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新興市場における提携(Partnering)のポイント

新興市場における提携(Partnering)のポイント

本稿では、新興市場における円滑な提携(Partnering)を実現するためのポイントについて解説いたします。

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日本というマザーマーケットが縮小していく今、海外進出は多くの日系企業にとって存亡を賭けた大きな経営課題です。海外市場、とりわけ新興国市場においては現地の商習慣(Local Practice)に精通したパートナーが必要です。彼らとWin-Winの関係を構築し、円滑な提携(Partnering)を実現するためには、自社の強みと相手の何を「活用」すべきかを明確にし、そのうえで明快な事業計画に落とし込まなければなりません。
そのなかで互いの役割を明確に規定し、それを契約書に落とし込む訳ですが、契約書は未来永劫不変なものではなく、パフォーマンスしだい、経済・政治の環境しだいで柔軟な対応ができるように設計をすることが肝要です。加えて、パートナーと経営観を共有できるような経営者育成を行うことも大切です。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

I.海外展開とパートナーの意義

2015年という年が日系企業にとってどういう意味を持つか、皆さんはご存じでしょうか? 実は総務省が1920年に国勢調査を開始して以来、初の人口減少を記録した年なのです。2015年を機に日本の人口は減少し始め、2060年には1億人を大きく割り込んで、約8,700万人まで減少すると、総務省は予測しています(総務省統計局 日本の将来推計人口(平成24年1月推計))。これは、今後40年間で関東地方がまるまる消失する勘定です。縮小するマザーマーケットのみに依拠していれば、過当競争に巻き込まれ、競争優位のない企業が淘汰されるのは必定、大規模な産業再編も発生するでしょう。このような事態を避けるためには、新たなフロンティアへの進出は不可避です。実際、新規に海外進出を企図したり、既存の海外事業の強化を志向する企業は少なくありません。
欧米先進国は外資規制が少なく、単独でも進出が可能です。またM&Aが盛んであるため、時間を買うという観点から、M&Aを積極的に活用して海外進出を果たしている日系企業も少なくありません。ただし、市場は成熟していて、競争環境は厳しく、成長機会は限定的です。したがって、海外フロンティアを目指すならば、人口と所得がダブルで増えている新興国市場を検討することは必然となります。
6億人超の人口を有するASEANは、代表的な新興市場です。日本との時差が小さく、親日国も多数あるため、ASEANで事業拡大を目指す日系企業は非常に多くなっています。ただし、新興国市場は、「商習慣がグローバルスタンダードに即していない」「法律・税制が未整備」「コンプライアンス意識が低い」など、さまざまなハードルが存在します。経済の脆弱性や所得格差などから、政情不安が顕在化する国もあります。とかく勝手の異なる国でビジネスをするには、現地の商習慣(local Practice)に精通したパートナーが必要です。では、そのようなパートナーをどのように探し出し、どのような組み方をしたらいいのでしょうか?

II.現地パートナーに期待したいLocal Practiceの扱い

パートナーと組むという場合、ジョイントベンチャー(JV)を思い浮かべる人は多いでしょう。補完関係のある企業がJVを組めば、単独で事業を行うよりもアップサイドが狙えるうえリスクも低減できます。M&Aによる資本業務提携の場合でも、100%子会社化したり合併したりするケースを除けば(すなわち、M&A後に相手が多少なりとも株式を保有しているのであれば)、それは一種のJVだと見なすことができます。
日系企業の強みは、製品やサービスのユニークさやクオリティの高さです。そして、それはグローバルな市場で高い訴求力を持っています。そんな日系企業が海外市場で求めるものは、なんといっても販売チャネルです。先進国と違い、新興国市場ではサプライチェーンが複雑で非効率なため、参入障壁が高くなっています。そこで、全国規模の販売網を持っていたり、トラディショナルトレード(いわゆるパパママストア)へのアクセスを持っている地場企業がいきおいパートナーとして選好されます。当局との折衝や採用・解雇などの人事回りは日系企業が不得手とするLocal Practiceの代表的事項ですが、これを上手くハンドリングしてくれるパートナーが存在すれば非常に心強いと言えます。
また、特定の国に進出するのに際し、当該国ではなく第三国からその国に精通したパートナーを選ぶというケースもあります。たとえば、中国に進出する場合にシンガポール企業と組んだり、ミャンマーに進出する際にタイ企業と組むという具合です。これは、進出対象国における政治リスクやコンプラリスクが大きく、当該国のパートナーでは逆にリスクが増大すると判断されたときのやり方です。進出対象国と日本との間で政治的緊張が高まっても、第三国のパートナーがうまく緩衝材になってくれるという設計です。
日系企業の進出エリアは、今後ますます広がっていくことでしょう。それに呼応して、提携の在り方も多様なものになっていくと思われます。

