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マネロン対応に求められる経営陣の関与

マネロン対応に求められる経営陣の関与

本稿では、金融機関に対し近時取組要請が高まっている、マネー・ローンダリング・テロ資金供与等の対応における経営陣の関与について解説します。

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本稿では、金融機関に対し近時取組要請が高まっている、マネロン対応における経営陣の関与につき解説します。
マネロンとは、犯罪収益を、その出所や真の所有者がわからないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為です。預金口座や送金等がその手段に利用されることから、当該商品・サービスを提供する金融機関は、これを未然に防ぐため、顧客の身元確認や、疑わしい取引の検知・届出等の取組みを求められています。取組みにあたっては、これらを有効に行うための、事務手続整備やシステム手当、関係部署間連携といった、全社レベルの内部統制確保が不可欠となっています。そのため経営陣の関与や理解が必須とされ、旗振りの役割を実質的に担うことが求められています。これら対応の不備は、本邦当局による行政処分や、海外当局による制裁措置の可能性があるものとなっています。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • マネロンとは、犯罪収益を、その出所や真の所有者がわからないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為である。
  • 預金口座や送金等がその手段に利用されることから、当該商品・サービスを提供する金融機関は、これを未然に防ぐため、顧客の身元確認や、疑わしい取引の検知・届出等の取組みを求められている。
  • 当該マネロン対応は、国際的な要請の下、日本国内でも当局要請が高まっており、対応の不備は、本邦当局による行政処分や海外当局による制裁措置の可能性があるため、近時金融機関における最重要の取組課題となっている。
  • 対応には、全社レベルの内部統制の確保が不可欠となっており、そのため、旗振り役の立場である、経営陣の関与や理解が必須とされている。

I.マネロンとは

マネー・ローンダリング(資金洗浄。以下「マネロン」という)とは、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者がわからないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為をいいます。具体的には、犯罪行為で得た資金を正当な取引で得た資金のように見せかける行為や、口座を転々とさせたり金融商品や不動産、宝石などに形態を変えてその出所を隠したりすることをいいます。
また、マネロンとあわせて対応が求められるものとして、テロ資金供与があります(以下、マネロンとテロ資金供与をあわせて「マネロン等」という)。
テロ資金供与とは、爆弾テロやハイジャックなどのテロ行為の実行を目的として、そのために必要な資金をテロリストに提供することをいいます。具体的には、架空名義口座を利用したり、正規の取引を装ったりすることが挙げられます。マネロンとは、資金の流れを隠す点で共通点がある一方、(1)資金が必ずしも違法な手段で得たものではないこと、(2)資金は比較的少額であるケースもあること、(3)送金先等に関して注意を要する国・地域等がマネロンの場合と異なることが挙げられます(マネロンの場合ではタックスヘイブンであるが、テロ資金供与の場合ではイラン・北朝鮮である等)。
マネロンやテロといった言葉のイメージから、本邦においてはあまり発生しない・関係がないという認識が一般的かと思います。しかしながら、暴力団は、経済的利得を獲得するために職業的に反復して犯罪を行い、その中で巧妙にマネロンを行っています。また、振り込み詐欺に代表されるような特殊詐欺の犯行グループ等は、詐取金の振込先として架空・他人名義の口座を利用(悪用)しています。加えて、近時は来日外国人が、日本国内で得た犯罪による収益を外国に送金、逆に外国で得られた犯罪による収益を日本国内に送金するといった事例がみられています。テロについても、その資金源が、日本国内で得たものであり、外国でのテロ行為支援のために海外送金が利用されるといったことが当然に考えられます。
また、こういった犯罪を直接行う立場では本来ない者、特に高齢者や生活に困窮する者等が、自己名義の口座や偽造した身分証明書を悪用するなどして開設した架空・他人名義の口座を、遊興費や生活費欲しさから安易に譲り渡す事例が多数みられています。この点も日本国内でマネロン等を行うことを一層容易にしています。

II.マネロン等対応とは

前項でみたとおり、マネロン等は、資金の隠匿や移転を目的に行われるものです。そのため、預金口座や送金取引等が当該手段として利用されることになります。結果、銀行に代表される、当該商品・サービスを提供する金融機関がマネロン等に利用されることとなります。
別の見方をすると、マネロン等を未然に防止するができる、または早期に検知することができるのは、当該金融機関となります。そのため、警察庁や金融庁をはじめとする本邦当局は、法規制やガイドラインを適用し、金融機関に対し、このような防止や検知の義務を課しています。
当該義務は、細部は割愛しますが、主には大きくは二つに分かれます。ひとつめは、(1)マネロン等を企図する疑わしい顧客を排除するために、顧客の身元等を確認すること(取引時確認)、ふたつめは、(2)マネロン等を企図する取引を検知し、その内容を当局に届け出ること(疑わしい取引の届出)です(これらは、いわゆる犯罪収益移転防止法等に規定されています)。
また、特にテロを行う者等については、国際的な要請に基づき、資産凍結等の措置(サンクション)がとられており、この点でも金融機関においては、顧客等が当該テロを行う者等に該当しないかを取引時等に確認することが求められています(この点は、いわゆる外為法等に規定されています)。以上は、マネロン等対応における固有要素といえます(図表1参照)。

図表1 マネロン等対応の全体像

加えて、以上のような義務を有効に履行するためには、事務手続の整備や、これら事務を行う者への周知徹底、多数の顧客や大量の取引を確認等するためのシステムの手当、そのメンテナンスといった取組みが不可欠となります。
また、取組みの度合は、各金融機関がその業容によりさらされているリスクの多寡に拠るため、これを踏まえる必要があります(リスクベース・アプローチ)。そのためには、当該リスクの状況、またリスクに対するコントロールの状況を、自ら評価することも求められます(リスク評価。図表中、基礎的要素)。
さらに、こういった取組みを全社的な分担の下で実施するための組織体制の整備や、方針の策定、プログラムの計画・実施、プログラムが有効に機能しているかを自律的に検証するための、内部監査等のモニタリグ等も求められます(図表中、経営的要素や監視的要素)。
これらの点は、金融庁が2018年2月に公表した「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下「当局ガイドライン」という)に示されています。

