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仮想通貨・トークンのビジネスへの活用

仮想通貨・トークンのビジネスへの活用

本稿は、仮想通貨および「トークン」に係る市場およびビジネスの拡大と効果的な活用方法について解説します。

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これまでごく一部の個人や企業が参加していた仮想通貨およびトークンに係る市場およびビジネスが幅広い企業に多様なビジネス機会を提供するほどまで拡大しつつあります。

改ざんされることなくデジタルデータを移転できるブロックチェーン技術などを活用して電子的に発行される証票である「トークン」は、資金調達手段から「商品」としての販売に至るまで、仮想通貨以外の用途にも利用されるようになっています。

今後「トークン」の活用は、多くの企業にとって、資金調達手段や新規顧客へのアクセス、利便性向上といった顧客体験(UX)の提供など競争力を強化するうえで不可欠なツールとなっていきます。

本稿は、仮想通貨および「トークン」に係る市場およびビジネスの拡大と効果的な活用方法について解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 仮想通貨市場は、単なる法定通貨と仮想通貨および仮想通貨同士を交換する段階から、急激に仮想通貨を決済通貨として様々な「トークン」が取引される「トークンエコノミー」の拡大段階に差しかかっている。
  • 一般の企業でも「トークン」を活用することにより、資金調達手段の多様化や販売チャネルの拡大、顧客利便性の向上による顧客体験の提供などビジネスの競争力強化に繋げることが可能である。
  • 「トークン」の活用においては、顧客と直接繋がるなど従来とは異なるオペレーションが発生することへの対応が必要になるほか、仲介ビジネスを手掛けている場合は、ビジネスモデル自体について再定義が必要になる。

I.仮想通貨からトークンへ

1.仮想通貨・「トークン」に係る市場およびビジネスの進化

これまで仮想通貨に係る市場およびビジネスと言えば、日本円や米国ドルなどの法定通貨とビットコインなどの仮想通貨または仮想通貨同士を交換する「仮想通貨交換所」および「仮想通貨交換業」が中心でした。

しかしながら、足元では従来の「仮想通貨交換所」および「仮想通貨交換業」とは異なる新たな仮想通貨に係る市場およびビジネスが着実に「拡大」しています。

この「拡大」の方向性は、大きく分けて2つあります。1つは交換の対象、言い換えればブロックチェーン上で移転する価値を表象するデジタルデータの種類が、従来のいわゆる仮想通貨から「トークン」(電子的に発行される証票の総称であり、仮想通貨はその一種)への拡大(以下「トークンの多様化」という)です。もう1つは、仮想通貨取引に係る裁定取引による収益獲得やヘッジ取引といった高度な金融取引の拡大(以下「取引の機関化」という)です(図表1参照)。

図表1 仮想通貨に係る市場およびビジネスの拡大の方向性

こうした「トークンの多様化」や「取引の機関化」の進展は、これまでごく一部の個人や企業が参加していた仮想通貨および「トークン」に係る市場およびビジネスが、より幅広い参加者と多様なビジネスによって構成される大きなエコシステムへと移行していることを示しています。

2.トークンの多様化とトークンエコノミーの拡大

仮想通貨に係る市場およびビジネスが「拡大」していく方向性の1つは、取引の対象となる仮想通貨や「トークン」の種類の拡大です。その最たる例として、一般にICO(イニシャル・コイン・オファリング)と呼ばれる、企業等が「トークン」を「発行」して投資家に対して流動性の高い仮想通貨と交換することにより資金調達を行う行為が挙げられます。

ICO「トークン」は、ブロックチェーン上を移転する価値を表象するデジタルデータであるという点では仮想通貨と同様ですが、一般に「発行」の目的が主として資金調達であり、「発行」された「トークン」が仮想通貨のように決済手段としても利用されることは想定されていない点が異なります。また、仮想通貨の中には明確な発行者が存在しないものが多く存在しますが、ICO「トークン」の場合は、資金調達という目的から「トークン」の発行主体が明確になっている点も仮想通貨と異なります。

日本国内ではあまり実績のないICOですが、世界的に見れば、急速に盛り上がった2017年の勢いはそのまま続いており、全体として件数および調達金額ともに高水準で推移しています。

また、国や地方政府がICOを実施したり検討するなど発行主体の属性も多様化が進み、1件当たりの調達金額の小口化および調達率(調達金額/調達予定金額)の低下がみられます。こうした中投資家によるICO案件の選別が進んできたことなどからICO全般に情報開示の改善傾向も見られるなど、資金調達手段の1つとして成熟する方向に向かっていると考えられます。

