地が複雑となり、移転価格リスクが生じる可能性が高くなります。特に、技術やブランド等の重要な無形資産を獲得し、既存の事業の間とのシナジー効果を求めてM&Aを行ったにも関わらず、被買収会社の無形資産をそのままにしておいた場合、このような問題が生じやすいため、特に注意が必要です。

また、コストシェアリングを通じて、無形資産創出にかかる費用を関連者間で分担し、無形資産の所有を複数拠点間で共有するケースもあります(「分散型②」)。 無形資産を共有することで、投資にかかるリスクとコストを分散するのがおもな目的ですが、研究開発における事業戦略とも合致することが多く、今後、日系企業によるコストシェアリングの活用は増えていくことが予測されます。ただし、コストシェアリング自体は比較的複雑な仕組みであるなか、特に低税率国とのコストシェアリングについては、日本を中心に税務当局の目にも留まりやすい可能性があり、事前に十分な検討をしておくことが望ましいといえます。

上記に挙げた主要な方法以外にも、複数の方法を合せた方法や、様々なライセンシング契約を用いる方法を含むと、無形資産の管理方法は一様ではありませんが、企業の事業目的や課題に応じて最適な管理方法が異なることから、自社の無形資産管理方法については、綿密に検討することが推奨されます。特に、M&Aに伴う事業再編時においては、事案ごとの個別事情に基づき、M&Aの目的や買収後の事業運営体制を考慮して長期的な視点で最適な無形資産管理方法を検討すべきでしょう。

例えば、同事業領域に属する小規模なベンチャー企業を買収する場合においては、グループ内の相対的な無形資産の価値を考慮し、無形資産を親会社に集中させるケースが多くあります。この方法は、税務上の管理が簡易なだけでなく、被買収子会社を親会社が集中管理する事で、無形資産に関する事業戦略を親会社が一元的に策定するというビジネス上の意図とも合致しますが、一方で、買収後は被買収子会社に対して、親会社から研究開発の委託という取引形態を取ることで、被買収子会社に一定の利益率を保障するという最も一般的な移転価格管理手法を用いると、被買収子会社の業績評価は難しくなり、人事評価の透明性が損なわれるケースもあります。比較的大きな無形資産を有する企業を買収し、引き続き当該被買収企業に独自の研究開発を継続させる場合には、無理に無形資産を親会社一極に集中させるよりも、無形資産を分散させておく事で無形資産の管理がうまくいくこともあります。M&Aに伴う無形資産の管理は、なぜその買収を行ったか、将来どのように事業展開を行うかといった事業戦略と密接に結びついてくるため、税務戦略を意識しすぎて事業に支障をきたすことが無いように注意をする必要はあります。M&Aにおいては、個々の事案の事情をよく勘案した上で、事業戦略に沿った、無形資産の管理を適切に行うことが肝要です。

コストシェアリング

グローバルなビジネスを行う企業においては、税務戦略のみならず、研究開発費の資金管理、研究開発リスクの分散、よりマーケットに近いところでの研究開発の必要性、研究開発における優秀な人材の確保等の様々な理由により、無形資産創出にかかる活動や研究開発費負担についてコストシェアリングを用いるケースが多くあります。

日本や米国などの主要国で適格と認められるコストシェアリングを通じて無形資産をグローバルに管理する場合、無形資産形成に関するコストは、コストシェアリングに参加する他国に所在する関連者の間で、それぞれの将来の予測便益に応じて負担することになり、結果として形成された無形資産の経済的所有権を分け合うことになります(特許などの法的所有権が必ずしも共有されるわけではありません)。移転価格税制上、無形資産の持分に応じて、相応の事業収益を無形資産所在国にそれぞれ分配することができるため、コストシェアリングが比較的適用しやすい税制が整っている米系企業は積極的にコストシェアリングを活用しています。米国ではコストシェアリングに関する規定が§1.482-7に詳細に記述されており、細かなルールが定められている一方で、日本では、移転価格事務運営要領に「費用分担契約」として一定の記載がありますが、そのルールや運用要件の程度については、たとえばコストシェアリング開始時及び終了時における無形資産の清算(一般的にバイイン、バイアウトと呼ばれます)に関する明確な指針が示されていないなど、相当程度の曖昧さが残るルールとなっています。注意すべき点としては、日本の税務当局の視点が必ずしも米国税務当局と同様ではなく、またその他の税務上規則が異なることから、米国企業と同様のアプローチで日系企業がコストシェアリングを行うことは必ずしも有効ではない可能性があります。

