ブロックチェーンの本質と取り組み方について

ブロックチェーンの本質と取り組み方について

ニュースで見ない日はないほど熱を帯びているブロックチェーンについて、状況と陥りやすい間違いおよび取り組み方について解説します。

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ブロックチェーンの市場規模の拡大

ブロックチェーンは2008年に理論が発表され、2009年に稼働したビットコインと同時に誕生した技術であり、現在はビットコインやフィンテックの範囲を超え利用が拡大しています。IDC Japan株式会社が2018年9月に発表した「世界/国内ブロックチェーン関連市場予測」によると、世界のブロックチェーン関連支出額は、2018年の15億ドルから2022年には117億ドルへと順調に成長し、日本国内の支出も2018年の49億円から2022年に545億円へと急速に拡大するとされています。中でも支出額の大きいユースケースには、クロスボーダー決済、来歴管理、貿易金融/ポストトレード決済が挙げられています。

最近では、ブロックチェーン関連のニュースも見ない日はないくらいです。振り返ると、4年前の2014年には仮想通貨の範疇でまれに語られるのみであったブロックチェーンが2015年にフィンテックの盛り上がりと共に注目を集め、各経済団体のコメントや企業の取り組みとして語れるようになりました。ブロックチェーンを取り扱うと発表した企業の株価暴騰が続発したのも、現在代表的なブロックチェーンプラットフォームであるイーサリアムのβ版が公開されたのもこの時期です。2016年の経済産業省のレポート「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」ではブロックチェーン技術が影響を及ぼす可能性のある市場規模が67兆円という情報が公表され、業界に衝撃を与えました。(もっとも、『ブロックチェーン自体の市場規模が67兆円に膨れ上がる』と曲解をしている記事がいまだに非常に多いです。)同年には国内団体で日本ブロックチェーン協会とブロックチェーン推進協会が発足しており、着実に会員企業を増やしています。ブロックチェーン技術への期待や乗り遅れまいとする焦りから翌年以降もブロックチェーンに取り組む企業は着実に増加し、結果として支出額の増加を見せました。

一方、ブロックチェーンの親ともいえるビットコインをはじめとする暗号通貨の総時価総額は2017年に入り急激に増加し、2018年1月に8000億ドルをマークしたものの、急速に下落し2018年10月時点では2000億ドル近くまで落ち込んでいます。暗号通貨熱は一旦落ち着きを見せ、ブロックチェーンの価値に目を向ける流れになったと考えられるでしょう。

定義からみるブロックチェーンの仕組み

利用の拡大が予想されているブロックチェーンでありますが、「ブロックチェーンとは何か」という問いにわかりやすく回答できる人は少ないです。日本ブロックチェーン協会(JBA)が現時点で打ち出している定義を要約すると、以下となります。

  1. 誤った情報を発信する可能性のある参加者が存在するネットワークにおいても合意形成が可能であり、形成された合意が覆る可能性が時間と共に無くなっていく仕組み
  2. 暗号学的技術を使用することで改ざん検出が容易なデータ構造を持ち、なおかつ、参加者が同じデータを分散して保持する技術

2を分散型台帳技術と呼び、1と2の両方を有していればブロックチェーンとされます。(分散台帳技術はブロックチェーンを含む包括的な技術に位置づけられる。)ブロックチェーンの定義は、構成される技術に依拠するのではなく、効果の面から語られていることが注目すべき点であり、現在では参加者が対等な立場で通信を行う「P2Pネットワーク」や取引の正当性をチェックする「コンセンサスアルゴリズム」、データの改ざんを検知するための「ハッシュ関数」などの技術で実現されています。また、非中央集権すなわち特別な管理者を存在しないことをブロックチェーンの条件と考えている方が多いように思いますが、これも現時点のJBA定義からは間違いです。事実、ブロックチェーンの分類の一つであるプライベートブロックチェーンやコンソーシアムブロックチェーンでは、管理者の存在を前提として仕様が想定されています。

これらのブロックチェーンの仕組みに対する正確な理解はブロックチェーンのビジネスに導入する際の判断に非常に重要となっています。

図表1 ブロックチェーンの分類

  パブリック型
ブロックチェーン
プライベート型
ブロックチェーン
コンソーシアム型
ブロックチェーン
参加者 不特定多数 1組織内に限定 参加している複数組織内に限定
管理者 不要 閲覧、マイニングへの参加権限付与を行う管理者が必要
情報閲覧権 制限なし 制限可能
コンセンサス
アルゴリズム
厳密な仕組みが必要 任意に設定が可能
マイニング
参加権
制限なし 制限可能
マイニング
報酬
必要 任意に設定が可能

まだほとんど発掘されていないブロックチェーンの価値

ブロックチェーンの市場規模は拡大する一方で、取引の仕組みを一変するとされるブロックチェーンのポテンシャルはまだほとんど顕在化できていません。原因はブロックチェーンの本質をとらえた可能性と制約の認識を関係者間で正しく共有できていないことにあります。一部ではブロックチェーンを暗号通貨の延長ととらえ、フィンテックの枠組みから脱出できないでいます。また、既存の仕組みで実現したほうが良いことをあえてブロックチェーンで構築しようとしている事例も多くあります。ビジネスの可能性を広げるためにブロックチェーンの実証実験を行うことは推奨すべき姿勢ではありますが、ブロックチェーンの使いどころが不適切であるために、実証実験が形骸化してしまいブロックチェーンに失望してしまうのは非常に残念です。ブロックチェーンの本質は何であるのか、ブロックチェーンの導入は何をもたらすのか、改めて考えるタイミングが今なのです。

