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【対談】エコシステム形成がカギとなるデジタルトランスフォーメーション

【対談】エコシステム形成がカギとなるデジタルトランスフォーメーション

日本企業が直面するデジタルトランスフォーメーションに向けた課題解決策について、株式会社三菱ケミカルホールディングスCDOの岩野和生様にお話を伺いました。

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株式会社三菱ケミカルホールディングス 執行役員 先端技術・事業開発室 CDO 岩野 和生 氏

岩野 和生 氏

株式会社
三菱ケミカルホールディングス
執行役員 先端技術・事業開発室 CDO

東京大学理学部数学科卒業後、日本IBM入社。東京基礎研究所所長、米国ワトソン研究所、大和ソフトウェア開発研究所所長、未来価値創造事業担当、スマーターシティ事業戦略担当、科学技術振興機構 研究開発戦略センター上席フェロー、三菱商事(株)サービスビジネス部門顧問を経て、2017年より現職。東京工業大学客員教授。情報処理学会フェロー、日本学術会議連携会員。プリンストン大学コンピューターサイエンス学科博士課程修了。


生産人口が減少し、国内市場の縮小に直面する日本企業の多くが「変わる」ことを余儀なくされています。これは、デジタル社会において求められる、顧客中心主義、機動性、それを支える効率的オペレーションをいかに実現していくかとも言い換えることができます。
日本企業が直面するデジタル化への課題解決策について、株式会社三菱ケミカルホールディングスCDO(Chief Digital Officer)の岩野和生様にお話を伺いました。

「ビジネス」から「社会」のクリティカル・インフラへ

岩野:1990年代、ITが「ビジネス」のクリティカル・インフラとして期待され、位置付けられていました。そのときに大事になってくるのは、設計書通りにきちんと作ることです。したがって、プロジェクトマネジメントやソフトウエア・エンジニアリングが重要になっていました。
ところが、2000年代になり、ITが、「社会」のクリティカル・インフラとして期待されてきたのです。アメリカ政府が2005年にCPS(サイバー・フィジカル・システムズ)という考えを発表しました。それは、世の中のいろいろなシステムを統合するシステムが必要だということと、サイバーとリアルなインフラが融合したところにひとつの価値が出るということでした。

秋元:90年代までは、効率化という意味で、ビジネスをいかに基幹システムに乗せるかというところがあったと思います。現在は、さまざまな要素技術が増えており、そこからどうやってビジネスを作るのかというところに来ていると言えます。

岩野:2008年にIBMがSmarter Planetを提唱したのが良い例ですが、CPSのビジネス版という流れとともに、スマートシティやスマートグリッドという動きが出てきたわけです。
そして、「社会」のクリティカル・インフラとしての期待と言った途端に、どういう社会システムや社会サービスを作るか、その背景として、どういう社会を作りたいかという価値観が、すごく重要になったのです。
価値観ということになった途端に、スペック(設計書)通りに作る世界ではないわけです。ITの役割は、その頃から変わったと思います。

秋元:要は、どう社会に変化をもたらすか、そのインパクトが重要になってきているわけですね。

岩野:社会に対する変化について言えば、日本は、特にものづくりにこだわってきましたよね。しかし、価値が、ものからサービス、そして機能の関係性に移ってきています。関係性とはつまり、エコシステムです。すると、そのエコシステムの中に自身を位置付けられるかどうかがカギになります。

秋元:その背景には、クラウド・コンピューティングの進展があります。

岩野:クラウド・コンピューティングがエコシステムを作るサービスプラットフォームになりうるというのが、ひとつの大きなカギです。
GEがインダストリアル・インターネットと言い始め、ほとんど同時に、ドイツではインダストリー4.0が提唱されました。サービスプラットフォーム上のエコシステムに、いろいろな会社を巻き込んでいけるか、ひとつの社会変革となりつつあります。
各企業も理論武装をしないといけませんし、そのエコシステムの中に入っていかざるをえない。このことが、いまの大きな変革と言えるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションという、会社や業界に変革を起こすデジタル技術が、個別の技術というよりも、プラットフォーム、いわゆるクラウド・コンピューティングなどの技術がエコシステムの構築を支える形で、ものすごい勢いで進化している。それが大きいという気がします。

日本企業の対応は、遅れているわけではない

秋元:日本企業は欧米に比べて出遅れているという声を聞きますが、必ずしも遅れているとは思いません。
私どものような、プロフェッショナルファームのなかでグローバルに議論をすると、ほぼ問題点は同じです。たとえばデジタルトランスフォーメーションをすると言ったときに、何がいちばん障害になるかというと、バリューチェーンが自動化に近づく中でどのような組織が必要か、人の配置をどう変えるべきか、それをどうやってタレントマネジメントしていき、企業として付加価値を上げていくのかというのが、日本企業だけでなく欧米の企業も皆、同じマインドセットになっています。

