メキシコ子会社管理~『見える化』のための会計インフラ整備~ | KPMG | JP
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メキシコ子会社管理~『見える化』のための会計インフラ整備~

メキシコ子会社管理~『見える化』のための会計インフラ整備~

本編では、メキシコに進出する日系企業のうち、自動車産業関連会社に焦点をあてる形で、その多くが抱える経理・財務上の問題点とその改善のための留意点について解説します。

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メキシコは、米国のトランプ大統領就任によって行われている北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の長期化、さらに新たな輸入制限措置(関税賦課)の導入などによる影響や、不透明な政治経済の動向の影響を大きく受けることで、現在日系を含む海外企業による対メキシコ投資が様子見、減退している状況です。

一方、メキシコには既に日系企業が多く進出しており、対北米輸出製造拠点としての戦略的位置づけを主な理由とした自動車メーカーによる2010年代前半からの進出ラッシュなどが自動車部品メーカーのメキシコ進出を促し、メキシコを含めた北米での自動車産業サプライチェーンの再構築化が進んできました。しかし、ビジネス規模の拡大に比例した優秀な人材確保等が難しい等の理由により、親会社による子会社管理の観点においてもメキシコ子会社の経理・財務機能の高度化に対するニーズが今後益々高まる傾向が続くと思われます。

本編では、メキシコに進出する日系企業のうち、自動車産業関連会社に焦点をあてる形で、その多くが抱える経理・財務上の問題点とその改善のための留意点について解説します。

ポイント

  • メキシコにおける日系自動車産業製造子会社は2010年以降にその数を大幅増加させているが、オペレーション開始から3 - 4年以上経過した現在、事業拡大フェーズへと事業ステージが移り変わっている。
  • これらの会社は立ち上げから生産安定を最優先として注力してきた結果、今日現在でも社内の経理・財務機能に問題を抱えている場合が多く日本本社からの見える化度が相対的に低くなっている。
  • 一方、現地子会社においては経理・財務機能の高度化を図るうえでの障害が数多く発生しており、現地のリソースのみで管理不備の負のスパイラルから抜け出すことが非常に困難な状況となっている。
  • 子会社管理を高度化し、適時に適切な意思決定を行っていくにあたり、会計インフラを整備する必要がある。
  • 具体的には、日本本社へのレポーティングにあたり決算プロセスの標準化・決算早期化、内部統制の整備および人材育成に取り組むことが重要である。

I.メキシコ子会社管理の実態

1.メキシコ子会社の海外展開ステージ

メキシコにおける日系企業のビジネスは自動車産業を中心とした進出が相次ぎ、現在では1,182社(2017年10月1日時点)と世界の中でも日系企業数(拠点数)が第11位となっており(図表1参照)、以下のメリットがその理由として挙げられます。

  • 世界最大の経済大国である米国に隣接
  • 世界46ヵ国との自由貿易協定(FTA)
  • 安価な労働力

その企業数の伸びの非常に大きな柱となる自動車産業関連日系会社は、東日本大震災やタイの大洪水を契機としたグローバルでの生産拠点拡大ニーズの高まり、またその後に続いた円高傾向を追い風としての自動車製造会社の新規進出や生産拡大に合わせ2011年以降に進出が集中しております。従来北米自動車製造サプライチェーンにおけるメキシコの位置づけは労働集約型加工組立業がほとんどでありましたが、自動車メーカーによるメキシコ国内での完成車製造進出が行われたことで、関連する部品製造メーカーの新規進出、北米からの製造移管、さらに商機の拡大による商社等の販売業や周辺サービス業における進出の後押しが続いたことがその背景にあります。

このように2010年代前半にメキシコに進出した日系自動車産業関連製造子会社の多くは、進出当初は現地の文化を含めてあらゆることが異なる土地で日本流の生産オペレーションを現地化することに四苦八苦しながらも生産オペレーションを徐々に安定させ、北米向けの輸出が堅調に伸びていることを受け事業規模も徐々に拡大していることから、当初の参入ステージから拡大フェーズへと事業ステージが移り変わっています。また、その事業規模の拡大により連結グループの中でも重要性が徐々に高まってきており、連結グループ監査や内部統制監査の対象会社となる子会社も増加してきています。

