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為替リスクの財務管理高度化に向けて

為替リスクの財務管理高度化に向けて

本稿では、財務管理強化の観点から為替リスク管理の高度化に向けてその基本的な考え方や体系的なアプローチ方法について考察します。

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日本企業は自動車や電気機器セクター企業を中心に早くからグローバルに事業を展開し、為替リスクに対応してきました。また、近年では海外の成長を取り込むためのM&Aの展開や海外における投資加速によって、海外事業の割合が高まっており、多くの企業が新たに為替リスクに晒されています。一方で、何をもって「為替リスク」というのかは定義が多様であり、それらをマネージするための手法も企業によって様々です。

本稿では財務管理強化の観点から為替リスク管理の高度化に向けてその基本的な考え方や体系的なアプローチ方法について考察します。為替リスク管理の高度化によって財務リスクを低減し、企業価値の持続性を担保するといった視点が必要です。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者らの私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 為替リスクを財務管理の観点から適切に管理することは企業価値の持続性を考えるうえで極めて重要である。そのためには為替リスク管理のあり方を体系的に見直す必要がある。
  • 為替リスクの捉え方は多様である。エクスポージャーの発生個所や会計上のインパクトを踏まえたうえで、為替リスクを管理する目的を明確にする必要がある。
  • 為替リスク管理の責任の所在は事業部門と財務部門とで明確に区分する必要がある。事業部門の責任は業績評価と同期したうえで、財務管理規定を整備する必要がある。
  • 為替リスクへの対応は金融的手法に留まらない。為替リスクの集中化によってより高度な管理体制を構築することは可能であるが、実際に取組みを行っている日本企業は少数に留まる。

I. 日本企業の為替リスク管理の現状

日本企業にとって、為替リスクは身近であり、もっとも影響の大きい財務リスクのひとつといえます。多くの企業が既に海外で事業を展開しており、国内を中心に事業を展開する企業においても輸出入の過程において為替リスクに晒されています。

KPMGが2017年12月に実施した調査によると、部分的な実施を含めて為替エクスポージャーを把握している企業が56.6%、為替リスク管理方針を明文化しているのが59.3%となっています。一方で、実施に向けて検討中としている企業も約31%あり、これから為替リスク管理に取り組もうとする企業も一定数存在するのがわかります(図表1参照)。

図表1 日本企業の為替リスクへの対応状況

  為替リスク
管理方針/
手続き明文化
為替エクス
ポージャーの把握
既に実施している
(一部実施も含む)
59.3% 56.6%
実施に向けて検討中 31.4% 31.1%
実施の予定はない 9.3% 12.3%


2017年12月KPMG調査(回答企業数123、うち72%以上が売上高1,000億円以上)

しかしながら、既に対応策を講じている企業も、一部の先進企業を除いて、その内実は一部主要通貨や主要地域に留まる等、財務管理の高度化の余地が多いのが実情ではないかと考えます。新たに海外事業の展開を行う企業も増加するなかで、改めて為替リスクとその対応策について体系的に整理し、財務管理の高度化に向けて体制を構築することが重要であると考えます。

II. 「為替リスク」を捉える視点

為替リスクに関する財務管理を高度化するにあたり、まず何をもって為替リスクというのかを明確に定義することが重要です。為替リスクは下記に挙げる複数の観点から捉える必要があるのと同時に財務管理の観点から何を重視すべきなのかポイントを整理する必要があります。

(a)会計上 vs 企業価値の観点

通常はP/Lの為替差損益といった会計上の観点から為替リスクを捉えるのが一般的ですが、企業としては、通貨の変動が企業価値、すなわち「利益」や「投下資本(B/S)」に影響するリスクを広く為替リスクとして捉える必要があると考えます。

(b)変動の起点となるレートの観点

会計の観点からは、外貨建債券・債務の計上レートからの変動が為替差損益として認識されます。一方で、企業ではもともと採算のために想定していた社内レートや事業計画レートからの乖離を為替リスクとして捉えることが多いのではないかと考えます。利益に影響する為替変動という広義の為替リスクの定義に従えば、後者の方が企業の財務管理上、より重要性が高い、ということになります。

この場合、留意しなければならない点は、将来発生するであろう取引に内在する為替リスクをリスク管理の対象としなければならないという点です。会計上はB/Sに計上された外貨建債権・債務が為替差損益を生むことになりますが、これらの取引が発生する前、すなわち予定取引の段階から為替リスク管理の対象として捉えないと、利益に影響する為替リスクを適正に管理することができません。

(c)為替リスクの所在(エクスポージャー)の観点

究極的に管理すべきは連結ベースで発生する為替リスクですが、実態としては、本社や関連会社のどこかにまず為替リスクが発生します。さらに、サプライチェーンがグローバル化している現状では、製造事業所から販売会社までの一連のプロセスの中に為替リスクが発生しているケースもあります。財務管理の観点からは、まず、どこにエクスポージャーが潜んでいるいるかを正確に押さえる必要があります。