ブロックチェーンの本質は信用の創成

ブロックチェーンの本質とは何かと聞かれたら、情報共有および相互監視に起因する『仕組みとしての信用の創成』というのが答えであると考えます。ブロックチェーンにおいて、取引に関する契約内容を自動実行する「スマートコントラクト」やブロックチェーンに情報を書き込む権利を与える「コンセンサスアルゴリズム」といった要素技術は、信用を補強する仕組みであると言えます。

これまでの取引は「過去の経験」「信用できる管理者」に頼った信用であることが一般的でした。例えば、財布の中にある紙幣が偽物でない確証は何もないですが、これまで偽札に触れる機会がほとんどない私たちは偽札と疑うことはあまりしません。また、これを使用した際に、渡された相手も偽札を確認するためのマーカーは用いないはずです。ここには、“日本では偽札が出回ることはほとんどなかった”という過去の経験からくる“日本国内での日本円は安全”という信用が醸成されているからです。しかし、ビジネスにおいては自身や自組織の身を守るために、信用を能動的に作らなければならない場面が多く、これに大きなリスクがあることは事実です。誕生後間もない組織は信用を作ることがビジネスを行う上での重要事項でありますし、老舗の組織が信用を見誤ったために企業存続の危機に瀕した例は枚挙にいとまがありません。ブロックチェーンは仕組みに対して信用を置くことができるため、信用の所在を他の何かに求める必要はなくなります。この仕組みの存在こそが、ビットコインをはじめとする暗号通貨を法定通貨と交換可能な「通貨」にまで昇華させるに至った理由です。

しかし、ブロックチェーンを取引に使用すれば取引のすべてに信用が創成されるというわけではありません。ブロックチェーン自体は台帳管理の仕組みであり、ブロックチェーンに書き込まれた内容は後から改ざんできないため、情報の正確性は保たれます。つまり、書き込んだ情報が書き込んだままであるということは信用できます。しかし、台帳の情報と実際の取引が異なるということは起こり得るのです。言い換えれば、ブロックチェーンが作る信用は、台帳に記載された後の情報に対してであり、ブロックチェーンに書き込む前の情報や情報と実際のモノのつながりに対して信用を創成する仕組みではないということです。ブロックチェーンのみで作ることができない信用は、IoTや認証システムなどの仕組みで補完する必要があります。これはブロックチェーンと比較される既存技術のデータベースシステムを使用した場合と何ら変わりません。ブロックチェーンさえ使えば、取引に不正を働かせる余地は無くなると考えるのは大きな間違いなのです。

図表2 信用創成の範囲

図表2 信用創成の範囲

非中央集権である意味

もう一つ、大きな間違いを起こしやすいのが非中央集権の扱い方です。ブロックチェーンの持ち得る特徴の一つに非中央集権化が挙げられます。非中央集権のメリットは「中央を信頼する必要がない」「中央の意思が優先されない」、デメリットは「仕様変更の際の意思決定が困難」「責任の所在が不明確」なことです。中央集権はこれの逆と考えればよいです。ビットコインの設計思想は特定の管理者に依らない当事者間での自由な取引であり、これを成すためには非中央集権という特徴を利用する必要がありました。しかし、ビジネスの現場ではガバナンスを必要とするため、非中央集権型の取引が適合しないケースが多く存在します。現在、実証実験の対象の多くは非中央集権化が適合しないケースです。それにも関わらず、非中央集権を中央集権より良いものとして捉えているためか、またはブロックチェーンの導入自体が目的となってしまっているためか、誤った文脈でブロックチェーンの非中央集権が取り沙汰されることがあります。結果として、本当にブロックチェーンを使う意味があるのかという問いに答えられない状態に陥ってしまっています。

ブロックチェーンへの正しい取り組み方

ブロックチェーンは誕生後10年の歴史の浅いテクノロジーである一方で、使用される基軸技術は、ブロックチェーン誕生以前から存在していたものを組み合わせて作られています。処理速度やセキュリティ、安定性を考慮した変更や追加された機能はあるものの、技術概要は大きくは変わっておらず、昨今の人工知能(AI)のような劇的な変化の連続とは一線を画しているのです。

今後もしばらくはブロックチェーンの基軸技術の構成は変わらず、使い勝手の向上を目指した新しいブロックチェーンプラットフォームの誕生やバージョンアップが続くことが予想されます。AIは今後の技術的な変化が多く語られることに対して、ブロックチェーンはそのテクノロジー利用によってどのように社会が変わっていくかという周囲に対する影響が多く語られているのはブロックチェーン自体に技術的な変化が少ないことが一因ともいえるでしょう。

一方、ブロックチェーンは期待とは裏腹に使いどころが難しく、世界的に混迷を深めている状態にあります。しかし、この混迷は課題に先行して技術が誕生してしまったために生じた事象であり、乗り越えるべき成長痛であると考えます。技術的な変化が少ないということは、時間経過に対して本質はそれほど変わらないことを意味し、技術的な成熟を待つ意味はそれほどありません。また、ブロックチェーンプラットフォームの多くはオープンソースであるため、試行する分には安価な実施が可能です。今実施すべきことは、情報の海に流されることではなく、実際に手で触れて本質を理解する事です。


KPMGジャパンではグローバルで蓄積したナレッジとエキスパートの専門知見をもとに、ブロックチェーンを用いたデジタルトランスフォーメーションを技術・業務の両面から支援するサービスを展開しています。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
Advanced Innovative Technology
シニアマネジャー 宮原 進

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