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【対談】地政学リスクを踏まえた海外戦略~グローバル経営が今後直面するリスクと機会とは

【対談】地政学リスクを踏まえた海外戦略~グローバル経営が今後直面するリスクと機会とは

世界を揺るがす「地政学リスク」に対し、日本企業はどう向き合っていくべきか、現在注目されている海外地域の情勢について、日本経済新聞社編集局編集委員の太田康夫様にお話を伺いました。

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日本経済新聞社 編集局編集委員 太田 康夫 氏

太田 康夫 氏

日本経済新聞社
編集局編集委員

東京大学卒業後、日本経済新聞社に入社。金融部、チューリヒ(スイス)支局、経済部を経て現職。主な著書に『地価融解』(2009年)、『グローバル金融攻防30年』(2010年)、『ギガマネー巨大資金の闇』(2017年)、『没後の東京マーケット』(2018年、いずれも日本経済新聞出版社)などがある。



近年、欧米中などの大国に加えて朝鮮半島、中東など、世界各地でこれまでになく地政学リスクが高まっています。この世界を揺るがす「地政学リスク」に対し、日本企業はどう向き合っていくべきでしょうか。どのような課題を想定し、戦略を練っていくことが求められるのか、現在注目されている海外地域の情勢について、日本経済新聞社編集局編集委員の太田康夫氏にお話を伺いました。

今、「ポスト冷戦のグローバルシステム」が揺らいでいる

三浦:6月の米朝首脳会談は記憶に新しいところですが、最近、アジアや中東地域等の新興国は元より、欧米先進国においても「地政学リスク」という言葉が頻繁にメディアを賑わせています。これは、色々なところで偶然同様のことが起きたのか、それとも底流に共通する大きな世界的トレンドがあるのかについて、太田さんはどうお考えですか?

太田:底流に冷戦が終結した後に築かれた「ポスト冷戦のグローバルシステム」の揺らぎがあると思います。
冷戦期には米国など資本主義陣営と旧ソ連など共産主義陣営が世界各地で軍事的に対峙していました。経済的にはお互いにあまり交流しない経済ブロックを構成し、グローバルなビジネスは非常にやりにくい状況にありました。それが、ソ連が崩壊し、米国が唯一の超大国になった。経済ブロックをあまり意識しないで自由に国境を越えて動けるようになりました。

三浦:確かに冷戦後は地球規模で自由市場の競争メカニズムが動き出し、世界を視野に入れた経済活動がやり易くなりました。ですがその結果、グローバルな市場競争における勝者と敗者の経済格差が拡大し、それ自体が、新たな政治的・社会的リスクの背景にあるということでしょうか。

太田:そういう面もあるかも知れませんね。基本的には、四半世紀続いたそうしたグローバル競争の状況が2つの要因により、変化しつつあると思います。
ひとつは経済、軍事両面で米国の相対的な力が落ちて、「世界の警察」から手を引きつつあることです。その一方で中国が覇権主義的な動きをし始め、ロシアもクリミア併合など、国際的な影響力を拡大しようとしています。政治や軍事のパワーバランスが崩れ、空白地帯ができたところに緊張や地域紛争が高まりつつあります。
もう一つは、グローバルな市場開放の結果、新興国の安価な製品が先進国の製造業を圧迫しました。米国のラストベルトのような地域では多くの雇用が失われた。また移民が流入し、直接的に雇用を奪われるケースも出てきました。そうした状況への反作用として、アンチ・グローバリゼーションのような動きが出てきました。

三浦:つまり、グローバル規模での大競争が生み出した経済格差への反発が、米国や西欧の自国第一主義を助長しているということですか。

太田:それを象徴するのがトランプ大統領の登場です。彼は、経済的にも政治的にもアメリカ第一主義です。印象としては、昔のモンロー主義に近いような感じですが、それが米国民に支持されました。英国が欧州連合(EU)から離脱するBrexitも、移民反対がひとつのきっかけです。イタリアで五つ星運動が北部同盟と連立し、ポピュリスト政権が誕生したのも、同じ文脈の動きです。

