コーポレートガバナンス報告書にみる改訂コードへの対応状況 | KPMG | JP
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コーポレートガバナンス報告書にみる改訂コードへの対応状況

コーポレートガバナンス報告書にみる改訂コードへの対応状況

本稿では、コード改訂から3ヵ月経過後の日本企業の対応状況について、KPMGが各社のコーポレートガバナンス報告書をもとに調査した結果とともに、改訂コードへの対応状況を解説します。

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2018年6月1日、コーポレートガバナンス・コードの改訂が行われ、「投資家と企業の対話ガイドライン」が策定されました。
コードの改訂は、いわゆるコーポレートガバナンス報告書に記載すべき内容が変わるということにとどまらず、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目的として、投資家との重点対話事項を定め対話の実効性を高めることにより、経営陣による、より一層の果断な経営判断を求める内容となっています。
これにより、上場企業は、改訂コードへの対応として改訂後のコードに基づいたコーポレートガバナンス報告書を、準備ができ次第速やかに、かつ、遅くとも2018年12月末までに行うこととされています。
そこで本稿では、コード改訂から3ヵ月経過後の日本企業の対応状況について、KPMGが各社のコーポレートガバナンス報告書(2018年9月30日時点)をもとに調査した結果とともに、改訂コードへの対応状況を解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 2018年9月30日時点において、改訂コード適用後にコーポレートガバナンス報告書を更新した企業約2,500社(約70%)のうち、改訂コードに基づいている旨を明示している企業はわずか約10社、改訂コードで新設された開示項目を開示している企業は約100社にとどまり、大多数の企業は、2018年12月の期限に向け、これから対応が本格化する状況である。
  • 改訂コードでは、CEOの解任の方針及び手続、後継者計画の策定・運用と監督、ジェンダー・国際性を含む取締役会の多様性確保、政策保有株式の縮減に向けた方針・考え方の開示、企業年金の機能発揮に向けた取組みなど、より一層ガバナンスの実効性を高めるための対応が求められており、改訂コードの趣旨を理解したうえで、先行事例のベストプラクティスを参考に対応を進めることが有効である。

I. 改訂コード対応のコーポレートガバナンス報告書の提出状況

KPMGが2018年9月30日時点の最新のコーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「ガバナンス報告書」という)をもとに調査したところ、改訂コードが適用された後にガバナンス報告書を更新した企業は約2,500社あり、上場企業のおよそ70%となっています。そのうち、ガバナンス報告書上で改訂コードに基づいている旨を明示している企業はわずか約10社にとどまり、改訂に対応しているかどうかを明示していない企業が大多数を占めている状況です※1
そのようななか、例えば、改訂コードで新設された原則2-6の企業年金の機能発揮に向けた取組みの状況について開示している企業を調査すると、およそ100社あり、実際には改訂コードへの対応企業はもう少し多い状況です(図表1参照)。
いずれにしても、大多数の企業は2018年12月の期限に向け、これから対応が本格化するものと思われます。

※1 コード改訂後は、改訂版コードに基づくものと改訂前のコードに基づくものとが混在することとなるから、利用者のわかりやすさの観点から、更新の際に新旧コードいずれかに基づく記載であるかを明記することが望ましいとされているが(田原泰雅ほか「コーポレートガバナンス・コードの改訂と「投資家と企業との対話ガイドライン」の解説」旬刊商事法務、No.2171)、ルール化されてはいない。

図表1 改訂コード対応のガバナンス報告書の提出状況

II. 先行事例の開示傾向と対応状況

次からは、改訂コードの主な項目に関してガバナンス報告書における先行事例の開示傾向と対応状況について考察します。

1. CEOの解任の方針・手続の開示

改訂コード
CEOをはじめとする経営陣幹部について、選任のみならず、解任も含めた方針・手続、個々の選解任の説明を開示し、主体的な情報発信を行うべきとしている(原則3-1)。
ガバナンス報告書における開示状況
  • 原則3-1で「解任」という記載がある企業は約240社
  • タイトルだけ「選任」から「選解任」に変更しただけの企業が多い
  • 「解任」の基準等の開示まで行っている企業は少ない