日系企業の対応

実際に日系企業においても既にコストシェアリングを長期に渡り活用し、税務戦略上の目的のみならずビジネス上の目的を同時に達成している企業や、あえてコストシェアリングという形態をとることはなくとも、研究開発の段階や適用対象地域を基準にして無形資産の区分を行い、親会社と海外子会社の役割を明確に整理することで、海外子会社が無形資産に投資する際の仕組みを作っている会社もあります。ただ一方で、税務上の無形資産についてなんら戦略的な対処を行わず、M&Aなどを通じて結果的に無形資産の所在地が各国に分散してしまい、移転価格管理がより困難になってしまうケースが散見されます。特に、M&Aにより分散した無形資産の経済的実態とその所在地が曖昧な状況で、買収した事業が将来大きな成功を収め潤沢な利益を生じさせた場合、又は逆に、業績が悪化し大きな損失が生じてしまった場合、それぞれの利益や損失をどのように分配するかを決定する事は難しくなり、結果、移転価格リスクを含む管理上のリスクが非常に高くなり特に注意が必要です。

日系企業の場合には租税負担の軽減を目的とした無形資産管理体制の構築という側面だけではなく、自社のビジネスの特徴を踏まえた上で、事業運営体制との親和性を考慮して、適切な無形資産管理を行うことが重要であるように思われます。 多くの日系企業の実態を踏まえれば、経済実態のないアグレッシブなタックスプランニングが実践されているケースは多くないと想定されますが、海外の企業買収などを機に被買収会社のアグレッシブなタックススキームを引き継ぐことになるケースもあります。M&Aを機に無形資産の管理方法を再検討し整理するケースもあれば、被買収企業の無形資産はそのまま切り離しておいておき、新規に創出される無形資産の管理のみに重点を置くケースなど対応は様々ですが、個別の事情に基づいて、そもそも無形資産を引き継ぐことが可能なのかどうかも含め種々の精緻な分析、検討が重要となります。

2016年度の税制改正において、日本でもBEPSの議論を受けた新移転価格文書化規定によりマスターファイルや国別報告書の作成が義務化されました。また、マスターファイルには、バリューチェーンの概要を図表等で纏めて記載することも求められています。この新移転価格文書化規定の導入は、グループ会社全体のバリューチェーンにおいて無形資産がどこでどのように創出、管理されているのか、また、その経済的実態をどのように税務当局に説明していくべきか、今一度考え直してみる良い機会になるかもしれません。また、これを機に、二国間事前確認制度(以下、"APA")を活用して無形資産に起因する税務リスクを排除することも選択肢として考えられるでしょう。BEPSの議論等において無形資産に関する議論が更に活発に行われているように、移転価格税制を取り巻く環境は変化しているなかで、日系企業による海外企業の買収が引き続き増えてきている昨今においては、M&Aに伴う無形資産が、グループ会社全体のバリューチェーンにどのような影響が及ぼすかについて、よく検討しておくことが肝要になります。

おわりに

米国企業では税務コストの削減を含む財務戦略全般がCFOの評価に直結することが多く、税務戦略を専門とする人員が社内に確保されているばかりでなく、M&Aに際しては外部リソースも積極的に利用してビジネス上の戦略に添う税務戦略を練るケースが多いようです。これに対し、日系企業では一般的に、税務はコンプライアンスの一環で、コストセンターであると考えられている傾向が未だ根強いため、なるべく少ないリソースで運営しているケースが多いようです。特に、移転価格を含む国際税務の対応並びに税務戦略の立案に割けるリソースが限定的であることが多いようです。M&Aを実施する際に税務戦略を長期的な視点で事前に検討していると、M&A後には迅速に会社の方向性に見合った企業形態、取引形態に移行し易くなります。無形資産管理を含む税務戦略は、取引フローやグループ間の契約管理、取引価格はもちろんのこと、親会社の管理支配力や従業員のモチベーションに至るまで幅広く影響が及ぶ可能性があります。またM&A後の管理体制を早期確立することにより、事業運営がビジネスに溶け込み易くなる点は、見逃せません。多額の投資を伴うM&Aを成功させる要因の一つとなりうる無形資産に関する税務戦略について、今一度検討する機会をもってみてはいかがでしょうか。
 

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1. BEPSプロジェクトでは、無形資産の開発、改良、維持、及び保護に関する機能の所在が無形資産の経済的所有者を特定する上で重要となります。

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