移動革命を生き残る~将来モビリティエコシステムをデザインする~ | KPMG | JP
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移動革命を生き残る~将来モビリティエコシステムをデザインする~

移動革命を生き残る~将来モビリティエコシステムをデザインする~

本稿では、KPMGモビリティ研究所の紹介と、モビリティをめぐり確立されようとしている新たなエコシステムとその影響、ならびに日本が対処すべき課題について解説します。

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人とモノの移動=モビリティに革命が起きています。移動をめぐって、消費者はより便利で快適なエクスペリエンスを求め、これまで築き上げてきた自動車メーカーを頂点としたバリューチェーンは過去のものとなりつつあり、今形成されつつあるモビリティエコシステムの中ではウェブ/デジタル企業やモバイル/テック企業が大きな役割を担っています。移動革命は、「ものづくり」から「ことづくり」への転換が求められる製造業のみならず、エネルギー、インフラ、金融、テクノロジー、メディア、通信など、多くの業界に大きな影響をもたらします。本稿では、KPMGジャパンが9月1日に設立したKPMGモビリティ研究所の紹介かたがた、モビリティをめぐり確立されようとしている新たなエコシステムとその影響、ならびに日本が対処すべき課題について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

I. はじめに

所謂CASE(繋がる、自動化、シェアリング、電動化)と称される大きな潮流の中で自動車業界は誕生以来の変革期を迎えています。人とモノの「移動=モビリティ」を巡るバリューチェーンはますます拡大し、新たなプレイヤーたちが次々に参入しています。2050年ごろには世界の7割の人口が都市部に居住するようになるともいわれるほど大都市化が進み、交通渋滞や環境問題も深刻化する一方、地方における高齢化や過疎化もますます進行しています。こうした課題に対処するためにMobility as a Service(MaaS)と呼ばれるビジネスモデルが確立されつつあり、将来的には、A地点からB地点に移動する際に、私たちはさまざまな移動手段をシームレスに活用できるマルチモーダルの時代がきそうです。そのためのプラットフォームを確立すべく、IT企業、鉄道、飛行機、自動車メーカー、サプライヤー、通信企業などのさまざまな業種の大企業からスタートアップ企業までが日々鎬を削り、新聞等のメディアでは、モビリティを巡って毎日のように企業提携などが報道されています。

II. トヨタ自動車株式会社とソフトバンク株式会社の提携とその背景

10月4日、トヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ自動車」という)とソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」という)は提携し、MONET Technologies株式会社(以下「MONET社」という)を設立することを発表しました。トヨタ自動車は今年1月の米国家電見本市(CES)にて、モビリティカンパニーへと変革することを宣言していましたが、今回の提携はその変革を推し進めるための大きな第一歩となります。ソフトバンクは、あらゆるモノが繋がるIoT/AIの時代を見据え、群戦略のもとでさまざまな投資を進めてきました。その中のモビリティをテーマとした分野で、トヨタ自動車が開発した次世代自動運転車である「e-Palette」をベースに“Autono-MaaS”と称した自動運転車によるモビリティサービスを新会社で展開することになりました。
なぜ、日本企業で時価総額1位のトヨタ自動車と2位のソフトバンク、それも異業種といえる2社が提携することになったのでしょうか。
トヨタ自動車の豊田章男社長はかねてより現在の自動車業界が置かれている環境を「勝つか負けるか」ではなく、「生き残りをかけた戦い」と表現してきました。その理由は、たとえば、時価総額とキャッシュポジションを分析してみると理解できます。図表1は、世界の主要業種の中でモビリティに深く関係する業種の2010年と2017年の時価総額とキャッシュポジションを比較したものです。

図表1 強まるデジタル企業の存在感

これをみると、この7年間で、いわゆるGAFA(Alphabet/Google、Apple、Facebook、Amazon)を含むウェブ/デジタル企業やモバイル/テック企業に対してより多くの投資資金が振り向けられ、それら企業がより多くのキャッシュを保有するようになったことが一目瞭然です。これはすなわち投資余力の多寡を意味すると言え、実際、主要企業の直近年度の研究開発費を対比すると上位5社のうち、4社がウェブ/デジタル企業、モバイル/テック企業となっています(図表2参照)。

図表2 研究開発費の比較

(単位:億円)

