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デジタル経営時代のEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)

デジタル経営時代のEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)

本稿では、エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)への関心が、近年のデジタル経営時代に復権しつつある背景と、そのあり方について解説します。

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KPMGのCIO調査2017でエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)のスキルへの需要が大幅に増加しているように、近年のデジタル経営の拡大に伴い、EAへの関心が強まってきています。EAとは、企業の組織構造や役割およびそれを支える情報システムを現在と将来の2時点でモデル化して、業務と情報システムのロードマップを描くために活用するものです。ビジネストランスフォーメーション(事業変革)の切り札として2000年代中頃に注目されましたが、2010年頃を境に「EA」という文字が目に触れる機会が減っていました。
本稿では、EAへの関心が、デジタル経営時代に復権しつつある背景と、そのあり方について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • KPMGのCIO調査2017でEAのスキルへの需要が前年比26%増加している。
  • デジタル経営時代であっても、階層化してEAをとらえる考え方を変える必要はないが、デジタル経営時代のITシステムの分類を意識したアーキテクチャの構築が必要である。
  • デジタル経営時代のEA策定には、デジタルテクノロジーとその活用によるビジネスや業務を新たなEAの構成要素に加え、経営層とコミュニケーションを密に取りながら反復を繰り返すアジャイルで軽量なやり方を取り込むことがポイントである。

I.エンタープライズ・アーキ テクチャ(EA)への関心の高まり

エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)は、企業の組織構造や役割およびそれを支える情報システムを現在と将来の2時点でモデル化して、経営戦略に沿った情報システムのロードマップを描き、IT投資を最適化するために活用するものです。もともとは、米国連邦政府における政府調達制度改革の一環として、IT投資効率化を目的に導入されました。国内では、2003年の電子政府構築計画を皮切りに、中央省庁を中心に「業務・システム最適化計画」を実現する手法としてEAの採用が進みました。民間企業においても、大企業を中心に業務とITの関係の整理やITシステム構築等にEAが利活用されていました。
このように、いわゆるビジネストランスフォーメーション(事業変革)の切り札としてEAは2000年代中頃に注目されましたが、2010年頃を境に「EA」という文字が目に触れる機会が減っていきました。これはIT投資の最適化の手法としてEAの考え方が浸透したが故に、特別に意識されることがなくなり、「バズワード」としては注目されなくなったからと考えられます。
ところが、KPMGがHarvey Nash社と合同で実施した、世界最大規模のグローバルITリーダーを対象とした意識調査「Harvey Nash/KPMG 2017年度CIO調査」の結果によると、EAのスキルへの需要が大幅に増加しています。また、CIO(最高情報責任者)が経営陣から対応を求められる主要なビジネス上の課題の第1位に、「安定的かつ一貫性のあるITの提供」が4年ぶりに返り咲いています。
これは、デジタル化が実行フェーズに入ったものの、デジタル技術の活用については試行錯誤が繰り返されており、テクノロジーの多様化・複雑化が進む中その副作用として自社情報システムの一貫性・安定性が毀損されるリスクを懸念し、デジタル系のテクノロジーにもEAの考え方を適用して全体最適を維持したいという動きと考えられます。

II.デジタル経営時代のEA

デジタル経営時代に求められるEAとは、どういうものでしょうか。2000年代初期のEAを振り返るとともに、経営を取り巻く環境の変化から考えてみます。

1.初期のEA

(1)官公庁におけるEA
EAの導入方法論としては、1987年にジョン・A・ザックマン氏が論文で提唱した「ザックマン・フレームワーク」が起源と考えられています。
米国では、1990年代半ばに大規模なシステム構築の失敗が続いていたこともあり、政府機関の予算要求時にEAに基づいた計画の必要性が法律で明文化されました。米国連邦政府はザックマン・フレームワークを引用した「連邦政府EAフレームワークVer1.1」と「連邦政府EA実践ガイド」を策定し、業務・システム最適化を推進しました。
日本では、「e-Japan戦略」を受けて2003年に策定された「電子政府構築計画」のなかで、各府省の電子政府構築計画に業務・システム最適化計画(政府ではこれをエンタープライズアーキテクチャと呼ぶこととしました)を正式にコミットしました。そして、EAの推進のために、EA策定ガイドラインを政府の公式文書として策定したことで、EAが注目を浴びるようになりました。
官公庁の分野では、この後EAという言葉は表に出ることが減りつつも、電子政府としての取組みは継続的に実施され、2018年7月20日のデジタル・ガバメント閣僚会議にて決定された「デジタル・ガバメント実行計画」の改訂版に繋がっています。
EAでは、組織の業務プロセスや情報システムを、政策・業務体系(ビジネスアーキテクチャ)、データ体系(データアーキテクチャ)、適用処理体系(アプリケーションアーキテクチャ)、技術体系(テクノロジーアーキテクチャ)へと階層化し、その後、調査、文書化することにより、各階層における現状(As Is)モデルを明らかにします。また、改革の方向性や問題意識をふまえて、各階層における理想(To Be)のモデルを設定していきます。その現状モデルと理想モデルへギャップを埋めていくことにより、業務とシステムの全体最適化を実現していきます(図表1参照)。