岩野:おそらく、日本だけが遅れているというのは、よくある日本人の自虐史観みたいなところがありますね。

秋元:我々はテクノロジー企業ではないので、ことテクノロジーと言ったときに、ディスラプティブ・テクノロジー(破壊的技術)を使ってアプリケーションを作っていく。作ってはいますが、そこがメインではなくて、どちらかというとトランスフォーメーションをするなかでどういう変革要素が重要か、お客様と話しながら作っていくというのが重要なポイントなのです。
そこはもう万国共通なんですね。

右:秋元 比斗志
KPMGジャパン CDO 兼 KPMG Ignition Tokyo 責任者

外資系コンサルティングファーム、事業会社のCIO、COOを経て、KPMGコンサルティング入社。マネジメントコンサルティング部門代表を務めたのち2017年より現職。

アーキテクチャーが、エコシステム作りのカギ

岩野:1980年代にジョン・ヘネシー教授(元スタンフォード大学学長)とデイビッド・パターソン教授(カリフォルニア大学バークレー校)が『コンピューター・アーキテクチャー』という本を上梓しました。
1980年代以前は、コンピューターをどう作るか、スーパーコンピューターはどう作るかなど、アーキテクチャー(システムの論理的構造)は職人のような人が作っていました。そこに、機能ごとにKPIというものを持たせてやっていくと、ちゃんと機能を保証するようなことができる、ということが書かれた、すばらしい本です。
そのとき、ヘネシー教授とパターソン教授は、3つのAが大事だと言ったのです。「アルゴリズム」「アーキテクチャー」「アプリケーション」です。
インターネットもまだ普及する前です。もちろんサービス化ということも言われる前です。

秋元:その3Aが、今、より重要性を増してきているのですね。

岩野:アーキテクチャーという考えは仕組みです。社会の仕組みを大きくどういう風に設計していくのか。そうやって見ると、仕組みとか、世の中を構造的に考えるような捉え方は、欧米の方がしっかりしているというのはあると思います。

秋元:なるほど。

岩野:日本人同士は価値観をすごく共有できる。だから、バチっと、これがアーキテクチャーだと言わなくても、なんとなく分かり合える社会だったわけです。ところが、欧米はさまざまな人たちがいるので、社会的な仕組みというのでやらないと進まないのです。
このアーキテクチャーというのが、クラウド・コンピューティングとか、インダストリアル・インターネットコンソーシアムのように、ひとつの仕組み、エコシステムを作るときのカギになるわけです。

銀行のATMは、金融業界の「デジタルトランスフォーメーション」の良い事例

秋元:経営トップの方に「デジタルトランスフォーメーションとは、こういうことなのか」というイメージが沸くような事例をあげるとすると、どういったものがあるでしょう。

岩野:たとえば、銀行の現在のATMネットワーク。今はどのコンビニエンスストアに行ってもお金を引出せます。どの銀行のカードでもお金を引出せるし、クレジットカードも使える。あれは金融業界におけるデジタルトランスフォーメーションの良い事例だと思うのです。
つまり、機能を標準化、スタンダード化して、共有化しているわけです。このようなことができたというのは、日本はやっぱりすごいと思いますね。

秋元:非常にわかりやすい例ですね。

岩野:もうひとつあげるとすると、コンビニエンスストア。商品アイテムが何十万点もあり、それに物流がくっついて、棚の生産性を上げるために知恵を絞っています。これもデジタルトランスフォーメーションみたいなものだと思うのです。
街の中心には大きな百貨店があり、商店街にはおばあちゃんがやっていた古き良きお店があったところに参入していきました。文化という意味では、昔の方がいいという議論はありますが、どういう社会を目指そうとか、おじいちゃんやおばあちゃんのパパママストアをちゃんと活かしながらやりたいとか、そういうところがまだ根ざしていないのに、アッと言う間に今の形になった。でも、それは、ひとつの業界変革ではありましたよね。大事なのは、技術のそのようなスピードと私たちの文化を考えて、果たしてこれが目指す社会に位置づけられるのか、あるいは、位置づけるようにしていくことです。

秋元:そうですね。アーキテクチャーがないとエコシステムをどのように構成するかというのは、議論すら難しいですよね。
コンビニエンスストアの例も、インフラとして今は機能しているけれども、いろいろなサービスが後から組み込まれるような仕組みがあります。
先ほど岩野さんがおっしゃった、全体設計があるなかではなく、インフラができてきて、それに後付けでサービスとしての位置付けが変わってきているというのが、すごく日本的ですね。ある意味、エコシステムのひとつの形として機能し始めているというのが、日本的なトランスフォーメーションなのだと思います。

