シンガポール2018年度予算案における主要な税制改正項目 | KPMG | JP
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シンガポール2018年度予算案における主要な税制改正項目

シンガポール2018年度予算案における主要な税制改正項目

本稿では、シンガポール予算案に盛り込まれた税制改正内容の中でも、日系多国籍企業にとって重要であると考えられる税制改正項目を選んで解説します。

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2018年2月19日に2018年度シンガポール予算案が発表されました。

2017年度実績に関しては、GDP成長率は3.6% (2016年は2.4%)で、これは当初予測の1~3%を上回り、歳入超過額についても昨年の19億ドル (GDPの0.4%)を大幅に上回る96億ドル(GDPの2.1%)の見込みとの発表がなされました。一方、2018年度予算案では、今後10年でシンガポールが直面するであろう経済・社会構造変化を(1)ASEAN中間所得層の急拡大並びに中国の一帯一路政策に代表される世界経済のアジアシフト、(2)IoT、FinTechなどビジネストランスフォーメーションを支える新技術へのシフト、(3)日本を上回る速度で進む高齢化社会へのシフトと捉え、これらの環境・構造変化に対応すべく、ASEAN域内のハブ機能の拡充、高齢化とともに増大するヘルスケア支出等の財源確保のための将来の税収入の増加対策、政府が支援すべきビジネス並びにイノベーション創設をサポートする種々のスキームの拡充が盛り込まれています。

本稿では、予算案に盛り込まれた税制改正内容の中でも、日系多国籍企業にとって重要であると考えられる税制改正項目を選んで解説します。なお、最終的に法制化されるまで、その内容に未確定な部分が含まれておりますので、現段階(執筆時点2018年4月)では参考としてご利用いただければ幸いです。また、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • Goods and Services Tax (以下「GST」という)は、2021年から2025年の間に2%増税が行われ、標準税率が9%に引き上げられる。また、輸入サービスに対する課税が導入される。
  • 2019年より、年間25,000 トン以上の温室効果ガスを排出する全ての設備に炭素税を課すことが確認された。
  • 法人税関連については、法人所得税リベートが拡充・延長されたほか、部分免税制度の免税可能金額が減少した。

I.GST課税強化

1.税率の引き上げ

Goods and Services Tax (GST)は、シンガポール国内の特定の商品やサービスの供給に適用される間接税で、日本の消費税やヨーロッパVATと同様の性質を有するものです。

現行のGSTの標準税率は7%ですが、2021年から2025年の間に2%増税が行われ、標準税率が9%に引き上げられることになります。増税時期は、2021年から2025年の間で、シンガポールの経済状況、財政支出及びその他税収等といった複数要素を考慮して、決定される予定です。即時の増税が回避されたため、税率引き上げまでの間、企業は少なくとも3年の準備期間を得ることになりました。

2.輸入サービスに対する課税の導入

現行法では、シンガポールに事業拠点のない国外企業が提供するサービスの輸入取引は、国外事業者にGSTの登録が義務付けられておらず、GSTの課税対象とはなりませんが、2020年1月1日以降、当該サービスの輸入取引は原則としてGSTの対象となります。


(1)B2C取引(消費者向け取引)

国外事業者から国内消費者(B2C)へ提供されるデジタルサービスについて、国外事業者登録制度(Overseas Vendor Registration (OVR)Scheme)が導入されます。OVRにより、シンガポールに事業拠点のない国外企業であっても、B2Cで提供されたデジタルサービスに対する仮受GSTは、当該国外企業により課税当局に納付されることになります。ただし、OVRは、以下の場合にのみ義務付けられます。

  • 年間のグローバル売上高が100万ドルを超え、かつ
  • 年間のシンガポール国内へのデジタルサービスに係る売上が10万ドルを超える場合

この改正により、上記要件を満たす、シンガポールに事業拠点のない国外事業者からデジタルサービスの提供を受ける消費者は、GST金額相当の追加支出を要することになります。また、一方で当該国外事業者には、OVR を行うことによりGSTの申告・納付義務が生じることになります。