図表1 官公庁のEAの進め方

出典: 経済産業省IT アソシエイト協議会:『EA 策定ガイドラインVer.1.1』

その意味で、EAを導入することは、組織のITガバナンスを整理する際の1つの手法にもなりました。また、EAの導入における現状モデル、理想モデルを設定する過程で、ビジネスプロセスを明確にし、経営戦略や業務の有効性を測る必要があるため、結果的に内部統制を定義することにもなります。そのため、金融商品取引法や新会社法への対応を契機に、内部統制全体の明確化へ取り組んでいる企業では、EAの考えを取り入れようと考えるケースもありました。

 

(2)民間におけるEA
官公庁でトップによる強力なリーダーシップのもと半ば強制的にEAが盛り上がっていた一方で、民間企業での取組みはどうだったのでしょうか。
米国や英国では大手企業を中心に官公庁と同様1990年代からEAの取組みが行われ、その後、国内でもメガバンクにおいて長期経営戦略に則してEAの構築を行動計画に盛り込むなど、大企業を中心にEAへの取組みが行われました。
ただし、EAを活用して全社的にシステムを可視化することは評価されつつも、EAの実施には相応のコストがかかることから、ITを積極的に駆使してビジネスに活用している一部大企業を除いて、EAへの取組みを開始することが躊躇されました。これは、現在ほどITとビジネスの関係が密接ではなく、ITの改革による効果がビジネスの成果に現れるまでに時間がかかっていたことも背景の1つと考えられます。

2.ビジネス環境の変化とデジタル経営実現への課題

現在のビジネス環境においてデジタル経営を実現するための阻害要因を3つの文書から探ります。

 

(1)KPMGグローバルCEO調査2018
KPMGが主要11ヵ国のCEO 1,300人に対して実施した、「KPMGグローバルCEO調査2018」では、顧客の要求は絶えず変化し、テクノロジーの全体像も常に流動的であるため、CEO(最高経営責任者)が、経営の機動性が企業の存続を左右する最も重要な要件であるとみていることがわかりました。経営の機動性を高め、デジタルイノベーションを急速に進展させるため、企業は、外部のイノベーションパートナーとのエコシステムを積極的に構築しています。
しかし、エコシステムから価値を引き出す際の障壁の上位5つの中に、「古いITシステムがスタートアップ企業の迅速なアプローチに対応できない」ということが挙げられています。

 

(2)DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート
経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が発表した中間レポート「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」※1では、「多くの経営者がDXの必要性を認識し、DXを進めるべく、デジタル部門を設置する等の取組みが見られます。しかしながら、PoC(概念実証)を繰り返す等、ある程度の投資は行われるものの実際のビジネス変革には繋がっていないという状況が多くの企業に見られる」と述べています。その原因として、既存のITシステムが、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等によりレガシーシステム化していることを挙げ、DXを進めるにはレガシーシステムの見直しが不可欠としています。

※1出典:経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会 DXレポート『ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開 2018年9月5日』

 

(3)デジタル・ガバメント実行計画
デジタル・ガバメント実行計画※2では、初期のEAでは行政手続きの電子化やそのためのシステム構築自体が目的となってしまい、利用者ニーズへの考慮が不足していたがために、出来上がったシステムは利用者への具体的な価値の提供には十分に繋がらなかった、と振り返っています。その反省を踏まえ、「利用者中心の行政サービス改革」を実現するために、デジタル化の障壁となっている制度や慣習にまで踏み込んだ業務改革(BPR)の検討も辞さない決意が述べられています。

※2出典:首相官邸 『デジタル・ガバメント閣僚会議デジタル・ガバメント実行計画 改定 平成30年7月20日 』

3.デジタル経営時代のEA の特徴

(1)ITシステムの分類
デジタル経営時代のITシステムはその用途や成り立ちから、SoR(Systems of Record)、SoE(Systems of Engagement)、SoI(Systems of Insight)の3つに分類することができます。EAの構造を検討する際も、この分類を意識することが重要です(図表2参照)。

図表2 デジタル経営時代のITシステムの分類

  • SoR:日々の経営活動を記録するためのシステムで、主に従来の業務システム
  • SoE:顧客との関係を構築するためのシステムで、外部のイノベーションパートナーのITシステムと連動し、SNSやIoT(Internet of Things)センサーの莫大なデータを取り扱うシステム
  • SoI:SoRで蓄積したデータと、SoEで収集したデータを分析し、ビジネス上の意思決定に役立つ洞察を得るためのシステム

 

(2)デジタル経営実現の課題への対応
前述の3つの文書から、デジタル経営時代の現代のITシステムには次の事項が求められていることがわかります。

  • 真のビジネスニーズの実現
  • 外部のイノベーションパートナーとの迅速な連動

 