欧米先進国の地政学リスクに備えた戦略

三浦:Brexitについては、多くの日本企業からは失望したという見方が多いですね。そもそもEUは、戦乱で荒廃した戦後の欧州を米ソに対抗できる市場に発展させるという高邁な理念があったのに、結局は英国の自国第一主義に流されたことが残念という受け止め方です。この結果、自国を優先する英国もBrexitを好機と捉える大陸側も共に、欧州経済圏全体の魅力の低下を招いているようにすら見えます。一般に日本企業は、特に不確実性を好みませんから、どうなるか分からない地域への投資意欲が下がり、投資先を欧州に代えてアジアや米州にシフトしていくように見受けられますが、如何ですか。

太田:日本は英国びいきですね(笑)。欧州は英国を中心に回っていると思っている人もいるようです。しかしEUの主導権はドイツとフランスにあり、英国はEUの政策への影響力が限られる状況に不満を持ってきました。離脱にはそんな積年の恨みも込められているように見えます。
欧州大陸側から見ると、英国が離脱しても市場としては未だ圧倒的に大きく、EUに入りたい国・地域はまだまだあります。英国離脱で一時的に影響があったとしても、それだけで中期的に大陸経済が揺らぐという心配はないとみています。

三浦:モノの取引に関して言えば、英国が離脱して関税分が高くなったら、逆に安い国からの輸入が増えるという市場メカニズムが働きますから、今後のBrexitの成り行き次第ではサプライチェーンが変わる可能性もあるでしょうね。

太田:そうですね。製品の輸入という面に関しては、代替先はいくらでもあるので困りません。むしろ、経済構造を考えるといい側面もあります。彼らの経済的な課題は経済のサービス化で、そのドライバーの一つが金融です。ただ、ロンドンが強力だったため、金融は英国任せという色彩が強かったのが実態です。英国が離脱し、EUの金融センターの役割を果たせなくなれば、大陸側がそれを誘致できる。フランクフルトやアムステルダムにEUの金融センターが移れば、それに関わるサービス産業も移転しますから、産業構造を改革し、高度化が期待できるというわけです。

三浦:なるほど、確かにこれまでの多くの日本企業の欧州戦略は、日英の歴史的関係や英語圏等々の理由から、英国に地域統括を置いて欧州に展開するケースが多かった訳ですが、Post-Brexitの時代に備えてどうあるべきかを考える時だということですね。では、そのようなダイナミックな産業構造の変革の中で、日本企業が考えるべき戦略転換としては、何がポイントになりますか。

太田:かつて企業は、調達から生産、販売を国単位で完結して実施していましたが、近年のグローバリゼーションの下、世界を見渡して、一番安く資源が調達できるのはどこか、安い労働力を使ってモノを作れるのはどこか、財務コストが安い国はどこかと、機能を最適配分するビジネス・モデルを作ってきました。そういう最適機能配分というのは関税障壁が低く、地政学リスクがあまりないという状況下では有効です。しかし今は、例えばトランプ大統領が関税を引き上げ、中国がこれに対抗するというような保護主義的な動きが世界各地で出ています。タックスヘイブンへの批判も強まっています。
グローバルな最適機能配分モデルが破綻したわけではありませんが、従来のまま継続すると、これまで以上にコストがかかるようになりかねません。そういう意味では、次の体制に対応して、地政学リスクや保護主義の台頭などに伴うコスト影響を踏まえて、もう一度グローバルな企業戦略を見直していく必要があると思います。

左:三浦 洋
KPMG/あずさ監査法人
専務理事 パートナー

大阪大学大学院(修士)修了後あずさ監査法人に入所。
米国ニューヨーク事務所、英国ロンドン事務所勤務を経て、あずさ監査法人専務理事としてGlobal Japanese Practiceを統轄。