CEOの選解任については、選任だけでなく解任に言及する企業がみられましたが、解任を検討するための手順を中心に記載される例が多く、解任のための具体的な基準や指標などを記載する事例はありませんでした。
CEOの解任は、上場企業の業績等の評価や経営環境の変化等をふまえ、硬直的な運用によることなく、機動的に行うことが求められるところ、補充原則4-3[3]において求められている「客観性・適時性・透明性ある手続」の「適時性」には、そうした対応を可能とするとの趣旨が含まれるものとされています。事例は、ガバナンス報告書に解任の具体的な指標を掲げることの難しさを物語っていますが、CEOの選解任手続が実効的なものとなっているかどうか、対話ガイドライン3-4の趣旨をふまえ、投資家と上場会社との間で建設的な対話が行うことが重要です。
先行事例のなかには、指名諮問委員会が、CEOの解任について、業績目標に対する定量面などを定期的に評価したうえで、取締役会への付議要否の審議を行うことを記載している事例がみられました。また、CEOの目標達成状況に加えて、後継者候補の成果発揮等の状況もふまえることを記載している事例がみられました。これは、現職を解任するということだけでなく、解任後の後継者の選任についても検討しなければならないという実務的な事情を考慮した事例と考えられ、今後検討を進める企業にとって参考になると思われます。

2. 後継者計画の策定・運用と監督

改訂コード
後継者計画については、取締役会は、CEO等の後継者計画の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督すべきとしている(補充原則4-1[3])。
ガバナンス報告書における開示状況
  • 「後継者」という記載のある会社は約340社
  • 後継者計画は、各原則を実施しない理由(エクスプレイン)として開示する事例が多い



後継者計画については、現時点で未実施であっても、それを実施に向けた重要な課題として認識し、検討を始めた事例が多くみられました。
他方、すでに後継者計画を作成、運用済みの企業の事例のなかには、後継者候補の選定の際に、社内データだけでなく第三者機関の診断をふまえて指名・報酬委員会が審議すると記載している事例や、経営陣としてのあるべき姿を具体的に明記し、評価・育成指標を共有して中立的に育成・選抜するといった具体的な方針を記載している事例がありました。先行事例は、後継者選定を現経営者の専決事項とせず、取締役会が後継者計画の策定・運用に主体的に関与するうえで、客観性・透明性を意識して運用していることがみてとれます。
取締役会が後継者計画の策定・運用に主体的に関与するうえでは、形式よりも実質が重要であり、そうした観点からは、補充原則4-1[3]では、必ずしも後継者計画を文書の形式で策定することを求めるものではないものの、後継者計画の実効性を高める観点からは、例えば、計画の重要な部分については文書にするなど、上場企業ごとに工夫が求められます。
なお、経済産業省では、2018年9月28日に「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」を改訂し、後継者計画に関する記載を全面的に改訂しています。併せて、後継者計画の策定・運用に取り組む際の基本形となる標準的な7つのステップや、社内者と社外者の役割分担の在り方、後継者計画の言語化・文書化の必要性などについての考え方を整理するとともに、先進的な企業の取組事例を紹介しており、参考になると思われます。

3. 取締役会メンバーの多様性確保等

改訂コード
取締役会は全体として適切な知識・経験・能力を備えることが求められるなかで、その機能を十分に発揮していくために、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきであるとしている(原則4-11)。
ガバナンス報告書における開示状況
  • 「ジェンダー」や「国際性」という記載がある企業は約40社
  • 多様性に賛成で、女性、外国人が現状何名であるかを示したうえで、不足感を今後の課題とする事例が多い
  • 具体的な目標人数や割合等を設定した事例はない
  • 多様性に対する対応状況は同様でも、コンプライとエクスプレインに分かれた



補充原則4-11[1]において、取締役会の多様性および規模に関する考え方を定めて開示することが求められており、利用者にとってより付加価値の高い記載とする観点から、例えば、取締役会の多様性確保に向けた具体的な目標・取組み等について開示を行うことも想定されています※2。しかし、先行事例には、取締役会の多様性の確保のための具体的な目標人数等を掲げたものはありませんでした。また、多様性に対する対応状況は同様でも、コンプライとエクスプレインに分かれており、プリンシプル・ベースのコードならではの現象といえるでしょう。
先行事例のなかには、多様性こそが成長のエンジンであるとして「基本的な考え方」にダイバーシティ活動を推進することを明記している事例や、ジェンダーの多様性が重要であるとしたうえで、取締役候補者の出身業種・主な経営経験および得意分野等の「キャリア・スキルマトリックス表」を作成し、キャリア・スキルのダイバーシティを考慮した具体的な取組みを記載している事例がありました。多くの企業が取締役会の多様性を課題として認識しているなかで、このような先行事例の取組みは今後検討を進める企業にとって参考になると考えられます。