資金調達目的以外の「トークン」の「発行」も増え続けており、「トークン」の「発行」が単なる資金調達手段ではなく、「商品」の「発売」に近いものも現れています。たとえば、ICOにより調達した仮想通貨をあらかじめ定められた分散およびリバランス法に基づいて20種類の仮想通貨に分散投資する「トークン」といったファンドに近い「トークン」が現れています。このケースでは、「トークン」の発行主体は、トークン保有者からの手数料を主たる収益源としています。この「トークン」の価値は20種類の仮想通貨の値動きに連動し、複数の仮想通貨交換所(日本の交換所では取り扱っていません)で取引が可能となっています。

さらに、今後は現実の商品・サービスをトークン化(チケットなどの配布に代えてトークンを購入者に送るなど)する動きも見えます。こうした動きが広まると、実店舗販売からネット経由の販売、いわゆるeコマースに次第に移行していったように、既存の企業の大半が自社商品をトークン化して販売することを考えるようになるかもしれません。たとえば、実物商品であっても引換券はトークン化可能ですし、店舗の来店予約などもトークン化することにより、都合が悪くなった際に譲渡や転売が可能となるかもしれません。

eコマースと「トークン」化した商品の販売の違いは、前者が注文などの「情報」を電子的にやり取りするだけ(チケットなどの「商品」は別途販売者のサーバーからダウンロードするなど)の手続きが必要になるのに対して、後者は価値を表象するデジタルデータを移転することにより、「商品」そのものを「トークン」として受け渡しするという点が異なります。販売側から見ればサーバーを用意したり、紙のチケットを送付したりする必要がなくなるほか、チケットの転売履歴を追ったりすることも容易になります。

こうしたトークン化した商品や仮想通貨を決済手段とする取引に対する関心の高さは、C2C(個人間売買)プラットフォーマーや電子決済等代行業者が資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という)に基づく仮想通貨交換業者の登録を検討していることが公表されたり、報道されたりしていることからもうかがえます。

このように「トークン」を活用することで仮想通貨交換業を手掛けていない一般の企業であっても、資金調達の多様化や販売チャネルの拡大、顧客利便性の向上など自社ビジネスの競争力を強化することが可能になるとともに、いわゆるトークンエコノミーが拡大しつつあることが分かります。

3.仮想通貨取引の機関化と周辺ビジネスの拡大

もう1つの仮想通貨に係る市場およびビジネスの「拡大」の方向性は、仮想通貨「取引の機関化」です。

仮想通貨に係る市場およびビジネスの規模が拡大するにつれて、単純な法定通貨と仮想通貨や仮想通貨同士の交換だけでなく、リスク管理の目的等からより高度な金融取引、たとえば、流動性の大きい仮想通貨・トークンを中心にまとまった金額をやり取りする相対取引のニーズは増加しています。また、同一仮想通貨の仮想通貨交換所ごとの価格差に着目した裁定取引を含めたトレーディング業務を手掛けるうえで必要なヘッジ手段に対するニーズも増加しています。さらに、多種多様な仮想通貨・「トークン」が存在することにより、ファンドの組成・販売など資産運用ビジネスの機会も増加しています。

実際、ETFの組成・上場の検討に関する報道などが聞かれるほか、デリバティブ取引所最大手であるCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)など実際にビットコイン先物を上場している取引所もあります。

そして、こうした「取引の機関化」の拡大は、たとえば、仮想通貨・「トークン」のカストディー業務や取引に使うベンチマークなど周辺ビジネスのニーズも高め、環境整備が進むなかで新たなエコシステムが構築されて、仮想通貨に係る市場およびビジネスに「厚み」と「安定」をもたらしていくと考えられます。

II.仮想通貨・トークンのビジネス

1.従来と異なるビジネス環境

前述のように仮想通貨・「トークン」に係る市場およびビジネスが拡大していますが、仮想通貨や「トークン」を活用したビジネスは、従来のビジネスと大きく異なる点がいくつかあり、ビジネスモデルを構築するうえでは留意が必要です。

1つは、仮想通貨・「トークン」に係る税制度を含む「法規制」が現時点では国内外全般に十分に整備されているわけではないことおよび国ごとの「法規制」のばらつきが大きいということが挙げられます。また、仮想通貨・「トークン」が持つ仲介業者を経ずに価値を移転させるという特性や取引相手とは基本的にインターネットを介してのみ接点を持つという特性から国単位の「法規制」の影響を受けにくいという特性も挙げられます。このことは従来のビジネスとは異なり、遵守することを前提としつつも、どのように法規制と向き合っていくかがビジネスの収益性や競争力に大きく影響することを示唆しています。

もう1つの留意点は、同一または類似商品であっても仮想通貨・「トークン」化した「商品」を活用したビジネスを展開する場合は、実店舗等を通じた従来のビジネスとは異なり、対象となる顧客や顧客へのアプローチ方法が大きく変わるということです。このことは、販売チャネルの違いに応じて適切な業務執行体制を構築しないと効率的に仮想通貨・「トークン」に係るビジネスを展開することが難しくなることを示唆しています。

