グループガバナンスの在り方と設計のポイント | KPMG | JP
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グループガバナンスの在り方と設計のポイント

グループガバナンスの在り方と設計のポイント

本稿では、会社法上求められるグループガバナンスの要請を踏まえつつ、企業がそのグループ戦略の実現にあたり、設定すべきグループガバナンスの設計のポイントについて解説します。

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グループガバナンスとは、グループベースで戦略を効率的に実行し、収益を獲得するために設定するものであり、収益の源泉です。
会社法上の要請という規制対応という側面もありますが、グループガバナンスをグループ戦略の実現という目的で適切に設定していれば、会社法上の要求事項は十分に満たすため、規制対応コストは発生しません。
本稿では、会社法上求められるグループガバナンスの要請を踏まえつつ、企業がそのグループ戦略の実現にあたり、設定すべきグループガバナンスの設計のポイントについて解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

I. グループガバナンスとは

1. はじめに

コーポレート・ガバナンスコードが我が国にも導入されて、3年ほど経過し、また、さまざまな企業の海外子会社の不祥事や組織的な不正行為が相ついで発覚する等、ガバナンスという言葉自体は、だいぶなじみのあるものになってきたと思いますが、そもそも、グループガバナンスとは何のために設定するのでしょうか? 海外子会社等における不祥事等で想起されるように、何かが起きたときに実施しなければならない後ろ向きの対応であり、収益を生まない単なるコストなのでしょうか? 本稿ではこのような疑問に対する基本的な考え方をまとめます。

2. 会社法上の要請事項

まずは、規制対応という側面から、グループガバナンスに関する会社法上の要請を確認します。会社法上、親会社の取締役会には「業務の適正を確保するための体制」、いわゆる内部統制システムを、単体だけでなく、企業集団ベースでも設定することが要請されています。なお、企業集団とは、「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る」と規定されているため、株主権を根拠とした、実質的な支配関係のある範囲を前提としていると考えられます。また、会社法では、企業集団に属する各社は取締役会を頂点とした自律的なガバナンスを、各社単位で設定することが求められています。このため、企業集団としての内部統制システムは、各社単位のガバナンスをベースに、企業集団に属する各社の取締役会間の合意に基づき、執行レベルでグループ横断的に設定されるものと考えられます。
すなわち、会社法上要請されているグループガバナンスとは、親会社と子会社からなる企業集団の業務の適正を確保することを目的とした、企業集団ベースの執行レベルのガバナンスであると考えられます。

3. 取締役会が株主等から期待される事項

次に、株主や資本市場等ステークホルダーの取締役会への期待から必要とされるグループガバナンスを考えます。取締役会とは、株主からの委任を受けて、株主に代わり、会社の業務執行に関する意思決定等を行う機関であり、委任を受けた責務について適切に遂行し、株主へその活動の結果を説明することが求められています。企業が単体ではなく、グループベースでビジネスを行っている場合には、グループ全体の業務執行に関する意思決定等を行うこと、すなわちグループ全体の戦略を策定・実行し、結果を株主等に説明することが求められています。ただし、ここでいうグループには、親会社、子会社といった定義はなく、業務実態的に、一体的に戦略を遂行する単位、グループ戦略の適用対象がグループと考えられます。
また、一般的にガバナンスとは、取締役会レベルのガバナンス(いわゆるボードガバナンス)と、執行レベルのガバナンス(執行ガバナンス、いわゆる内部統制システム)から構成され、取締役会が「株主への説明」と「戦略の実行のための重要な意思決定」という2つの責務を果たすために設定するものとされています。したがって、グループガバナンスとは、グループ戦略を実現するために必要な範囲を対象として設定されるグループ各社のボードガバナンスと各社のガバナンスをベースにグループ横断的に設定される執行ガバナンスであると考えられます。

II. 日本企業のグループガバナンス

1. 日本企業のグループガバナンスの特徴

これまで、日本では、会社とは、株主のものというよりも、経営者および従業員のものでもあると考えられてきました。また、経営における監督と執行の分離も明確ではありませんでした。そのため、一般的にガバナンスとは、執行レベルのガバナンスにおける、社長(CEO)の下での内部牽制を指しているものととらえられ、日本企業では、それを動かす基本的な枠組みとして、「総合職制度」と「ローテーション人事」が採られてきたと考えられます。また、会社法が単体を前提としていることから、取締役会の責任が及ぶ範囲も会社内に限定されると考えられており、戦略の遂行も通常は会社単位に限定されるため、グループガバナンスについても、開示上の連結目的で設定する規制対応ととらえている会社が多かったと考えられます。

