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タックスプランニングの導入により、3年間で数十億円の租税負担適正化を実現

タックスプランニングの導入により、3年間で数十億円の租税負担適正化を実現

グローバルタックスマネジメントを実現する10のポイント 第13回 - 納税意識が高い日本企業の間では、「タックスプランニング」という言葉はネガティブな意味で認識されがちだ。だが、本来タックスプランニングとは租税負担の適正化対策であり、企業の持続的成長を支えるフリーキャッシュフローを創出するための手段である。本稿では、タックスプランニングにより、フリーキャッシュフローの創出に大きく寄与した事例を紹介する。

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タックスプランニングとは「支払う必要のない税金」を防ぐための合法的手段

一部の欧米多国籍企業の過剰なタックスプランニングは世界的な批判を浴び、BEPS問題が世界を震撼させたことは記憶に新しい。こうした経緯から、企業の納税意識が高い日本では、「タックスプランニング」という言葉は「各国の税法の抜け穴を利用して、本来支払うべき税金を極限まで減らすプランニング」というネガティブな意味合いを帯びることとなった。
だが、本来タックスプランニングとは「租税負担の適正化を行うこと」であり、企業価値を高めて経営状況を良好に保つために欠かせない取組みの1つである。その意味で、明治以降、タックスプランニング不在の経営を続けてきた日本企業の多くは、「納税は企業の社会的義務」という美名の下で、本来「支払う必要のない税金」まで支払い、株主価値を損なってきたといっても過言ではない。

各国の税制は多様かつ複雑を極め、BEPS問題を機に、各国の税務当局は課税姿勢を一層強めている。そんな中、海外展開を進める企業が「支払う必要のない税金」を課されるリスクは高まる一方であり、企業規模が大きいほど、その税額は膨大なものになりがちだ。一方、合法的・道義的に許容される範囲で租税負担の適正化を行い、「支払う必要のない税金」を未然に防ぐことができれば、フリーキャッシュフローはおのずと拡大し、企業経営の健全化につなげることができる。

では、どうすればタックスプランニングを成功裡に導入することができるのか。
以下、国内有数の製造業であるXYZ社が、タックスプランニングによって企業経営に莫大なメリットをもたらした事例を紹介する。

税務コストの最適化により、フリーキャッシュフローの創出を目指す

XYZ社は世界数十ヵ国に拠点を持ち、日本を代表する製造業の1つである。
同社は、中期経営計画で「数千億円単位のフリーキャッシュフローを3年間で創出する」というグループ経営目標を掲げ、トップダウンで経営改革を進めていた。これを受けて、経理グループでも課題の洗い出しが行われたが、その過程で浮上したのが、「グローバルな税務ガバナンスが不在であるがゆえに、世界中で支払う必要のない税金を払っている」という事実であった。
こうした経緯から、同社は抜本的な税務体制の見直しに着手。「支払う必要のない税金」を解消することによりフリーキャッシュフローの縮小を食い止めるべく、本格的な検討をスタートさせたのである。

とはいうものの、「支払う必要のない税金」を解消するためには、まずは各国子会社がどのような項目でいくら課税されているのか、その状況を的確に把握する必要がある。しかし、同社では、数百社に及ぶ全子会社の税務ポジションを網羅的に把握できるような仕組みは構築されておらず、海外税務についての知見やノウハウも不足していた。(6. 税制・税務ポジション情報の収集
また、本社税務部門は、税務の観点から事業の妥当性をチェックする決済権限を持たず、事業部が税務コストを増大させるような事業計画を策定しても、歯止めを利かせる術を持たないのが実情であった。(1. 税務戦略はオペレーション(事業)であるという認識2. 事業意思決定時における関与

こうした経緯から、同社CFOはKPMG税理士法人に協力を要請。XYZ社とKPMG税理士法人は、日本では過去に例のない、大規模なグローバルタックスプランニング導入プロジェクトを立ち上げた。
目標は、フリーキャッシュフローの創出に寄与するため、「過剰な税務コストを3年間で数十億円減らす」こと。この壮大な目標達成に向けた第1ステップとして、プロジェクトではグローバルな税務ポジションの把握と、タックスプランニングアイデアの抽出を行うこととなった。

KPMGグローバルや顧客企業と協議を重ね、実現可能なアイデアを抽出

まず、グループ内の税務ポジションを把握するため、質問票を作成して各国子会社に送付。これに回答してもらう形で、タックスプランニングに必要なデータ項目(例:税引前利益、課税所得、税率、繰越欠損金残高、各種税額控除、配当可能利益、現預金残高など)を収集した。
その結果を一覧表にまとめ、各国子会社の税務活動の状況を「見える化」。これらの社内情報をもとに分析を重ねた結果、多くの国や地域で、「支払う必要のない税金が過剰に納付されている」実態が見えてきたのである。