III. 為替リスク管理体制の整備

上述した為替リスクの様々な観点を念頭に為替リスクを管理するための枠組みを整備する必要があります。もちろん、各社のビジネスモデルの違いにより正解はひとつではなく、さまざまな方法が
あり得ます。しかし、どのようなビジネスモデルにせよ、為替リスク
管理体制の構築には(1)リスク管理の目的を明らかにする、(2)会計上のインパクトを明らかにする、(3)リスク管理の責任の所在を明らかにする、といった3点を総合的にカバーすることが肝要です。

(1)リスク管理の目的を明らかにする

為替リスク管理において重要となるのは為替リスクのどの部分を管理したいか、その目的を明確にする、ということです。たとえば、その管理目的には下記が考えられます。

  1. 各事業年度の事業計画レートに対して想定利益が為替レートの変動で影響を受けないようにすること。
  2. 各月に外貨建債権債務が計上されるレートと決済レートに差がでないようにすること。
  3. 外貨入金時に円に転換するレートを最大限に有利なレートにすること。
  4. 外貨建債権や債務の時価評価で、評価差損益が出ないようにすること。
  5. 投資対象から毎年支払われる外貨建配当金の円貨額を一定レベル以上に維持すること。
  6. 為替換算調整勘定の発生を抑制し財務健全性や清算時の影響を最小化すること。

上記1.は利益の変動回避が目的であり、2.は為替差損益の発生回避が目的となります。注意を要するのが3.のようなケースです。これは「もっとも有利なレートで売れ(あるいは買え)」ということなので、一種の投機を行うことであり、通常、企業の財務活動の目的とはなりません。

また、目的によっては必ずしも相容れないケースがあるという点にもついても留意が必要です。それは、お互いに矛盾したヘッジ活動をすることに繋がり、結果としてリスク管理の目的を達成できないからです。たとえば、上記1.と2.は同時に追求することはできません。

(2)為替リスクの所在と会計上のインパクトの明確化

上述(1)に設定した目的を達成するうえで、リスク管理の対象となるEntityとその取引を選択し、為替変動がどのような会計的インパクトを与えるかを明確にする必要があります。

この時、既に計上済みの外貨建債権・債務を対象とするのか、あるいは将来発生する予定取引を対象とするのかを選択し、為替変動がその対象取引にどのような会計上のインパクトを与えるかを明らかにする必要があります。輸出企業の将来発生予定の外貨建て輸出売上をリスク管理の対象とする場合には、為替レートの変動は売上の円貨額に影響を及ぼし、ひいては営業利益、そして純利益にも影響を及ぼします。しかし、サプライチェーンがグローバルで広がっている状況下、製造から販売まで複数の通貨を介する取引も増えてきています。この場合、グループ内で為替リスクが発生する会社は複数となりますが、会計上のインパクトの観点からは連結後の円での利益額がどうなるかが問題となります。

また、取引が行われるEntityによって、何が為替リスクであるかが異なってくることにも注意が必要です。各Entityにとって、そのEntityの会計通貨(あるいは機能通貨)とは異なる通貨の取引はすべて為替リスクとなります。

このように、取引全体を俯瞰したうえで、グループとしての管理目的と、個別のEntityにとっての為替リスクとの関連性を明確に把握することが重要です。

(3)リスク管理の責任の所在の明確化

為替リスク管理プロセスにおいてどの部門がリスク管理の責任を持つか、という点を明確にする必要があります。これには、2通りの考え方があります。

1つは、管理対象取引を主管している事業部門が責任を持つべきという考え方です。しかし、一方で為替レートの変動は事業部門のコントロール外の経済現象であるので、その管理は財務部門のような専門部署に任せた方が望ましいという考え方もあり得ます。

この両者のどちらを選ぶかについて決定する要因のうち、もっとも重要なのは事業部門の業績評価の中に為替レートの変動を含めるかどうかということです。為替レートの変動も含めて事業部門の業績を評価するということであれば、事業部門が為替リスク管理の責任を負うのは当然ということになります。しかし、日々の相場変動を事業部門がモニタリングし、ヘッジまで行うこともまた現実的ではありません。

そこで、事業部門と財務部門においてそれぞれ次のような事態にどう対応すべきかについて、たとえば、下記のような諸点についての取り扱いを明確化しておく必要があります。

  1. 事業部門はビジネス上の理由でエクスポージャーをどこまで大きくできるか
  2. 事業部門は財務部門に対しヘッジ等の対応策をどこまで指示できるか
  3. 財務部門はエクスポージャーを発生させる取引の削減などのビジネス上の対応を事業部門に指示できるか
  4. 財務部門はヘッジ等の対応策の対象期間や金額をどこまで自己の責任で広げられるか
  5. ヘッジ等の対応策を採った結果として出る利益変動の責任はだれが負うか
  6. ビジネス上の理由でエクスポージャーの数字が変化しヘッジ等の効果が薄れた場合の責任はだれが負うか

