ロシアM&Aの最新動向と今後の見通し | KPMG | JP
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ロシアM&Aの最新動向と今後の見通し

ロシアM&Aの最新動向と今後の見通し

本稿では、Russian M&A Review 2017をもとに、ロシアM&Aの最新動向と今後の見通しについて、日系企業の動向に重きをおいて解説します。

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ロシア経済は、2014年の欧米諸国からの経済制裁とその対抗措置を契機に停滞していましたが、国内産業の活性化を狙った輸入代替政策や、為替・インフレ率の安定化のための金融政策が奏功し、2017年はGDP成長率も1.5%のプラスに転じています。経済制裁下において、経済の資源依存を下げ、産業の多様化を進めてきたことが、M&A市況にも影響を及ぼしています。

また、日露間では2016年5月に提案された8項目の経済協力プランにより、両国の経済協力の気運も高まっています。欧米諸国との関係が冷え込む中、経済の東方シフトを進めるロシアにとって、日本は主要な対露投資国となっています。2017年9月には31年振りに改正租税条約について署名がなされ、投資環境の改善により、今後ますます同国への投資が進むことが期待されます。

本稿では、KPMGロシアで本年3月に刊行したRussian M&A Review 2017※1をもとに、ロシアM&Aの最新動向と今後の見通しについて、日系企業の動向に重きをおいて解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

 

※1 Russian M&A Review 2017は、KPMG Russiaで集計しているKPMG Russian M&A databaseに基づき作成されています。当該データベースは、2017年12月31日までの公表情報をもとに作成されており、本稿のM&Aに関する記述も当該情報に基づいています。

ポイント

  • 2017年のM&A件数は546件(669億ドル)と増加傾向にある。特に海外からのインバウンド投資は、111件(225億ドル)とリーマンショックによる世界的な景気後退のあった2009年以来最大である。
  • 日本からの対露投資は、ヘルスケア・医薬品、金融、イノベーション・テクノロジー、コンシューマーマーケット、石油・ガスと多岐に渡っており、主要な対露投資国として、その存在感を増している。
  • 2018年4月に公表された米国の追加制裁は、今後のM&A市況に一時的にマイナスの影響を及ぼす可能性はあるものの、中長期的には国内産業の育成や経済の東方シフトなどの政策の推進により、非資源の成長産業を中心にM&A市況は堅調に推移するとみられる。

I.ロシアを取り巻く環境

1.ロシアの概況

ロシア連邦は、日本の約45倍にあたる17百万km2の世界第1位の国土を有する大国です。西のカリーニングラードから東のカムチャッカまでの時差は10時間に上ります。人口は1.4億人(世界9位、日本は1.3億人で世界第10位)、約8割がロシア人ですが200近い民族が同居する多民族国家です。GDPは1.5兆ドル(2016年は世界12位、日本は4.9兆ドルで世界3位)となります。

広大な土地はウラル山脈を境に西側と東側に大別されます。西側はロシア全土の約25%を占めるに過ぎませんが人口の約8割が在住しており、西洋との歴史的な結びつきを背景に西側に経済が偏重しているという特徴を有しています。こうした環境の中、アジア経済の成長を取り込むべく、経済の東方シフトが進められており、極東発展省という専門省庁を設置し、アジアからの投資誘致が進められています。

また天然ガスや石油を始めとした豊富な資源が経済を支えていることも特徴となります。ロシアの総輸出に占める石油・石油製品・天然ガスの割合は約5割(2016年は55%)です。一方で油価に左右されない安定した経済発展を進めるうえで脱資源化が課題となっています。

2.ロシア経済を強くした対露経済制裁とその対抗措置

2014年のクリミア併合から欧米諸国との関係が悪化し、欧米諸国からの対露経済制裁(制裁対象の個人・団体の資産凍結・渡航禁止・取引停止、ロシア政府系金融機関・エネルギー・防衛企業に対するファイナンスの制限、資源開発関連の機械設備・技術の供与禁止など)とロシア側からの対抗措置(農畜産物の輸入禁止)が発動されている状態が続いています。当該欧米諸国との緊張関係の高まりとともに油価の下落やルーブル安が生じたため、2014年以降のロシア経済は一時的に停滞しました。