2. 日本企業でよくみられる問題点

日本企業は、戦後、株式の持ち合い等を通じて安定株主を増やし、長期・安定的な会社運営ができるようにしました。それゆえに、これまで株主価値の向上や株主への説明責任の履行について、あまり重視してこなかったように思われます。その一方で、国内人口の減少・高齢化を背景に、2000年代後半から、海外子会社の買収事案が増えましたが、その多くが経営陣の刷新など抜本的な改革を行わず、親会社の関与(経営のコントロール、経営管理)を限定的にして、従前の企業文化を保持するといった「資本参加型のM&A」であったと思われます。もちろん、英語人材の不足や海外の市場環境等に対する理解の不足等の理由により、現実的にはそれ以外の解がなかったとも考えられます。その点を考慮しても、株主等の期待を踏まえた、より明確なグループ戦略の策定や、それに沿って必要と考えられるグループガバナンスを設定するという視点は弱く、あくまでも、前述のような会計上の開示を目的とした法規制対応としてのグループガバナンスを設定する会社が多かったと思われます。こうした「資本参加型のM&A」においては、買収後の旧経営陣へのインセンティブ設定に主眼が置かれ、グループレベルの執行ガバナンスは旧経営陣への遠慮もあってか、口出しをするような形では設定せず、設定しても、日本からの派遣人材によるモニタリングといったレベルのグループガバナンスしか設定しないことが多かったと考えられます。こうしたケースでは、結果的に、買収によるグル - プ価値の向上の実現(M&Aコストを上回る価値の実現)を果たせなかったり、期待を裏切るような時間軸での実現や限定的な効果しか得られなかったと考えられます。
これまでの国内の子会社を対象とした執行レベルのグループガバナンスでは、部署間の内部牽制をベースとし、グループ内で共通の総合職制度とローテーション人事でその実効性を確保してきました。しかし、海外子会社ではこうしたローテーション人事は行われず、かつ総合職人材ではなく、専門家人材しかいなかったため、どのように経営管理を行えば、その実効性を確保できるかがわからず、結果として適切なグループガバナンスを設定できなかったケースが多かったと思われます。
また、ボードガバナンスについても、親会社から取締役を数名送り込んで監督をするといった方法を採用しているケースが多く、派遣取締役の個人の力量に大きくゆだねていました。そのため、ボードガバナンスもあまり有効に機能しておらず、結果として、こうしたグループガバナンス設計上の失敗が、昨今の海外子会社の不祥事の一因となってしまったとも考えられます。

III. 目指すべきグループガバナンス

1. グループ戦略との整合性

会社が子会社を設立または買収することにより、企業集団を形成するのであれば、通常は、会社単体だけでなく、企業集団ベースでも業務を運営することになると考えられます。そのような場合には、企業集団としての戦略を策定し、それに沿ったグループガバナンスを設定する必要があると考えられます。また、会社が子会社を設定せず、関連会社等しか持たない場合でも、当該関連会社等がグループ戦略上重要な役割を担っているのであれば、当該関連会社等も含めたグループガバナンスを設定する必要があります。すなわち、株主価値、企業価値の向上という実質的な観点から考えれば、どのような割合の出資であれ、どのような形態の会社であれ、グループ戦略実行にあたって重要な役割を担っている会社はグループガバナンスのなかに組み込み、適切な経営管理をする必要があります。また、そうしなければ、グループ戦略は適切に実行できません。したがって、設定すべきグループガバナンスとは、グループの実態(リソース面、関係性等)を十分に考慮したうえで、グループ戦略と整合的に(デザイン、範囲やコントロール強度・深度等)設計されたものとなります。

