オーストラリア2018/19年度連邦予算案の解説(税制部分)及び直近のオーストラリア税務動向 | KPMG | JP
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オーストラリア2018/19年度連邦予算案の解説(税制部分)及び直近のオーストラリア税務動向

オーストラリア2018/19年度連邦予算案の解説(税制部分)及び直近のオーストラリア税務動向

本稿では、日本企業に影響があるオーストラリア2018/19年度連邦予算案及び最近の税務動向について解説します。

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2018年5月、オーストラリア連邦政府により、堅調な経済成長を後押しするための2018年度連邦予算案が発表されました。税制改正案を含む最近の税務動向については、オーストラリア拠点のみならず日本親会社においても、対応の検討が必要な項目があります。本稿では、日本企業に影響がある連邦予算案及び最近の税務動向について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 法人税率の引き下げ、研究開発費に係る優遇税制、SGEの定義拡大などの改正法案については、税務のみならず会計への影響もあるため、議会通過及び法律施行のタイミングを注視する必要がある。
  • 日本企業のオーストラリア拠点で、ペナルティの強化や当局による税務リスクレビューへの対応のために、税務ガバナンス体制の構築・強化が課題となっている。

I.連邦予算案の解説

ターンブル政権下での3度目の連邦予算案の発表は、2018年5月8日火曜日に行われました。連邦政府は、オーストラリアの経済をより強固にすることを目的として、以下を推し進める方針であることを公表しています。

  • 大企業も含めた法人税率の引き下げ(経済成長や雇用創出のため)
  • 科学・技術への投資によるスマートエコノミーの構築支援(スーパーコンピューター、世界に通用する衛星画像、宇宙事業、AI投資及びより正確なGPSなどへの投資をし、ビジネスの成長及びスマートエコノミーの分野での雇用創出に資するため)
  • 運輸関係のインフラ投資(港湾、空港、運輸拠点へのアクセス不足への対処及び地方エリアにおける重要な運輸ルートのアップグレードなどを通して、混雑を解消し、生産性と安全性を改善するため)・健康産業への投資(薬剤、臨床試験、新しい医療技術の開発などの調査を目的とした革命的ゲノム研究プルジェクトへの投資により、医療技術、バイオ技術及び医薬品の分野でグローバルリーダーの地位を維持するため)
  • 輸出促進として経済協定の拡充
  • 農家の支援(水インフラ、GPS機能のアップグレード、農作物への害虫・雑草・病気対策への投資)

予算案からは、連邦政府が今後4年間で350億ドルの収支を改善し、財政黒字化達成時期として、昨年度の連邦予算案発表時の想定より1年前倒しとなる2019/20年度を見込んでいることが読み取れます。
一方、連邦政府の歳入源である税収に関して、今回の連邦予算案でも昨年に引き続き税制の観点から大きな改正案の提示はありませんでした。以下、連邦予算案のうち日系企業・駐在員等に影響があると予想される税務論点を中心に、2018年連邦予算案を概説します。

1.個人税制

今回の連邦予算案では、7年間にわたり個人所得税の実効税率を段階的に引き下げることにより個人の税負担を軽減することが提案され、該当の法案は既に2018年6月21日に議会を通過、同日より施行されています。具体的には、次の3ステップで実施されます。


ステップ1:2018年7月1日から4年間、年間最大530豪ドルまでの低中所得税額控除(Low and Middle Income Tax Offset)が導入されます。

ステップ2:37%の税率が課される課税所得金額区分の基準(現行、課税所得87,000豪ドル超180,000豪ドル未満)につき、下限値が2018年7月1日より現在の87,000豪ドル超から90,000豪ドル超に、2022年7月1日からは120,000豪ドル超に引き上げられます。

ステップ3:2024年7月1日からは、税率37%の課税所得金額区分が完全に取り払われ、税率32.5%の課税所得金額区分の最高所得金額が200,000豪ドルとなります。結果として、45%の最高限界税率が課せられる個人所得金額は「180,000豪ドルを超える所得金額」から「200,000豪ドルを超える所得金額」となります。


これらを表で示したものが図表1です。

図表1 個人所得税率表及び税額控除

適用税率(%) 課税年度(※)
2017-18
(現状)
課税年度
2018-19
2019-20
2020-21
2021-22
課税年度
2022-23
2023-24
課税年度
2024-25
以降
所得金額(豪ドル)
0% 0 - 18,200 0 - 18,200 0 - 18,200 0 - 18,200
19% 18,201 - 37,000 18,201- 37,000 18,201 - 41,000 18,201 - 41,000
32.5% 37,001 - 87,000 37,001 - 90,000 41,001 - 120,000 41,001 - 200,000
37% 87,001 - 180,000 90,001 - 180,000 120,001 - 180,000 -
45% 180,000< 180,000< 180,000< 200,000<
税額控除額(豪ドル)
低中所得税額控除 - Up to 530 - -
低所得者税額控除 Up to 445 Up to 445 Up to 645 Up to 645

個人の課税年度は、毎年7月1日から翌年の6月30日までである。

また、今回の連邦予算案ではメディケアレビー率を現存の2%に据え置きすることが発表され、2017年連邦予算案で提案されていたメディケアレビー率の0.5%引き上げ案が廃止されました。