図表2 研究開発費の比較

凡例

Source:日本企業2017年度研究開発費 2018/7/26 日本経済新聞、外国企業2017年研究開発費 2017/10/25 ITmediaビジネスオンラインStrategy&調査報告を参考にKPMG作成

モバイル/テック企業のひとつであるソフトバンクは、自社グループあるいはSoftbank Vision Fundを通じ、その豊富な資金をもとに、「モビリティAI群戦略」のもと、IoT/セキュリティ、自動運転、画像認識・処理、マップ、ライドシェア、リース・レンタル、物流、eコマース、保険といったこれからのモビリティにとって重要な分野へ投資してきています。10月4日共同会見時のソフトバンクグループ株式会社代表取締役会長兼社長の孫正義氏のプレゼンテーションによれば、たとえば、ライドシェアに関していえば、その投資先であるUber、Grab、DiDi、OLAを合わせた取扱高は2018年半期終了時点の数字を年換算すると約10兆円、世界の約90%の市場シェアにまで達しています。自動運転分野で重要な位置づけにあるNVIDIA社などのその他投資先も鑑みれば、将来のモビリティエコシステムを形成する中でソフトバンクの存在感は着実に高まってきています。
今般、「情報革命で人々を幸せに」というソフトバンクのビジョンと「全ての人に移動の自由を」というトヨタ自動車のそれとが、MONET社のもとでひとつに融合し、需給を最適化したオンデマンドの配車サービスや、移動、物流、物販など多目的に活用できるe-Paletteという自動運転車によるモビリティサービスが全国100地区で展開される計画です。この事業を通じて、交通弱者や移動困難者を救済し、地方交通の課題解決を図り、地域活性化を実現することを目指しています。
この計画が現実のものとなれば、日本のモビリティに関する取組みも大きく前進するものと思われます。

III. KPMGモビリティ研究所の設立

KPMGジャパンは9月1日付でKPMGモビリティ研究所を設立いたしました。その目的も、MONET社が目指しているところと同じ、すなわち、日本のモビリティ革新に資する活動を展開し、さまざまな社会的な課題の解決の一助となることにあります。KPMGモビリティ研究所は、KPMGジャパン内の組織、サービス、インダストリー横断的な組織としてスタートしました。あずさ監査法人、KPMGコンサルティング株式会社、株式会社KPMG FAS、KPMG税理士法人などの各法人内で、監査、税務、アドバイザリーといった各種サービスを通じて培った専門性をもとに、自動車、エネルギー&インフラ、テクノロジー・メディア・通信、金融、消費財・小売、パブリックセクターなど、これからのモビリティ社会を形作るうえで欠かせない業界の中で横断的に活動してまいります。世界150ヵ国以上に拡がるKPMG事務所の関係者とのグローバルネットワークを活用し、世界各国・各地域におけるモビリティをめぐる先進的な活動についての調査研究を行い、セミナー、ニューズレターやホワイトペーパーなどを通じ日本のモビリティの将来像にかかわる情報を積極的に発信、将来的には産官学のハブとなることで、日本におけるモビリティの発展に寄与する、それがKPMGモビリティ研究所の目指すところです。

IV. 将来のモビリティの姿と形成されるエコシステム

1. 将来モビリティの姿

それでは、将来モビリティはどのような姿となり、どのようなエコシステムが形成されていくのでしょうか。
2030年ごろには、生活に密着したさまざまな移動手段がシームレスに結びつき、A地点からB地点まで人々はより安価で快適に移動できるようになるでしょう。そして移動することは、より生産的かつ快適な日常生活の一部となります。若年層から高齢者までのあらゆる世代で、免許の有無や運転技術の巧拙にかかわらず、すべての人がそのメリットを享受できます。統合された移動の手配はスマホやタブレッド型携帯端末などにより一時に行うことができ、その決済も一括して移動サービスオペレーターとの間で行われます。自動運転を前提とした移動空間は、運転行為から解放され、オフィス、会議、飲食、遊び、買い物、運動、健康チェック、読書、リラックス、などさまざまな用途で活用されます。人と物を同時に移送することも可能です。デジタル技術が進化して、多様なデータがフルに活用され、消費者は快適な体験をすることができます。
こうした将来のモビリティの姿のイメージについては、次のリンク先の動画も併せてご覧ください。

