タックスポリシー及びルールは、税務ガバナンス構築の基本 | KPMG | JP
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タックスポリシー及びルールは、税務ガバナンス構築の基本

タックスポリシー及びルールは、税務ガバナンス構築の基本

グローバルタックスマネジメントを実現する10のポイント 第12回 - 日本企業のBEPS対応が進む一方で、二重課税をはじめとする様々なリスクも顕在化している。こうしたリスクを回避するためには、税務活動の基準をグループ内で統一し、本社主導で税務ガバナンスを構築することが肝要である。この税務ガバナンスの基盤となるのが、タックスポリシー&ルールだ。国内では過去にほとんど前例のないタックスポリシー&ルール策定の事例を紹介する。

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タックスポリシーとは、税務戦略と両輪をなす税務上の“大原則”

2015年10月にBEPS最終報告書が発表され、国際税務の世界は新たなステージを迎えた。移転価格における国別報告書の導入により、企業のグローバルな損益配分や税額が白日の下にさらされた今、追徴課税や二重課税のリスクはこれまでにないほど高まっている。こうした事態を防ぐためには、税務活動の基準をグループ内で統一し、本社主導で税務ガバナンスを構築することが肝要である。

とはいえ、税務を企業経営と結びつけて考える習慣を持たない大半の日本企業にとっては、いきなり「税務ガバナンスを強化せよ」と言われても、何から手をつけてよいのかわからない、というのが本音であろう。
では、どうすれば税務ガバナンスを確立することができるのか。その最も有効で不可欠な方法の1つに挙げられるのが、税務ガバナンスの根幹となる「タックスポリシー及びルール」の策定を策定することである。

タックスポリシーとは、経営戦略としての税務戦略・施策を遂行するにあたって遵守すべき税務の方針や目的を定めた税務上の“大原則”であり、タックスルールとは、タックスポリシーを実現させるための業務上のルールや判断基準、責任・権限などの規定である。よくタックスポリシーを税務戦略と混同している例が見受けられるが、異なるものであることを認識することが必要である。
以下、KPMG税理士法人がタックスポリシー及びルールの導入を支援した、ABC社の事例を紹介する。

世界市場攻略に向け、トップダウンでタックスポリシーの導入を決定

KPMG税理士法人が、日系多国籍企業であるABC社からタックスポリシー策定の支援を要請されたのは、BEPS最終報告書の発表後まもなくのことである。
ABC社の事業領域には欧米の超巨大企業がひしめいており、世界市場でリーダーシップを確立するには、経営の質を極限まで高めていく必要があった。そこで、ABC社は、先行する欧米企業のベンチマークを徹底的に行い、「競合他社の大半が、Webサイト上で自社のタックスポリシーを公開している」という事実を知ったのである。

とはいえ、ABC社がタックスポリシーの必要性を実感したのは、外部環境だけが理由ではない。当時、同社の税務部門は、ガバナンスの欠如に起因するさまざまな問題を抱えていた。
第一に、同社では、本社税務部門が各国子会社の税務活動の実態を把握できるような内部的な管理の仕組みは存在していなかった。このため、「各社が申告期限までに税務申告を行ったかどうか」という基本的な事実すら把握できていないのが実情であった。(6.税制・税務ポジション情報の収集参照)
第二に、同社では、税務コストの最適化を目的としたタックスプランニングは行われておらず、「税金の払いすぎ」が常態化していた。
第三に、同社には、税務専門家のアドバイスや過去の税務調査から得た知見を蓄積・継承する仕組みがなく、税務ノウハウが属人化しがちであった。このため、担当者が異動・退社するたびに過去のノウハウが失われ、追徴課税が繰り返される一因となっていた。(8.ノウハウの蓄積参照)
こうした問題はいずれも、グローバルな税務ガバナンス体制が未整備であることに起因するものである。国際的な競争力を高めるためには、税務ガバナンスを強化し、税務コストの最適化と税務リスクの極小化を実現しなければならない――こうした現状認識の下、ABC社はトップダウンで税務マネジメントの変革に着手。その第一歩として、グループ共通のタックスポリシーを策定するべく、KPMG税理士法人に支援を要請したのであった。

