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【対談】不可能を可能にするM&A~求められるマインドセットとは

【対談】不可能を可能にするM&A~求められるマインドセットとは

今回は、M&Aを成功に導くための課題と、M&Aを進める際に求められるマインドセットについて、M&Aの専門家でいらっしゃる服部暢達様にお話を伺います。

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早稲田大学大学院 経営管理研究科客員教授 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科特任教授 服部 暢達 氏

服部 暢達 氏

早稲田大学大学院
経営管理研究科客員教授

慶應義塾大学大学院
経営管理研究科特任教授

東京大学工学部卒業、マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士課程修了。
日産自動車株式会社、ゴールドマン・サックス・アンド・カンパニー、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て現職。
現在、株式会社ファーストリテイリング、フロンティア・マネジメント株式会社、株式会社博報堂DYホールディングスの社外役員を務める。

 

日本の国内市場が人口の減少に応じて縮小を余儀なくされる状況の中、日本企業は市場を求めて海外企業の買収に動いています。そうした中、買収後に巨額の減損損失を計上するケースも多く見られます。

一般に、M&Aの成功確率は5割程度とされますが、日本企業のそれは、5割をかなり下回るとも言われています。課題として挙げられるのが、日本企業が海外企業を経営する力です。言語や文化が日本とはかなり異なる海外で企業経営を行うことは、日本型経営の下で育った日本人経営者には容易なことではありません。

今回は、M&Aを成功に導くための課題と、M&Aを進める際に求められるマインドセットについて、M&Aの専門家で、早稲田大学大学院経営管理研究科および慶應義塾大学大学院経営管理研究科で客員(特任)教授を務められている服部暢達様にお話を伺います。

日本企業のM&A成功確率は低い

知野:近年の日本企業のM&A動向を見ますと、大型のIN-OUT投資(海外企業の買収)がさまざまな業種において盛んになっています。こうした動向について、どのようにお考えですか?

服部:M&Aは、世界の比較的大きな会社にとって、成長戦略の選択肢の1つとして既に定着しています。これは欧米や日本だけに限りません。中国やブラジルなどの新興国でもそうです。特に、中国のM&Aは国内外で非常に増えています。
一方で、一般的にM&Aの成功確率は5割程度です。失敗するリスクもあります。しかし成功すればリターンも大きい。ですから、挑戦する経営者も増えてきているのだと思います。

図表 M&A金額の推移

(単位:100万円)

図表 M&A金額の推移

出典:レコフ調べ

知野:M&Aの成功確率は5割という意味をもう少し詳しくご説明いただけますか?

服部:一言で申し上げると、M&Aは買収した会社の株価に影響を与えていないということです。
調査研究の制約上、対象は上場企業間のM&Aに限られますが、通常、M&Aが公表されると、買われる会社(対象企業)の株価は2~3割ほど上がります。これは、買う会社(買収企業)がプレミアムを支払うことによって、既存株主から対象企業の株式を買い集めるためです。問題は買収企業です。買収企業の株価を統計的に分析すると、買収前後でほぼ変動がありません。海外の数多くの学術論文において同様の結論を得ています。
このことから、株式市場がこれまでの経験からM&Aの成功確率をだいたい5割くらいと判断しているということが読み取れます。もし市場がM&Aの成功確率を5割よりも高いと判断しているなら、買収企業の株価は上昇するはずです。でも、実際にはそうなりません。逆に、5割よりも低いと判断するならば、株価は下がるはずですが、やはりそうはならない。つまり、統計的な有意差が認められないのです。これを「アブノーマルリターン」と言いますが、それがゼロであるという結果が出ています。

知野:M&Aの成功確率が一般的に5割というお話ですが、日本企業のIN-OUT案件の成功確率はどのくらいとお考えでしょうか?

服部:残念ながら統計データはありません。私の感覚でしかないのですが、M&Aに慣れていない日本の企業のIN - OUT案件の成功確率は、グローバルアベレージの5割よりもかなり低いのではないかという気がします。

M&Aは本来「時間を買う」ための投資ではない

知野:日本企業のM&Aの成功確率が低い原因はどこにあるのでしょうか?

服部:一番の要因は、経営力不足だと思います。買った企業を経営する力が十分にないことが原因です。
先ほどお話したように、対象企業は通常、株価よりも高く買われます。直近10年の平均買収プレミアムは、アメリカで40%くらい、日本では30%くらいです。したがって、たとえば100億円の会社なら140億円で買うことになります。
言い換えると、買収企業にとってのM&Aは40億円の負けから始める、非常にハイリスクな投資だということです。逆に、売り手側は100億円の企業が140億円で売れるわけですから、勝ちが確定していてノーリスクです。これがM&Aの一番本質的な部分です。

知野:買収プレミアムの原資となるものはシナジーです。KPMGの調査によると、買収企業は平均して、見積もったシナジー総額の43%をプレミアムとして売手に支払っているというデータがあります。
しかし、シナジーとは買収企業の経営努力により、買収後に実現するものです。つまり、本来は買収企業に帰属するものであり、まだ実現していない段階で、売り手に渡すべきものではありません。
また、買収企業のほとんどが、このシナジーを精緻に見積もっていないというデータもあります。実現可能性が不確かな見積りのうち、43%を先に支払ってしまうというのは、非常にリスクのある投資だと言えます。
これほどのリスクを取ってまで、M&Aに取り組むのはなぜでしょうか?

