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日系企業の海外事業管理

日系企業の海外事業管理

昨今、日系企業の海外進出が行われる状況下において、本稿では、事業の特性とライフサイクルに応じた管理方法に焦点をあて、そのあり方について解説します。

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昨今、国内市場が縮小しており日系企業の海外進出やM&Aが行われる状況下において、日系企業は現地化が遅れている、できていない、または、地域や現地法人に権限を十分に委譲できていないという声を耳にします。
ただし、事業特性を踏まえた場合、海外にすべての機能を配置し、経営に係る意思決定や権限を委譲することが常に正しいわけではありません。
本稿では、事業の特性とライフサイクルに応じた管理方法に焦点をあて、そのあり方について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 海外における事業・機能の管理のあり方は、個々の企業体質ではなく、事業特性や事業ライフサイクルに応じて、管理のあり方が概ね決まる。
  • ただし、テクノロジー、インフラの発展により、一部の先進国が新事業、製品を開発、育成し、新興国へと展開するビジネスモデルが成立しにくくなっている。
  • 日本の本社で最先端の情報に基づき意思決定できているという考え方を捨て、新規事業の立ち上げ部隊を事業が発現しやすいエリア、都市に設置し、ある程度の投融資、人材採用の権限を委譲する。

I.はじめに

リーマンショック以降、一時の不況を脱した後、全般的な傾向として日本企業はさらなる海外進出、事業展開を目指し、海外への機能移転、権限委譲、および海外企業のM&Aを積極的に行うなどの取組みを進めています。
上記取組みに合わせて、海外に地域統括会社を設立する等、いわゆる現地化を推進していますが、現地化が円滑に進んでいる企業もあれば、進んでいない企業もあります。このメカニズムや要因を整理します。

II.地域管理の目的

地域の管理形態は大きく分けて経営・事業統括型、事業機能統括型、管理機能統括型の3つあります。
形態毎に管理会社(統括)会社を設ける場合もあれば、1つの管理(統括)会社に複数の形態を配置するケースもあります。当然ながら、各企業の事業特性、地域別の事業展開状況などにより異なります(図表1参照)。

図表1 地域を管理・統括するための型とは

III.地域管理のあり方を決める要素

地域管理のあり方を検討するための要素は大きく3つあります。具体的には、管理形態、事業特性、事業ライフサイクルが該当します。企業の事業展開状況に応じてこれら3つの要素を網羅的に検討する必要があります(図表2参照)。

図表2 地域管理の検討要素

1.管理形態

地域を管理、運営するための「組織(ハコ)」の設置傾向は3つのパターンに大別されます。同一企業が同一地域に複数の箱を設置(例:AとB)する場合もあります。図表3に記載のメリット・デメリットを考慮したうえで、法人、組織を設置することが重要です。

図表3 地域を管理・統括するための形態

2.事業特性

地域管理は事業領域と密接に関係しています。
 

(1)地域ニーズに即した事業展開
(消費財・食品/飲料・自動車など)

消費財や食品・飲料のように、各地域、国の消費者ニーズを把握することが重要な事業の場合、本社が現地の実情を理解し、判断に資する現地の情報をタイムリーに入手することは難しいため、本社で適切な意思決定がしにくい場合があります。実情を理解している現地の方が適切かつタイムリーな意思決定が可能となるため、「開発」「製造」「販売」のサイクルに係る権限は現地へ委譲されています。
また、単一事業(たとえば自動車)の場合、本社、地域にかかわらず管理すべき各機能のKPI(例:販売数量、単位あたりの製造単価、リードタイム、工場の歩留まりなど)は変わらないため、現地の情報を本社に連携するシステムを構築しておけば、本社からもリモートで管理、指示・命令ができるため、権限を委譲し易い点も特徴です。