グローバル税務ポリシー例

1

背景と目的

  1. 税法の遵守
  2. 事業活動の一環
  3. 株主に対する説明責任
  4. 税法における義務
2 適用対象法人
3

コンプライアンス 

  1. 透明性
  2. 税務当局との関係
  3. 組織形態
  4. 事業実態
4

税務争訟

  1. 税務調査の事前通知
  2. 調査対応
  3. 調査結果の検討
  4. 異議申立、不服審査、訴訟


 
9

アセスメントの必要な取引

  1. アセスメントの必要な取引
  2. アセスメントの必要な税目
  3. 評価プロセス
  4. M&A取引
  5. 税務部門の役割及び責任

タックスポリシー及びルールを導入し、ITプラットフォームを活用

こうして、ABC社の税務担当者とKPMG税理士法人によるプロジェクトが発足し、チームメンバーは4か月にわたって検討作業を行った。
しかしながら、当時、本格的なタックスポリシーを導入している日本企業は皆無に近かった。このため、欧米企業の事例を参照しつつ、日本企業に合った税務コントロールのあり方を求めて、暗中模索の日々が続いた。

タックスポリシーの策定において重要なことは、単にグループ共有の“大原則”を作るだけでなく、タックスポリシーを実効あらしめるための詳細なタックスルールや業務マニュアルを練り上げることである。
例えば、タックスポリシーの中で「各国の税務調査に対して充分な準備を行い、税務否認額を最小化する」という規定があれば、それを遵守させるために必要なルールを詳細に定めていく。
「税務当局から税務調査の通知が来たら、○日以内に本社に通知する」
「その際、税務調査で問題となりそうなポイントや、子会社側の対応も報告する」
「税務調査の初日と最終日に、大手会計事務所の税務プロフェッショナルを立ち合わせ、税務調査の方向性の予測と結果の妥当性評価を行わせる」など、各子会社の実態に即したタックスルールと業務マニュアルを定め、タックスポリシーという世界に向けた“公約”を、グループの隅々にまで浸透させていくのである。このようなルールは、特に税務の専門家を擁しない海外子会社に有効なルールである。

4か月にわたる検討の結果、ABC社は、10数項目のタックスポリシーと50数項目のタックスルールを導入した。しかしながら、ポリシーやルールの導入だけでは、ガバナンス体制の構築は難しいのも事実である。BEPS対応で求められる情報量は膨大であり、何らかのITインフラがなければ、グループ全体の税務活動の情報を収集して「見える化」することは困難である。
そこで、ABC社では、タックスポリシーの策定後紆余曲折を経て、KPMGが提供するITプラットフォームの活用を決定。WebベースのITツール「KPMG LINK360」を導入し、各国子会社の税務情報の収集や業務の進捗確認、情報の一元管理を行う仕組みを構築した(7.社内情報の収集(プロセス管理ツール・D&A活用)参照)。

業務マニュアル:タックスポリシーやタックスルールを前提として、実際に業務を円滑に行うための手順や書式のこと。

「タックスポリシー」と「税務戦略」との違いを明確にする

こうして、過去に前例のないタックスポリシー及びルール策定の試みは、成功裡に幕を閉じた。一方で、プロジェクトチームはこの経験を通じて、日本企業が陥りがちな陥穽についても知見を深めることができた。
それは、「タックスポリシー」と「税務戦略」の違いが明確でなく、往々にして混同されがちだという点である。この2つの言葉の定義を明確に区別しなければ、結果として有効性のないポリシーを作ってしまう危険がある。

当初、プロジェクトチームもこの陥穽に陥り、五里霧中の時期が続いた。だが、幸い、KPMGジャパンに所属する内部統制の専門チームから、解決の糸口を提供してもらうことができた。そのアドバイスに基づき、我々は次のようにコンセプトの整理を行った。

