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M&A/PMIで考慮すべき税務論点

M&A/PMIで考慮すべき税務論点

本稿では、PMIを「買収後の統合」と定義し、買収後に統合する「目的物」を「税務の観点」から次の3つに分類し、各論点を整理することとします。

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海外M&AにおけるPMIでは、買収元が有する商品・販売網や、買収先が有する新規技術・新規販売網等の獲得による、顧客基盤や企業能力の拡大(売上の拡大)によるシナジー効果を目的とするケースが多々あります。また、買収先と買収元とで重複する機能・部門を統合等により効率化し、コストを削減するシナジー効果も、PMIの目的に含まれます。
本稿では、PMIを「買収後の統合」と定義し、買収後に統合する「目的物」を「税務の観点」から次の3つに分類し、各論点を整理することとします(図表1参照)。

図表1 税務の観点からのPMI

  1. 税務チームの統合(税務ガバナンス・コンプライアンスチームの統合)
  2. 事業体の統合(統括拠点の変更・事業体の統合)
  3. 機能・リスクの統合(サプライチェーン・商流・物流等の統合)


なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

I.税務チームの統合

1.税務チームの統合

日系企業はこれまで、税務ポリシーや税務戦略が明確ではなく、買収先に説明可能な税務ガバナンス体制もありませんでした。買収後に行う税務チームの統合も、親会社主導の対応は実務上ほとんどなく、少なからず買収先のマネジメントに「任せっきり」「お手並み拝見」という対応となっていました。
最近では、OECDの主導により2015年より議論が開始したBEPS対策により、多国籍企業による租税回避スキームや二重非課税が洗い出され、各国税務当局も多国籍企業の租税回避行動への課税強化を行いやすくなっています。こうした環境下で、税務チームの統合なく、日本の親会社側で買収先の税務論点を十分に把握できていないという状況は、グループとしての税務リスクを増大させることになります。ただし、買収先の税務チームとの統合は、情報の収集、法制度の理解、物理的距離や時差、言語や文化の問題など、越えなければならないハードルが多く、実行が難しいというのも事実です。

2.税務ガバナンス体制の整備

税務の最適化を達成しつつ課税リスクに備えるためには、適切な税務ポリシー・戦略の策定と、その実現のためのオペレーション体制、即ち、税務ガバナンス体制の構築(図表2参照)が不可欠です。

図表2 税務ガバナンスのフレームワーク

税務ポリシー・戦略とは、企業の税務に関する理念(Vision)を実現させる方向性を、「リスク管理」「コスト削減」「情報開示」の観点から定めるものと言えます。たとえば、欧米企業は、M&Aをする場合の税務上のチェック項目のみならず、税務調査が入った際の対応方法までマニュアル化しています。治療対応型ではなく、事前予防型の対応が実施されているのです。一方、日系企業には、税務ガバナンスのオペレーション体制は慣習で積み重なったものがあるものの、その多くは文書として見える化されていません。
このような状況では、買収の税務デューデリジェンスのタイミングで買収対象会社レベルでの税務ガバナンス体制・成熟度の把握はできても、買収後に自社の税務チームとの統合計画を検討することができず、グループとしての税コストの削減や税ベネフィットの享受等のシナジー効果を得ることができません。
そこで、税務チームの統合は、まず日本の親会社主導でグローバル税務ガバナンス体制の仕組み化、見える化、文書化を行い、その次に現地チームと統合するというように2段階で整備します。
しかし、この対応は日本親会社の税務部門に負荷を与えることになります。自社人員で、対応しきれない部分は必要に応じて外部プロフェショナルやITテクノロジーを利用するのが効率的です。なお、買収先が欧米企業である場合、現地税務チームのほうが良いアイデア・体制を持っていることもありますので、税務チームの統合は、日本の親会社の体制を押し付けたり、現地子会社に任せっぱなしにするのではなく、良い体制は取り入れる等の柔軟な対応が望まれます。その際には、日本の税務チームと現地の税務チームとで、実際にFace to Faceで物理的な面談や意見交換を行うとより効果的です。

