Case Study:スポーツ庁

新たなスポーツビジネスの創出促進に向け、スポーツ×ITやスポンサーシップ活用に関する先進事例等の調査を支援。

新たなスポーツビジネスの創出促進に向け、スポーツ×ITやスポンサーシップ活用に関する先進事例等の調査を支援。

国内スポーツビジネス市場の拡大に向けた産業調査をわずか2ヵ月で実施

スポーツ庁が2018年5月に公開した『新たなスポーツビジネス等の創出に向けた市場動向』は、約100ページに及ぶ濃密な調査報告書だ。国内外の先進事例を示し、スポンサーシップのアクティベーションやオープンイノベーションといった新しいテーマも網羅している。組織の大小を問わず、多くのスポーツ関係者の参考となり、今後のスポーツビジネスの発展を後押しするものを目指して作成された。KPMGは、スポーツ庁からこの調査の委託を受け、自らの持つ専門知識とネットワーク、ITの知見を結集させ、支援を行った。

海辺を走る女性

スポーツビジネスを15.2兆円産業へ

スポーツ庁は、国内スポーツ市場を拡大し、その収益をスポーツ環境の充実に再投資する好循環を成立させ、持続可能なスポーツ産業の活性化につなげていくことを目指している。そのためのステップの1つとして、2018年5月31日、『新たなスポーツビジネス等の創出に向けた市場動向』と題した調査報告書を公開した。これは、スポーツを優良コンテンツと捉え、新たなスポーツビジネス等の創出促進を目指すあらゆるスポーツビジネスや周辺ビジネスの関係者の参考にしてもらうためのものであり、スポーツ庁がこのような網羅的な資料を公開したのは初めてのことである。

「今回の調査は、スポーツの成長産業化の柱の1つである、『スポーツと他産業との融合』に関する施策を検討するために実施しました。KPMGには、2ヵ月という短期間で、国内外から膨大な情報を収集・分析していただいた後、非常にわかりやすくまとめていただきました。調査結果は、調査次年度から始まった具体的な施策(スポーツオープンイノベーションプラットフォーム推進事業)につながっています。本調査報告書は、スポーツ関連の新ビジネスを検討するすべての方に参考にしていただきたいと思います」(スポーツ庁担当者)

約100ページに及ぶこの調査報告書は、KPMG(あずさ監査法人およびKPMGコンサルティング)が委託を受けてまとめたものである。4つの章で構成し、1章は調査目的と背景、2章はIT技術を活用した事例、3章はスポンサーシップ拡大の事例、4章はスポーツを中心としたオープンイノベーション*1の事例および新事業創出に向けての考察を記載している。スポーツを「する」「みる」「ささえる」、それぞれの立場のスポーツビジネスや周辺ビジネスの関係者を読み手に想定し、メジャースポーツ団体だけでなく、競技人口が少なく知名度の低いマイナーなスポーツ団体やスポーツ施設、スポーツ用品メーカーなどに向けて、国内外の先進的な事例の中から、「気づき」を提供できるものをピックアップした。

スポーツとITの専門知識を融合

なぜKPMGが選定されたのだろうか。実は、スポーツ分野において、KPMGに一日の長があったのだ。KPMGの一員であるあずさ監査法人では従来からスポーツ関係組織を支援してきたが、2015年には新たに「スポーツビジネスCoE」*2と称する専門組織を設置し、多くのスポーツ団体に対して、ガバナンス、コンプライアンス、アカウンタビリティなどの経営管理や、スタジアム/アリーナ建設におけるコンセプトや建設・運営計画の策定等についても支援を行っている。

それに加えて、今回の調査ではITの活用も主要なテーマであった。たとえばテニスやゴルフでのセンシング技術の活用や、各競技の判定での活用がよく知られているように、本来スポーツとテクノロジーは親和性が高い。試合のオンライン速報等、ICTを活用した情報配信も人気だ。スポーツの分野も、いまやITとの関わりを避けて通ることはできない。スポーツビジネスの将来像を描くには、先端技術(AI、IoT、VR、ブロックチェーン等)を活用して顧客企業の新たなビジネスの創出や既存ビジネスの抜本変革を推進している、KPMGコンサルティングのAIT(Advanced Innovative Technology)部門の知見が役に立つ。

KPMGはグループ内で協力し、今回の調査に必要なスポーツビジネスとITの専門知識を融合して、シナジーを活かした調査を行うことができた。また、KPMGは、150ヵ国を超える拠点と連携するリサーチセンターを有している。同センターを調査初期段階に活用し、世界中から集めた情報のなかから、真に有益なものだけを選抜できることも、KPMGの強みだ。

