データ分析と意思決定者の関係

本稿では、企業のデジタルトランスフォーメーションの鍵となるデータ分析について、企業の意思決定者がなすべきことについて解説します。

本稿では、企業のデジタルトランスフォーメーションの鍵となるデータ分析について、企業の意思決定者がなすべきことについて解説します。

データ分析は、企業のデジタルトランスフォーメーションに向けての大きな鍵です。企業の意思決定者は、多くの情報源から得られるさまざまな構造化および非構造化データを分析し、新しい洞察を得て、機会を創造し、ビジネスベネフィットを作っていきます。しかしながら、投資しているシステムとそれによって生まれる洞察に関しての意思決定にはしばしば矛盾が生じます。

なぜ、矛盾が生じるのか。また、その矛盾を緩和するためには何をすべきか。本稿では、企業の意思決定者がなすべきことについて提案いたします。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

4つのポイント

I. データ分析に関する現状

1. 矛盾するCEOの行動

データ分析が企業にデジタル変革をもたらすことは、今ではほとんど一般的な認識になっています。IoTやソーシャルメディアのデータ、財務システムのデータ、販売データと、従来からあるデータから新しいデータまで豊富にあります。

このような構造化、または非構造化データ自体は、ビジネスに価値をもたらすものではありません。しかし、一度分析されると、実用的なリアルタイム洞察を生みます。これらの洞察はイノベーションや最適化に繋がり、絶えず新しい機会を作っていきます。

意思決定者(この記事ではCEO)は、アジャイルで変化に対応できる、競争力のある企業をつくるうえで必要になる人材、テクノロジー、組織に新しい投資をする必要があります。さらに、デジタルトランスフォーメーションがこの投資、人材、ビジネスカルチャー、および組織にも影響を与えていきます。

KPMGは、2018年5月に世界主要11ヵ国の大企業の最高経営責任者(CEO)1,300人を対象にした「Growing Pains:2018 U.S. Global CEO Outlook」(KPMGグローバルCEO調査2018)の調査結果を発表しました。4回目になる今回の発表は、今後3年間の成長見通しやCEOが直面する課題、成功へ導くための戦略等をサーベイ形式で調べたものです。

グローバルCEO調査2018日本企業の特長
  • 世界経済や自社の成長見通しについては自信を示しつつも、昨今の保護主義への回帰や破壊的技術革新への対応の遅れなどに高い不安感を募らせている
  • デジタル時代で生き残るため、経営の機動性が重要と考え、その機動力を達成するためには、第三者との連携強化およびデータサイエンティスト1の活用がカギとなると考えている

※1データを活用・分析し、それをマーケティングや経営等に活かしてビジネスに価値を生み出す職業

 

日本の企業からは100名の方々がサーベイに答えています。日本回答者の主な特徴を下記に列挙しました。

このレポートでは、米国のCEOの大多数が、システムで得た予測分析(predictive analytics)と過去データ(historical data)に同じ信頼を置いているという結果になりました。さらに、非構造化データも信頼しています。

しかしながら同時に、彼らは予測分析モデルの使用や非構造化データの使用を増やす予定はないとも答えています。過去3年間において、クリティカルなデシジョンを下すうえでデータ分析による洞察があったとしても、CEOの過半数(78%)がデータによる洞察を使わず、直感に頼る決断を下しています。これは、日本も同じです。日本も、世界平準以上の68%という数値が出ています(図表1参照)。

図表1 データ分析よりは直感、経験で決断を下すCEOの割合

図表1 データ分析よりは直感、経験で決断を下すCEOの割合

なぜ、CEOの行動は矛盾してしまうのでしょうか?なぜ、グローバルCEOはデータ分析などのテクノロジーに投資しながら、データから導かれた洞察ではなく、ガット・リアクションで決定を下すのでしょうか。本稿では、意思決定者の懸念事項に取り組むために何をすべきか、どうしたらデータ分析をデシジョンメーキングとして信用されるかについて提案をいたします。

