確定拠出年金法の改正とその対応 - 運営管理機関の評価への取組み - | KPMG | JP
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確定拠出年金法の改正とその対応 - 運営管理機関の評価への取組み -

確定拠出年金法の改正とその対応 - 運営管理機関の評価への取組み -

本稿では、今回改正された省令の内容を概説しながら、従業員の満足度を高め、企業価値向上を図るための具体的な対応について、英国での先行事例も交えながら解説します。

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確定拠出年金法が2001年に成立して以来、企業型確定拠出年金(以下「DC年金」という)は多くの企業で導入が進み、加入者数は2018年3月末時点で約650万人と拡大しています。
そのような中、2016年6月に改正された確定拠出年金法では、DC年金を実施する企業は運営を委託している運営管理機関の評価・検討を少なくとも5年毎に行い、必要に応じて委託内容の変更や運営管理機関の変更等を行うことが努力義務とされました。
さらにこの法改正を受けて、2018年7月に確定拠出年金法施行規則をはじめとした省令等の改正が公布されました。この省令等には、事業主による運営管理機関の評価をより実効性のあるものとするための内容が盛り込まれています。

本稿では、今回改正された省令の内容を概説するとともに、従業員の満足度を高め、企業価値向上を図るためには具体的にどのように対応したらよいかについて、英国での先行事例も交えながら解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 2019年7月から、運営管理機関は自身の選定した運用方法(運用商品)の一覧の公表が義務付けられる。複数の運営管理機関の比較が行いやすくなるため、DC年金実施企業は、このタイミングに合わせて評価の実施を検討することが考えられる。
  • 運営管理機関を評価し、変更の必要性を検討するためには、委託先以外の運営管理機関の情報も入手して比較検討することが有効となる。そのために、運営管理機関への提案依頼やコンペ等を通じて情報を入手することも検討に値する。
  • 英国では、トラスティー(DC年金運営受託者)によるValue for Members(加入者への価値提供)の評価が義務付けられている。その他にも企業が自主的にアセスメントを行う等、加入者に対して本当に価値のあるDC年金を提供できているかを検証する実務が普及している。こういった手法を参考にすることで、単なる運営管理機関の評価に留まらず、DC年金運営全般にわたる検証とその後の制度改善に繋げることができると考えられる。

I.確定拠出年金法と省令等の改正内容

1.2016年6月公布の確定拠出年金法の改正

2016年6月に改正された確定拠出年金法では、企業型確定拠出年金(以下「DC年金」という)の運営管理業務を外部に委託する企業は、少なくとも5年毎に委託している運営管理機関の評価・検討を行い、必要に応じて委託内容の変更や運営管理機関の変更等を行うことが努力義務とされました(同法第7条第4項)。本改正は、2018年5月1日から施行されています。なお、本改正では運営管理機関の業務提供等に関する内容も盛り込まれていますが、本稿のテーマからは外れるため割愛します。
「確定拠出年金について(法令解釈)」において、改正の背景について以下のとおり触れています。

  • 事業主はもっぱら加入者等の利益のみを考慮し運営管理機関を選定することが必要である。
  • 制度発足時点で評価した運営管理機関の体制や運用の方法がその時点で望ましいものであったとしても、期間の経過により必ずしもそうでなくなる可能性がある。
  • こうした点を制度の実施主体として、自身で点検・確認し、運営管理機関との対話等を通じて、改善していくことが必要である。

上記に加えて、実際には金融機関との取引関係等を考慮して運営管理機関を選任したケースも想定されることや、運営管理機関にはグループ会社の運用商品を優先的に採用するインセンティブが働きやすいといった懸念も、以前から指摘されています。こうした状況を受けて、健全なDC年金の運営を実現するために、定期的に運営管理機関の評価を行い、必要があれば運営管理機関の変更その他の必要な処置を講ずるよう努めるべきということが、今回の改正に盛り込まれました。

2.2018年7月公布の省令等の改正

上記の法改正を受けて、2018年7月に確定拠出年金法施行規則をはじめとした省令等の改正が公布されました。重要なポイントは2つあり、運営管理機関の評価における具体的な評価項目が挙げられたことと、運営管理機関は自身の選定した運用方法(運用商品)の一覧の公表が義務付けられることです。


