「移転価格調査ロードマップ」の概要について

「移転価格調査ロードマップ」の概要について

2014年2月14日、内国歳入庁(IRS)の移転価格税制執行室は、「移転価格調査ロードマップ」(以下、「ロードマップ」)を公表しました。これは、IRSの税務調査チームに対し、追求すべき移転価格税制上の問題点を早期に選定し、当局にとってより有利な更正を実施するための手法とガイダンスを与えるものですが、納税者としては、その内要を理解することにより、今後の移転価格調査がどの様に実施されるかを知ることができます。本稿では、ロードマップの概観と移転価格調査の各フェーズで実施される手続について解説し、今後の移転価格調査への対応策について検討します。

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基本コンセプト

ロードマップでは、次の4つの基本コンセプトが示されています。

  • 初期段階におけるプラニングが肝要である。
  • 移転価格調査の結果は事実関係次第。
  • 移転価格調査の目的は、各事案固有の事実関係を総合的に勘案した結果の合理性を判断することにある。
  • 効果的なプレゼンが事案の行方を左右する。

同時に、IRSは、ロードマップを適用することで、移転価格調査の透明性を高める事も狙っています。また、今後、調査官は、IRS内部の専門知識や経験を有する他の専門家との連携を強化することが求められています。

3つのフェーズ

ロードマップでは、すべての移転価格調査事案について適用を義務づけてはいないものの、原則として、次の3つのフェーズから成る24ヶ月の期間を目安に調査を実施することを推奨しています。

① プラニング(1ヶ月目から6ヶ月目)

② 調査実施(3ヶ月目から17ヶ月目)

③ 終結協議(18ヶ月目から24ヶ月目)

第1フェーズ:プラニング

  • 事前分析(1~2ヶ月目)
  • 納税者との第1回ミーティングとオリエンテーション(1~6ヶ月目)
  • 初期リスク分析、調査プラン及び調査マイルストーンの設定(3~6ヶ月目)

プラニングのフェーズにおいて、調査官は、一定の仮説を立てながら初期リスク評価を行い、その結果を納税者と共有することが推奨されています。ロードマップでは、長期化する傾向がある移転価格調査に着手する前に、追及すべき事案であるか否かを見極める必要があるとして、初期リスク評価の重要性が強調されています。

実際の移転価格調査においては、事実関係の確認が最も重要となることから、ロードマップでは、財務省規則の法的な解釈よりも、国外関連者取引に係る事実関係や経済的実態の把握に注力することが推奨されています。具体的には、納税者のバリュー・チェーン、市場における競合状態、財務状況等を総合的に勘案した結果、「もし納税者の申告内容が常識や経済実体と乖離しているような場合、すなわち「都合が良すぎる」内容となっている場合には、更なる調査の対象候補として相応しいものと考えられる」と記されています。逆に、経済的実態に妥当性が認められる場合には、IRSが調査を継続する価値がないと判断される可能性もあります。IRSは、更正の可能性の高い事案に注力することにより、人的資源の効率的な活用を目指しています。

また、ロードマップでは、プランニングのフェーズに限らず、すべてのフェーズにおいて、調査官が事実関係を把握したプロセスや、仮説を設定もしくは修正したプロセスを常に文書化する様に指導しています。IRSは、文書化を強化することにより、納税者が不服審判や訴訟等の手段に訴えた場合に、更正内容をサポートし易くなるものと考えています。

第2フェーズ:調査実施

  • 事実確認及び追加資料請求、機能リスク分析(3ヶ月目~17ヶ月目)
  • 中間リスク評価(7ヶ月目から17ヶ月目、ただし12ヶ月目までに完了する事を目標とする)
  • 問題点の整理と暫定レポートの作成(16ヶ月目~18ヶ月目)

調査実施フェーズにおいて、IRSの調査官は、引き続き事実関係の確認を行い、国外関連者取引の比較可能性の検証や機能リスク分析を進めます。同時に財務データの精査を実施し、経済的実態の観点から特に着目すべき重要な機能を特定します。1 その後、調査実施フェーズで収集した事実関係や種々の分析結果に基づき、調査官は更に重点的に分析すべき国外関連者取引の絞り込みを行います。この時点で調査官は、暫定調査結果レポートを作成し、納税者のフィードバックを求めます。暫定調査結果レポートには、調査官が把握した事実関係及び種々の分析結果とともに、納税者が選択した移転価格算定方法、検証対象、比較対象会社等についての調査官の反証等が含まれます。

第3フェーズ:終結協議

  • 更正額の事前通知(18ヶ月目~19ヶ月目)
  • 移転価格調査終結に向けての交渉(19ヶ月目~22ヶ月目)
  • 更正額の確定及び調査の終結(20ヶ月目~24ヶ月目)