しかし、これを契機に政府は脱資源化のための国内産業の育成や、経済の東方シフトを加速しています。国内産業の育成に関しては、産業別・品目別に輸入依存度を軽減するための目標を設定し、国産品を優遇する輸入代替政策がとられています。特に、ロシア側が対抗措置を設定した農業分野や、輸入品への依存度が高い医薬品分野では、国内産業の発展が顕著です。経済の東方シフトに関しては、2015年から東方経済フォーラムを開催し、アジア各国の首脳や経済界のリーダーを招き、経済連携について議論がなされています。

こうした環境の中、2017年はGDPは+1.5%のプラス成長に転じました。油価の上昇も背景にありますが、インフレ率の安定(+2.5%)や為替の安定により、GDPの約半分を占める家計消費が増加(+3.4%)したことも大きな要因です。経済制裁下においても、個人消費が下支えし、ロシアの国内景気が回復に向かっていることを示しています。

3.経済協力が進む日露関係

ロシア経済が東方シフトを進める中、日本企業への期待も高まっています。

2016年5月には、安倍首相から8項目の経済協力プランがプーチン大統領に提案されました。8項目は、(1)健康寿命の伸長、(2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り、(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大、(4)エネルギー、(5)ロシアの産業多様化・生産性向上、(6)極東の産業振興・輸出基地化、(7)先端技術協力、(8)人的交流の抜本的拡大で構成されています。

極東地域の発展のほか、平均寿命が71.9歳(2016年:男性66.5歳、女性77.1歳)と先進国に比して低いことや都市部の深刻な渋滞などの社会的課題、二次産業の育成を含めた産業の多様化の実現など、ロシア国内の課題解決に向けていずれも日本企業の技術的優位性が期待される分野となっています。2017年末までに100を超える合意文書が締結され、民間案件は日露双方の企業間で協業が検討されています。

また、2017年9月には1986年以来、31年間行われていなかった租税条約の改正が署名されました。両国の国会で承認されたのち適用となり、各種源泉税率の引き下げなど、投資環境が改善する見込みです。

ロシアに進出する日系企業は西側を中心に2017年10月現在456社(本邦企業の支店・駐在員事務所163拠点を含む)となりますが、近年は極東地域で農業やヘルスケア分野への進出もみられます。上述した8項目の経済協力プランや改正日露租税条約の適用を皮切りに、今後もロシアへ進出する日系企業が増加することが期待されます。

II.ロシアM&Aの動向

1.ロシアのM&A市況

2017年のロシアのM&A件数は、前年比13%増の546件となり、2014年を除くと、2011年以来最多件数となっています(図表1参照)。産業別には、コンシューマーマーケット(71件)、農業(63件)、通信・メディア(57件)、金属鉱業(55件)、ヘルスケア・医薬品(27件)の分野は、ここ数年間継続して伸長しています(図表2参照)。投資額でみても、全体では前年比12%減の669億ドルですが、石油ガス分野を除くと前年比37%増の485億ドルとなります(図表1参照)。

輸入代替政策で戦略産業と位置付けられている農業や医療分野のほか、消費市場が堅調であったことなどからコンシューマーマーケットでのM&Aが活発になっており、伝統的な資源分野から非資源の成長分野へと投資先が多様化していることが伺えます。

図表1 ロシアM&A(2011-2017)

出典:Russian M&A Review

図表1 ロシアM&A(2011-2017)

図表2 産業別取引件数(2016-2017)

出典:Russian M&A Review

2.増加傾向のインバウンド投資と台頭するアジア投資家

2017年の外国投資家によるインバウンド投資は111件、225億ドルとなりました(図表3参照)。これはリーマンショックによる世界的な景気後退のあった2009年以来最大となっています。

インバウンド投資の変化は国・地域別の構成にもみられます。経済制裁を契機に主要な対露投資国であった米国からの投資が減退し、代わってアジアからの投資が存在感を増しています。インバウンド投資を地域別に展開すると、2011年には全体の4%にも満たなかったアジア・パシフィック地域からの投資が、2017年には20%となっています(図表4参照、いずれも件数比率)。これらは主に日本と中国からの投資になります。

とりわけ日系企業によるM&Aは、ヘルスケア・医薬品、金融、イノベーション・テクノロジー、コンシューマーマーケット、石油ガスと多岐に渡って行われています。

ヘルスケア・医薬品の分野では、三井物産がロシア・CIS諸国で医薬品販売を行う同国最大手の製薬会社R-ファーム社に出資、同分野で国内最大のM&Aとなりました。また、本件は前出の8項目の経済協力プランのうち (1)健康寿命の伸長に含まれた案件です。

