グローバル製造業の展望2018 デジタルでつながる未来に向けた変革

デジタルトランスフォーメーションの意義を探るとともに、今日の製造業が直面する課題、未来への成長に向けたヒントについて解説します。

デジタルトランスフォーメーションの意義を探るとともに、今日の製造業が直面する課題、未来への成長に向けたヒントについて解説します。

IoT、AI(人工知能)、AR(拡張現実)など、新しいデジタル技術の確立により、産業の境界線が曖昧になり、世界の製造業は変革を余儀なくされています。デジタルトランスフォーメーションは、業界のビジネスモデルに広範な影響を与え、製造業のオペレーションに大きな変化を確実にもたらします。デジタルでつながる未来において、価値と競争上の優位性を最大化するためにも、製造業の経営幹部は、今すぐにでも包括的なデジタルトランスフォーメーション戦略を構築しなければなりません。
本レポートでは、デジタルトランスフォーメーションに対して世界各国の製造業がどのような対策をとっているかを探るとともに、日本を含む主要グローバル企業の経営幹部に対するインタビューやKPMGの専門家による考察を交え、今日の製造業が直面する課題を明らかにしつつ、未来への成長や競争優位の実現に向けたヒントについて解説しています。
また、KPMGジャパンでは、本調査の結果をさらに深堀し、日本企業のデジタルトランスフォーメーションにおける現状と課題について補論としてまとめています。

変革へのコミットメント

95%のCEOが、テクノロジーによる破壊は「脅威ではなく、機会である」と回答していますが、この機会を十分に活用できている製造業は限定的です。多くの製造業が未だに、どこからはじめるべきかについて苦慮しています。経営幹部が最初に取り組むべきことは、デジタルトランスフォーメーションにおいて自社が何を達成しようしているのかについて長期的な戦略とロードマップを策定することです。しかし、内外のステークホルダーは短期的な結果を求める傾向にあるため、長期戦略に加えて、早期に達成可能な目標とマイルストーンの設定も不可欠になります。
デジタルトランスフォーメーションは、多くの企業にとって、自社のビジネスモデルやオペレーティングモデルの再考を意味します。デジタルトランスフォーメーションを計画する上で重要なことは、デジタル技術を新たなコスト削減手段として取り入れるのではなく、価値ある製品やサービスを生み出すために戦略的に利用することです。経営幹部は、短期的な収益性にとらわれず、長期にわたって成長を牽引する大胆な方策との間でバランスを取っていかなければなりません。

スピードの必要性

3分の2近くのCEOが、「経営の機動性は存続に影響する重要な要素である」と認めているものの、実際には3分の1以上のCEOが、製造分野における技術イノベーションのスピードに遅れないよう奮闘している状況にあります。デジタルトランスフォーメーションによる利益が実現するには最大で3年を要することを認識し、速やかに計画を立て、機敏に動く必要があります。しかし、誤った技術を選択した場合、時間と資金の両面で多大な損失を被る可能性があるため、十分な計画が必要です。
経営幹部は、競合他社がどのように行動する可能性があるか、競合他社がどの技術に投資するかを把握することが重要です。しかし、デジタルトランスフォーメーションによって産業の境界線が曖昧になりつつあり、参入障壁が下がっているため、既存競合他社だけに注意を向けるのではなく、従来とは異なる企業が自社に脅威をもたらす可能性を認識しておかなければなりません。

ロボットは労働者を進化させる

41%のCEOが、今後3年間におけるAI活用の最大の効果は、データアナリティクス機能とデータガバナンス強化であろうと考えています。組織がAIや予測的アナリティクスのようなツールに適応できたとしても、人の判断、経験、直観が重要な役割を果たし続けることに変わりはありません。デジタル技術は、人間の判断を補完するものであり、それに取って代わるものではありません。実際、デジタルトランスフォーメーション戦略が組織全体に浸透しない限り、その十分な利益が実現する可能性は低いと考えられます。そのため、経営幹部は人への投資を行い、会社のトップから社員までマインドセットを根本的に変えることが必要です。
また、デジタルトランスフォーメーションを推進するためには、新技術を使いこなせるスキルを持った人材が必要であり、データサイエンティストの需要が高くなることが予想されます。データサイエンティストは、今後、全産業を通じて最も必要とされていくため、製造業は、デジタル化戦略を加速させる上で、必要な人材の獲得に先手を打つ必要があります。