テーマを絞り込む実践的なメソッド

調査の委託にあたって、スポーツ庁は公募を行い複数の組織から提案を受けたが、その中でKPMGが採択された。プロジェクトは2018年1月末にスタートし、3月の期限までのわずか2ヵ月で調査を行い、報告書にまとめ上げる必要があった。

当初リストアップしたのは国内外の500事例。それを精査して200事例にまで絞り込み、さらにスポーツ庁の担当者と調整しながら最終的な事例を選んだ。限られた時間のなかでも複数のスポーツ団体やベンチャー企業、広告代理店などへ調査に赴き、より深い考察を盛り込んだ。

時間的制約は、KPMGの総合力で解決した。スポーツビジネスCoEの持つネットワークには、調査協力を仰ぐことのできるスポーツ団体や企業が数多くあった。リサーチセンターをフル活用し、最新事例を素早く入手することもできた。そして、入手した事例を下図に示す考え方をベースに、クライアントの要望を取り入れながら分類・優先度付けし、短期間で的確なアウトプットを作成した。

 

KPMGの調査フレームワーク

基本的なプロジェクトの進め方

基本的なプロジェクトの進め方

膨大な数の調査対象事例からテーマを切り分ける

膨大な数の調査対象事例からテーマを切り分ける

ホットトピックを絞り込む

ホットトピックを絞り込む

APIという言葉を使わず、APIについて説明する

今回の調査でKPMGが最も気を配ったのは、読みやすい資料にすることだった。多くのスポーツ団体では、予算の制約からIT活用を進められずにいるところが多い。「スポーツビジネスの振興によって利益体質へと進化し、スポーツ団体のIT活用につなげられれば」という願いが今回の調査には込められているが、現状では読者のITリテラシーはそれほど高くなく、IT分野の用語では難解な印象が強いことが予想された。そこで、たとえば導入部分でAPI(Application Programming Interface)やブロックチェーンといった言葉を避け、平易な用語を用いるとともに、図版を多用し、感覚的に理解しやすい資料へとブラッシュアップした。また、「ITを使えば効率が良くなるかもしれない」、「ITは役立ちそうだ」と前向きに取り組む気持ちになるよう、ITを効果的に活用した先進事例も多数掲載した。

他方、「スポンサーシップの拡大」についてもページを割いた。先進的なスポンサー企業ではスポンサーシップを企業戦略の1つとして位置づけ、自社の価値向上、課題解決、新ビジネス創出を目的に、スポンサーシップにより活用し得る権利(広告露出権、商標権/肖像権、プロモーション権、商品化権、独占販売権、経営資源利用権等)を効果的に用いている。従来はロゴ掲載などにとどまっていたスポンサー活動の幅を広げ、ライツホルダー(スポンサー先となるスポーツ団体)とのコラボレーションをより密にする各種の取組みがそうだ。たとえば、スポンサー企業の海外展開時に、現地でのマーケティングアイコンとしてスポーツ選手を起用したり、チームをイメージしたデザインの限定モデルを発売したり、スタジアム来場者に新商品の体験機会を設けたり、各種の実証実験をスタジアム内で行ったり、といった新しい施策が次々に生まれている。近年、海外のスポンサー市場が拡大している要因だ。日本企業や日本のスポーツ関係者にとっては、先行事例を参考にして成果を出しやすい分野でもある。

そして、スポーツ分野のオープンイノベーションにも着目した。スポーツ団体、スポンサー企業、スポーツ関連メーカーに加え、スポーツデータ解析のベンチャー企業や行政機関、ファンや地域住人も巻き込んでスポーツ産業を中心としたエコシステム*3を構築するものだ。国内でも事例が出てきており、「ソサイエティ5.0」と呼ばれるスマート社会を目指す取組みの実験場としてスポーツ施設を使うケースもある。スポーツ界側は、所有するさまざまなリソース(スポーツ施設/機器、チーム、アスリートのフィジカルおよびバイタルデータ、顧客情報、映像、スポーツ団体やアスリートの保有する各種権利、イベントによって生じる各種権利等)に価値があることを認識し、企業等の外部団体による利用を促進することが必要である。

スポーツ界とスポーツビジネスの発展に向けて

2018年6月6日、スポーツ中央競技団体の関係者を集めた調査報告会が開かれた。KPMGの担当者も発表を行い、多くのスポーツ中央競技団体の関係者との交流を通し、団体の規模の大小を問わず、今後も交流を持ち続けスポーツ界に対して支援を続けていきたいという思いを新たにした場となった。