協議終結フェーズにおいて、調査官は移転価格調査の分析を完了し、更正額を納税者に通知します。ただし、調査官は、更正額を納税者に最終的に通知する前に納税者とミーティングを行い、更正を提示した場合のリスク(納税者が不服審判、相互協議、訴訟等の手段に訴える可能性)を評価する必要があります。

今後の移転価格調査への対応準備

上述の通り、IRSは、プラニング・フェーズでの早期リスク評価プロセスを強化することにより、長期化した挙句に仔細な更正にしか繋がらない様な事案の件数を減らそうとしています。もしこれが実現すれば、IRSと納税者双方のコスト節減に繋がります。更に、ロードマップの導入により、移転価格税制の執行における透明性の向上や、調査結果の一貫性の確保も期待されます。

納税者としては、今後の移転価格調査への影響を知るために、ロードマップの内容を十分に理解しておく必要があります。調査の方向性は、プラニング・フェーズの初期段階で実質的に決することが予測され、納税者が国外関連者取引の妥当性を十分に説明できる準備を事前にしていれば、調査はプラニングのフェーズで終了する可能性が高くなるものと思われます。そのためには、移転価格調査が始まる前から、納税者は以下のリスク分析を実施しておくべきであると考えられます。

  1. 事業に関する事実関係を正確に把握した上で、移転価格の同時文書、関連者間の契約書、財務データ、その他の関連文書・データ等において整合性が確保されていることを確認する。不備が事前に発見できれば、調査前に対策が可能となる。
  2. 自社に関するどのような情報がインターネットを中心とした公開情報源から入手可能かを把握しておく。プラニングのフェーズにおいて、調査官は、会社のホームページはもとより、ソーシャル・メディア、その他の関連サイト等を通じて会社の事業内容や財務状況の確認を行うため、納税者も同様のチェックをしておく必要がある。
  3. 移転価格同時文書等をはじめとする、経済的、法的、会計的な資料を整備し、移転価格調査が始まった際には遅滞なく調査官に提出できるよう準備しておく。
  4. 機能、リスク、資産の分析に基づき自社の収益構造を説明できるようにし、説得性に富む納税者側のストーリーを作成しておく。そのために、グループ会社全体のバリュー・チェーンについて理解を深め、プラニング・フェーズのリスク評価の際に、調査官に対して明快な解説が出来るようにしておく。

実際に移転価格調査が始まった場合には、納税者側がロードマップの内容を引き合いに出し、対抗手段として利用することも考えられます。例えば、ロードマップは、移転価格調査の透明性の確保を謳っており、調査チームが事実関係に関する調書やリスク評価結果等、特定の文書を納税者に提供してフィードバックを得ることを推奨しています。納税者としては、これらの文書の提供を当然求めるべきでしょう。また、ロードマップは、移転価格調査のなるべく初期の段階で、IRS内部の移転価格の専門家をチームに加え、調査の円滑化を図ることを推奨しています。これも納税者有利に働くことが考えられ、例えば、相互協議の申し立てが不可避となる更正の提示が予想される場合には、事前確認および相互協議(APMA)プログラムの関与を要求することが考えられます。更に、ロードマップは、IRS内部の法律専門家である主席法務官室をなるべく早期かつ頻繁に調査に加えることを推奨しており、調査の争点や手続が当初想定されていたよりも複雑化してきた場合等は、納税者側から主席法務官室の関与を要求することもできます。

以上の通り、IRSは、ロードマップの導入により、効率的かつ一貫性のある移転価格調査の実施を目指しています。また、調査初期段階のリスク評価を通じ、勝ち目のない事案については早期に見切りをつける方針が明確に打ち出されています。納税者としては、これらのロードマップの趣旨や目的を十分に理解することで、将来の移転価格調査に対し、より的確に備えることが出来るものと考えられます。

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1. ロードマップでは、調査官が必要な情報を遅滞なく入手できる様、IRSの新しい資料請求(IDR)ポリシーについて3回言及されており、同ポリシーの移転価格調査における重要性が強調されている。同ポリシーについては、以下を参照のこと:Dolan, Michael P., "IRS Changes Document Requests and Appeals Rules for Large Taxpayers," KPMG TAX DISPUTE RESOLUTION QUARTERLY, Issue No. 7 (Summer 2013). 

連絡先

仲 知威

マネージング ディレクター

エコノミック アンド バリュエーション サービス

tnaka@kpmg.com

 

岩城 成紀

マネージャー

エコノミック アンド バリュエーション サービス

siwaki@kpmg.com

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