服部:理論的に言えば、リスクに見合ったリターンを得られると考えるからです。もともと100億円の価値の企業でも、自らが経営することによって、たとえば170億円~180億円の価値にできるという確固たる自信があれば買える。そうでなければ、140億円もの対価を支払うという企業行動を合理的には説明できません。しかし、企業によっては、自らの経営努力によって価値を向上させるという点が、あいまいになっている場合があります。それは、時間を金で買うつもりでM&Aをしているからです。

知野:M&Aは「時間を金で買う」ことだと、一般的にはよく言われています。

服部:私は、それはM&Aの本質を適切に表現していないと思っています。M&Aは「時間を買う」ことではなく、誤解を恐れずに申し上げれば「不可能を可能にする」ことです。
ただし、不可能が常に可能になるわけではなく、不可能なまま終わることもあります。どれほど確固たる自信があっても、ある日突然、リーマンショックのように市場環境の大きな変化が起こることがあります。これは仕方ありません。
企業の経営は5年、10年のタイムスパンで考えるので、思い通りにならないこともたくさんあります。それでもM&Aを決断する際には、「自分なら、こういうアクションプランで180億円にできる。だから買おう」と考えるべきです。しかし、M&Aで「時間を買う」という感覚では、買ってしまえば目的を達してしまいます。買うまでは多くの時間を費やして検討するが、買ってしまえば成功した気分になり安心してしまう。負けから始まっている投資だからこそ、買った後に取り返さなければならないのに、気が付けばその準備はまったくできていない。これでは、経営によって価値を高めることはできません。最初から負けが決まってしまいます。M&Aは買ってからが大事なのです。

知野:M&Aの現場では、対象企業をデューデリジェンスし、その価値を算定して、買収対価を見積もったり、リスクを軽減する買収スキームを検討したりするのに手一杯で、シナジーやM&A後の経営を考える余裕がないというケースが多く、そのあたりに失敗の原因が潜んでいる気がします。

確固たる自信とアクションプランがなければ、シナジーは生まれない

知野:海外の企業を買収すると、それまで経営にあたっていたマネジメント層がそのまま残るケースも多くみられます。海外の市場に必ずしも精通していない日本企業からすると現地の優秀な人材は頼もしい戦力です。この場合、海外の企業(子会社)の経営はそのまま既存のマネジメント層に任せ、日本企業(親会社)はそれをガバナンスするという体制をとることが多いように思います。

服部:たとえばAという社長がいて、彼が非常に優秀だからその会社を買うというケースは、日本企業に少なくありません。
しかしこれでは、負けを取り返すことは難しくなってしまいます。なぜならば、Aの優れた経営手腕によって導かれた企業の価値が100億円だからです。彼はこれまで手を抜いてきたわけではなく、全力で経営した結果が100億円なのです。しかし、買い手としては140億円で買うのですから、100億円の経営しかできないAでは力不足です。必要な人材は、100億円の会社を180億円にするアクションプランを実行できる社長なのです。

知野:買収した会社のAでは180億円にできない。自社の人材では海外現地の状況がよくわからず、また、そもそも海外企業を経営できる人材が豊富にいるわけではない。そこで、CEOとして他社からBをヘッドハンティングしてくる。そういうケースもありますよね。

服部:Bは、もしかしたら100億円の価値を105億円とか110億円にはできるかもしれない。ですが、いずれにせよ、180億円になるような大きなシナジーは出せないで
しょう。
なぜならば、Bは買収企業がどのような経営資源を有しているかを知らないからです。シナジーは究極的には売上と費用に生じます。買収企業と対象企業の事業が統合することで、売上は2社の単純合計よりも大きくなり、費用は逆に少なくなります。しかし、こうしたシナジーは買収企業の経営資源を使わない限り、実現しません。買収企業は、自社の経営資源のことを一番よく知っている。ある経営資源を何と組み合わせればどんな価値を生むかということは、買収企業ならばわかりますが、AにもBにもわかりません。これはすごく重要なことだと思います。

知野:そもそも論ですが、100億円の価値の企業を140億円で買うという、買収価格の設定が誤っているという可能性はないのでしょうか?巷では日本企業が高値掴みをしているという話をされる方がいらっしゃいますが。