ロボットが人間に取って代わることはない

ロボットが人間に取って代わることはない

出典:Global Manufacturing Outlook data from 2018 Global CEO Outlook, KPMGインターナショナル

取引関係の深化

複雑さを増すグローバルサプライチェーンをより良く管理するためには、デジタル・コネクティビティが不可欠です。デジタルサプライチェーンのネットワークには、複雑な戦略的提携が必要です。実際、3分の1以上のCEOが、今後3年間の成長目標を達成するためには戦略的提携が欠かせないと回答しています。
強度の弱いサプライチェーンは、より弾力性があり、かつ多次元のサプライヤー、顧客、ビジネスパートナーによる信頼できるネットワークに置き換えられつつあります。プライムメーカーがサプライヤーに対して、より厳しい業務基準、コンプライアンスを要求し、サプライヤーは、サイバー対策やERPの完成度など、高度な事業体制を整備しておく必要があります。またOEMメーカーがサプライヤーに対してより機敏な対応を求めているため、サプライチェーンの透明性を高めることが一層重要になっています。こうした傾向により、企業は相互依存の度合いを一層強めています。デジタル接続性は組織同士が互いに強く依存することを可能にし、エコシステムの発展を加速させています。

グローバルリスク

グローバルなコネクティビティ(接続性)が高まると、特に地政学的な不確実性とサイバー攻撃の脅威という2つの点でリスクが増大します。55%のCEOが、自社の成長に最も脅威をもたらすリスクとして、保護主義への回帰を挙げています。地政学的状況の変化は、必ずしもグローバルな拡大に歯止めをかけるものではありませんが、それによって企業が投資戦略を慎重に検討するようになったことは間違いありません。
また、製造業のCEOの多くがサイバー攻撃のリスクを認識しています。それにもかかわらず、製造業のCEOは、他の産業のCEOと比較して、サイバーセキュリティリスクに対処する自社の能力をあまり信頼していないという結果が出ています。しかし、サイバー脅威に屈したままデジタルトランスフォーメーションを完了できるはずがありません。これらの脅威を緩和する方法について調査するともに、組織的にサイバー攻撃の懸念を克服できるような体制づくりが求められます。

2つのリスク

2つのリスク

出典:Global Manufacturing Outlook data from 2018 Global CEO Outlook, KPMGインターナショナル

日本企業のデジタルトランスフォーメーション

本調査において、「デジタル投資の投資対効果の定量的な算出方法について自社は理解しているか?」という質問に対し、海外企業は7割強が「よく理解している」以上の回答であるのに対し、日本企業は4割強にとどまりました。今後、日本企業には、デジタルテクノロジー経営や業務に対する貢献についての理解を高めるとともに、投資の目的や目標を明確にした、能動的な投資が必要となります。
また、デジタルトランスフォーメーションに関する投資に対して、経営層が過度な期待を抱いており、すでに実績をあげつつある海外企業よりも日本企業の方が効果を出すまでの時間を短く見積もっているようです。
これらの調査結果から読み取れることは、日本企業のデジタルテクノロジー投資は楽観的であり、それゆえに明確な投資対効果が得られ難いであろうということです。
デジタル投資は、目的や目標を曖昧にしたまま投資を繰り返すことは時間と資源の無駄となるため、テクノロジーの正しい活用を推進するための担当役員や専門部署の設置、全社的なテクノロジーリテラシーの向上に基づく現場視点での活用案の策定、アジャイル型アプローチによる投資対効果の段階的刈り取りが重要になるでしょう。

本レポートでは、日本の製造業におけるデジタルテクノロジーの活用例として、スマートファクトリーについて解説するとともに、インダストリー4.0を実現するための次世代のモノづくりを具体化する技術要素として重視されているデジタルツインについて詳しく解説しています。


レポートの全文については、以下のダウンロードPDFをご参照ください。

英語コンテンツ(原文)

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