III.当局による対応要請の高まりと対応の必要性

前項に挙げた当局ガイドラインが2018年に示されたとおり、本邦では、金融機関に対するマネロン等対応の要請が特に高まっている状況にあります。
背景には、国際的な要請の高まりがあります。マネロンの前提となる犯罪には、麻薬取引、武器売買等が代表的ですが、近時は人身売買や贈収賄もフォーカスされています。これに加え、各国が当該取組みに力を入れているのは、脱税対策です。税収の脱漏は国益を直接かつ大きく損なうものであり、その手段となるマネロンを防ぐことは国家的かつ国際的な取組課題となっています。
テロについては、いわずもがなですが、多額の活動資金を必要とするテロの防止には、その資金源を根絶やしすること、テロ資金供与を防ぐことが、実効性の高い取組みとなります。
そのため、金融機関においては、コンプライアンス・リスク管理の領域のみならず、経営における重要な取組課題としての対応が求められています。
直接的には、当局ガイドラインへの対応が求められますが、対応の不備は、本邦当局より業務停止命令や業務改善命令などの行政処分が課される可能性があります。また、欧米事例にもみられますが、米国等の海外当局による制裁の可能性も否定できません。この場合、過去の事例では、数百億円単位の制裁額が課される場合も複数みられています。
また、当局による処分や制裁だけではなく、ビジネスへの影響も考えらえます。
例えば、外為取引においては、送金のために、海外の金融機関との間に契約を締結することとなります(コルレス契約)。この点、マネロンが口座を転々とするものである以上、一つでも先に述べた身元等の確認や取引の検知に不備がある金融機関が存在する場合には、そこから犯罪収益が入り込むこととなります。そのため、巻き込まれることを防ぐべく、対応が十分ではない金融機関とはコルレス契約を締結しないといった取組みが行われています。結果、対応の不備が、外国送金取引が提供できない事態につながりかねないものとなります。
加えて、このような処分・制裁、提供サービスの不足は、風評上のネガティブな影響も当然に懸念されます。
以上より、マネロン等対応は、近時金融機関における最重要の取組課題となっています。

IV.求められる経営陣の関与と理解

前項まででみてきたとおり、最重要課題としての取組みが求められている中、マネロン等対応には、全社レベルの内部統制の確保が不可欠となっています。そのため、旗振り役の立場である、経営陣の関与や理解が必須とされています。
この点、前掲の当局ガイドラインにおいても、「金融機関等の経営陣においては、自らのマネロン・テロ資金供与対策に主体的かつ積極的に関与し、対応の高度化を推進していく必要がある」と示されています。
当該認識の下、当局ガイドラインでは、「経営陣の関与・理解」として、次の事項が挙げられています。
 

  1. マネロン・テロ資金供与対策を経営戦略等における重要な課題の一つとして位置付けること
  2. 役員の中から、マネロン・テロ資金供与対策に係る責任を担う者を任命し、職務を全うするに足る必要な権限等を付与すること
  3. 当該役員に対し、必要な情報が適時・適切に提供され、当該役員が金融機関等におけるマネロン・テロ資金供与対策について内外に説明できる態勢を構築すること
  4. マネロン・テロ資金供与対策の重要性を踏まえた上で、所管部門への専門性を有する人材の配置及び必要な予算の配分等、適切な資源配分を行うこと
  5. マネロン・テロ資金供与対策に関わる役員・部門間での連携の枠組みを構築すること
  6. 経営陣が、職員へのマネロン・テロ資金供与対策に関する研修等につき、自ら参加するなど、積極的に関与すること


例えば、2.については、マネロン等対応の担当役員の設置が挙げられます。
また、3.及び5.については、上記担当役員を軸とした専門委員会の設置等が考えられます。その際、前掲のとおり、マネロン等対応が多岐にわたる取組みを全社的に行うことが求められることを踏まえ、コンプライアンス・リスク管理部門のみならず、事務、システム、営業、国際、市場、人事、また監査といった、関連各部門の参画が重要となります。
また、6.については、経営陣が研修を受講することで、マネロン等対応への理解を深めるという目的はもちろんですが、職員参加研修に役員も出席、また自らメッセージを発することにより、マネロン等対応が経営レベル・全社的に重要であることを職員に意識付けするという目的も重要となります。
この点、当局ガイドラインでも、「経営陣がこうしたリスクを適切に理解した上でマネロン・テロ資金供与対策に対する意識を高め、トップダウンによって組織横断的に対応の高度化を推進し、経営陣として明確な姿勢・方針を打ち出すことは、営業部門を含めた全役職員に対しマネロン・テロ資金供与対策に対する意識を浸透させる上で非常に重要」と示されています。

V.おわりに

以上、みてきたとおり、マネロン等対応にあたっては、経営陣の関与・理解が特に重要となっています。
最後にこの点を端的にあらわしている、前掲当局ガイドライン上の言及を挙げておきたいと思います。
「管理態勢の構築に当たっては、マネロン・テロ資金供与リスクが経営上重大なリスクになり得るとの理解の下、関連部門等に対応を委ねるのではなく、経営陣が主体的かつ積極的にマネロン・テロ資金供与対策に関与することが不可欠である。」

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融事業部 金融アドバイザリー部
AML・CFTアドバイザリー室
ディレクター 竹田 淳一

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