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成長への試練~デジタル化時代に対応するための経営管理の見直し~KPMGグローバルCEO調査2018から見た日本企業の課題

成長への試練~デジタル化時代に対応するための経営管理の見直し

本稿では、KPMGグローバルCEO調査2018の結果概要を説明するとともに、調査結果から見えてきた日本企業の抱える課題や、今後の成長に向けた重要な視点について解説します。

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KPMGジャパンは、企業が、今後3年間の成長見通しをはじめ、直面する課題や組織を成功へと導く戦略などについて、世界のCEOの洞察を理解するために作成した調査レポート「Growing pains - 2018 Global CEO Outlook」の日本語版を発行しました。本調査は、2018年1月22日から2月27日の間にかけて、主要11ヵ国(オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、オランダ、スペイン、英国、米国)および11業界(投資運用、自動車、銀行、小売/消費材、エネルギー、インフラ、保険、ヘルスケア、製造、テクノロジー、通信)におけるCEO1,300人からの回答に基づいて実施しました。回答企業は業務収入が5億米ドル以上の企業であり、うち3分の1が業務収入100億米ドル以上となっています。

本稿では、調査結果の概要を説明するとともに、調査結果から見えてきた日本企業の抱える課題や、今後の成長に向けた重要な視点について解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 日本企業のCEOは、特にデジタル化時代に適応するビジネスモデルの転換や人材の獲得に課題を抱えている。
  • 日本企業のデジタル変革が海外、特に米国企業に後れをとっているのは、短期思考に陥りやすい従来型の経営管理の仕組みが要因。
  • 成果が出るまでに一定の期間を要するデジタル変革を促進するためには、不確実性を前提とした将来環境の想定に基づく長期ビジョン/戦略の策定、その実現を促す業績評価/投資判断の仕組みの構築がカギとなる。

I. 世界と日本のCEOの課題認識

1. 不確実な世界という難題 - 日本企業は、テクノロジーを駆使したビジネスモデルへの転換が、期待通りに進んでいない

日本企業のCEOも海外企業のCEOと同様、短期的には「保護主義への回帰」、中長期的には「デジタル化の進展」や「ミレニアル世代への対応」、「サイバー攻撃の脅威の高まり」を、自社の成長を脅かす重要なファクターとして挙げています。

ただし、日本企業のCEOは、ミレニアル世代への向き合い方やこれまでのデジタル変革の成果には、問題を抱えているようです。たとえば、ミレニアム世代にとって重要なキーワードであるパーソナライズ化の問いに関しては、「パーソナライズされた体験について、顧客の期待を上回っている」と回答した日本のCEOの割合はわずか15%にとどまり(図表1参照)、「これまで、顧客体験をパーソナライズする試みへの投資は、望んでいる成長利益を生み出していない」と考える割合は42%で、全体よりも13ポイント高い結果となっています(図表2参照)。このように、日本においては、パーソナライズ化を実現するためのテクノロジーを駆使したビジネスモデルへの転換が、期待通りに進んでいない状況がうかがえます。

図表1 「パーソナライズされた」体験への顧客の期待に応えることについての、自社の成果に対するCEOの認識 「顧客の期待をかなり上回っている」、「顧客の期待を上回っている」と回答した割合

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図表1 「パーソナライズされた」体験への顧客の期待に応えることについての、自社の成果に対するCEOの認識 「顧客の期待をかなり上回っている」、「顧客の期待を上回っている」と回答した割合

日本

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(出所)2018 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

図表2 これまで、顧客体験をパーソナライズする試みへの投資は、望んでいる成長利益を生み出していない

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図表2 これまで、顧客体験をパーソナライズする試みへの投資は、望んでいる成長利益を生み出していない

日本

全体

(出所)2018 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

2.現実的な成長 - 日本のCEOは自社の成長見通しや採用計画は保守的だが、新たなスキルを持った人材の採用意欲は高い

日本も海外も、CEOは楽観的な経済成長見通しの一方で、自社の成長見通しは保守的に見ています。また、日本企業の採用計画は海外企業よりも消極的で、今後3年間の人員増加予定数が「6%以上の増員」と回答した割合が、海外は昨年の回答結果と比較して10ポイントの減少だったのに対し、日本は45ポイント減少しています。