図表1 グループガバナンスのイメージ

IV. グループガバナンス高度化の方法

1. 実態の確認

日本企業においては、海外子会社等を含めた、明確なグループ戦略を立てていないケースがみうけられます。そのような場合でも、どのような会社とどのような関係を持ち、それらの会社がグループ戦略(ビジョン・方向性を含む)上、どのような役割を果たしているかを確認し、その戦略を実行するのに十分なグループガバナンス、特に会社横断的に設定される指揮命令系統や人事権を設定できているのかを検討することが重要です。前述の「資本参加型のM&A」を行った会社でも、一定以上の株式を取得し、支配した以上、当該会社は単なる投資先ではありません。グループ戦略上、重要な役割を担っていると考えられ、特に、国内人口の減少・高齢化といった問題をきっかけにして海外に進出しているのであれば、企業価値の向上において非常に重要な役割を担うことが期待されていると考えられます。その役割を適切に実行しているかという観点からの監督と、必要に応じた改善指示が可能となるような、グループガバナンスが必要と考えられます。このように、グループ戦略の実行において必要なガバナンス機能が特定されれば、それを想定どおりに動かすために必要なグループガバナンスの全体フレームワークをデザインすることが可能となります。
実務上は、この全体フレームワークを文書化したうえで、グループ内の各会社の取締役会間で合意(必要に応じて、経営管理契約を締結)し、グループ全体に適用します。

2. 各機能への落とし込み

このようにして設定されたグループガバナンスのフレームワークデザインに沿って、1線(フロント)、2線(リスク、コンプライアンス等の管理機能)、3線(内部監査)といった各機能のグループガバナンスを設定していきます。通常、日本企業では前述のとおり、総合職人材が多く、専門家人材が不足しているため、こうした親会社と子会社の、経営管理の専門領域ごとの機能を直接的に結び付ける、いわゆる機能軸のガバナンスは設定されにくく、総合的にグループ会社の経営管理を担う部署や国際事業関連の担当部署に海外とのやりとりが集約されることになります。このような部署を窓口としたグループガバナンスは、一定の規模まではうまく機能すると考えられますが、海外ビジネスが拡大し、ビジネスやリスクの内容が高度化するにつれて、専門家ではないため、深度のあるコミュニケーションができず、内外の分断と結果としてのガバナンスの失敗、経営管理の失敗、リスク管理の失敗を招くと考えられます。すなわち、グループが一定の規模を超えると有効に機能していたはずの国際部門を中心としたグループガバナンスが、逆に、ガバナンスリスクとして顕在化し、グループの成長のボトルネックになってしまうことになると考えられます。こうしたガバナンスの失敗は、国内の企業同士のM&AでもPMIが適切に実行されなければ起こりえます。それは、同じ機能間でのミスコミュニケーションや非効率な業務運営の保全といった形で発生すると考えられまます。したがって、国際化や多角化の進展を踏まえ、企業グループ内のリスクやリソース等の実態を見極めながら、どこに運営の中心を持っていくかも含め、各機能のグループガバナンスの設計自体も少しずつ変えていく必要があります。

3. 日常業務への落とし込み

グループガバナンスのフレームワークにおいては、それを実際に動かすための仕組みとしてグループポリシーや手続き等が設定されます。親会社は当該フレームワークの下で、各社がグループポリシーや手続きに沿って業務を行っているかを監視し、必要に応じて助言や指導を行います。
すなわち、グループガバナンスとは単なるモニタリングを行う仕組みではなくグループ戦略に照らして、各社の経営の裁量の幅を設定(少数株主が存在する場合には少数株主への配慮を前提)し、必要に応じてコントロールする仕組みと考えられます。欧米においてグループポリシーといえば、同一の基準をグループ会社の各取締役会で採択することが想定されています。一方、日本企業の場合は、既存の各社の規程の最大公約数的にハイレベルなものとして、規制対応的に作ったものをグループポリシーと呼んでいるケースが多くみられます。これも日本企業のグループガバナンスの実効性が低くなる要因の一つと考えられます。こうした規程の存在自体は問題ありませんが、将来的には各社の経営の裁量権の範囲を、グループ戦略に沿ってより実効性のある内容へと書き換えたほうがいいと考えられます。また、日常の業務におけるグループガバナンスの実効性を確保するために、情報収集に関する規程や必要に応じた改善指示権限の明確化等、さまざまな工夫が必要となります。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融事業部 アドバイザリー部
パートナー 内 聖美
パートナー 中村 方昭

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