3.日本のタックスヘイブン対策税制を理解してもらう

税務ガバナンス体制の構築に際し、既存子会社や買収先には、日本のタックスヘイブン対策税制の教育が必要となります。日本では、2017年の税制改正により、税率が30%未満の外国関係会社でも、事業に必要な固定施設を有しておらず、事業の管理・支配・運営を自ら行う能力がない会社はタックスヘイブン対策税制の対象となります。そのため、米国の税率引き下げにより、米国がタックスヘイブン国となるという事態も生じています。また、税率が20%未満の外国関連会社については、実体がある事業を行う会社でも、貸付金の利子などの一定の「受動的所得」がタックスヘイブン対策税制の対象となります。M&Aにより買収した対象会社の海外子会社が、実は日本のタックスヘイブン対策税制の対象となる会社であったというこも十分ありえます。
これは、現地最適で事業運営スキームを組成しても、日本親会社で合算課税が生じ、全体最適とならない場合があるということです。これを回避するには、日本のタックスヘイブン対策税制を現地子会社・買収先に正確に理解してもらい、日本親会社の税務部門と連携して税務ガバナンスに取り組む必要性があります。

II.事業体の統合

1.事業体の統合

M&Aによるシナジーを最大化するために、買収後に同一所在地国で重複する機能を有する事業体を合併や分割、事業譲渡・譲受等によって統合することがあります。なかには売り手都合により、売り手の保有ストラクチャーのまま買収を余儀なくされることもあるでしょう。そのような場合、多くは不要なペーパーカンパニーを含めた状態での買収となることから、通常は統合の前段階として株式の移転(譲渡、現物出資、現物分配等)を行います(図表3参照)。

図表3 買収後の統合(株式移転+事業体の統合)

2.株式移転に伴う論点

株式の移転による課税には、キャピタルゲイン課税と印紙税等の取引税があります。
キャピタルゲイン課税では、株主国での課税、譲渡対象法人所在国での課税(株式発行地国課税)、譲渡対象法人の子会社所在国での課税(所謂、間接譲渡課税)のほかにも、日本のタックスヘイブン対策税制での課税関係も考慮しなければならず、検討事項に漏れがないかの確認が必要となります。
印紙税等の取引税は、同一グループ内での株式の移転であれば、グループレリーフを利用することもできます。ただし、グループレリーフの利用には、移転前後の保有期間を問われる場合もあるため、この点の確認が必要となります。
また、移転される法人が損失を有する場合には、株主の変更による損失の利用制限がないことの確認が必要です。通常は究極の株主の変動がないグループ内の再編であれば、制限は課されません。しかし、直接株主の変動でも制限を課す国もありますので、各国対応を確認しておくことをお勧めします。

3.事業体統合に伴う論点

事業体の統合には、株対価の合併や分割、事業譲渡等さまざまな手法がありますが、いずれにせよ、移転元法人、移転先法人、移転元法人の株主の課税関係を確認するだけでなく、日本のタックスヘイブン対策税制での課税関係(現地で免税ではなく、課税の繰り延べの取扱いか否か)も考慮する必要があります。
また、事業譲渡の場合には、現地譲渡者側での法人税課税、取得者側でのGoodwillを含めた取得資産の損金・償却可能性・償却期間の他、VAT/GST、取引税の論点についても考慮する必要があります。なお、税務の観点からは、事業体の統合はせず、現地の法人税およびVAT/GSTの連結納税制度を利用し、税務上の統合を図るという方法もあります。事業体の統合にビジネス上のハードルがある場合には、このような手法も検討されることをお勧めします。

4.統合の課題と留意点

統合時の株式・事業の移転は、含み益の高いほうを移転すると法人税課税が大きくなりがちです。そのため、税務の観点からは、移転元での欠損金の利用可能性も考慮のうえ、まずはどちらをどちらに移転して統合するのかという方向性を考える必要があります。
方向性の決定には、自社グループの事業体、税務ポジション、機能・リスクの把握はもとより、買収対象会社グループの事業体、税務ポジション、機能・リスクを正確に把握する必要があります。なお、持株会社の統合や地域統括持株会社化については、統合後、持株会社所在地国と各子会社国とで締結している租税条約の恩典を受けられるだけの実体があるかという観点から、所在地国での実体性を問われる可能性があるため、まずは、このリスクの有無を把握します(図表4参照)。そして、もしリスクがあれば、実体性の付与と、リスク軽減のために子会社国税務当局からルーリングを取得する等の対応をします。

図表4 持株会社の実体性(子会社所在地国の要求)

5.PMI特例の導入

2018年改正で、再編に伴うキャピタルゲイン課税にいわゆるPMI特例と呼ばれるものが導入されました。これまで、日系企業が海外M&Aを行い、PMIの一環としてグループ内組織再編を実施する場合であっても、売り主保有期間に形成された含み益はタックスヘイブン対策税制で課税されていました。そのため、抜本的な形での事業体の統合・再編を断念する等の事実がありました。
この点について、ペーパーカンパニー等の整理の際に発生する株式譲渡益に対するタックスヘイブン対策税制による課税を見直す(課税の繰り延べではなく非課税とする)ことにより、日系企業による海外M&Aを促進し、BEPSに沿った形で不要なペーパーカンパニーの絶対数を減らす形での制度設計がなされています(図表5参照)。