2.ビジネス税制


(1)法人税率の引き下げ

連邦政府は、オーストラリアの企業が国際競争力を維持することができるよう、会社の合計年間総収入額(Annual Aggregated Turnover)に応じ、最終的に全企業を対象として法人税率を段階的に25%まで引き下げることを引き続き目標としており、図表2の法案が上院で審議されています。ただし、上院で与党が過半数を確保できていないため、法案通過の見通しは現在も不透明な状態です。

図表2 法人税率引き下げ現行法 vs 法案

  現行税率 法案税率
課税年度 合算年間総収入 税率 合計年間総収入 税率
2018-19 50百万豪ドル未満 27.5% 50百万豪ドル未満 27.5%
2019-20 50百万豪ドル未満 27.5% 100百万豪ドル未満 27.5%
2020-21 50百万豪ドル未満 27.5% 250百万豪ドル未満
27.5%
2021-22 50百万豪ドル未満 27.5% 500百万豪ドル未満 27.5%
2022-23 50百万豪ドル未満 27.5% 10億豪ドル未満 27.5%
2023-24 50百万豪ドル未満 27.5% すべての企業 27.5%
2024-25 50百万豪ドル未満 27% すべての企業 27%
2025-26 50百万豪ドル未満 26% すべての企業 26%
2026-27 50百万豪ドル未満 25% すべての企業 25%

合算年間総収入(Aggregated turnover)会社とそのconnected entitiesおよびaffiliatesの年間売上の合計から、関係会社売上(related party amounts)を除いた金額で、一般に日本親会社の売上も含む。


改正動向によっては、法案が上院を通過(Substantially Enacted)した時点で、繰延税金資産・負債の取り崩しや、本邦外国子会社合算税制(2017年税制改正)の所謂ペーパーカンパニーやキャッシュボックス会社への非該当性の判定等の社内確認手続きが必要となる可能性があるため、親会社においてオーストラリアの税率改正動向のモニタリングが推奨されます。


(2)研究開発費にかかる税制優遇策の変更(より制度趣旨に見合った制度への変更)

現行制度では小規模企業(合計年間総収入額(Annual Aggregated Turnover)が20百万豪ドル未満の企業)向けの制度として現金還付可能な税額控除制度と、中~大企業(Annual Aggregated Turnoverが20百万豪ドル以上の企業)向けの制度として現金還付不可能な税額控除制度があり、それぞれで改正がある予定ですが、Annual Aggregated Turnoverの判定上、通常、日本親会社の売上高等も合計して考慮されることから、小規模企業向けの制度の改正案は、日系企業のオーストラリア子会社には影響が限定的となります。
なお、すべての変更は2018年7月1日以後に開始する税務年度から適用される予定ですが、本稿執筆時点で法律は施行されていません。具体的な変更内容は以下の通りです。


小規模企業(合計年間総収入額が20百万豪ドル未満の企業)

  • 研究開発費にかかる税額控除率は、制度適用者において適格研究開発費が損金不算入となることから、適用法人税率(27.5%)に13.5%を上乗せした率となります。すなわち、収益稼得前のスタートアップ期の企業や一定規模の欠損金のある企業においては、税額控除率は最大で41%になります。
  • 現金による還付額には4百万豪ドルの上限が設定され、超過額は翌年度以降に払い戻し不可の税額控除額として繰り越されます。この上限額は臨床試験に関する研究開発費には適用されません。


中~大規模企業(合計年間総収入額が20百万豪ドル以上の企業)

  • 従来8.5%で固定されていた税額控除率は、研究開発費の多寡(年間の支出総額に占める研究開発費の割合:R&D intensity)によって4%、6.5%、9%、12.5%となります(図表3参照)。なお、「年間支出総額」がどのように定義されるかは明確になっていません。

図表3 R&D intensityと税額控除率(中~大規模企業)

  • 税額控除の対象となる研究開発費の上限額は従来の100百万豪ドルから150百万豪ドルへと増額されます。
  • なお、前述の通り、変更は2018年7月1日以後に開始する税務年度から適用される予定であるため、現状研究開発費の税額控除の適用を受けている日系企業のオーストラリア子会社では、R&D intensityを試算の上、制度の恩恵がどの程度増減するのかを把握し、事業計画に反映することが推奨されます。


(3)過少資本税制

オーストラリアの過少資本税制は、関連者・非関連者借入に係らず、全ての借入(debt)に係る利息費用等を制限の対象としています(ただし、損金算入支払利子等の総額が2百万豪ドルを超える場合に限ります。)。現行の損金算入限度借入額の算出は以下の三つの基準のうちいずれか大きい金額となります。

  • セーフハーバー基準 - 一般企業は調整後平均資産価値の60%(負債資本比率3:2)、非銀行金融機関は15:1、銀行は金融監督機関により要求されている資本維持額
  • アームスレングス基準 - 独立企業基準に基づく合理的借入額
  • 全世界ギアリング基準 - オーストラリア事業の負債比率を全世界ベースの負債比率の100%まで認められます。

