誤解と混乱の「品質」リスクへの実効的な対応に向けて | KPMG | JP
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誤解と混乱の「品質」リスクへの実効的な対応に向けて

誤解と混乱の「品質」リスクへの実効的な対応に向けて

本稿では、グローバルに事業展開を進める企業が、実効性ある品質関連対応を進めるにあたっての課題と対応策について解説します。

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相次ぐ品質不祥事を受け、多くの企業で関連する取組みが進められています。しかし、その一環として自主調査を進め、結果、特に問題が検出されなかった企業においても、不安や懸念が拭えないとする声が多く聞かれます。また、品質・検査偽装により生じるリスクを、経営陣が「過小評価」してしまっているとの懸念も寄せられています。

本稿では、グローバルに事業展開を進める企業が、実効性ある品質関連対応を進めるにあたっての課題と対応策について解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 昨今、取り沙汰されている「品質」リスクについては、品質そのものにおける問題と品質コンプライアンスにおける問題の二面があり、後者の観点に十分に焦点が当てられていないおそれがある。適切に峻別・整理して対応せねば、リスク対策が効果を発揮しないばかりか、かえって新たなリスクを生じさせてしまう可能性がある。
  • 品質・検査偽装の影響が海外におよぶ場合には、当該国・地域でも制裁を課されることとなる。それに伴う損失額は数百億円~1兆円を超え、関与者が禁固刑に処せられることもある。
  • 「品質」リスクの背景には、過去に積み重ねてきた事業上の無理・歪みが存在しているケースもあり、品質保証部門や生産部門にとどまらない、経営陣まで巻き込んだ全社的な取組みとすることで、はじめて実効的な対応が可能となる。

I.「品質」リスクに関する誤解と混乱

昨年から相次いだ品質不祥事の多くで「品質には問題がない」旨のメッセージが共通して発せられています。一方、一連の品質不祥事を他山の石とする取組みにおいて、品質管理・品質保証そのものにのみ特化して改善を進めようとしているケースも散見され、誤解と混乱が生じやすい環境となっています。以下に、代表的なものを3つ紹介します。

1.誤解と混乱

(1)「品質」リスクの主管部門

品質不祥事にかかる第三者委員会・社外調査委員会等による各調査報告書にて記載されている発生原因を、不正発生に繋がるメカニズムを検討する際に用いられる不正のトライアングル1図表1参照)の枠組みで整理したものが図表2です。


1米国の組織犯罪研究者であるドナルド・R・クレッシー氏により提唱された。不正は「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」の3つの要因が揃ったときに発生するとしている。

図表1 不正のトライアングル

図表2 品質不祥事の発生原因

本表記載の各原因を見ると、品質管理・保証そのものに関する課題はほとんどなく、おおむねコンプライアンスや内部統制に関する課題が挙げられていることがわかります。すなわち、品質コンプライアンスリスクとしての側面が強調されているといえます。

この点、品質コンプライアンスリスクは、部門間の役割・責任分担の間隙に陥っており、リスクが発現しやすい環境にあることが推察されます。

今春、KPMGが行ったアンケート調査2でも、本件の主管部門は、品質保証部門、法務・コンプライアンス部門、リスク管理部門等、各社各様となっており、さらに、品質保証部門がコンプライアンスリスク対応を担っているケース、法務・コンプライアンス部門やリスク管理部門が品質保証にかかわるコンプライアンスリスクを扱っているケースが複数見られます。


(2)問題の矮小化

「品質」リスクは、品質保証部門の独立性や、品質保証部門や生産部門の人員・教育、工程や検査能力の問題として整理されがち
です。

実際のビジネスプロセスに鑑みれば、生産や品質には、その前提にある顧客ニーズの把握・調整にかかわる営業部門、人員管理を行う人事部門、原価管理を担う経理部門、事業戦略や設備投資に関して意思決定を行う経営陣等、全社的な関与があるにもかかわらず、このことが見落とされ、対応策が限定的なものとなってしまうことが懸念されます。


(3)リスクの過小評価

品質コンプライアンスの側面からは、品質・検査偽装行為に適用される法規制等について把握・理解しておかなければリスクを評価することはできません。

日本で適用対象となる主な法規制等には、不正競争防止法(品質等誤認惹起行為)、産業標準化法3(JIS表示違反等)があります。違反時には、不正競争防止法では、法人に対しては3億円以下の罰金、産業標準化法では、1億円以下の罰金が課されることとなってい
ます。

海外諸国・地域のうち、日本企業にとって特に事業上の影響の大きい国の1つである米国においては、以下に記載の法令違反となるおそれがあります。日本の法規制等との大きな違いとして、実害の発生が構成要件に含まれていないこと、すなわち、虚偽があれば、そのこと自体が処罰の対象となりうることに注意が必要です。

 

(1)法令 (2)条文 (3)対象とする行為
Wire Fraud 18 U.S.C. § 1343 電話、電子メール等の電子通信を使った詐欺
Entry of goods by means of false statements 18 U.S.C. § 542 虚偽内容を含む説明により物品を輸入
False Claims Act4 31 U.S.C. §§ 3729 - 3733 政府に対する不正・詐欺的な請求