ただし、日本のCEOの半数は新たなスキルを持った人材の採用に関して、「将来の成長目標に関係なく採用する」と考えており、全体と同様の傾向を示しています。一方で「一定の成長目標を達成してから新たなスキルを持った人材を採用する」と回答した米国のCEOは74%と、他国より際立って高い水準となっています(図表3参照)。これは、米国企業の多くがデジタル時代に必要なスキルセットを持った人材を既に獲得している一方で、日本ではデジタル人材を十分に確保できていない企業が多いためと考えられます。

図表3:新たなスキルを持った人材を採用するための企業のアプローチ

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図表3 新たなスキルを持った人材を採用するための企業のアプローチ

(出所)2018 Global Outlook、KPMGインターナショナル

3. デジタルを自らの問題と捉える - 日本のCEOはデジタル変革には前向きだが、自身の準備ができていない

日本企業のCEOも海外企業のCEOと同様に、デジタル化や技術的破壊に対して前向きに捉えています(図表4参照)が、一方で、海外と比較して日本のCEOはデジタル変革に向き合う姿勢に明らかな違いが見えます。たとえば、「自社の経営モデルの抜本的な変革を率いていく準備が個人的にできている」と回答した日本のCEOは47%にとどまり(図表5参照)、調査対象国のなかで最も低い割合となっています。さらに、「顧客データの保護は、自らの重要な責任である」と考えている日本のCEOの割合は42%で、全体の平均と比べると17ポイント低い結果となりました(図表6参照)。この背景として、日本のCEOがデジタル変革に係る取組みを経営問題として捉えていない、あるいは、自社のデジタル変革が進んでいないため、顧客データの保護を意識する段階に至っていないこと等が考えられます。

図表4 技術的破壊は脅威ではなくチャンスである

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図表4 技術的破壊は脅威ではなくチャンスである

日本

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(出所)2018 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

図表5 自社の経営モデルの抜本的な変革を率いていく準備が個人的にできている

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図表5 自社の経営モデルの抜本的な変革を率いていく準備が個人的にできている

日本

全体

(出所)2018 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

図表6 顧客データの保護は、自らの重要な責任である

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顧客データの保護は、自らの重要な責任である

日本

全体

(出所)2018 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

4. 経営の機動性を重視 - 日本のCEOは経営の機動性を重視しているが、行動や準備が追い付いていない

顧客の要求が絶えず変化し、テクノロジーの状況が常に流動するなか、企業が機敏に行動する重要性が、これまで以上に高まっています。CEOは「経営の機動性が企業の存続を左右する」と考えており、特に、日本企業のCEOは実に8割以上がその認識を示し、全体の回答結果を25ポイント上回っています(図表7参照)。しかしながら、「業界における技術革新のスピードへの対応に苦慮している」割合は、海外企業の36%に対し、日本企業は73%と大きな差があり、日本企業のCEOの意識と現実の行動や準備状況に乖離がある状況がうかがえます(図表8参照)。

図表7 経営の機動性は企業の存続に影響する重要な要素である

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図表7 経営の機動性は企業の存続に影響する重要な要素である

日本

全体

(出所)2018 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

図表8 自社は、業界における技術革新のスピードへの対応に苦慮している

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図表8 自社は、業界における技術革新のスピードへの対応に苦慮している

日本

全体

(出所)2018 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

5. 新たな成長を実現するための方法 - 第三者との戦略的提携により経営の機動性を実現

日本のCEOは、新たな成長を実現するための方法として、第三者との戦略的提携を重視しています。実に7割の日本のCEOが、「自社が必要とする経営の機動性を実現するための唯一の方法は、第三者との提携強化」であると考えています(図表9参照)。

図表9 自社が必要とする経営の機動性を実現するための唯一の方法は、第三者との提携強化

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図表9 自社が必要とする経営の機動性を実現するための唯一の方法は、第三者との提携強化