III.海外での提携における問題点

さて、互いの強みが発揮できる組み方ができれば、正にWin-Winということができますが、海外での提携がWin-Win状態にあると公言できる企業はどれほどあるでしょうか?
図表1に列挙したのは、海外事業を展開する企業からKPMGに寄せられる「悩み」の例です。

図表1 海外事業におけるパートナー関連の「悩み」の例

  • パートナーが力不足で期待通りの役割を果たしてくれない。逆にパートナーが強力過ぎてコントロールできない。
  • JV設立時に目的・ビジョンの共有が不十分であったため、時間の経過とともにJV運営にギャップが生じてきた。
  • JV設立後のPMIが不十分で、KPIの設定が曖昧であったり、業務に非効率性が残る。
  • そもそもJVにおける役割・責任が不公平である(一緒に汗をかいて欲しかったのに…)。
  • JV運営会社が、その運営を巡って日本本社とパートナーの板挟みになる。
  • 技術移転や知的財産の扱いにかかわる議論が不十分かつ契約書にも規定がないため、重大な利益相反が生じてしまった。
  • JVにおけるリスク管理が不十分で、パートナー側に起因する不祥事に発展しないか心配だ。


いずれのケースでも、当初想定していた協業から乖離してしまった様子が見て取れます。利益相反が発生するようなケースでは、Win-Winどころか敵対的な関係にすらなってしまっています。
このような事態は何が原因で生じているのでしょうか。JVを組成して海外展開を企図する企業にとっては、1.パートナー候補の選定、2.JV契約の設計、3.JVの運営という3つのステージがあります。それぞれにおいてWin-Winを阻害する要因の発生原因を探ってみましょう。

1.パートナー候補の選定

新興市場でパートナーを探す場合、現地のスタートアップ企業の中から候補先を探すという日系企業はほとんどありません。与信の問題もあり、現地の業歴の長い企業を選ぶのが一般的です。できれば、日系企業との提携経験が豊富な企業が望ましいのは言うまでもありません。
ASEANの特徴として、非常に広範な事業ポートフォリオを有する財閥が存在することが挙げられます。インドネシアのサリムグループ、マレーシアのベルジャヤグループ、フィリピンのアヤラグループなどは、それぞれの国を代表する財閥です。たとえば、サリムにおける事業領域は、食品、小売り(コンビニ)、自動車、セメント、インフラ、金融、ITと幅広く、日産自動車、日清オイリオ、王子製紙、西濃運輸、トランスコスモスなど大手日系企業と提携関係にあります。それをアンソニー・サリムというタイクーンがコントロールしています。タイクーンとは「大君」が英語化されて「Tycoon」と表記されるようになった言葉で、スーパービジネスマン・大富豪などの意味で用いられます。
パートナー候補の選定は、特定の市場に参入する際の戦略に基づいて行います。まず、自社の付加価値(差別化要因)をしっかり認識したうえで、訴求するセグメントを定義することから始まります。次に、そのセグメントを攻略するに際し、パートナーの何を活用するべきかを定義します。その後、あまた存在するその国のパートナー候補を絞り込んでいくわけですが、提携が成立する蓋然性を見極めなければなりません。ここで肝心なのは、パートナーにとってもメリットを設計できるかということです。大きな財閥傘下の隆々たる企業でも、必ず経営課題はあります。日系企業が思い描くビジネスがパートナー候補の経営課題の解決に資するようであれば、提携に向けた対話は大きく動き出すことでしょう。つまり、この対話は、パートナー候補とのビジネスの在り方やビジョンを議論するステージであると言えます。ここでボタンを掛け違えると、後々「想定外」の事態が惹起してくる原因となってしまいます。