 

また、違反時の制裁金や関連する集団訴訟(クラスアクション)での和解金として数百億円~1兆円超の支払い、さらに関与した幹部等個人が禁固刑に処せられるなど、日本とは比べものにならない損失が発生し、企業の存亡にかかわる事態を招来しかねないリスクとなっています。


3平成30年第196会通常国会において、工業標準化法が一部改正され、産業標準化法に改称された。
4詳細は、KPMG Insight Vol.25「米国子会社コンプライアンスリスク管理体制の再構築 - 「放任」からの脱却に向けて」参照

II.実効的な「品質」リスク対応のために

前項にて述べたような誤解と混乱を乗り越えて、品質コンプライアンスリスクに実効的に対応していくための検討プロセスと留意点について解説します。

1.基本的な対応方針

前述のとおり、グローバルに事業展開を進めている企業においては、海外法規制への対応が必須となるため、国内のみならず、海外当局を見据えて対応を進める必要があります。その際、各国当局が発行している各種コンプライアンス・ガイダンス5の充足を目指すことが基本的な考え方となります。

各種コンプライアンス・ガイダンスの記載には粒度や項目の整理等の違いはあるものの、おおむね、前提となるガバナンスおよび企業風土と、未然予防・発見・法規制違反ないし違反兆候への対処の枠組みに整理でき、KPMGでは図表3のフレームワークでとりまとめています。


5一例として、米国連邦量刑ガイドラインEvaluation of Corporate Compliance Programs参照

図表3 KPMG Compliance Program Framework

2.特に重要な2つの対応

前述のフレームワークの構成要素ごとに検討・対策を進めることが基本となりますが、本稿では、紙幅の都合上、特に重要と考えられる2点について解説します。


(1)トップコミットメント

トップコミットメント、すなわち、社風・文化の醸成や経営スタイルの確立等にかかる経営陣による活動・姿勢は、コンプライアンス対応上、世界共通で最も重要な取組みとされています。

その一方、日本では経営陣のメッセージがなかなか現場に伝わらず、意識のかい離が生じているケースも散見されます。

経営陣がいかにルールの遵守を訴えても、その対象となる社内規程について、実務上、遵守が困難な状況では、ただ無理を強いるだけとなり、かえってコンプライアンス意識が低下してしまうおそれがあります。各種の規制・制度対応や、過去に発生した問題等への場当たり的な対応による、社内規程の乱立、陳腐化が背景にある例が多くみられます。ルールの棚卸をし、整理・統廃合を進めることで、守るべき規程を守れる規程とし、経営陣のメッセージが現場に伝わる環境の基盤を整備する必要があります。


(2)コンプライアンスリスクアセスメント

リスク対策である以上、その対象となるリスクを適切に把握・評価して行わなければ、対策が徒労に終わることは当然の帰結となります。

I.1.(2)で述べたとおり、品質コンプライアンスリスクの発現の背景には全社的な課題があり、リスクアセスメントの対象も品質保証・生産に限定するべきではありません(図表4参照)。

図表4 コンプライアンスリスクアセスメントの対象範囲

また、コンプライアンスの観点にとらわれすぎることなく、真因の追及に踏み込む必要があります。たとえば、顧客との取り決めを遵守するための前提として、試験・検査能力が不足していることが懸念される場合、設備投資不足や主要技術の海外拠点への移転、スキルの継承不足等の課題が存在することも考えられます。

こうした事業上の課題に光を当てないまま、コンプライアンス対策だけを進めても、現場には響かず上滑りするだけで、かえって新たな歪みを生じさせることとなりかねません。

III.総括

ここまで述べてきたとおり、品質コンプライアンスリスクについては、従来の業務分掌上、必ずしも担当部門が明確になっておらず、また、問題の対象が限定される傾向があり、これらを見直さなければ、対策の十分性や継続性に懸念が残ります。また、グローバルに適用される法規制をとらえた際のリスクの大きさからすれば、実効的なリスク対応策の策定・導入は、まさに経営陣として重点的に取り組むべき喫緊の課題の1つといえます。

コンプライアンス対応上、トップコミットメントが重要であることに加え、業務分掌や組織構成の見直し、ひいては事業戦略の策定や関連する投資は、経営陣にしか担えない事項であり、トップまで巻き込んだ全社的な対応とすることで、はじめて、実効的な対応が可能となります。

品質リスクの背景には、過去のその場しのぎの対応により生じてきた実務上の無理・歪みが存在するおそれがあり、事業上の真因にまで踏み込んだリスクアセスメントを行わねば、無理・無駄なコンプライアンス対策に繋がるのみで、新たなリスク発生の原因ともなりかねません。

品質リスクを矮小化することなく適切に把握・理解し、過去から積み上げてきた課題に向き合い、将来に備えた見直しを行うための機会ととらえ、対応を進めていくことが肝要です。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
Risk Consulting
シニアマネジャー 水戸 貴之

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