岩野:日本的なトランスフォーメーションは、社会の観点で考えると、社会変革に繋がっているかもしれません。しかも、なぜあのコンビニエンスストアができたかというと、日本の安全性がありますよね。治安の問題で難しい国はあります。そういう国で夜中に一人で働いていたら大変です。やはり、安全性という社会風土があったからできたのでしょう。
そうすると、日本が日本の良さを活かして、どういうエコシステムに持っていけるのかを考えるべきです。今はやはり、皆さんが日本は遅れていると感じているのは、AmazonやGoogleに牛耳られているように見えているからで、何となく大変だと思っているのでしょう。
私は他の産業からこの業界に入ってきました。石油コンビナートに行くと、ちょっと驚異です。あれだけの大きなプラントが、整然と動いているのです。少ない人数のなかで、ほとんど完璧に近い状態で動かしていくというのは、実は人間力なんですね。そこにいるオペレーターとか課長が、すごいのです。何か気になることがあったら徹底的に潰します。そういう人間力を、この産業界は持っていると思います。
今、そういう日本の良さを活かしながら、最先端のデジタル・テクノロジーやプラットフォームの考えを取り入れて、変わろうとする。ものすごく強いものを生み出すでしょう。

図表 デジタルトランスフォーメーションフレームワーク

インダストリー4.0時代に経営トップが心掛けるべきもの

秋元:デジタルトランスフォーメーションを経営戦略に掲げる会社は今、多いと思います。しかし、デジタルトランスフォーメーションは、最終的には、そこからどうやってビジネスを作るかであったり、ビジネスモデル、オペレーティングモデルをどう変えるかというところが重要なのです。
したがって、何をやりたいのか、自分たちの問題点は何か、もしくは、新事業をどう作っていこうと考えるのか。デジタルから離れて、紙の上に自分がやりたいことを書き出すことから始めたほうが良いのではないかと思います。それに対してテクノロジーは何ができるのか。
これが今、逆になってしまっているように感じます。

岩野:大賛成です。

秋元:まず、「何を目指すのか」、自らに問うてみてください。今までの経営戦略のなかで、どんな事業をやりたいと思っているのかを問うのです。たとえば銀行であれば、「自分たちは、預金・融資中心業務からシフトする」と考えたときに、では、「自分たちの強みを活かせるところはどこか」「それは、インベストメント・バンキング業務なのか、アセットマネジメント業務、はたまた決済業務なのか」と問うのです。
次に、どのように新しい収入源を作っていくのか、というところを、きちんと議論したうえで、「では、そのために顧客データをどう使うか」とか、「どことアライアンスを組むのか」ということが出てくると思うのです。
もちろんその議論の中で「テクノロジーやプラットフォームをどうビジネスに活用していくのか」という視点が重要性を増しているのは確かです。

岩野:まさに私も同感なのですが、先ほど「ビジネスの価値の源泉がモノからサービス、そして関係性へと移ってきた」と言いました。これが何を言っているかというと、機能の再構成がプラットフォームでできるようになったことを意味するのです。すると、会社にとって、経営トップにとって、何が大事なことなのか、何に使命感を持つべきなのか、社会にどういうものを提供するのか、これらを再確認することが迫られるのです。
それが、秋元さんがおっしゃった「どういう会社になりたいのか」に繋がっていると思います。そこが一番大事なのですね。
デジタルトランスフォーメーションが、なぜ社会における会社という位置づけを考えないといけないのかというと、関係性のなかでしか生きられなくなっているからなのです。会社も、個人も、です。位置づけを再定義しない限り、多分、生き残れないようになっていくと思います。
そうすると、会社における現在の意思決定層(40代以上かもしれません)が変革の推進者たちを信じるしかないのです。これはこうなんだ、重要なんだと。そういう肌感覚を持ったリーダーシップというのも必要でしょう。そして20代、30代は、10年後には自分たちの世界がくるわけです。必死になって自分の専門性を磨き、それとデジタルとの関係ということに取り組んでいく世界です。
そういう意味で、我々は、ケミカル×デジタルと言っています。
これから起きることは、社会における機能の分解と再構成。会社形態がガラッと変わっていくのだと思います。

インダストリー4.0時代に生き残るために

秋元:今はインダストリー4.0と言われる、大きな変化の時期にあります。これまで私も含めて40代、50代の人は、3.0の時代を生きてきた。だから、4.0になったときに、どういう風に変わるのか、だれも予測ができないわけです。
この予測できないものを、テクノロジーの方向性を横に置きながら、どういう風になっていくのか、きちんと把握したうえで、自分たちの領域を定義できるかどうかが問われています。これまでは、定義しなくても、はるか以前に定義されたものをそのままやっていれば生き残れた時代ですが、今はそうではないのが現実です。
岩野さんがおっしゃるように予測できないものは、若い世代にある程度任せるというのも、ひとつのコミットメントだと思います。