「環インド洋(南アジア)」地域に今後注目

三浦:そうした欧米に限らず、先進国はいずれも人口成長が頭打ちですし、中国の経済成長も鈍化し始めています。では視野を変えて、今後注目する新興市場について伺います。例えば、新しいマーケットとして浮上してきている中に、ASEANからインドを含む南アジア、中東、東アフリカといった「環インド洋」とも言える経済圏が活況です。こうした地域の将来見込みと地域戦略をどのように見ておられますか。

太田:先進国が成熟化し、経済成長率が低下している一方で、新興市場の成長率は高いわけですから、成長のパイを求めるならば、新興国シフトは必然ともいえるものです。欧米では人口のメリットということを考えたときに、長期的に安定成長が期待できるのはインドで、その次に高い成長を期待できるのはアフリカだという考え方が強くなっています。

三浦:では先ず、インド及び南アジアについてですが、インドと言えば、日本企業で4割超の市場シェアを誇るマルチ・スズキは成功事例のいわば常連ですね(笑)。40年近くも前にインド政府の国民車構想と鈴木社長の一市場でNo.1という戦略が結びついたものと言われますが、今日の成功の裏では想像を絶するご苦労をされたのでしょうね。

太田:当時のインドは社会インフラも未整備の上に、腐敗・汚職も多いなど、非常にリスクが高いマーケットでした。相当の覚悟で市場調査をし、ビジネスパートナーを見つけて組んでいったのが、今活きてきているわけです。経済が発展してくれば低価格の軽自動車から売れるとの予想はあったのでしょうが、かなりのリスクを取ったのは間違いありません。またインドは州によって宗教や規制も異なります。インドという国に進出するというよりは、州に進出するという感覚でのぞむ必要があります。逆に、大多数がインドに進出するからそれに追随するという姿勢では、事業の成功は難しいかな、という感じがしますね。

三浦:確かに、その国の消費者市場のニーズ、宗教的な嗜好、生活スタイル等々のそれぞれの国や地域の特徴を十分にフィージビリティ・スタディした上で、進出の決定をするべきですね。ところで、インド以外の南アジアで注目されている国はありま
すか。

太田:南アジアでは、個人的には、バングラデシュが伸びると思っています。発展が遅れていた分、今後の伸びしろが大きいように感じます。人口の多さは魅力で、ダッカに行くとすごいエネルギーが感じられます。穏健イスラムの国なので、急進派が多いとされるパキスタン等に比べれば安定しています。その他には、規模は小さいですが、スリランカとか面白いと思います。

三浦:スリランカは最近行きましたが、直ぐに気に入りました(笑)。仏教国ということもあってか、国民性が非常にアジア的に穏やかで、日本人との親和性が高いと実感しました。

太田:ヒンズー教の少数民族タミル人の分離独立をめぐる内戦が解決したので、安定してきています。昔から交易の中心として、先進国が使ってきたこともあるので、多くの人が英語を話せるし、拠点になりうる感じはありますね。

三浦:加えて、スリランカは地政学上の優位性もあるようですね。インドを取り囲む「ペンダントトップ」の位置にあるので、「インド洋の真珠」と自称していましたが、タイ・ミャンマーから物資が海路で中東や東アフリカに行く時には、交通の要衝になる。そうした地理条件を利用して、シンガポールのようなロジスティック・センターを目指しているようです。実際にコロンボ市内のベイエリアには、中国資本による広大な埋め立て地があり、そこに多数の高層ビルの建設計画があるとも聞きました。スリランカに限りませんが、中国企業によるODAの戦略的投資を梃子にした新興地域へのインフラ投資では圧倒的に日本企業にリードしていますね。

太田:スリランカのリスクはまさに中国主導による開発です。開発に伴う借り入れが増え、昨年末、返済の代替措置として南部の港を中国の国営企業に99年間租借する契約を結んでいます。巨額の借り入れを伴う開発は、返済できなければ介入を招く危険があります。スリランカ南部に中国勢力下の港ができることは、隣国インドにとって心地よいことではありません。交通の要衝だからこそ、魅力もある反面、地政学リスクの火種を抱えているということも忘れてはいけないと思います。

中国は「競争相手」から「協働相手」になる?