Point 1
パートナー選定における留意事項

  • 自らの付加価値(差別化)の定義
  • パートナーの何を活用するかの定義
  • パートナー候補の経営課題の理解と分析
  • パートナーにとってのメリットの設計

2.JV契約の設計

先述1.にて協業のコンセプト上でWin-Winが確認できれば、次に互いの役割を明確に規定して契約に落とし込みます。役割は責任を伴い、その責任の大きさによって出資比率は自ずと決まってきます。当然ですが、連結目的から過半数の取得を主張するケースはあります。ただし、JVにおける役割・責任と出資比率がバランスしていなければ、後々JV運営上の軋みとなって顕在化してくることになります。期待外れとか、汗をかいてくれないという「想定外」は、このようなところに原因があると言えるでしょう。
ただ、政治・経済環境によって、それぞれの企業が果たすことができる機能も変化することがあります。このような場合、互いの役割について見直しができる柔軟性をJV契約に盛り込むことも重要になります。具体的には、JVのパフォーマンスの評価と利益配分について明確なルールを定め、毎期モニタリングを行うことになります。果たすべき機能を提供できない場合には(すなわち、パフォーマンスを挙げられない場合には)、役割を見直し、それに呼応して提携ストラクチャーの変更がありうることを契約に規定しておくことが肝要となります。


Point 2
JV設計における留意事項

  • 役割分担の明確化とそれに呼応した提携ストラクチャーの構築
  • パフォーマンス評価のルール策定
  • モニタリングと役割変更の柔軟性

3.JVの運営

そもそも海外進出を検討する際には、JVや出資先の経営を任せられる人材を社内に有していることが前提となります。しかし、日本の企業では、十分な語学力を有する人材すらあまり多くないという現実があります。ましてや、言葉や文化が異なる海外の企業を経営できる人材がどれだけいるのでしょうか。
欧米やアジアの企業では、経営職階は外部から登用したいわゆるプロ経営者が担うケースが多く見られます。かかる人材は経営職としての経験を積むことで成長し、また新たな活躍の場を見出していきます。一方、日本の企業では、サラリーマンの出世の到達点として経営職階が存在します。また、日本独自の合議制・稟議システムは、単に時間を要するだけでなく、事業のリスク・リターンに対する判断の責任の所在を曖昧にしてしまいます。そのような環境で慣らされたサラリーマンは、自分で判断するトレーニングをしなくなり、結果、事業家・起業家としてのマインドとスキルを得られないことが想定されます。つまり、日本企業のサラリーマン文化の中で、海外の現地法人の経営を担う人材はなかなか育ちにくいのです。
派遣されてきた人間に力量がなければ、自信を持って海外現地法人の経営を推進することはできません。いきおい本社のほうを向いて指示待ちとなります。一方、ASEANのタイクーンなどは起業家であり、辣腕の経営者です。本社の指示待ちをしているようでは、彼らからの尊敬など到底勝ち得ることはできません。また、そのような状況では、現地の従業員にも足元を見られるでしょう。資本の関係があるのであからさまな謀反は起こさないでしょうが、面従腹背が発生します。
JVの運営が始まれば、大小さまざまな問題が日々、発生します。その際、パートナーと十分な意思疎通ができ、場合によっては経営哲学まで語れる人材を派遣すること。そして、そのような人材をきっちり社内で育成すること。これこそが海外進出における提携を成功させる最も根源的な秘訣です。短期的には解決が難しい問題ですが、マザーマーケットの縮小が本格化した今こそ、経営者を育てる社内教育はどうあるべきかを再考する良い機会だと思います。

執筆者

株式会社 KPMG FAS
ディレクター 木村 昌吾

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