岩野:私たちのビジョンをご紹介しましょう。「デジタル技術と思想によって、会社、業界、社会に新しい流れを作り、MCHC (Mitsubishi Chemical Holdings Corporation)のビジネスや風土に変革をもたらします」。あえて、思想と風土を入れました。どうしてかというと、日本人は本当に、技術というか、ガジェット(小物)が好きなので。AIと言われると、ディープラーニングをやってみたり、ビッグデータと言われると解析とか、技術に飛びつくわけです。でも、10年、20年と残っていくのは、やはり人なのです。持続可能な変革を行っていくというのは、どのような会社を作る、会社の社会での位置づけを考えるなどの基本に基づく必要があります。その上で、仕組みや関係性の中で価値を生み出していくのです。このように、意志と思想が大事になります。
そういう意味で、たとえばブロックチェーンという技術が、この会社にもたらす深い意味は何か、この業界にもたらすものは何か、そういうことを深く考える能力というのは、経営トップにとっても必要なのです。
実はインプリケーション(含意)を考えることは、全人格的なことなので、IT的な技術だけではないのです。やはり教養であったり、素養であったり、中学生や高校生の時期に読んだ本であったり、です。そこが分かれ目になるような気がします。

秋元:ブロックチェーンと言ったときに、世の中の経営トップの方々が、どれだけそれを定義することができるのか。ビットコインなのか、ICOなのか、スマートコントラクト(契約の自動化)なのか。製造業でいうとトレーサビリティ(追跡可能性)を生かしてどのようなインパクトのあるソリューションとして定義できるのか。たとえば、日本の現在の組み立て型の製造業の調達のところで起こっている問題をブロックチェーンでどう解決できるのか。課題解決型の思考が必要ですね。

岩野:ブロックチェーンでも、ある意味、ビジネス・トランザクション(業務上の処理)の関係性や情報というものを、どういう風に担保するのかというところがカギですね。そうすると、次に起きることは何かというと、CPS(サイバー・フィジカル・システムズ)の世界もそうですが、サイバーとリアルの関係性がすごく重要になってくる。融合が起きる。そうすると、ブロックチェーン上に乗っていくような正確な情報の流れと、物理的なところをどう組み合わせ、マッチさせるかというのが非常に本質的なのです。
我々は、デジタルテクノロジー・アウトルックというのを作っています。経営トップが新聞などで新しい技術の情報に接して、右往左往しないでいいように、です。
量子コンピューティングの分野で何かが起きた、ビットコインの分野で何かが起きた、でも慌てなくていいように。この技術はこのようなもので、それが我が社や業界にとってどういう本質的な意味があるのか、投資すべきなのか、否か。そういうところまで含めて、技術ひとつにつき一枚くらいで作っています。
経営トップが意思決定をする際に、このような整理された情報をベースに肌感覚を持つと、賢い判断ができるだろうと思います。

経営者が持つべきテクノロジー・リテラシー

秋元:経営者はどこまでテクノロジー・リテラシーを担保する必要があるとお考えですか。

岩野:やはり、意味を考えるというか、肌感覚というか、そこが大事な気がします。
日本が特に不幸だったのは、ITベンダーが「何でもやります」と御用聞きに徹してきたことです。もっと、ユーザー企業とITベンダーで、どういう社会を作るのかということを徹底的に議論していたら、もう少し変わっていたと思います。
だから、これからの経営トップ、特にユーザー企業の経営トップは、社会に対する責任として、こういうことをどうやっていくのかというのを、率先してやっていく必要があると思います。

秋元:我々も、エマージング・テクノロジーレーダーというテクノロジーのマップのようなものを作っています。レーダーになっていて、あと何年くらいでそれがプロダクションにくるのかという形で、グローバルの知見をもとに作っています。

岩野:それは面白いですね。すごく興味があります。

秋元:たとえば量子コンピューティングとブロックチェーンの関連性。ブロックチェーンというのがどこまでミッションクリティカルなアプリケーションに使えるようになるかというと、デジタル署名に依存するブロックチェーンはおそらく量子コンピューターの能力への対応によって普及するかどうかが問われる、というような関連性を示したものを作っています。
経営トップに求められるものは、技術の深いところはわからなくても、そういうトレンドというか、それが自分たちにどういう影響があるのかというのを知ったうえで、テクノロジーからビジネスの考え方で進めていくということですね。本日はありがとうございました。

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