(1)運営管理機関の評価における具体的な評価項目

まず、「確定拠出年金について(法令解釈)」において、運営管理機関の評価における具体的な評価項目として図表1の内容が挙げられています。

図表1 運営管理機関の評価における具体的な評価項目

出典:「確定拠出年金制度について(法令解釈)」(平成30年7月24日改正)をもとに、筆者が作成

内容を見ていくと、運用商品が特定の金融グループに偏っている場合や、他の同種の商品よりも劣っている場合に、継続的な採用に合理的な説明がつくかどうかに焦点が当てられていると言えます。また、運用のモニタリングや、加入者等への情報提供の視点も盛り込まれています。
図表1に挙げられている項目以外についても、「点検すべき項目や手法については、その企業の規模や加入者等の構成、制度導入からの定着度、投資教育の充実度等により、それぞれの事業主において異なると考えられます。確定拠出年金運営管理機関から運営管理業務に付随して提供を受けているサービス(たとえば、投資教育を委託している場合の投資教育の内容や方法等)で点検すべき項目があれば、当該項目についても評価することが望ましい」という旨が追記されています。


(2)運営管理機関の運用商品の公表

次に、運営管理機関の運用商品の公表については、2019年7月から、運営管理機関は自身の選定した運用方法(運用商品)の一覧を公表することが義務付けられます。厚生労働省は運用商品の公表のイメージを公開しており(図表2)、それによると、主な項目は、「分類」(株式or債券、アクティブorパッシブ等)、「運用商品名」、「運用会社」、「商品情報・運用実績」、「手数料」(販売手数料、信託報酬、信託財産留保額)等となっています。

図表2 運用の方法の公表イメージ

出典:厚生労働省ホームページ「運用の方法の公表イメージ」をもとに、筆者が作成

これにより、DC年金実施企業は、各運営管理機関の運用商品選定の考え方を把握することができ、個々の運用商品の評価も行いやすくなります。また、公表はインターネットを利用して閲覧可能とする必要があり、少なくとも年1回更新することが求められています。
複数の運営管理機関の比較が行いやすくなるため、企業としては、このタイミングに合わせて運営管理機関の評価の実施を検討することが考えられます。

II.英国での評価実務

日本で導入された「運営管理機関の定期的な評価」にどのように取り組むべきかを検討するうえで、先行している英国での評価実務は参考になると考えられます。

1.英国のDC年金

英国では1990年代以降、企業型のDC年金の導入が進んできていますが、2012年から年金自動加入制度(原則として従業員を全員、企業年金に加入させる)が始まったことで、特に近年、DC年金の加入者数が急速に増加しています。その状況を受けて、2015年にDC年金のガバナンスを強化する法改正が行われ、さらに2016年に実務の指針となるDC Code of Practice(DC実務規範)の改訂が行われました。
なお、英国のDC年金は大きく分けて、Trust型とContract型があり、Trust型は日本の基金型(別法人の基金を設立)、Contarct型は日本の規約型(会社が直接、委託先と契約)の年金制度と類似しています。このうち、Trust型ではトラスティーと呼ばれる意思決定および運営を行う機関を設置する必要があり、通常、事業主代表数名と加入者代表数名から構成されています。2015年の法改正では、主に加入者保護の観点から、DC年金の受託機関が対応すべき事項に加えて、Trust型制度のトラスティーが従うべきガバナンス基準が強化されました。

2.Value for Members(加入者への価値提供)

改訂されたDC Code of Practiceは、Trust型制度のトラスティーがガバナンス基準を満たすための重要項目を具体的に示しており、図表3に示す6つの項目(情報提供と報告、Value for Members、投資ガバナンス、トラスティー、制度管理能力、事務)から成っています。

図表3 英国のDC Code of Practiceにおけるガバナンス重要項目

このなかで、Value for Members(加入者に対する価値提供、以下「VfM」という)について少なくとも3年に1回評価を行い、ガバナンスに関するトラスティー報告書を作成することが求められています。
ただし、VfMに関する具体的な評価項目はDC Code of Practiceにも記載はなく、年金監督局も「VfMの評価に唯一の方法は存在しないため、各制度と加入者の状況を反映した評価方針を設定する」ことをトラスティーに求めています。そこでKPMG英国では、以下の7つの領域を定め、トラスティーと協議のうえで各領域について10個程度の質問を設定して評価を行うことで、トラスティーの活動を支援しています。
 