2.法規制と仮想通貨・トークンビジネスの関係

個人としての取引とは異なり、企業の場合は、通常、自らのビジネスに適用される法規制に基づいてビジネスを展開します。

仮想通貨に係る市場およびビジネスは、前述のように法規制の整備が全体として不十分です。通常であれば、法規制の適用などが明確になるまで企業が当該市場におけるビジネス展開を積極的に行うことはあまり想定されませんが、仮想通貨・「トークン」の分野においては、実態として売買取引を含めた経済取引が活発に行われ、法規制が既成事実を追いかけるような形で整備されて行っているのが現状です。

これは、規制の影響をあまり受けない個人が活発に取引を実行しながら市場を拡大させていくなかで、企業、特に法規制の整備を待つよりもいち早く市場に参入することを優先する企業が市場およびビジネスの拡大をけん引しているためと考えます。

また、インターネット上で価値を表象するデジタルデータを移転することができるため、「商品」たる仮想通貨・「トークン」を取引相手と直接やり取りし、決済手段を仮想通貨とすることによって現金の物理的な授受や既存の金融システム等を経由することなくインターネット上で資金決済も完結します。加えて、顧客はインターネットを通じた先に存在していることなどから、ビジネス拠点の選択における制約は少なくなり、「法規制」を基準に最も都合の良い国にビジネス拠点を設けることが可能となります。

たとえば、海外の仮想通貨交換所の中には、仮想通貨交換業に親和的な規制を整備する国にいとも簡単に親会社を移転させることがあります。これは顧客がインターネットの先に存在し、「商品」たる仮想通貨・「トークン」の受渡しおよび対価となる仮想通貨・法定通貨の受渡しを含むすべてのビジネスがネット上で行われるために拠点を置く国によるビジネスへの影響がほとんどないことと、従業員もそれほど必要としないビジネスであることが影響していると考えられます。

また、ICOによる資金調達を検討する企業の視点で規制を見ると、ICOも国境に関係なく世界中の投資家から資金を集められるという性格上、投資家や顧客が多く所在する国に拠点を設置するといった制約を強く受けることはありません。結果として、ICOに係る規制が明確であることや税制上のメリットからICO「トークン」を発行する企業の多くがシンガポールやスイスに拠点を設置する傾向がみられます。

他方で、「トークン化した商品」のように従来の商品に近づくほど、言い換えるとインターネット上で完結する取引プロセスの割合が減少するほど、既存の法規制が適用される場面が多くなり、規制に対する向き合い方も既存ビジネスに近づいてきます。

このように仮想通貨や「トークン」をどのようにビジネスに組み入れていくかによって、規制とのかかわり方が大きく異なり、ビジネスモデルによっては、それに最も適した法規制や税制を整備している国はどこかということによってビジネス拠点の選択が変わり得ることが従来のビジネスとは大きく異なります。

3.分散型市場におけるビジネス

起業ではなく既存ビジネスを手掛けながら、仮想通貨・「トークン」の市場およびビジネスに参入する場合、既存ビジネスとの整理が必要になります。

まず、仮想通貨・トークンに係る市場では不向きなビジネスとして仲介業者型のビジネスモデルがあります。これは、「商品」たる仮想通貨・トークンを発行者から購入者に直接送ることが可能という仮想通貨・トークンの特性上、仲介ビジネスが関与する余地が限られているためです(図表2参照)。

図表2 仲介業者介在型市場と分散型(N対N型)市場

また、仲介ビジネスではなく、製品や商品を製造販売する企業が仮想通貨や「トークン」を活用する場合であっても、これまで卸売業者など仲介業者に対する販売のみであった企業は、カスタマーサポートも含めて顧客と直接やり取りするための体制を整備する必要があります。

そして、競争相手も既存ビジネスとは異なります。分散型市場では売り手と買い手の区別はなく、参加者のだれもが売り手にも買い手にもなることができます。買い手はネットワーク上のすべての「商品」からニーズに最も適合する商品を買うことが可能です。したがって、競争相手は同業他社だけとは限らないことに留意する必要があります。加えて、取引相手の信用について仲介業者による評価に依存できない分散型市場では、カスタマーレビューなど互いの評価の蓄積が信用に繋がっていくなど既存のビジネスとは異なる信用評価の仕組みがあることも留意する必要となります。

言い換えると既存ビジネスと同一または類似の「商品」を仮想通貨・トークンを活用してビジネスを展開する場合であっても、仮想通貨・トークンの市場の特性の合わせて、必要に応じてまったく別のビジネスモデルかのようにビジネスを構築する必要があるということです。

いずれにしても、企業がビジネスの競争力を強化するうえで仮想通貨や「トークン」を積極的に活用していくことが有用であることに変わりはありません。上述のような既存ビジネスとの差異にも留意しつつ、その活用について検討していくことが期待されます。

執筆者

KPMGジャパン
フィンテック推進支援室
副室長 シニアマネジャー 保木 健次

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