日本

全体

(出所)2018 Global CEO Outlook、KPMGインターナショナル

6. 新たな成長を実現するための方法 - AI・データの活用体制構築が急務

また、日本のCEOは、AIの活用が今後3年間に組織にもたらす効果として、前途した「経営の機動性の向上」だけでなく、「利益成長の加速」、「データガバナンスの向上」や「データアナリティクス能力の向上」を上位に挙げており、AIの活用による経営スピードや成長の加速に期待を寄せています(図表10参照)。

 

日本 全体
  1. 経営の機敏性の向上
  2. データガバナンスの向上
  3. 利益成長の加速
  4. 顧客対応の向上
  5. データアナイティクス能力の向上
  1. データガバナンスの向上
  2. 顧客体験の向上
  3. データアナイティクス能力の向上
  4. 利益成長の加速
  5. リスク管理の向上

 

(出典)2018 Global CFO Outlook、KPMGインターナショナル

II. 日本企業が成長を加速するためのカギ

1. 日本企業が変革を実行するうえでの課題

(1)変革を阻害する真因は従来型の経営管理の仕組み

このように、日本のCEOは経営の機動性を高め、成長を加速するために、AIやビッグデータを積極的に活用し、デジタル時代における競争力を強化することが急務であると考えています。しかしながら、海外、特に米国企業のCEOが既にデジタル変革に向けた準備が整っている一方で、日本企業が後れを取っている要因はどこにあるのでしょうか。

それは、日本企業の多くが目先(多くは四半期/単年度~中期経営計画の期間)の成長や利益創出に捕らわれていることが要因として考えられます。そのため、中長期的な企業価値の最大化に向け、積極的にリスクをとりながら新たな領域に先行投資を行うことができていません。この背景には、現状の戦略策定や経営管理の仕組みが、自社の主要ドメインや周辺領域における売上成長や利益の最大化に最適化された設計になっていることが影響していると考えられます。

しかしながら、破壊的テクノロジーによりこれまでの産業構造・環境が大きく変化する今日においては、従来の延長線上で製品・サービスの改善やオペレーションの効率化を進めるのではなく、デジタル変革によってこれまでのビジネスモデルやオペレーションのあり方を大きく見直す必要があります。

2. 経営管理の仕組みを抜本的に見直す

では、デジタル変革によってこれまでのビジネスモデルやオペレーションのあり方を見直すためには、どのような視点が必要でしょうか。不確実性の高い時代においては、破壊的テクノロジーなどの外部環境がもたらす機会と脅威(リスク)をコントロールしていくことが、ますます重要になります。そのためには、戦略策定やオペレーションの考え方を根本から見直すことが肝要です(図表11参照)。

図表11 これからの戦略策定・オペレーションの考え方

3. 不確実性を前提とした将来環境の想定に基づく長期ビジョン/戦略の策定

長期ビジョン/戦略策定においては、現在の延長線上で未来をとらえ、積上げ型で実行計画を策定していた従来型のアプローチを見直す必要があります。従来型のアプローチでは、既存事業における目の前の顧客ニーズや競合動向に対応することはできても、新たな事業機会や現状維持によるダウンサイドリスクをとらえることが困難でした。これからは、自ら未来を描き、将来目指す姿から逆算型で実行すべきことを考えるアプローチが重要になります。具体的には、技術革新やメガトレンド、サステナビリティ上の課題など、将来の事業環境の変化を複数のシナリオとして整理し、自社に重大な影響をもたらす機会と脅威(リスク)を特定します。その際、長期的かつ従来の事業に捕らわれない幅広い視野で将来シナリオを描くことが重要です。そして、特定した機会・脅威(リスク)を基に長期的に目指す姿を明確にし、目指す姿から逆算で実行計画を策定します(図表12参照)。
海外の先進企業は、このようなアプローチを40年以上前から取り入れており、社内外のリソースで編成された専門チームがプランニングを行い、経営陣はそのシナリオに対峙し、示唆を得ながら経営判断を行っています。また、日本においても、ここ数年、同様のアプローチに基づいて長期ビジョンや中期経営計画を策定している企業も見られます。