服部:少なくとも、株価というベンチマークがある限りは、大きな間違いはおかしていないと思います。難しいのは、価格がその人にとって適正かどうか、ということです。これが重要なポイントです。
通常、M&Aは売り手1社に対して、買い手が10社くらいあります。この10社がそれぞれ自社にとって適正な価格をつけるわけですが、競争である以上、価格が吊り上がるのは仕方ありません。問題は、買収プレミアムの上限をどこに設定するかです。

右:知野 雅彦
株式会社KPMG FAS
代表取締役 パートナー

ディールアドバイザリー部門の統括責任者。M&Aや事業再編、事業再生に係るサービスに長年、関与している。

“日本で”優秀な経営者、“欧米で”優秀な経営者、何が違うのか

服部:ビジネスの世界では、日本企業は欧米の企業とは違います。そして、この違いがあるために、日本で優秀な経営者が、アメリカやヨーロッパに進出するために買った会社を経営しても、同様にうまくいくとは限りません。

知野:日本で優秀な経営者と欧米の経営者、何が違うのでしょうか?

服部:一言で言えば、仕事とか会社に対するマインドセットです。日本で大きなM&A案件を手掛ける企業は、やはり有名な大企業が多い。そしてM&A担当になる人というのは、間違いなくその会社のエリートです。
そうしたエリートの方々は、自分の会社名に対する帰属意識が強い。そして将来的に、彼らが昇格し経営者になっていきます。
一方、アメリカ人の場合、「私は“○○”に勤めているんだ」とは強調しません。勝ち組の優秀なビジネスマンが拘るのは、勤務している会社名ではなく、自らの市場価値である報酬です。だから、優秀な学生やビジネスマンの多くがベンチャー企業を目指すのです。

知野:日本は終身雇用制が未だに色濃く、職を得た企業のために仕事をしている意識が強いのかもしれません。海外ではむしろ、仕事は個人の幸福やキャリア実現のためだということがより明確です。

服部:この差を知らないと、経営はできません。たとえば、日本の大きな会社で成功した日本人の役員が、買収した子会社の社長になって、ヨーロッパに行ったとします。しかし、彼が日本のマインドで現地の従業員に接すると、彼のやり方は従業員にまったく響きません。
逆に、アメリカ人の経営者が日本の会社を買収した際に、給料・ボーナス等のインセンティブを示して、短期間に結果を出すことを日本人従業員に求めても、やはり響きません。
こういう行き違いを理解していないと、経営は成功しません。しかし、理屈はわかっても、本質的にはなかなか理解できないものです。特に、海外での経営経験の少ない人には難しいと思います。これは会社の能力ではなく、個人の能力なのです。

M&Aはトライ&エラーで経験を積むことが重要である

服部:経営が個人の能力に大きく依存することは、今年3月までJT取締役でいらっしゃった新貝康司さんも『JTのM&A』(日経BP社、2015年)に書いています。この本によると、当時シガレット販売数量で世界第5位だった英ギャラハーの買収では、新経営陣を決めるために、買収発表後に新貝さんと当時のJTインターナショナル(JTI)のCEOの2人で、シニアマネジメント約40人に対して1時間ずつ、7日間にわたって面接をしたそうです。
1時間話しただけでその人の去就を決める。こんな経営能力を持つ日本人はまだ限られているのではないでしょうか。しかも、その後ギャラハーの業績は好調ですから、彼らの大半が納得できる人事を断行したことになります。
『JTのM&A』の最後に、高品質なコミュニケーション力を身につけるには「リベラルアーツを学ぶこと」だと書かれています。リベラルアーツとは、たとえば宗教に対する理解などです。宗教は人々の価値観やこだわり、考え方に大きな影響を与えています。こうした信仰を理解していなければ、人となりは見抜けないものです。相手の懐に入っていくために必要なのは、語学力だけではありません。だから難しいのだと思います。

知野:JTは近い将来に国内たばこ市場が縮小することを予測して、1988年頃から、海外のたばこ会社の買収を検討し始めたそうです。最初に買収したのが英マンチェスタータバコなのですが、このM&Aは「海外での事業経験を積むために貴重なプラットフォームとなるパイロット買収」(『JTのM&A』より引用)だったそうです。
日本企業が今後M&Aの成功確率を上げていくためには、まずは多くのトライ&エラーを経験しないといけないと思います。
日本国内の市場の縮小は避けられません。そこで、日本企業が成長を求めて海外に出ていくことは必然です。その際M&Aは極めて有効な手段となります。リスクがあるからと石橋を叩いて黙って見ていたのでは、ジリ貧になってしまうかもしれません。多少失敗したとしても、どんどんM&Aをし、経験を積み、それを成功に繋げていく。それが重要なのだと思います。

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