(2)B2B取引(事業者向け取引)

国外事業者から国内事業者(B2B)へ提供されるサービスには、リバースチャージ制度が適用されます。リバースチャージ制度においては、国内のGST課税事業者は、国内に事業拠点のない国外事業者から受けたサービスに課せられるGSTを、国外事業者に代わって課税当局に申告納付することになります。大部分のGST課税事業者は、非課税取引を提供しないためリバースチャージ方式の影響を受けませんが、非課税取引を提供し、すべての仮払GSTを請求(仕入税額控除)する資格がないGST課税事業者等(例えば、銀行、金融機関、住宅用不動産開発業者、及び持株会社等)は、「リバースチャージ売上に係るGST」が「リバースチャージ仕入に係る仕入控除税額」より多くなるため、追加納税が生じることになります。

II.炭素税導入

2016年9月に、シンガポール政府は気候変動に関する国際連合枠組条約に基づく「パリ協定」を批准しており、当該批准に基づき、2017年度予算案で初めて炭素税について言及し、環境への配慮を促すため、2019年から温室効果ガス1トン排出あたり10~20ドルを課す炭素税を導入すると発表していましたが、今回の2018年度予算案において、2019年より、年間25,000トン以上の温室効果ガスを排出する全ての設備に炭素税を課すことが確認され、2019年から2023年までの温室効果ガス排出には1トンにつき5ドルの税金が課されることが決定しました。当該税率は2023年に見直され、2030年までに最終的には10~15ドル/トンの間に達する見込みです。

2019年から2023年までの最初の5年間の炭素税収入で10億ドルの税収が見込まれますが、シンガポール政府は、排出削減プロジェクトをサポートするために、企業へ支給するエネルギー効率を促進する生産性助成金等に、炭素税による税収以上の金額を支出する用意があり、エネルギー効率を改善する企業の支援強化を行うと述べています。

III.法人税関連

1.法人所得税リベート

シンガポールにおける法人税率は17%で、数年来税率に変更はありませんが、法人税額の一定割合をリベートとして減免する制度があります。2017年度予算案において、2018賦課年度には、企業は法人所得税額の20% の法人所得税リベートを享受することができ、上限が10,000ドルになることが発表されていました。

しかし、2018年度予算案では、事業コストを緩和して企業によるリストラをサポートするために、リベートが以下のように拡充・延長されることになりました。

  • 2018賦課年度-5,000ドルを上限とする法人所得税額の40%
  • 2019賦課年度-10,000ドルを上限とする法人所得税額の20%

なお、賦課年度とは、法人に対する所得税が賦課される年度を指し、ある法人の特定の賦課年度に係る基準期間は、当該賦課年度の前年中に終了する事業年度となります。

2.部分免税制度(Partial Tax Exemption)

部分免税制度は、全ての法人、外国法人の支店に適用され、現行法においては、次表のように、算定された課税所得のうち、最初の10,000ドルについては75%が免税となり、次の290,000ドルまでは50%が免税になります。

図表1 現行法の部分免税(Partial Tax Exemption)

しかし、予算案では、2020賦課年度以降、次表のように、「次の190,000ドルまで」しか免税とならないことになりました。

図表2 予算案の部分免税(Partial Tax Exemption)

本制度の改正により、部分免税の対象となる金額が、通常の課税所得の最初の300,000ドルから200,000ドルに引き下げられますが、部分免税の対象となる金額の全体の課税所得に占める割合が小さいと想定される企業においては影響は僅少と考えられます。

3.イノベーションを促進するための所得控除の拡充

企業の生産性向上や技術革新に対する投資を促進する目的で、2010年度の税制改正において導入されたPICスキーム(Productivity and Innovation Credit Scheme)が2018賦課年度で失効することになりますが、2019賦課年度以降では以下の所得控除の拡充が実施されます。

図表3 PICスキーム

(1)IP登録費用の所得税控除

現行法では、2020賦課年度まで、一定のIP登録費用は最初の100,000ドルには100%の所得控除が適用できることになっていますが、予算案では、2019賦課年度より2025賦課年度まで、最初の100,000ドルには200%の所得控除が認められます。