また今回の調査を通して、ユニークな考えやソリューションを持つベンチャー企業等と接触できたことも有意義なことだった。

スポーツの魅力を広く伝えるためには、「データの標準化」が大きな役割を占める。たとえば、プロ野球のオンライン速報サービスにおいて、視聴者は、投手の投げた球種とコースがデータとしてニア・リアルタイムに更新されていく様を、スマートフォンの画面から楽しむことができる。これは、データを登録し、それを配信すればアプリケーション側でビジュアライズしてくれるというサービスの例であり、重要なのはデータだ。

中には、自らデータを収集し、配信しようとしているベンチャー企業もあり、そうした企業との連携は、スポーツ団体にとっても、スポーツの浸透に役立つためメリットがあるかもしれない。KPMGでは、こうした自発的な動きを生かす仕掛けについても今後、共に考えながら支援していく方針だ。

今回の調査の目的は、スポーツビジネス等の関係者が調査結果を参考にして、スポーツビジネスを発展させることである。そのために、スポンサー企業がスポーツというコンテンツをうまく活用した事例や、スポーツ団体がスポンサー企業への提案に使えそうな事例を、ふんだんに盛り込んだ。

スポーツビジネスの市場規模拡大に向けて、これから企業や団体、行政により、さまざまな施策が実行されることになる。KPMGも、スポーツビジネスに関連する企業や団体を強力にサポートしていく。

*1 オープンイノベーション:自社のみならず、異業種の企業や自治体、大学・研究機関等の得意分野を組み合わせ、新規事業創出、サービス・製品の開発、社会課題の解決等に取組む方法。

*2 スポーツビジネスCoE:あずさ監査法人が、一般事業会社で培った知見や経験を活用して、スポーツチームや競技団体が強固な経営および財務基盤を構築し、ビジネスとして勝利し続ける組織作りの手助けを行うこと、さらには「稼げるスタジアム・アリーナ」を建設・運営するためのコンセプト案や建設・運営計画の策定支援を行うことなどを目的として、2015年に設置した部署。

*3 エコシステム:本来は「生態系」を意味するが、転じて、ビジネスにおいて、複数の組織やモノが生態系のように循環のなかで共存共栄していく仕組みを指す。

スポーツ庁

概要 Japan Sports Agency:JSA
スポーツの振興その他のスポーツに関する施策の総合的な推進を図ることを任務とし、文部科学省の外局として2015年に設置された。「スポーツに関する基本的な政策を作り考え推し進める」、「スポーツに関して関係する行政機関の事務の調整」、および「心身の健康の保持増進に役に立つスポーツの機会の確保」の3つを業務内容とし、複数の行政機関がかかわるスポーツ関連政策を総合的に調整し、推進する役割を担う。
URL http://www.mext.go.jp/sports/
所在地 〒100-8959 東京都千代田区霞が関3丁目2番2号

KPMGの支援内容

プロジェクト名 スポーツビジネス市場動向調査
期間 2018年1月末~3月
支援内容 スポーツが有するコンテンツやリソースを活用した新ビジネス創出促進に向け、スポーツ×ITの先進事例およびスポーツへのスポンサーシップ活用の先進事例等を調査。

KPMGより

今回の調査では、スポーツビジネスやその周辺ビジネスの関係者にアイデアが湧くような資料を目指しました。少しでも役に立てていただければ、調査を手がけた私たちにとって大きな喜びです。
国内のスポーツは学校教育や企業の福利厚生のなかで育まれ、日本古来の武道的な精神もあって、「スポーツでお金を儲けること」を良しとしない文化的な土壌が少なからずあるように感じます。一方で、スポーツ団体が利益体質になれば、得た利益を選手の強化やスタジアム施設等に投資し、より魅力を増すことで、スポーツビジネスをさらに発展させるというサイクルを回すことができるのです。
スポーツ団体には、「コストをかけなくても手をつけられる部分がありそうだ」という業務効率化につながる面に加え、「自分たちの提供できるものにはこんな魅力がありそうだ」ということにも気づいていただきたいのです。そしてスポンサー企業には、「スポーツ団体と一緒に何かできるのではないか」とWin-Winになるテーマを検討していただきたい。
また同時に、ITを身近なものとして捉えて、その活用の一歩を踏み出していただきたいとも思います。いまやビジネスの進化にITは欠かせません。それは、スポーツ界も例外ではないのです。ITは難しいという印象を持たれているかもしれませんが、身近にITによって起こされている変化は数多くあります。
スポーツビジネスの振興は、国家としてのテーマでもあります。KPMGでは、スポーツ庁様と連携しながら、スポーツ界およびスポーツビジネスの発展を今後も強力に支援して参ります。


有限責任 あずさ監査法人 (スポーツビジネスCoE所属)
パートナー 濱田 克己
パートナー 土屋 光輝
シニアマネジャー 平井 永

KPMGコンサルティング株式会社
パートナー 堂野 心悟

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