為替リスク管理の仕組みが機能するためには上記のような諸点をすべてカバーする社内規定を整備しておくことが極めて重要です。この時、会社の業績評価の仕組みと同期を取っておくことが何よりも求められるのは当然ですが、それとともに会社全体の財務体質とリスク許容度をまず考慮しておく必要があります。リスク許容度に関しては、統計的手法を活用した為替変動が業績に与えるインパクトの計量化や為替換算調整勘定が財務健全性に与えるインパクトを格付の観点から整理するといった方法が考えられます。

現実的には、事業部門には外貨での投資や外貨を含むビジネスフローを決定する権限を与え、その後の日々の相場変動の管理は専門家である財務部門に任せる、というケースが多くなるものと考察します。つまり、為替の長期の大きな変動についての責任はその事業の枠組みを決定した事業部門の責任とし、より短期間の為替変動を日々モニタリングし狭義の為替リスク管理を行う責任は財務部門などの専門部署に任せる、というような組み合わせです。また、企業グループ全体のリスク管理については本社財務部門が一元的に管理し、全体最適を追求することが重要です。

IV. 為替リスクへの対応

為替リスクに対応する方法には、為替リスクを発生させるビジネスそのものにまで踏み込んで対応するものと、金融的手法に頼る方法があります。一般的には、為替予約によるヘッジなど金融的手法が為替リスク管理の主要な対応手段として考えられていますが、もっとも効果的な方法はビジネスそのものから為替リスクをなるべく生まないように組み立てることです。

ビジネスの組み立て方として最も実現可能性が高い手法は為替リスクをお互いに相殺する「マリー」を達成することです。ドル建輸出を行っている企業が、原材料や部品の輸入をドル建に変える、というような手法がこれに該当します。製品を販売している国で現地生産を行うことも広い意味でのマリーに含まれるでしょう。

これらビジネス上の対応策が取れない場合、初めて金融的手法に頼ることになります。

代表的なヘッジ手段は、為替予約や通貨オプションです。この場合、個別の取引ごとに為替予約やオプションを締結するのが一般的ですが、多くのグローバル企業では複数の取引を一括して本社財務部などでヘッジ取引を行う集中ヘッジを採用しているケースがほとんどです。

専門部署である財務部門などで集中ヘッジを行うメリットは、専門的な見地からの取引実行タイミングや金額の決定ができることなどですが、もっとも大きな利点はグループ全体の為替リスクを集中管理できることと、エクスポージャーの相殺ができることです。
エクスポージャーを相殺することで、相殺後の残高だけを為替予約等でヘッジを行うことができ、取引コストの削減にも繋がります。

ただし、このようなエクスポージャーの相殺を可能にするためには、子会社や事業部門からそれぞれのエクスポージャーを本社財務部門に集め集中ヘッジを行う仕組みを構築する必要があります。

子会社や事業部門が一旦、財務部門と為替予約を締結し、それらをネットしたのちの残高だけを銀行と為替予約を結ぶ社内予約制度は比較的よく普及している手法です。これ以外にも、子会社間取引の間に本社財務部門を介在させるリインボイシング、各子会社の外貨建債権を本社財務部門が買い取り、対価をそれぞれの会社の会計通貨で払うファクタリング、子会社の債権債務を相殺しその差額を決済するネッティングなどの手法もあります。

それぞれのスキームが効果的に機能するためには、グループ内の商流に合わせた設計が必要です。たとえばネッティングの場合、グループ内の商流が一方向であったり、グループ内取引が複数通貨で行われているにもかかわらずネッティングの対象通貨が限定的である場合には、その効果は最大化できません。

なお、KPMGの調査によれば為替リスク集中化しネッティング等を実施している企業は14.3%にとどまっており、実現のハードルが高いと感じる企業がまだまだ多いことがわかります(図表2参照)。

図表2 為替リスクの集中管理の状況(リインボイス・ネッティング・内部為替予約等

図表2 為替リスクの集中管理の状況(リインボイス・ネッティング・内部為替予約等

出所:前掲2017年12月KPMG調査

本稿ではすべての論点を取り上げることはできませんが、財務管理の観点から為替リスク管理を強化する体系的なアプローチ方法について概観しました(図表3参照)。

図表3 為替リスクマネジメント高度化に向けた体系的アプローチ

中長期的かつ持続的な企業価値向上が叫ばれる中、企業は財務リスクの低減に向けた不断の取組みが求められます。為替リスクについてもその管理体制を見直し、自社のビジネスモデルに則した管理体制の構築に向けた取組みの強化が重要ではないかと考えます。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アドバイザリー本部 グローバル財務マネジメント
エグゼクティブシニアディレクター 栗原 宏
ディレクター 土屋 大輔

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