(2)IP導入費用に対する所得税控除

現行法では、各賦課年度に発生する一定の要件を満たすIP導入費用について100%の所得控除が可能とされていますが、予算案により、2019賦課年度から2025賦課年度まで、最初の100,000ドルには200%の所得控除が可能となります。

要件に該当するIP導入費用のうち、公的資金を提供された研究機関又は第三者に委託して支払われたものも所得控除の対象となり得ますが、法的手数料、権利の所有権の移転に関連して発生した支出、及び政府又は法定機関からの助成金又は補助金によって相殺された金額は対象から除外されます。また、二重控除(200%の所得控除)は、商標、ブランド名、顧客リスト、及び特定の作業プロセスに関する情報などのIP導入費用については適用はありません。


(3)R&D(研究開発費)所得控除

現行法では、2009賦課年度から2025賦課年度まで、シンガポール国内での研究開発で、自社内の研究開発又は国内委託研究開発機関での委託開発研究の支出のうち、人件費及び消耗品費の150%、その他の適格費用の100%を所得控除することが可能です。なお、当該制度は、PICスキームと異なり、控除の上限は設けられていませんが、国外での研究開発に係る支出は所得控除対象とはならず、また、所得控除に代えて現金による補助金を受け取ることもできません。

上記取扱は、今回の予算案により、国内における研究開発支出のうち、人件費及び消耗品費については従来の150%から250%に所得控除の枠が拡大されます。その他適格費用については100%控除のままで変更ありません。なお、この改正の適用時期は、2019賦課年度から2025賦課年度までとなります。

図表4 各国のR&D税制による税額軽減効果比較

(4)国際化関連費用に係る所得控除(DTDi)

DTDi(Double Tax Deduction for Internationalization)は、シンガポール中小企業の国外への事業展開を奨励する目的で設けられています。2012年からは以下の4つの活動により発生する年間最大100,000ドルまでの一定要件を満たす支出(調査費用、航空費、宿泊費等)について、事前承認の必要なしに200%の所得控除が認められています。

  • 国外の事業開発のための出張
  • 国外の展示会への出展・ミッションへの参加
  • シンガポール国際企業庁(「IE」)又はシンガポール政府観光局(「STB」)で承認された地元展示会への参加
  • 国外投資案件に係るフィージビリティースタディー・デューデリジェンス等のための出張・ミッションへの参加

また、より大規模な資金調達を要する事業又は活動で生じる100,000ドルを超える支出についても、IE及びSTBへの事前申請により、200%所得控除の恩典を受けることが可能です。

今回予算案により、中小企業の更なる国外事業展開を奨励するために、事前承認を要しない支出の請求限度額(現行100,000ドル)が年間150,000ドルに増額されます。結果として、事前承認不要限度額150,000ドルを超える支出については、現行と同様にIE及びSTBへ事前申請を行うことにより所得控除が可能となります。この改正は、2019賦課年度以降に発生する一定要件を満たす支出に適用されます。

IV.その他

従来より、企業の生産性向上を促進し、企業能力を向上させるための様々なスキームが継続的に導入されてきた結果、現在、種々の政府機関が運営する多数の助成金スキームが存在します。

今後、より総合的な支援を行うために、これらの助成金スキームのうちいくつかが以下の3つのスキームに統合簡素化され、一定の要件を満たす支出について、支出額の最大70%の助成金が支給されることとなります。


(1)Productivity Solution Grant (PSG)

助成金が、一定の既製品の生産性ソリューションの取得を支援する目的で支給されます。


(2)Enterprise Development Grant (EDG)

助成金が、企業能力の向上及び国際化を支援する目的で支給されます。


(3)Partnerships for Capability Transformation Scheme (PACT)

助成金が、企業能力の向上、業務開発、国際化を含む全分野で、様々な規模の企業のコラボレーションを支援する目的で支給されます。

執筆者

KPMGシンガポール
パートナー 星野 淳
ディレクター 三枝 優子

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