1.真のビジネスニーズの実現のためのEA
官公庁における初期のEAでは、「業務・システム最適化」と銘打ちつつも、業務プロセスの見直しには深く踏み込めず、書面の申請を電子的に実施できるようにすることと、オープンテクノロジーを採用したシステムの再構築が主な目的となり、結果的に、最終的な利用者である国民にとって使いやすいシステムとはなりませんでした。
デジタル経営時代のITシステムの分類で考えると、初期の官公庁のEAでは、SoR領域のシステムのアーキテクチャの最適化のみが意識され、最終的な利用者のいるSoE領域のシステムのアーキテクチャが軽視されていたことになります。SoE領域の利用者を意識したビジネスアーキテクチャと、SoE領域とSoR領域の双方を意識したアプリケーションアーキテクチャが、真のビジネスニーズの実現のためのEAには必要と考えられます。

2.イノベーションパートナーとの連動のためのEA
外部のイノベーションパートナーのITシステムとの連動はSoE領域のシステムが担います。マイクロサービスやアプリケーションプログラミングインタフェース(API)をiPaaS(integration Platform as a Srvice) によって連動させるテクノロジーアーキテクチャが一例となりますが、デジタル経営で他社と差別化した付加価値を生み出すためには、それだけでは不十分で、社内に蓄積したデータを活用することが必要です。データはSoRの領域のシステムに眠っていることが多いため、SoR領域のレガシーシステムの見直し(レガシートランスフォーメーション)が必要となります。
レガシートランスフォーメーションをSoR領域のシステム全体に一律に実施するやり方は時間と労力がかかるため、機動性が求められるデジタル経営時代には受け入れられません。
経営層とコミュニケーションを密にし、トランスフォーメーションによる投資対効果が得られないシステムはあえて塩漬けにし、対象を選別するような、アジャイルで軽量なやり方が求められます。
たとえば、データアーキテクチャをその切り口とするやり方があります。真のビジネスニーズを実現するために必要なデータを見極め、そのデータを中心としたデータアーキテクチャを確立します。そのデータアーキテクチャに関連するシステムのみを対象に、アプリケーションアーキテクチャとテクノロジーアーキテクチャのトランスフォーメーションを行います。
次のステップとして、データアーキテクチャの対象を広げることで、SoI領域のシステムにより、新たなビジネスモデルの確立に繋がる洞察を得ることが期待できます。

 

(3)デジタル経営時代のEAへの要求
デジタル経営時代であっても、BA、DA、AA、TAの4つに階層化してEAをとらえる考え方を変える必要はありません。ただし、各階層において考慮すべき内容は変化しています。

1.BA(ビジネスアーキテクチャ)
政治、経済、テクノロジーの変化で生じたビジネスへの対応が求められます。たとえば、デジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代は、SNSでの評価に消費行動が左右されるなど、これまでの世代とは消費行動が違うと言われています。今後は、顧客の中心となるこの世代のニーズを満たすよう、事業の見直しが必要となります。

2.DA(データアーキテクチャ)
SoRに蓄積されたデータだけでなくSoEから投入されるSNSやIoTによるビッグデータへの対応が求められます。DAはデジタル経営の差別化においては最も重要な要素となります。

3.AA(アプリケーションアーキテクチャ)
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や人工知能(AI)といったデジタル時代のソリューションを取り込んだ、アプリケーション機能の構造が求められます。

4.TA(テクノロジーアーキテクチャ)
従来の安定したシステム環境の提供に加え、ビジネスの機動性に対応できる柔軟なアーキテクチャや、ビッグデータを効率的に取り扱える新たなアーキテクチャが要求されます。たとえば、インダストリー4.0を代表とするIoTの普及に伴い、センサーが収集する大量のデータの分析がビジネスの成否を分けるようになってきています。このデータの飛躍的な増加に対し、集中型のシステムアーキテクチャでの収集・分析では、ネットワークやCPU資源が不足します。そのため、センサーに近い位置で一次分析をすることでデータを丸め、その結果をセンターに送付して二次分析をするアーキテクチャが有効です。これは、エッジコンピューティングまたはフォグコンピューティングと呼ばれています。

III.デジタル経営時代のEA策定ポイント

デジタルテクノロジーの活用領域だけを見ると、局所的で、トライアル的にすすめることが多く、個別最適になりがちなので、デジタル経営時代においても、組織全体での投資の効率化・最適化を図る手法としてEAは期待されます。
デジタル経営時代のEA策定には、デジタルテクノロジーとその活用によるビジネスや業務を新たなEAの構成要素として加えたうえで、従来通り自社情報システムの一貫性・安定性を維持しつつ、ビジネスの機動性を損ねずに投資およびシステムの全体最適を実現することが求められます。そのためには、経営層とコミュニケーションを密に取りながら反復を繰り返すアジャイルで軽量なやり方を取り込み、データ、アプリケーション、テクノロジーのトランスフォーメーションの効果をビジネストランスフォーメーションに早期に繋げていくことがポイントです。そうすることで、IT投資に対する経営層の理解が深まり、デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)を推進する環境が整います。
「KPMGグローバルCEO調査2018」では、日本企業のCEOがデジタル変革に向き合う意識が世界全体と比較して低いという結果が出ていますが、デジタル経営実現のために、EAを投資判断のための有効な手法として活用していくことを推奨します。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
ITアドバイザリー
シニアマネジャー 上杉 直登

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