図表12 未来シナリオからの逆算による戦略策定アプローチの全体像

4. 長期ビジョン/戦略の実現を促す業績評価/投資判断の仕組みの構築

また、業績評価や投資判断の仕組みについても、従来の手法から発想を転換する必要があります。

(1)企業価値向上を意識した経営指標の設定と事業ポートフォリオ管理/資源配分の仕組みの見直し
日本企業においては、重要な経営指標として売上高や利益など、成長性・収益性に関する経営指標を重視している日本企業が多いのが現状です(図表13参照)。

図表13 日本企業が中計で公表している経営指標(配当関連の指標を除く・複数回答)上場企業581社へのアンケート結果 (実施期間:平成29年10月4日~11月6日)

出所:生命保険協会「株式価値向上に向けた取り組みについて(平成29年度)」をもとに、KPMG作成

このため、短期的な売上・利益目標の達成が優先されがちで、PL指標のマイナスに影響を及ぼす将来に向けた先行投資大規模な設備投資、M&A、研究開発投資、人材採用、マーケティング施策が実行されにくい状況を生み出し、日本企業が長期視点で経営を行うことを阻害する一因になっていると考えられます。

長期にわたって持続的に成長するためには、将来の収益の源泉となる新事業を継続的に生み出すための攻めの投資が不可欠です。そのためには、ROICなどの指標を活用して既存事業の利益創出の効率性を改善し、稼ぐ力を高めたり、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を改善したりすることでキャッシュフローを最大化し、将来の成長に必要な資金を最大限生み出す必要があります。そして、創出した資金で将来の収益の柱となる事業に積極的に投資し、さらなるキャッシュフローを創出するサイクルをつくることが重要になります。

また、資本効率を意識することで、企業価値の向上に貢献していない事業を明らかにし、そのような事業の撤退判断を促すことも期待できます。さらに、事業ポートフォリオの見直しを行う際に、事業の収益性や成長性だけでなく、自社が長期的に目指す姿に適合しない事業も見直し対象とすることも、将来、コア事業になる領域に経営資源を集中させ、事業の成長を加速する観点で有効な手段となります。


(2)イノベーティブな案件を取りこぼさないための投資判断の仕組みの構築

新規事業などへの投資判断においては、多くの企業がNPV法やIRR法を用いて投資案件を評価しています。しかしながら、これらの指標を用いて個別の投資案件を評価した場合、将来リターンの不確実性が高い投資案件ほど評価が低くなるため、リターンが確実な投資案件しか社内審査が通らず、リスクの高いイノベーティブな案件への投資が見送られてしまいます。たとえば、ここ数年で、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などを通じたスタートアップ企業への出資や協業に取組む企業が増えていますが、個々の投資案件のリスクや過去の失敗に捕らわれて積極的な投資ができていないケースが見られます。

この問題を解決するためには、投資案件の評価の仕組みを見直し、たとえば、投資案件全体をポートフォリオで考えることが有効です。具体的には、長期ビジョンや戦略の実現にとって重要な分野であれば、個別にはNPV法やIRR法で十分なリターンが望めないと判断されるような案件であっても、特に重視する定性基準(獲得できる人材/スキル、技術、新たな顧客、ビジネスモデル/ノウハウ、あるいは、顧客・社会に与えるインパクト 等)を満たしていれば、投資対象として採用することが考えられます。つまり、最終的に投資案件のポートフォリオ全体でプラスのリターンを獲得することができれば良いという発想に転換することが重要になります。

III. まとめ

このように、日本企業のCEOは、デジタル化時代に適応するビジネスモデルの転換や人材の獲得に課題を抱えています。その要因としては、短期思考に陥りやすい従来型の経営管理の仕組みが背景にあり、成果が出るまでに一定の期間を要するデジタル変革のための先行投資や施策が十分にできていないことが考えまれます。この問題を解決するためには、将来環境の想定に基づき、従来の事業に捕らわれない幅広い視野で長期ビジョン/戦略を描くとともに、目先の売上・利益よりも、将来の企業価値向上に向けたアクションを促す業績評価/投資判断の仕組みを構築することがカギとなります。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
パートナー 林 博文

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