金融業界では、SBIホールディングスがロシアの商業銀行YAR Bank社を完全子会社化し、SBIグループのFinTechベンチャーとの協業などを通じ、オンラインバンキング事業を推進することが計画されています。

イノベーション・テクノロジーの分野では、クックパッドがロシアの料理レシピサイトであるオフクセ・ルーの運営会社を買収しています。

コンシューマーマーケットでは、双日のスバルディーラー事業への参入や、三菱商事がロシアでユニクロ事業を展開するファーストリテイリングの子会社へ資本参加するなど、ロシア国内の旺盛な消費市場を狙った投資が行われています。

また2018年に入ってからも、日本たばこ産業(JT)によるロシア国内4位のたばこ会社JSC Donskoy Tabak社等の買収が発表されています。これにより、同社のロシア市場におけるシェアは約40%に達する見込みです。

図表3 インバウンド投資(2011-2017)

出典:Russian M&A Review

図表3 インバウンド投資(2011-2017)

図表4 インバウンド投資(地域別)

出典:Russian M&A Review

インバウンド投資(地域別)

3.割安な株式市場

対露投資を検討するにあたっては、ロシア株式市場が他の主要国に比べて割安な市場であることも見逃せない要素となります。

図表5は、各国の主要株価指数構成銘柄の平均PBRと平均PERとなります。ロシアの平均PBRは経常的に1倍を割っており、平均PERも7倍程度と比較した主要国のなかでも最も低い値を示しています。

このことから、ロシア株は主要国と比較して相対的に割安感があるとみることもできます。

図表5 主要国の平均PBRおよびPER比較

出典:Bloomberg:2011年1月~2018年4月までの各月末数値をもとに作成

4.今後の見通し

2018年はロシア大統領選挙があり、新政府の方針が今後の投資環境を占ううえで注目されるところです。また本年に入り米国による制裁対象をロシア新興財閥に拡大することも公表されており、その実行の有無や実行された場合の経済への影響が不安視されています。

今後のM&A市況は、こうした状況を見極めるため一時的には静観の期間を伴うものの、中長期的には堅調に推移するものと考えられます。なぜなら、以下の4つの観点から、これまでロシアのM&Aの基盤となっていた成長ドライバーに変化はないと予想されるからです。

1つ目は輸入代替施策です。前述のとおり、2014年以降のロシアは、経済制裁を契機として欧米諸国への依存度を弱め、自立した経済へ転換を進めてきました。政府が国内産業の育成に向かったことで農業やヘルスケア・医薬品の分野でのM&Aも活発になっており、今後もこうした政策の方向性は変わらないことが予想されます。たとえば、輸入代替政策への対応として、ロシア国内マーケットでの地位を維持・確保すべく、外資系企業がロシア国内企業と資本提携を進める可能性があります。こうした施策は今後もM&A市況の1つのドライバーになるとみられます。

2つ目は社会的課題です。前述した低い平均寿命や、広大な国土故に不足する物流基盤、輸出基地としての港のキャパシティ不足など、国家が抱える課題は中長期的なものです。こうした分野に投資機会があることも変わりません。現在、日露間で進められている8項目の経済協力プランも、こうしたロシア側の課題に沿って提案されたものであり、今後も対露投資の道しるべとなるものと考えられます。

3つ目は技術革新です。EコマースやFinTechを始めとした新たな技術がM&Aの成長ドライバーになることが予想されます。またITリテラシーが高い国民性もこうしたハイテク産業の成長を支えるものとみられます。

最後に、ソ連崩壊後に起業した世代の引退に伴う事業承継もロシア固有の事情として今後のM&A市況に影響を与える見込みです。

以上から、ロシアのM&A市場は今後も堅調に推移していくものと予想されます。

本稿ではM&Aの最新動向と今後の見通しをロシアの経済情勢などとともに確認してきました。依然として日本の対外投資に占める対露投資の割合は僅かですが、中長期的なパートナーとして隣国の隠れた投資機会を検討されるにあたっての一助となることを願い、本稿の締めくくりとさせて戴きます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
グローバルジャパニーズプラクティス
シニアマネジャー 野村 雅士

KPMGロシア
モスクワ事務所
グローバルジャパニーズプラクティス
シニアマネジャー 柴田 曜

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