Brexit(英国のEU離脱)と日本企業への影響

「ビジネステーマ解説2018」連載第20回 - 英国の欧州連合(EU)離脱(Brexit)に伴う、日本企業の影響について解説する。

英国の欧州連合(EU)離脱(Brexit)に伴う、日本企業の影響について解説する。

2017年3月にリスボン条約第50条が発動され、2019年3月の英国のEU離脱(以下、Brexit)が正式決定した。

2017年12月、英国とEUは第1段階交渉として清算金、双方市民の権利保護、アイルランド国境管理という主要論点において一定の基本合意に至った。2018年3月下旬のEU首脳会議では、離脱に伴う激変緩和目的で2020年12月末までの「移行期間」が承認され、今後は通商を中心とする第2段階の交渉が本格化する見込みだ。

一方で、実際の離脱については「Hard Brexit(強硬離脱)」すなわち、離脱条件を合意しないまま、英国がEU単一市場と関税同盟から外れ、世界貿易機関(WTO)ルールに従うというシナリオや、「Soft Brexit(穏健な離脱)」すなわち、移民流入を一定制限しながらも同時に域内無関税となる単一市場へのアクセスも確保する、というシナリオまであり、今後の双方の交渉の行方には注意が必要となる。

在英および在欧子会社を有する日本企業にとって、英国がEUから離脱することで、法規制環境の変化や英国経済の変化、関税や輸出入手続きの負担等および源泉税課税によるコスト増、在英EU市民の確保など、あらゆる領域において既存事業への影響が考えられる。それ以外にも、GDPR(EU一般データ保護規則)の影響も考慮する必要がある。

ポジティブな側面としては、従来はロンドンがEUの金融センターとしての役割を一元的に果たしてきたのに対して、今後、欧州大陸側がその機能を誘致し、金融関連サービス拠点を例えばドイツやオランダに設置するといった新しい動きも出てくるという見方もある。欧州大陸側がこうした新しい産業構造の変換にいかに前向きに取り組むかによって期待される成果も異なり、今後の影響はいまだ予断を許さない状況にある。

Brexitまで残すところあと1年弱、ワースト・シナリオに備え、専門家の活用も含めて準備を進めることが必要である。一方でこれを契機に、現在の商流や組織機能のあり方を再検討し、新しい産業や市場を見据えた戦略を通じて、この大きな変革を積極的に乗り切ることが期待される。

想定される英国のEU離脱シナリオ(2018年3月末時点)

Hard Brexit
(強硬離脱)
単一市場と関税同盟から外れ、WTOルールに従う。
Soft Brexit
(穏健な離脱)
移民流入を一定制限し、単一市場と関税同盟にとどまる。
EU残留 可能性は低いが、2度目の国民投票実施。

執筆者

KPMGジャパン グローバルジャパニーズプラクティス
統括パートナー
三浦 洋

電波新聞 2018年7月3日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、電波新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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