三浦:昨今の国際政治の舞台で、任期制限を撤廃した中国・習近平主席の存在感が益々高まっています。安倍首相は、中国との関係を「競争から協調へ」と表現して、両国の連携強化の重要性を強調しているように見受けられます。それでは、両国の経済関係の行方については、今後どのような展開が予想されるとお考えですか。ここ数年成長率が下がり続け、今や成長率6%台となったわけですが、投資先としての魅力に影響はありますか。

太田:日中間には歴史や領土をめぐる認識の違いがあります。双方の指導者の考えや政策次第で、そのリスクが高まったり低まったりします。それはこれからも続くでしょう。一方で経済的に中国はまだ十分魅力のある市場だと思います。成長率が落ちているのは事実ですが、それでもGDPは大きくなっています。ざっくり言うと10年ほど前は中国の成長率は10%で、経済規模は日本と同じでした。日本の成長率は1%程度なので、中国は10倍の富を生み出していました。今、中国の成長率は7%弱ですが、経済規模は日本の倍です。日本の成長率は相変わらず1%程度なので、中国は日本の14倍の富を生み出しています。多くのビジネスは毎年生み出される富をターゲットにしていますから、ビジネスチャンスは増えているといえます(図表1参照)。

図表1 国(地域)別日系企業(拠点)数

順位 平成28年
国(地域)名 日系企業(拠点)数
1 中国 32,313
2 米国 8,422
3 インド 4,590
4 ドイツ 1,811
5 インドネシア 1,810

出所: 外務省領事局政策課 海外在留邦人統計(平成29年要約版)より抜粋

三浦:そうですね、経済成長に加えて、技術力が相当向上してきていて、eコマースなどのデジタル流通産業などでは日本が完全に抜かれた感がありますね。中国の若い世代など、どこでもスマホで電子決済できてしまうので、財布を持たなくなっています。アリペイなど、決済だけではなく、ローンから保険まで、あらゆる金融取引ができてしまいますからね。

太田:残念ながら日本に勝ち目はなさそうです。日本語で日本人をターゲットに考えると、最大1億人しかお客がいない市場です。中国のネット利用者は、今は7億人で、日本の小売全体よりも大規模なeコマース市場をターゲットに商売ができる。圧倒的な巨大市場を背景に、莫大な資金が技術開発に投下されていて、アリババ、テンセントと言った世界的企業が育ってきています。もともと技術で優れていたはずの、日本は遅れを取ってしまいました。今後ネット化が進めば進むほど、英語で米国のルールで仕切られるマーケットと、中国語で仕切られる大きなマーケットの二つが併存して、そこのメインプレーヤーが力をつけていくということになりますね。
日本はそうした巨大マーケットを利用するという発想に切り替えればいいのですが、英語で外国人の顧客のニーズをきちっと掴むことはあまり上手ではありません。中国語のシステムの方に入ることも、中国が自国の利益優先で規制をしているので難しい。顧客に関わらず、普遍性のある何か圧倒的に高度な技術を開発して普及させればいいのですが…。

アフリカ市場への展開は、第三国のパートナーと共に

三浦:先般ヨハネスブルグで開催された「日アフリカ官民経済フォーラム」に参加してアフリカの潜在的な市場性を再認識しました。また、アフリカの人口は、今後15年でインドと中国の合計を上回るという予想もあると言われています。その一方で、一部の例外を除けば、アフリカというマーケットに日本企業が単独で進出して一からビジネスを立ち上げるのは、容易なことではないのも事実です。成功している日本企業は、例えばフランスやインドなどの第三国の企業とパートナーリングを組んで、彼らの経験とノウハウを生かして事業展開しているケースが数多く見られます。例えば、フランス系のディストリビューターの販売網と組んで、自社製品を西アフリカから展開するとか、インド子会社をインド・南アジア・中東・アフリカ(ISAMEA)地域の地域統括拠点として、インド人の人脈と土地勘で南・東アフリカ地域を統括する、といった事例もあります。日本企業はそこに技術力と資金力を提供することで補完的なビジネスパートナーを組むと言った手法がもっと工夫されても良いのではないでしょうか。