(2)一部機能の一元管理・運営

(機械、エンターテインメント、製薬・建機・化学)
事業特性上、現地の市場動向、地域性を把握する、顧客をきめ細かく管理する必要がある場合、地域に販売・マーケティングに係る機能を配置します。一方で、全体のマネジメントや商品開発に係る機能、権限は本社が有することが一般的です。
当該事業の特徴として、地域で取引先、消費者のニーズそのものに差異はない(「病気を治す」、「山を削る」、「軽くて丈夫な素材」など)ため、地域毎に開発機能や経営機能を配置し、製品開発や経営、意思決定を行う必要性に乏しく、グローバルで一元管理、経営判断が可能という特徴があります。
昨今、一部機能(開発、調達、財務、税務など)については、日本本社ではなく、当該機能に関する経験、スキルを保有した人材を採用しやすく、専門家が豊富でコンタクトがとりやすいアメリカや欧州の都市に配置するケースも見受けられます。


(3)地域の企画・事業組成
(多角化事業:単一事業の権限移譲型)

多角化している企業の場合、地域に経営・事業統括機能を配置していたとしても、各地域で全事業に係る権限(戦略立案、投融資、リソースの再配分など)は本社から委譲されていません。
なぜなら、多角化経営を推進している企業において、一般的に事業の長が業績に責任を負っている以上、事業に係る権限(戦略立案、投融資、人材の配置・登用など)について、地域の長が事業の長より権限を保有することは稀です。そのため、地域が意思決定できることは各事業の長が意思決定できないこと(例:複数事業横断の事業・プロジェクト、新規事業)を担当し、責任を持つことが一般的です。
ただし、多角化している企業でも事業に係る権限を地域に移譲している場合もあります。具体的には、すべての事業についてではなく、単一事業に限って地域へ権限を委譲するケースが該当します(多角化している中の1つの事業が、パターンAとなります)。


(4)管理機能の効率化・高度化の追求
多角化している企業で、事業ごとに地域で配置されている機能が異なる場合、当該地域において全事業の全体像を把握したうえで各事業にかかる意思決定、または事業間の経営リソースの調整、再配分はむずかしく、当該意思決定については本社が行うことが一般的です。
また、M&A(買収)を行った場合、被買収企業の管理体制が確立されている場合、自社の管理手法、仕組み、ルールを導入することは容易ではなく、地域横断の一元管理が一層煩雑になります。
ただし、事業の特性が付きにくい、財務、経理などは比較的事業横断で管理がしやすいため、当該機能の業務を一元化することで、業務の効率化、および高度化、リスク低減にかかる取組みを地域で行うケースが見受けられます。


(5)地域管理を充実させる必要が無いパターン
(一部のB to Bビジネス)

本社から地域に対し、権限を委譲する必要が無いケースもあります。B to Bビジネスで特定少数の顧客のみと取引を行う場合、特定の顧客管理が重要であり、「地域」を管理する必要はありません。その場合、アフターサポートのような拠点を除き、設置の目的と効果を鑑みた結果、海外に法人や拠点を設ける必要が無いケースも考えられます。

3.事業ライフサイクル

事業特性とは別の視点として、事業のライフサイクルに応じて地域に管理機能を配置することも重要です。なぜなら、事業のライフサイクルに応じて事業リスクは変わるため、状況に応じて対処する必要があるからです。
また、地域における課題とはいえ、グループ全体として取り組むべきものが多く、当該事業を遂行している法人だけでは対処しづらいものもあり、本社や地域統括会社が当該課題の対処に関与、支援することによりリスクの低減、課題の発生を抑制すべきです(図表4参照)。

図表4 事業ライフサイクルと対応すべきリスク

(1)立ち上げ期
立ち上げ時期は経営資源(優秀な人材、仕組み)が限定的で、業務を開始することを重視します。特に日系企業では本社や地域統括会社の管理部門が体制構築に積極的に関与するケースがあまり見受けられません。そのため、下記のような課題が発生しやすいことが特徴です。