2. モビリティエコシステム

このような将来モビリティの中では、自動化、電動化、新決済システム、エネルギー、EVインフラなど、それぞれに関連して新たなバリューチェーンが形成され、多様な業種内のプレイヤーが巨大なエコシステムを形成します(図表3参照)。

図表3 新たに形成されるエコシステム

たとえば、モビリティサービスでは、インフラから、自動車その他の交通機関、それにかかわる規制や保険、データを活用したサービス、オペレーターとしてのサービスプロバイダーまでがバリューチェーンを構成し、顧客に対してサービスを提供することになります。また、モビリティサービスプロバイダーは、フリートの管理を行いますが、そのためにファイナンスや保険、決済システム提供者、充電ポイント、マーケティング、修理メインテナンスなどがチェーンを作り、フリートが維持されます。
このように将来のモビリティエコシステムは、消費者を中心として相互に繋がります。

3. 将来モビリティエコシステムが各業界に与える影響

さまざまな経営資源の制約の中、一企業、一業界、あるいは民間だけの努力では、この巨大なエコシステムを構築していくことは不可能です。トヨタ自動車とソフトバンクの提携もこのような中で実現したと言えます。そして、コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化などの流れは、多くの業界に、たとえば以下のような影響を及ぼします(数字は米国KPMGによる米国市場での予想)。

  1. エネルギー業界
    多くの国で強化される環境規制などを背景に進められる電動化の波により、化石燃料の需要は減少し、代わって、電力、ユーティリティ、インフラ需要が増加します。水素などの代替燃料や電力チャージにかかわる新たなビジネスモデルの確立が求められます。
  2. インフラ業界
    繋がる技術や自動化を実現していくために交通インフラは劇的に変化します。スマートに自動走行するあらゆる形態での交通インフラが出現します。陸海空をシームレスに結ぶことも必要になるかもしれません。配電と送電ネットワークにかかわるインフラの増強も不可欠となります。
  3. 保険業界
    自動車の自動運転技術が進化すると事故発生率は激減(2030年には60%以上減少と予想)し、現在の運転手を対象とした自動車保険ビジネスは大きな転換を求められることになります。代わって1件あたりの損害額は増大(同10%増加と予想)し、製造物賠償責任は増加、また、シェアリングなどのビジネスの増加に伴い、フリートが付保対象となります。
  4. 銀行業界
    サービスとしてのモビリティ提供は、たとえば自動車メーカーに売り切り型のビジネスからの転換を求め、資産を保有せざるを得なくなれば、証券化などのニーズは高まります。消費者の支払いメカニズムが多様化し、進化していくことに伴い、新たなテクノロジーの必要性も増します。
  5. テクノロジー、メディア、通信業界
    相互接続するエコシステムにおけるテクノロジー・通信メディア企業にとっては巨大な機会が生まれます。今後、5Gなど、V2Xコネクティビティをサポートできるような通信インフラの確立と維持が求められます。共通プラットフォームの活用に伴い高まるサイバーリスクへの一段と高度なセキュリティが必要です。
  6. 自動車業界
    シェアリングの進展などに伴い、自動車1台あたりの走行距離や稼働は上昇するものの、販売台数は減少することが予想されます。ぶつからない自動車は、修理需要の減少をもたらし、従来重要な収益源であったアフターサービスは、部品交換からソフトウェアを基礎とするものへと変わっていきます。自動車整備業界の収入は2030年時点で今よりも50%以上減少するものと予想されます。また、モビリティの多様化に伴い、商品ラインナップも大きく変化、個人所有のセダンの販売台数は今よりも60%減少している可能性があります。
  7. 消費財、小売業界
    変化する消費行動に適した新たなビジネスモデルの確立が求められ、より快適かつ便利な顧客体験を創造し、提供することが求められます。運転行為から解放された時間での消費者活動領域、たとえば小売、エンターテインメント、医療、健康関連ビジネスなどに商機があると期待されています。
  8. 政府、地方自治体
    新たなモビリティ手段にかかわる法規制の緩和、整備は重要な政府等のタスクです。自動走行やMaaSの進展にかかわる法規制や保険制度の確立が必要となります。化石燃料の需要減少に伴う税収への影響も考えられる中、さまざまなインフラ整備に伴う関連費用を誰が負担するのか、という大きな命題にも答えを出していかなければなりません。