太田:自力でできないのなら、パートナーを探すしかないということでしょうね。特にアフリカの場合は、インド人は昔から東アフリカを商圏として交易をやっていたのでノウハウはあります。また、フランスは植民地を通して、どういう人たちが住んで、何をしているか、を知っている。英国が元宗主国の国もあります。そこへいきなり日本人が行ってビジネスを始めるというのは限界があります。

三浦:一方で、パートナーリングを組む際のリスク管理という点では、多くの日本企業に共通する懸念が指摘されます。通常は買収・提携契約の締結前に、相手企業の財務調査(デューデリジェンス)をやりますが、その調査の仕方に欧米企業との間に大きな違いがある。つまり、被調査会社から見れば、欧米企業に調査される時は素っ裸にされるけど、日本企業の調査は、ジャケットを脱ぐくらいだ(笑)と陰口を叩かれていると聞いたことがあります。インテグリティ・デューデリジェンス※1も余り実施されていません。日本人同士の相互信頼の文化を海外にまで持ち込んでいる結果なのかも知れません。

※1 会社や経営者の素性・裏社会関係等の背景調査により、倫理観・遵法姿勢等を調べること。

太田:それは、M&Aの文化自体が、まだ余り日本に根付いていないということです。M&Aは事業分野を強化するための手段ですが、日本の企業はその前提になる事業分野別の競争力、採算把握ができず、いまだに丼勘定みたいなことをやっている企業が少なくありません。どこをどう強化したいのかが定量的に把握できていないので、M&Aが手法として有効に利用しにくいといえるでしょう。事業ポートフォリオの地域の多角化のためのM&Aは散見されますが、それは純投資に近いものです。2017年の実績ではM&Aのアナウンス額は日本は中国の7分の1、米国の20分の1程度です。M&Aが多い国では怪しげな案件が持ち込まれることも多いので、買収対象に傷はないか、目的にかなうかを詳しく調べるのは当然になっていますが、日本はその段階に達していないと言うことでしょ
うか。

三浦:日本企業のトップ・マネジメントの買収交渉の関わり方にも共通する課題があるのかも知れません。非常に一般的な言い方で恐縮ですが、欧米企業の多くは、トップ自身が交渉の前線に立って企業価値を見定め、「買う/買わない」の最終決断をします。これに対し、日本企業の場合、トップから任された中・上級マネジメントが、トップの意を汲んで買う方向で交渉に当たることが多いように見受けられます。このためにディールがブレークしないようなソフトな交渉になりがちで、割高な買収金額で合意をし、買収後にほどなく「暖簾」の減損の議論になることも少なからず起きてい
ます。

太田:バブル期から金融機関を中心に多くのM&Aを見て来ましたが、準備不足と感じられる案件がいくつもありました。本業であれば、入念に準備するのに、M&Aは短期勝負です。案件が持ち込まれ、期間が限られるのかもしれませんが、普段から頭の体操をしておく必要はあります。実際にクロスボーダーのM&Aで日本企業の成功例は、2~3割にも満たないとも言われているのが、現状ですから。

地政学リスク・マネジメントは、今後の成長には不可欠

三浦:一般に、日本企業の多くは文化的に保守的なので、敢えてハイリスク・ハイリターンを狙うことはしません。日本の倒産法制が、失敗した企業の再生にサポーティブではない特徴があると言われるように、制度的な背景からも、リスクを取りにくい面もあります。特に、昨今のコーポレート・ガバナンスの要請は、本来リスクテイクを促し企業価値を高めることにあるのですが、未だ多くの企業では管理統制を強化することと同義のように議論されている印象があります。「管理強化とリスク回避」方向の議論が目立ち、一層日本企業の事業チャンスへの挑戦意欲に水を差しているようにすら思います。