  1. 手数料水準(口座管理手数料・信託報酬の水準等)
  2. 投資戦略と運用実績(デフォルトファンドの妥当性、パフォーマンスの評価等)
  3. 退職時の支援(フィナンシャルアドバイザーへのアクセス、利用可能なツール等)
  4. ガバナンス(職掌の文書化、トラスティー自身の教育・研修、事務のモニタリング等)
  5. 事務(サービス水準、加入者サポート等)
  6. 掛金水準(事業主負担拠出額等)
  7. 加入者への教育(オンラインツール、セミナー等)


わが国のDC年金に関する「法令解釈」(図表1)で挙げられているのは、純粋に運営管理機関を評価するための項目であるのに対して、VfMは加入者に対する価値提供の評価であるため、事業主負担の掛金水準や、トラスティー自身の教育・研修といった内容も含まれています。また、運営管理機関に対する評価で「法令解釈」に含まれていない視点としては、2.「投資戦略と運用実績」におけるデフォルトファンドの妥当性や、4.「ガバナンス」における事務のモニタリング等が挙げられます。

3.企業によるアセスメント

VfMの評価がトラスティーの義務であるのに対して、それとは別に、企業が制度のアセスメントを行うケースも増えています。基本的な評価項目はVfMと同じですが、企業として、制度をどう改善すべきかを検討するために実施されています。

III.法改正への具体的対応

1.評価のタイミング

運営管理機関の評価は「少なくとも5年毎」とされていますが、既にDC年金を導入している企業は、法の施行日(2018年5月1日)から5年以内となります。そのため、法令上は必ずしもすぐに評価の準備に取り掛かる必要はありません。ただし、DC年金では、確定給付型年金と異なり加入者である従業員個々人が運営管理機関のサービスや運用商品の善し悪しの影響を直接的に受けるものであり、運営管理機関等を選んだ企業に対して不満を持つことも想定され、実際に米国ではそのような訴訟も散見されています。DC年金の人事戦略上の意義や掛金負担の大きさも勘案すれば、5年以上前にDC年金を導入してから、定期的なモニタリングや運営管理機関の評価をこれまでに行ってこなかった企業は、早いタイミングで評価を実施することも検討すべきでしょう。前述のとおり、2019年7月から運営管理機関は運用商品の一覧を公表することが義務付けられますので、それが1つの契機となると考えられます。

2.他の運営管理機関との比較

運用商品の一覧が公表されるとは言え、「法令解釈」で挙げている「運用の方法のモニタリング」や「コールセンターや加入者ウェブ」といった項目についての詳細は公表が求められていません。しかし、運営管理機関を適切に評価し、変更の必要性を検討するためには、委託先以外の運営管理機関の情報を入手して比較検討することも有効となります。そこで、DC運営業務の提案依頼やコンペ、質問書を通じて複数の運営管理機関から情報を入手することも検討に値するでしょう。そのような依頼の際には、各社の比較が可能となるような質問項目を事前に整理し、回答を依頼することが考えられます。
なお、こういった提案依頼や運用商品の分析、各社の比較評価を適切に行うためには、一定の専門知識が求められます。企業内のリソースだけでは難しい場合は、専門的な知見を有する外部のアドバイザーを活用することも選択肢となるでしょう。

3.加入者への価値ある制度の提供

前章で解説した英国での先行実務は、法規制やDC年金を取り巻く環境が日本とは異なる部分もあるため、すべてをそのまま適用できるわけではありません。一方で、具体的な評価ポイントは参考になるものがあると考えられます。さらに、英国で行われているように、単なる運営管理機関の評価に留まらず、企業側の対応状況も含めて「加入者に価値のある制度を提供できているか」という視点でより広範な検証を行うことは、DC年金の運営全般の改善を目指す企業にとって有効と考えられます。

4.よりよい制度運営のために

DC年金が従業員の報酬制度として有効に機能し続けるようにするためには、単に5年毎に運営管理機関等の評価を行うだけでなく、継続的なモニタリングや改善活動が重要と考えられます。たとえば図表4のような視点とサイクル(Plan・Do、Check、Action)による取組みを継続的に行うことで、従業員満足度を高め、結果的に企業価値向上にも資すると考えられます。

図表4 DC年金における取組み例

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
金融事業部 金融アドバイザリー部
ディレクター 萩原 浩之

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