2. CEOの悩みが矛盾を生む

意思決定者のCEOは、なぜ投資をしているデータ分析からの洞察を使いたくないのでしょうか?考えられる主な理由には次のようなものがあります。

  • 元データの信用性を疑っている
  • 過去にテクノロジーを使って、苦い経験をした
  • 自らのガット・フィーリングがデータ分析からの洞察と釣り合わないため、その洞察が腑に落ちない
  • データが足りない
  • データが古い
  • 神経質、または時間的なプレッシャーがあり、即決する必要性がある。そうなると、データよりも直感を信用してしまう

しかし、これらの理由では、データ分析導入前までのデシジョンメーキングと何ら変わりありません。

では、ペインポイントはどうでしょうか?競合に先を越される、または競合も同じ考えであれば、他業種からの新しい競合が業界根底からデータを武器に産業そのものを変えてしまうでしょう。そのため、結果的には負け組になってしまいます。

それでは、CEOは何をするべきでしょうか?CEOの懸念、つまりデータからの洞察ではなく直感に頼るという矛盾を緩和するには何をすればよいのでしょうか。そこで、ここではデータ分析前、データ分析中、データ分析後の3つのシーンに分けて、CEOがデータ分析にどのように臨むべきかについて説明します。

II. データ分析にどのように臨むべきか

1. データ分析前

データを分析する前に心がけておきたいことは2つあります。1つ目はデータ分析を行うことの心構えです。この心構えができていなければ、どのような分析結果や洞察が出たとしても意味がありません。2つ目は、分析に用いるデータの準備です。正しい洞察を得るには、そのための適切なデータが必要となります。

 

(1)心構え

  • 結果を信用する
    時間や資金を投資する心構えをして、結果を信用することです。競合は、既にそこまでやっているとの危機感を持つことも重要です。
  • 分析はユニークなものであることを受け入れる
    多くのクライアントは、実証されているソリューションを望んでいます。これは、他社で成功したものは、まったく新しいものよりも、成功する確率が高いと解釈しているからです。しかし、実際には各社の問題提議や分析はユニークなものです。
  • 前提を疑う
    分析前に特定されたペインポイントが、データの分析で特定されるペインポイントと必ずしも一致するとは限りません。もちろん、CEOがデータからの洞察よりも直感を信用するということもありますが、それだけではありません。他の経営陣も取り上げられた課題を前提として、間違った道を歩んでいる可能性があります。


(2)データ

  • データは、より直近で正確なものを使う
    可能な限り、正しく、正確で、リアルタイムに近いデータを使います。データ分析のシステム以上に、データが重要です。データが間違っていれば、洞察もピントがずれたもの、または問題からかけ離れたものになってしまいます。
  • インサイドアウトデータも取り入れる
    市場データとの比較など、社外データだけではなく、「インサイドアウトデータ」も使います。「インサイドアウトデータ」とは、会社に蓄積されている膨大なデータのことです。これらは、データの情報量が莫大であるために手のつけようがないと思われていたり、重要ではないと見られているため、分析されていません。一方、収集されていないものの、会社内で利用可能なデータもあります。たとえば、従業員からの意見などです。ソーシャルデータは外部データとして集められますが、従業員からの意見を集めている企業は多くないようです。


これらを踏まえると、新しい洞察を得るためのポイントは次の5つにまとめることができます。

  1. 社外での分析を検討する
    社外で分析すると、違う雰囲気になり、新しいパースペクティブが生まれます。勤務上の締め切りに追われていると、目前にあるかもしれない洞察を見入ることはできません。時間の制限、懸念事項がなくなるほど、障害物が目の前から消えます。
  2. 中間層や若手、部外者からもインプットをもらう
    経営陣だけで分析せず、中間層や若手からもインプットをもらい、あらゆる観点から物事を見るようにします。また、可能であれば、完全な部外者を加えることをお勧めします。
  3. 分析後に必ず方向性を示す
    データを分析する前に、分析後には方向性が作れることを同意しておきます。
  4. 第三者を介在させる
    自社だけで分析せず、外部のファシリテーターにプロセスを誘導してもらうようにします。これは、データ分析のプロセスを妨げないようにするためです。
  5. 専門家の意見を聞く
    日々の対象オペレーションに関与しない、外部の専門家に意見を聞くことで、視野が広くなります。