図表1 メキシコ進出日系企業数の推移

メキシコ進出日系企業数の推移

メキシコ進出日系企業数の推移

出典:外務省 海外在留邦人数調査統計(平成30年要約版)

2.メキシコ子会社が抱える課題

(1)日本本社視点

上述のとおり、メキシコ子会社は連結グループの中でも徐々にその存在感を高めてきています。一方で、メキシコ子会社は地理的にも日本本社から遠く、またアメリカ子会社の子会社であるケースもしくは業務上の繋がりがより密接であるケース等も多いことから、日本本社にとって現地の経営実態が見えづらく子会社の見える化度は低いことが一般的と考えられます。その結果、近年メキシコ子会社においては、例えば次のような課題が散見されるようになっています。

  • 親会社の支援なしに親会社へのレポーティングができない
  • 期日通りに親会社へのレポーティングが上がってこない
  • 提出されたレポーティングの精度が低い
  • 本社で分析しようと現地に確認しても原因がよくわからない
  • メキシコ子会社からレポートは上がってくるが適切な業務プロセスが執行されているかわからない
  • グループとして最低限守ってほしいルールや内部統制が遵守されていない
  • 子会社での対応が、日本本社の要求水準に満たない

 

(2) 現地子会社視点

参入ステージにおけるメキシコ子会社においては生産オペレーションを軌道に乗せることが最優先事項であったことから日本人マネジメントも生産管理のプロであるが経理・財務のプロではないことが多くカバーする領域が広範かつ詳細であるため過度の負担が生じているのが一般的と考えられます。また、日本人マネジメントは課題解消のために施策を打とうとするも日常業務に忙殺される中では計画的な対応というよりモグラ叩き的な対応になってしまうことが多く、さらに現地従業員の中にそのような業務を行う適切なリソースを確保できていないことから、現地子会社のリソースだけでは負のスパイラルから抜け出すことが難しい状況が一般的と考えられます。このような状況から、現地子会社で一般的に生じている経理・財務機能の高度化を図るうえでの障害は、以下のように考えられます。

  • 現地特有の事情に対する本社側の理解がなく、本社のあるべき論で物事が進む
  • 本社から五月雨式に要求される報告への対応で一杯一杯である
  • 生産や販売のプロであるが、現地の理解や子会社全体の経理税務業務に関する知識・ノウハウもないままに子会社管理に臨まざるを得ない
  • 現地リソースが十分でないため、管理業務の根本的な改善・レベルアップが図れない
  • 業務が属人化しており、日本人駐在員からどのように業務がなされているか見えない
  • 離職率が高く、キーマンが退職してしまうと業務が回らなくなる
  • 言語やコミュニケーションの壁が原因となり現場で起こっている問題があがってこない
  • 必要な能力をもったリソースが足りない、そもそもいない
  • 改善業務の外注やシステム導入をしたくても予算がとれない

II.子会社管理高度化に向けた取組み

1.子会社管理高度化の全体像

事業参入ステージから拡大ステージへと移行しているメキシコ子会社については、連結グループ内でのその重要性の高まりにより経理・財務機能を高度化するニーズが徐々に高まっています。

子会社管理高度化の全体像は、図表2のとおりとなります。重要なポイントは、決算プロセス、業務プロセスやシステムなどの各種インフラを統一し、制度会計および管理会計をマネジメント判断のための有用な情報となりうるように対応することです。その結果、マネジメント業績の比較可能性の向上、経営情報の透明性・適時性の確保、業務の標準化・効率化を実現することが可能となります。

図表2では、メキシコ子会社が直面している経理・財務機能の高度化に向けて日本本社へのレポーティング対応と内部統制対応に関する具体的な対応事項について考察させて頂きます。

図表2 経理・財務機能向上のための対応事項

2.日本本社へのレポーティング対応

資金調達などメキシコ子会社においては日本本社あるいはアメリカの子会社の支援を必要とする場面が多くあり、その意思決定を判断するにあたり適切かつ正確な財務数値の報告が重要となってきます。また、連結グループにおけるメキシコ子会社の重要性が高まるにつれて日本本社の連結決算に取り込むメキシコ子会社の決算数値をタイムリーかつ正確に作成することが非常に重要となってきます。