※2 東京証券取引所「『フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について』に寄せられたパブリックコメントの結果について(2018年6月1日)」、コメントに対する考え方(以下「パブコメ回答」という) No.134~139。

4. 政策保有株式の縮減に向けた方針等の開示

改訂コード
政策保有株式の「縮減」に関する方針・考え方などを開示すべきであるとしている(原則1-4)。また、毎年、「個別の」政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証すること、検証内容について開示することを求めている。
ガバナンス報告書における開示状況
  • 政策保有株式の「縮減」という用語を使用している企業は約30社
  • 合理性がないものに限って縮減することを基本方針とする事例が多い
  • 営業上の取引関係強化等、縮減対象外とする理由が具体的ではない事例が多い



政策保有株式の縮減方針については、資本効率を意識した事例が一定程度あり、そこでは「資本コスト」という用語は記載されているものの、具体的な計算方法や数値を明示した事例はみられず、政策保有株式の資本効率という観点の説明の難しさがみてとれます。
原則1-4は、保有の要否の「検証の内容」について開示することを求めるものですが、それは必ずしも個別の銘柄ごとに保有の適否を含む検証の結果を開示することを求めるものではないとされる一方で、単に「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった、一般的・抽象的な開示ではなく、取締役会における検証に際し、コードの趣旨をふまえ、例えば、以下のような内容を開示することが期待されています※3

  • 保有の適否を検証するうえで、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
  • 設定した基準をふまえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
  • 議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか

先行事例のなかには、銘柄数を前期比較して説明し、「縮減」の実績を説明する事例や、経済合理性の検証基準として、具体的な数値基準(年度利益に寄与した割合が会社の5年平均ROAをおおむね2倍下回る場合、会社との年間取引が1億円未満となる場合等)を記載した事例がみられました。改訂コードに沿って「縮減」実績を説明したり、改訂コードの主要なテーマである資本効率を意識してその具体的な計算方法を説明している事例が出てきています。

※3 パブコメ回答No.221~233。

5. 企業年金の機能発揮に向けた取組み

改訂コード
母体企業においても、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることをふまえ、企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を実効的に発揮できるよう、人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきであるとしている(原則2-6)。
ガバナンス報告書における開示状況
  • 原則2-6の開示を行っている企業は約100社
  • 「利益相反の防止のため企業年金担当者の配置」、「外部の研修等への参加で知見を強化」などシンプルな記載が多い



企業年金の機能発揮については、金融機関をはじめとしてスチュワードシップ・コードを受け入れている企業は、組織的な管理体制や外部専門家で構成される資産運用委員会等を活用している状況や、厚労省のガイドラインに従って対応していることなど充実した記載となっています。
一方、スチュワードシップ・コードを受け入れていない企業年金の母体企業のなかには、例えば、中立性があり、かつ、独立した外部コンサルティング会社から助言を得ていることや、利益相反防止のために外部コンサルティング会社の評価を取得して運用先の選定をしていることを記載した事例がありました。スチュワードシップ・コードを受け入れているかどうかにかかわらず、それぞれの企業年金の体制や規模をふまえ、企業の置かれた状況に応じて、外部専門家の活用に取り組むなど、改訂コードへの対応の動きが出始めています。

III. おわりに

上場企業は、改訂後のコードに基づいたガバナンス報告書を、遅くとも2018年12月末までに提出することが求められています。先行事例によるベストプラクティスや実務指針も参考に、形式的なコンプライ・オア・エクスプレインにとどまることなく、投資家との建設的な対話を通じ、改訂コードの趣旨をふまえた実効的な取組みと充実した開示が進展することが期待されます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス (CoE)
パートナー 和久 友子
マネジャー 大野 敦

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