2. データ分析中

新たな機会を創造し、ビジネスベネフィットを作り出すためには、「従来にない洞察」が不可欠です。そのためには、従来とは異なるデータや分析手法が必要となります。

  • 関連のない外部データ
    洞察力とアイデアを得るために、通常は関連しない外部データを使用します。利用できる社内データは既に何度も分析しているはずです。ですので、外部データを使って新しい視点を作るようにします。通常、大企業には多数のサイロがあります。その場合、他サイロも外部データと見込んで採用します。
  • 動的でリアルタイムなデータ
    データは静的ではなく、できるだけ動的でリアルタイムの物を使うようにします。ビジネスのスピードは非常に早く、状況はすぐに変化します。業界、状況によっては、分析は数時間で劣化する可能性があります。
  • 多角的な分析
    さまざまな角度でデータを分析します。また、多種多様な外部データを用いて相関させてみると、より精度が高くなります。
  • データの可視化
    3次元データは、2次元データより優れています。また、時限分析を取り入れて4次元にすると、より洞察は増えます。

3. データ分析後

分析が終われば、その結果から何らかの洞察が導き出されます。CEOは、その洞察をどうするかを決めなければなりません。その際には、次のようなことに注意する必要があります。

  • 洞察は結論ではない
    洞察はあくまでも洞察にすぎません。洞察に対するアクションが必要です。
  • 説明が難しい洞察はアクション不要である
    小学生に説明できないほど理解困難な洞察は、アクションを取る必要がありません。なぜならば、ペインポイントは通常“アナログ”な問題であり、回答が複雑だから解決するとは限らないからです。洞察は、あくまでも新しい考え方だから解決するのです。
  • ビジネスそのものを修正する
    得た洞察は、システムを修正するためのものではありません。ビジネス自体を修正するためのものです。多くの場合、ビジネスプロセスを変革するケースが最善策です。
  • データ分析は変化に応じて適切に行う
    データ分析は1回だけ行うものではありません。ビジネスの変化に応じて、その都度実行します。そのため、洞察は短期的なものになる可能性があります。
  • ビッグピクチャーは何かを考察する
    視野が狭まると、小さな物事に執着しがちになります。今年はXXXについてのデータを分析することに意義があるかもしれませんが、来年はYYYかもしれません。


最終的に、問題は人間絡みであることが多いものです。これは、システムやツールがビジネスを導くのではなく、ビジネスがシステムとツールを先導するからです。データ分析では、このことを忘れないようにしましょう。

III. 結論:CEOのテークアウェイ

データ分析とその視覚化からは多くの洞察を学ぶことができます。しかし、そこには落とし穴もあります。こうした落とし穴を避けるには、次の5つのポイントに注意します。

  1. データ分析に金、時間、心構えを投資する
  2. 適切なデータを使用する
  3. 新しいビジネス情報を得るために、通常のビジネス以外のデータを使用する
  4. 個人的な本能が邪魔しないように、またプロセスを容易にするために、外部のリソース(人や場所など)を活用する
  5. 投資したシステムのデータ分析結果が好ましいものでなくとも、自らの本能以上に信用する


データとデータ分析、分析結果に対する信頼度を上げて初めて、CEOは適切な投資、人材、組織、カルチャー、ビジネスにおいて意思決定を行うことができるようになるでしょう。

執筆者

KPMG Ignition Tokyo
ディレクター Yasar Altinbay

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