なお、日本本社へのレポーティング対応を適時適切に行うにあたって、メキシコ子会社が留意すべきポイントは以下のとおりです。

(1)決算プロセスの標準化

メキシコ子会社においては、十分なリソースを確保することが非常に困難かつ決算マニュアル等の文書化が十分になされていないため特定の担当者に業務が集中し属人化する状況が起きています。したがって日本人マネジメントは業務の把握ができず、また当該担当者が退職してしまうとたちまち業務が回らなくなるという問題が頻繁に生じています。

優秀な人材を確保することが非常に困難な上に離職率が非常に高いメキシコの状況を鑑みると、決算の精度を高めるだけでなく不正防止の観点からも決算プロセスの標準化を進めることが経理・財務機能を高度化するうえで不可欠と考えられます。

また、決算マニュアルを作成するだけでなく決算プロセスをフローチャート化する等文書化を行うことで日本本社からの見える化度が高まり、子会社管理の高度化に寄与するものと考えられます。

(2)経理・財務・税務担当者の知識の底上げ

メキシコにおける会計・税務の具体的な実務については、メキシコ人担当者に対応を頼らざるを得ないですが、前述のとおり一般的に優秀な人材を探すのは困難な点に留意する必要があります。したがって、日本本社が求める決算水準をクリアするために、現地人材を育成していくことが今後非常に重要となってくると考えられます。

税務面においては、細かい規定の見直し・追加が頻繁になされており、その内容を理解することは一般的に非常に難解であることから、メキシコ人担当者のサポートを得て改正状況のアップデートを適時・適切に把握することが重要と考えられます。

また、会計面でも2018年度に収益認識基準、2019年度にリース基準が新たに導入されることから各社自身にどの程度影響があるのかについて事前分析を実施することが望まれます。

(3)決算早期化

メキシコにおいては、正式な会計年度は暦年(12月末)しか認められていないため、3月決算の多い日本本社の連結決算を考えた場合にメキシコ子会社の重要性が高い場合、3月で仮決算を行っているケースが一般的となります。

しかし、メキシコ子会社の仮決算は日本本社の連結決算に間に合う形で終えられたとしても、メキシコの現地財務諸表監査がその後に終わるケースもあり、日本本社の連結決算に取り込んだ決算数値と現地の決算数値に差異が生じている会社もあるのが現状です。

今後メキシコ子会社の重要性がさらに高まってくることを想定すると、決算スケジュールや分担等を見直すことにより決算プロセスを効率化していことでその早期化を図ることが重要と考えられます。

(4)機能通貨への換算対応

メキシコではペソ建・スペイン語での記帳が税法上要求されている一方で、日本本社における連結決算のために、機能通貨ベース(多くがUSD)に基づいた決算数値の報告が必要なケースが一般的となります。一方で、小規模なメキシコ子会社において多重通貨による帳簿管理を行うことは業務上大きな負荷となっております。

たとえば、固定資産のようにヒストリカル・レートによる管理が必要な項目についてはエクセルによる対応では手作業が多く、業務不可が大きいうえに金額の修正等を実施する際に誤るリスクが非常に高くなります。よって、業務の効率化と誤謬リスクを低減するためにシステム対応を含めた報告体制を整備することが望ましいと考えられます。

3.内部統制対応

日系企業の多くが海外子会社は各国の実情に合わせて運営するという方針を採用し、原則として各子会社の自由裁量に任せる部分が多くなっているのが一般的と考えられます。その結果として、一部の重要なプロセスなどを除き、全子会社統一されたプロセスやシステムなどが少ないことから日本本社から子会社の見える化度が低いことが多いのが一般的と考えられます。メキシコ子会社の重要性が高まってくると連結グループでの内部統制監査の対象となってくるケースが想定されます。事業の参入ステージにおいては生産を安定させることを優先せざるを得ない状況であり、また十分なリソースを必ずしも確保できているわけではなかったことから、業務プロセスに適切な内部統制が組み込まれていないことが一般的と考えられます。

よって、内部統制監査への対応という制度面だけでなく、法令違反や不正の防止の観点からも現状の事業規模やプロセスを鑑みて最適な内部統制を整備するにあたり、メキシコ子会社が抱える課題・リスクを抽出することにより改善すべき事項を明らかにすることが望ましいと考えられます。

執筆者

KPMGメキシコ
メキシコシティ事務所
シニアマネジャー 東野 泰典
マネジャー 佐々木 智之

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