例えば、XYZグループでは、1つの国に複数の子会社を有しているケースが多い。事業部ごとに海外に子会社を設立する動きが常態化していたことに加え、独自の海外拠点を持つグローバル企業を買収した経緯があるためだ。こうした場合、もし国ごとに子会社を統括する親会社があれば、現地の連結納税制度により、子会社間で黒字と赤字を相殺できる可能性がある。だが、同社の海外拠点には共通の親会社がないため、たとえ拠点全体では赤字だったとしても、連結納税制度のメリットを享受することができない。

そこで、KPMGジャパンの税務専門家チームは、連結納税制度を適用するため、各国で「共通の親会社を設立する」、もしくは「複数の子会社を合併して1社に集約する」というアイデアを提言。同様に、各国子会社の税務活動の現状を把握して、70近いタックスプランニングのアイデアを提案した。
さらに、アメリカ・ヨーロッパ・アジア太平洋地域のKPMG担当チームとブレーンストーミングを行い、アイデアの中から実現可能なものだけを抽出。その上で、XYZ社の本社税務部門や事業部とともに検討を重ね、詳細なフィージビリティスタディ(実行可能性調査)を行った。

トップダウンで組織の壁を乗り越え、タックスプランニングのアイデアを導入

とはいうものの、いざタックスプランニングのアイデアを導入する段階になると、法務・人事労務・情報システムなど、様々な部門が壁として立ちはだかった。
なかでも、最も大きな壁となったのが事業部である。
タックスプランニングの中には、ビジネスモデルの見直しも含まれており、その中には結果として、事業部の営業利益が減少してしまうこともあるが、営業利益は事業部のKPIとして設定されていることが多い。このため、自部門の営業利益を減らすようなタックスプランニングのアイデアが、事業部にとって受け入れがたいのは自然の理であった。

当初プロジェクトでは、低税率国の子会社に機能と利益を集約させ、グループ全体で税務コストを適正化することを検討した。だが、このアイデアは、事業部からの激しい抵抗を呼び起こすこととなった。
「こんな組織再編が実行されれば、うちの部門のKPIは達成できなくなる。そうなれば、KPIと連動した賞与も減額されてしまう。こんな案は到底受け入れられない」と、事業部からの強硬な反対に遭い、頓挫するケースが続出。また、情報システム部門からも、「当社のシステムは、こうした組織変更やビジネスモデルの変更に対応できる仕様にはなっていない。もし仕様を変更した場合、膨大な金額のシステム変更費用が必要になる」と、懸念の声が上がった。

タックスプランニングによるグローバルな税務コストの適正化は、大規模な組織の改変と利害関係の衝突を生む。プロジェクトは数多くの困難に直面したが、KPMGの担当チームはXYZ社の税務担当者とともに各部門を回り、懸命に説得を続けた。

最終的にものを言ったのは、「数千億円のフリーキャッシュフロー創出」と「数十億円の税務コスト削減」を実現せよ、というトップの大号令であった。
当初発案した70近いタックスプランニングのアイデアは、KPMGの欧米・アジアの専門家やXYZ社の税務部門や他部門との協議の結果、約20件まで絞り込まれた。今回のプロジェクトにより、「グローバルサプライチェーンの見直しによる源泉税の削減」(1. 税務戦略はオペレーション(事業)であるという認識、「海外子会社の繰越欠損金の税効率の最適化」(6. 税制・税務ポジション情報の収集)、「「連結納税制度の導入」(グローバルタックスマネジメントこそ競争優位確立のための基盤)など、多岐にわたるタックスプランニングアイデアが導入され、XYZ社のプロジェクトは成功裡に終了したのである。

税務戦略の重要性に対するトップの意識改革

XYZ社におけるグローバルタックスプランニングの導入効果は、目覚ましいものであった。
「支払う必要のない税金」の解消による適正化効果は3年間で数十億円に上り、経理グループは中期経営計画で掲げた部門目標をクリア。のみならず、グローバルな組織再編と税務コストの最適化を成し遂げた成功体験は、本社税務部門に大きな自信を与え、タックスプランニングへのさらなる積極姿勢を生んだ。また、トップマネジメント層の間で税務戦略の重要性に対する意識改革が進んだことも、大きな成果の1つであった。


今回の事例を通じて、XYZ社はグローバルタックスプランニングが企業経営に測り知れないメリットをもたらすことを世に示したといえる。市場環境が激変する中、フリーキャッシュフローの創出は企業の持続的成長において欠かせない要素となりつつある。その意味でも、日本企業はタックスプランニングに対する誤った印象や理解を払拭し、企業の持続的成長を支える欠かせない要素として、積極果敢に取り組んでいくことが肝要である。

執筆者

KPMG税理士法人
代表 駒木根 裕一

KPMG税理士法人
インターナショナル コーポレート タックス
パートナー 河崎 元孝

グローバルタックスマネジメントを実現する10のポイント

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