V. 日本が移動革命を生き残るために

10月10日、国土交通省はMaaSなどの新たなモビリティサービスの全国展開を目指し、「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」を開催することを発表しました。この有識者による懇談会を通じ、「都市・地方が抱える交通サービスの諸課題を解決することを目指し、我が国における望ましいMaaSのあり方、バス・タクシー分野でのAI ・自動運転の活用に当たっての課題抽出・今後の取組の方向性などを検討する」ことを目的としています。フィンランドMaaS Global社のWhimを例に、スマートフォンアプリを活用した出発地から目的地までの移動手段の検索・予約・決済を一括して行うことができるサービスの実現が、シームレスでストレスフリーな移動の実現による利用者利便性の向上と公共交通機関の利用シェアの増加を、その効果として想定しています。懇談会の検討、実証などへの取組みを経て、MaaSが日本で実現されることが期待されます(図表4参照)。

図表4 モビリティ産業への変革

世界の移動革命の中で、自動車業界がこれまで示してきたような存在感を日本が今後も維持し、生き残っていくために重要と思われることを最後に示しておきたいと思います。

1. 取組みの規模とスピード感

MaaSに限らず、自動運転やスマートシティにかかわる様々な実証実験が行われていますが、規制環境や投入資源の制約から、海外と比べると日本の取組みは、まだまだ小規模にとどまっている感があります。たとえば、自動運転車に関して言えば、その実用化のためには実にさまざまな状況下で実験を繰り返す必要があります。日本では自動運転車の公道テストを行う環境が十分に整備されていない状況ですが、米国のWaymoは、2017年には27億マイルのシミュレーションを行った上、市街地を含めた米国内の公道で1日あたり2万5千マイルの自動走行試験を行い、10月10日に累積1千万マイルに達成したことを発表しています。
日本において、今後も、内閣府、国土交通省、東京都などが企画、支援しつつさまざまな実証が行われる予定です。国内外における日本企業による実証実験と併せ、実用化に向けた取組みがさらに大規模になり、かつ加速化される必要があると思われます。

2. 法規制制度

現在の法規制のままでは、多くの人々が思い描いているような将来のモビリティの姿が実現できないのは明らかです。2010年から実証が行われ始めたたとえばセグウェイなどの搭乗型移動ロボットは未だに公道では自由に走れません。将来モビリティエコシステムに携わる人々が現行法規制を「所与の制約」として捉えたままでは前進しません。法規制の枠を一度はずして、交通事故をなくすには、高齢化社会の中で交通弱者を救うには、といった観点から、あるべき姿を追求していくべきだと思われます。各地域の事情が異なっている中での将来モビリティですので、日本全国をひとつの法規制で束ねていくよりも、地域ごとにどうあるべきかを議論し、たとえば特区を設けるなど、法規制を積極的に活用していくことが求められています。

3. 消費者、利用者目線

将来のモビリティ、たとえばMaaS、の姿を考えた場合、消費者、利用者にとっての便益、利便性を第一に念頭に置いた仕組みを作り上げることが求められます。ですが、実際には多くの場合で消費者、利用者に常に接している人たちが研究開発にかかわっているわけではありません。Uberを利用したことのない人が、先端テクノロジーに裏打ちされたライドシェアの利便性を実感することはできません。新たな「顧客体験」の創造に関係する人々は次々に生み出される新しいアイデアに対する感度を高め、受け入れてみる発想を持つべきです。そのうえで、モビリティエコシステムを形作るために、消費者便益を第一に考えたサービスとソフトウェア、それを支えるテクノロジーとハードウェアを作り上げていかなければなりません。
そして、諸外国がそうであるように、今の移動革命の中で生き残るには、産官学が総力を挙げ、業界の枠を超えた連携を図ることが何よりも大事であると思われます。KPMGモビリティ研究所は、モビリティエコシステムの中で、自動車業界のバリューチェーンを中心とする今の日本の競争力を今後も維持していけるよう活動を行っていきたいと考えています。

執筆者

KPMGジャパン
KPMGモビリティ研究所
所長 パートナー 小見門 恵

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