まず、「税務戦略」とは「税務において自社がどのようになりたいか」というゴールを達成するための大局的な作戦である。例えば、低税率国に地域統括・物流会社を作り、そこにリスクと機能を集中させることにより、エリア内の利益を集中させて、税務コストの最適化を図る。これは「税務コストを最適化する」というゴールを達成するための税務戦略といえる。
これに対して「タックスポリシー」とは、前述のように、グループ全体で共有する税務上の大原則を示すものである。つまり、ポリシーとは、戦略遂行のためのプランを実行するのに必要な“手続き”であり、「誰が決済するのか」「どのような報告書を作成するのか」といった内容を規定しているにすぎない。しかしながら、この大原則こそが、企業の税務ガバナンスの根幹を支えているのである。間違った根の上にどれほど枝葉を繁らせようと、真に有効な税務ガバナンスを構築することは困難といわざるをえない。

このように、税務ガバナンスの構築にあたっては、税務の専門性のみならず、ガバナンスの知見も必要となる。その意味では、「税務」と「ガバナンス」という2つの領域の連携なくして、真に有効な税務ガバナンスの実現は不可能であり、その点も念頭に置いてチーム組成を進める必要がある。

ゴール・目標、戦略・プラン、ポリシー・ルール等の関係概念図

タックスポリシーの有無が、5年後の企業価値を左右する

タックスポリシー及びルールの導入は、ABC社の経営にどのような効果をもたらしたのか。
まず、事業計画の策定にあたって必ず税務が関与することが定められ、これが税金の払い過ぎの防止や税務リスクの低減につながった(2.事業意思決定時における関与参照)。また、税務リスクを検討する際、自己に十分な知見がない場合には外部の税務専門家にアドバイスを求めるというルールが導入され、税務リスク管理の精度も格段に向上した(10.シェアードサービスやアウトソーシング参照)。

当初、海外子会社からは、本社への報告やデータ入力など、新たな作業が義務付けられたことで反発も予想されたが、新ルールの施行は意外にも好感を持って受け止められた。特に欧米子会社のCFOの中には、「税務の重要性がようやく本社にも理解された」と歓迎する向きも多く、海外の地域統括会社からも、「新ルールの施行によって、地域統括会社に税務に関する決裁権限と情報が集中し、エリア内の子会社の(税務以外も含む)コントロールが容易になった」との声が寄せられた。

グループ税務コントロール体制の類型

現在、タックスポリシーの導入後、あまり大きな問題は生じていないが、導入後のABC社では、もし税務に関して大問題が生じた場合、その問題の解決に全力を挙げることは当然のことだが、その問題がなぜ起こってしまったのか、につきタックスポリシー、ルール、マニュアルに基づき検証することにより、次回以降の発生の防止のためにそれらの何処を変更すればよいかが検討でき、防止策を講ずることができることになると評価されている。これは至極当然のことである。何もポリシー等がない状況では、原因は突き止められるかもしれないが、対応策は、「次から気をつけましょうね!」程度で終わってしまわざるを得ないし、責任の所在も明確とはならない。
現在、日本企業の間ではBEPS対応が着々と進められているが、一方では、二重課税をはじめとする様々なリスクも顕在化している。
こうした環境変化に、受動的・事務的に対応するのか、それとも、タックスポリシー及びルールを導入して、本社主導のグローバルタックスマネジメントに積極果敢に取り組むのか。そのどちらを選択するかによって、5年後の企業価値には大きな差がつくと予想される。
税金とはいわば日本企業にとっての“ラストリゾート”(手つかずの経費項目)であり、適正なタックスプランニングを行うだけで、コストの低減効果が見込める領域である。今後、企業価値の向上を目指す全ての企業は、税務ガバナンス体制の確立を必要欠くべからざる施策と捉え、真摯に取り組んでいく必要があろう。

グローバルタックスマネジメントを実現する10のポイント

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