上記のうち、セーフハーバー基準の計算上、現行制度の下では、会計上資産・負債の再評価を帳簿に反映していない場合でも、税務上のみ「会計基準の下で認められうる資産・負債の再評価」を行ったものとしてセーフハーバー基準の計算を行うことができますが、2019年7月1日以後に開始する税務年度から、セーフハーバー(1.5:1の負債資本比率)の損金算入限度借入額の計算において、この納税者有利となっていた資産の再評価規定の廃止が提案されています。この変更により、税務上、資産の再評価を実施してセーフハーバーを増額することができなくなります。本改正の提案に関する法律は、本稿執筆時点(2018年8月27日)では施行されていません。
また、本稿執筆時点(2018年8月27日)で未施行の過少資本税制関連の改正案として、2018年7月1日以後に開始する税務年度から、関係会社(Associate Entity)の定義の閾値が資本関係50%以上から10%以上に引き下げられるというものがあります。この変更は、ジョイントベンチャーへマイノリティ投資している企業に大きな影響を及ぼす可能性があります。


(4)Significant Global Entity(SGE)の定義を拡大

2018年7月1日以後に開始する税務年度より、国別報告制度など多国籍企業を対象とする規定が適用されるSGEの定義(図表4参照)を拡大し、非公開企業、トラストやパートナーシップその他投資事業体が率いる大規模多国籍企業グループについても、SGEに含めることが提案されました。

図表4 SGEとは

現在のSGEの定義は、連結会計上の全世界ベースの年間売上金額が、10億豪ドル以上の多国籍企業グループの最終親会社、又は、上記多国籍企業グループの連結財務諸表に会計上連結されるオーストラリア子会社・支店であり、既存のSGEの定義に該当する企業は、上記変更の影響はありません(引き続きSGEに該当します)。SGEの定義の拡大により、多国籍企業租税回避防止法(MAAL)、迂回利益税(DPT)、国別報告制度、一般目的財務諸表、多額の罰金規定などの適用を受ける対象企業が拡大されます。本改正の提案に関する法律は、本稿執筆時点(2018年8月27日)では施行されていません。

II.オーストラリア税務動向(連邦予算案で言及された論点以外の重要論点)

上記の通り、連邦予算案では日系企業に影響がある税務論点は限定的です。連邦予算案以外で日系企業に影響がある最近のオーストラリアの税務動向を併せて概説します。

1.ペナルティの厳格化

会計上の連結親会社の年間全世界売上高が10億豪ドル以上の企業グループに属する会社(SGE)に対し、ATO(Australian Taxation Office)への申告・報告義務を怠った場合の遅延日数に応じたペナルティが、2017年7月1日以降を提出期限とする税務提出書類より、1,050豪ドル~5,250豪ドルから、その100倍の105,000豪ドル~525,000豪ドルに変更されています(図表5参照)。

図表5 SGEに対するペナルティの増大

本規定は、提出期限のあるあらゆるATOへの提出書類(例えば、法人税申告書、フリンジベネフィット税申告書、GST申告書(Business Activity Statement)、国別報告制度対象文書、一般目的財務諸表など)に適用されるため、日系大企業の既存オーストラリア子会社又は買収等により新たに日系大企業の傘下に入ったオーストラリア子会社は、想定外のペナルティの支払いを避けるため、自社(グループ)の税務コンプライアンスの管理体制の見直しを行い、申告・報告義務を適時・適切に実施する体制を整えることが推奨されます。

2.ATOの税務ガバナンスガイドラインとレビューの実施

ATOは、2017年1月に税務ガバナンスのガイドライン(2015年に公表)を改訂し再度更新版のガイドライン(Tax Risk Management and Governance Review Guide)を公表しました。2017年から4年間にわたりTop 1,100(オーストラリアでの売上金額が250百万豪ドル超)の企業(日系企業のオーストラリア子会社を含む。)に対して、税務ガバナンス体制を含む過去4税務年度のレビューが実施されています。ATOは、本レビューにおいて、会社の税務ガバナンス体制の現状と本ガイドラインにおけるあるべき税務ガバナンス体制との差異分析(Gap Analysis)及びアクションプランの策定が実施されているかを含めて確認を実施します。ATOが会社の税務ガバナンス体制を優良であると認めた場合、税務調査の頻度が低下します。反対に、税務ガバナンス体制が脆弱な会社に対しては、ATOによる税務リスクレーティングが高く設定され、積極的に税務調査が実施されることになります。本レビューでは、過去の会計処理と税務処理の差異、重要な取引、ATOが公表している税務リスクが高いとされる取引などに係る大量の資料の提示が求められ、納税者は28日以内に依頼資料をATOへ提出する必要があるため、事前準備が推奨されます。日本親会社は、ペナルティの強化や資金調達ガイドラインへの事前予防型の対応を行うため、本社主導又はオーストラリア子会社主導で、オーストラリア子会社の税務ガバナンス体制の構築及び書面化に取り組むことが推奨されます。

執筆者

KPMG税理士法人
パートナー 吉岡 伸朗

KPMGオーストラリア
マネジャー 都丸 亮太

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