太田:全くです。本来は、企業が成長を求めてハイリスクの事業や地域に出ていくことは当たり前のことであり、賛同する株主の投資を呼び込めばいいだけのことです。欧米でもリスクの取り方が合理的である限り、株主はそれを当然のように受け入れていますし、逆に安定的低成長を好む株主は、そういう企業に投資すればいいだけのことです。今、日本に必要なのはアニマルスピリットだと思うのですが、政府がガバナンス・モデルみたいなものを作って適用を求めるというところが、足枷になっているように思います。

三浦:確かに独立社外取締役の人数のような外形的な取組は、9割近くの企業がガバナンス・コードの原則の9割にほぼコンプライしていると言われるほどに進展しているようです。しかしながら、本質的により重要な企業戦略に関する投資家との対話促進や企業情報開示に関しては、未だ海外の投資家との間に期待ギャップがあるかも知れませんね。
そうした現状を踏まえて、日本企業がリスク・テイクをしながらも新興国に事業展開していくに当たって留意すべき点は何でしょうか?

太田:比較的リスクの低い欧米だけでビジネスをしていては、安定はするかもしれませんが高い成長は期待しにくいでしょう。ビジネスを成長させようとするのであれば、地政学リスクが高いとされる南アジア、アフリカ等にも進出せざるを得ないでしょう。リスクを取らなければ、ビジネスの伸びは期待できないのですから(図表2参照)。

図表2 アジアのインフラ投資需要(2016 - 30年、単位:10億ドル)

地域 投資需要額
中央アジア 492
東アジア 13,781

うち中国

13,120
南アジア 5,477

うちインド

4,363
東南アジア 2,759

うちインドネシア

1,108
太平洋 42
合計 22,551

出所: Asia Development Bank, meeting asia's infrastructure needs より抜粋

そして取るリスクは、信用リスクだけでなく、オペレーショナル・リスクだったり、リーガル・リスクだったり多様になって行かざるを得ない気がします。ところが、日本企業に物足りないのはリスクの分析力と対応力です。特に新興国の制度や文化、宗教に関する基本的な情報と理解が、残念ながら足りないように見えます。

三浦:新興国に進出する前に、当地の市場調査を弊社などのアドバイザーに依頼される企業もありますが、一方でまったく調査することなく、既に進出した企業の経験談やメガバンク・大使館・公的機関などにアドバイスを聞いて決めてしまうケースも少なからずあります。それを、新興地域の難しいマーケットでも同じようにされるケースなど、見ていて心配になることがあります。逆に、アフリカというだけで「3K(きつい・汚い・危険)」という先入観で、検討すらしないというケースは、更に多数ありますね。

太田:日本と距離的、文化的に遠いので、検討対象にしにくいのでしょう。とはいえモロッコのカサブランカは、人口4百万人の国際商業都市で、治安も比較的安定しているし、伸びる余地はあると思います。フランスの元植民地というのもあってキリスト教徒が多い面でも、日本企業には入りやすい土地だと思いますね。地政学リスクは高まっているのですが、そのリスクを徹底的に分析して、取れるリスクは取っていくというのが成長に向けての課題でしょう。逆にリスク分析ができないのであれば、リスクは取らないというのも経営の選択です。中途半端というのが、一番危険かもしれません。

三浦:同感です。アフリカに事業展開するための情報センターを選ぶとするならば、モロッコ(Casablanca)、南ア(Johannesburg)、ケニア(Nairobi)、エジプト(Cairo)そしてナイジェリア(Lagos)の5角形となるでしょう。但し、これらの5都市の中でもリスク評価は様々に異なりますから、先ずは日本企業がリスク・マネジメント能力を磨き、来るべき新興市場の時代に生き残れる逞しさを備えて頂きたいと切に願っています。

本日は、どうも有難うございました。

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