1.想定リスク

  • 業務の属人化、ブラックボックス化
  • ルール、マニュアルの未整備
  • 脆弱なガバナンス(親会社への報告ルール、コミュニケーション方法)体制


2.本社・統括会社の支援業務案

  • 制度対応(財務・経理・税務)
  • 取組み事例・ノウハウ提供
  • 標準規程類整備


(2)成長期
業務拡大が優先されてしまい、立ち上げ時に対処しきれなかった事項に関する課題(たとえば、業務の属人化、ブラックボックス化、立ち上げ時にスポット的に使用予定だったシステムの未刷新など)が置き去りにされがちです。一般的に当該新設法人が事業組織主導で立ち上げられた場合、管理機能目線の要件が不足しがちであり、法制度への対応不足、内部統制、コンプライアンス体制が充実していない傾向にあるため、従業員による不正や無意識のうちに法制度に対応し切れておらず、追徴課税や訴訟を受けるケースがあります。


1.想定リスク

  • コンプライアンス違反・対応不足
  • 場当たり的な業務展開による効率性の低下
  • 法令違反


2.本社・統括会社の支援業務案

  • 管理水準の底上げ・均一化
  • 業務プロセスの可視化
  • レポートライン・報告事項の整備・管理体制の充実(責任者の採用支援・要件整理)


(3)成熟期
海外における再編や撤退については、事前にリスクを洗い出し、方針を策定したうえで、取組みを進めることが重要であるにもかかわらず、リスクの洗い出しや対応施策の検討が不十分だったために、思わぬリスク(たとえば、従業員の解雇に伴う訴訟、風評被害、当該国からの海外送金不可など)が発生するケースがあります。


1.想定リスク

  • 再編・撤退/清算の遅延
  • 風評リスクの顕在化


2.本社・統括会社の支援業務案

  • 再編・撤退の機能別チェックリスト作成
  • 過去事例のノウハウ提供
  • 専門家のアレンジ

IV.現在の事業の組成・成長パターンの潮流

これまでのように、一部の先進国が新事業、製品を開発、育成し、1つのモデルが先進国のなかででき上がった後に、順次、新興国へ展開、普及していくというビジネス展開プロセスが成立しにくくなっています。なぜなら、ITプラットフォーム、インフラのグローバル共通化が進んできており、構想力と実行力さえあれば、巨大資本を保有しておらずとも、事業の組成、展開ができるからです。
新たなテクノロジーイノベーションの出現により、事業の組成・成長プロセスが大幅に変わってきており、「本社主導」という旧態依然とした考え方や体制では環境の変化についていけない可能性が高いと考えられます(図表5参照)。

図表5 事業展開状況の比較 (過去・現在)

係る状況下、日本の本社が海外における新規事業の意思決定を担っている場合、新事業を発掘、育成するための仕掛け作りを再構築すべきと考えます。具体的には、本社ではなく新事業の発掘、育成を担っている組織に事業方針策定、投融資、人材採用などの権限を委譲する、当該組織に所属する人材の給与テーブル、評価指標を別途定義することで関与者のモチベーション向上、新事業組成に向けてのコミットメントを醸成することなどが考えられます。

V.終わりに

事業特性や事業のライフサイクルに応じて、地域管理のあり方は変わり続けます。また、事業ライフサイクルが短命化傾向にあり、今後もこの潮流が継続するであろうことを鑑みると、地域管理のあり方について、時間を掛けて検討することは望ましくありません。
特に日系企業は、海外における事業管理が重要であるがゆえに、時間を掛けて検討する傾向にありますが、検討している間に事業環境が変わってしまう可能性は十分にありえます。
管理形態、事業特性と事業ライフサイクルを踏まえたうえで、責任と権限のバランスを考えながら、「本社が管理する事項と責任・権限」と「地域、現地法人が管理する事項と責任・権限」を明確にし、迅速に体制を構築、運用することが重要です。
本稿に関するご質問等は、以下の担当者までお願いいたします。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
シニアマネジャー 門田 大介

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