図表5 タックスヘイブン対策税制のPMI特例の要件

以下に該当する株式の譲渡益については、会社単位の合算課税の対象から除外

(1)譲渡者 特定外国関係会社等
(特定外国関係会社又は対象外国関係会社(一定の内国法人が株主等であるものを除く))
(2)譲受者 その特定外国関係会社等(譲渡者)に係る内国法人等又は他の外国関係会社
(特定外国関係会社等に該当するものを除く)
(3)
譲渡時期
原則 特定関係発生日から原則として同日以後2年(法令又は慣行その他やむを得ない理由により譲渡が困難であると認められる場合は5年)を経過する日までの期間内の日を含む事業年度
例外 特定外国関係会社等(譲渡者)の2018年4月1日から2020年3月31日までの間に開始する事業年度(の譲渡)
⇒特定関係発生日から同日以後5年を経過する日までの期間内の日を含む事業年度
(4)対象株式等 外国関係会社(特定外国関係会社等に該当するもの以外)の株式等で、その特定外国関係会社等(譲渡者)が特定関係発生日に有するもの
(5)主な要件
  • 外国関係会社に該当することとなった外国法人の統合に関する基本方針及び統合に伴う組織再編の実施方法等を記載した計画書に基づく譲渡であること
  • 譲渡の日から2年以内にその譲渡をした特定外国関係会社等の解散が見込まれること等

居住者等株主等(居住者・内国法人等)によるその特定外国関係会社等(譲渡者)に係る直接・間接の株式保有割合等が50%超となった日。

ただし、ペーパーカンパニー等を整理する際に発生する株式譲渡益の非課税に必要な要件の1つとして、その株式の譲渡が、持ち分50%超取得の目的、その目的を達成するための基本方針、その目的を達成するために行う組織再編に係る基本方針等が記載された計画書に基づく譲渡であることが定められています。そのため、遅くとも非課税としたい株式の当該譲渡前までに、将来のPMIを見据えたPMI計画書の存在が必要となります。

III.機能・リスクの統合

1.機能・リスクの変更に伴って生じる問題

買収後に、たとえば製造拠点の一拠点化やロケーションごとの役割変更・適地生産化によるサプライチェーンの変更が行われることがあります。このような場合、具体的には次のような問題が生じることがありえます。
 

  1. サプライチェーンの変更に伴い「取引価格の値上げ改訂」を実施したところ、輸入国の法人税課税ベースを合理的に減らすことができたが、輸入関税の課税ベースも増えてしまい、結果、差引合計では税務コスト増となった。
  2. サプライチェーンの変更により、低税率国所在のグループ会社に所得が多く配分されるようになったが、FTAのメリットが取れなくなった。
  3. 製品売買取引に係る移転価格と切り離すため、ロイヤルティその他手数料支払スキームを導入したものの、関税当局の調査において、このロイヤルティその他手数料支払い額総額を関税課税ベースに含めるべき旨の指摘を受けた。結果、税額追加のほか過少申告加算税を支払うこととなった。

2.税制スキームの構築には関税にも留意する

多くの企業で、関税については税務チームでは対応しておらず、営業チームで対応していることと思います。ところが、上記のとおり、法人税(移転価格税制含む)上最適なサプライチェーンの変更を進めているつもりが、関税の観点から不利な課税関係が生じてしまい、全体でコスト高になるということもありえます。そこで、サプライチェーンの変更では関税も考慮し、税務チームのみならず関税担当チームを関与させ、元々のスキームと比べて税効率が落ちないか総合的な分析を実施することをお勧めします(図表6参照)。

図表6 移転価格と関税の関連性

IV.親会社主導で税務ガバナンス体制を構築、適切に運用

ここまでM&A/PMIについての留意点を述べてきましたが、結局のところ、税務ガバナンス体制が構築され、適切に運用されていれば、上記に示した問題点は事前に対処・回避可能であるということになると思います。このためには、まずは日本の親会社で、グローバル税務人材の育成も必要となりますし、足りないリソースは外注により賄うことも検討に値するでしょう。
各国の税制の改正情報を即時に把握し、情報を集約して税務ポジション・状況を「見える化」するシステムも存在しますので、こうしたITツールを活用することも1つの手です。ローマは一日にして成らず、日本の親会社主導のグローバル税務ガバナンス体制の構築なくして日系企業のPMIは成らずです。

執筆者

KPMG 税理士法人
パートナー 吉岡 伸朗

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