ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の手法とその影響 | KPMG | JP
close
Share with your friends

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の手法とその影響

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の手法とその影響

本稿では、ICOの仕組みや具体的な進め方を解説し、ブロックチェーン本来の思想を踏まえたトークンという概念のあり方を考察します。

関連するコンテンツ

ブロックチェーン技術の登場を皮切りに、「分散型社会」という変革の波が様々な業界に広がっています。昨今、投機目的で賑わっている仮想通貨もその1つですが、そのなかでも、自社で新しい通貨を発行して資金調達を行うICO(イニシャル・コイン・オファリング)というスキームは、創業間もない企業における資金調達方法に新たな選択肢をもたらしています。ICOを使えば、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルに頼らずとも、世界中の投資家から資金を調達することができるようになり、これまでとは比較にならない早いスピードでの企業の成長を可能にします。このスピードを追い風とするためには、ICOの基本特性と危険性や注意点を理解したうえで、自社本来のビジネス目的に沿った活用を検討する必要があります。

本稿ではICOの仕組みや具体的な進め方を解説し、ブロックチェーン本来の思想を踏まえたトークンという概念のあり方を考察します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の個人的見解であることをあらかじめご了承ください。

ポイント

  • ICOは従来からの資金調達方法をベースとした企業に比べ、早いスピードでの新興企業の成長を可能にする。
  • ICOを行う際のフローやホワイトペーパーに記載されている事柄について理解することが重要である。
  • 分散型台帳技術の特性を活かすために、分権を意識したトークン設計を理解する必要がある。

I.急増するICOによる資金調達と急成長する新興企業

ビットコインやイーサリアムと言った仮想通貨の知名度は年々上がり続け、今では耳にしない日はないのではないでしょうか。

コンシューマーの世界では、仮想通貨交換業と呼ばれる、従来の証券取引所とよく似たビジネスモデルにより仮想通貨を現金で売買する業者の広告が新聞やTVなどで大々的に行われています。一方ビジネスの世界でも、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)と呼ばれる仮想通貨を使用した新しい資金調達の方法がベンチャー企業やベンチャーキャピタルにとどまらず、大手企業のビジネスにも大きな影響を与え始めています。

従来、企業の資金調達というのは「シード」、「シリーズA」、「シリーズB」、「シリーズC」といった企業の成長段階に合わせて、それぞれ数百万円から数億円単位で投資が実行されてきました。しかし、ICOはその垣根を曖昧化し、起業前のシード期から数億、時には百億円単位の資金の調達を可能にします。企業はICOで得た資金でサービスや製品を一気に完成させ、1~3年で数十億円の売上を上げることができます。こうして従来の方法では考えられないスピードで大企業の仲間入りを果たす新興企業が現れています。

 

1.ICOとは

ICOとは、新しいサービスの開発・提供を考えている企業や開発チームが、イーサリアム等のブロックチェーンプラットフォームの独自コイン発行機能を活用して資金調達を行う、クラウドファンディングの1つの形態です。まだ開発が予定されている段階にもかかわらず、完成後のエコシステム内で使えるポイントやクーポン券、またはサービスが受けられる権利として、トークンと呼ばれる独自コインを発行し、それを事前に世界各国の投資家に仮想通貨で購入してもらいます。当初のICOでは、トークンは配当収益権として販売されることが一般的でしたが、この方法は有価証券に該当するとして各国で規制されるようになり、今ではユーティリティとしての機能を持ったトークンが販売されることが主流になっています。


(1)ICOのメリット

ICOはIPO(新規公開株)、またはベンチャーキャピタルや銀行、証券会社等による第三者割当増資に比べて様々なメリットがあります。

  1. インターネットを介し、世界中の投資家から直接投資を受けられる。
    ICOは自社のウェブサイトにホワイトペーパー(IPOにおける目論見書に相当)を公開し、そこでトークンの支払いとビットコインやイーサリアムの受け取り機能を用意するだけで実施することができます。そのため国境を気にせず、世界中から出資を募ることができます。
  2. 組織の規模に関係なく実施できる
    IPOのように事前監査や売上目標等を必要としないため、会社設立前の段階(シード期)でも実施が可能です。
  3. 法規制以外のリスクが少ない
    法規制のリスクは大きな不確定要素ではあるものの、ウェブサイトとホワイトペーパーを作成するだけで発行が可能なことから費用を抑え時間を減らすことができます。


(2)ICOのデメリット

  1. 明確なビジネスモデルの構築
    配当収益型のトークンを販売することは、各国の規制により現状では厳しいとされているため、トークンにユーティリティをつける等の工夫が必要です。そのため実現可能なビジネスモデルに制限があります。
  2. 法規制のリスク
    現在は一部の国や地域で、特定のICOが規制されていますが、今後規制がますます強くなる傾向があるため、ICO実施中に規制される等のリスクが考えられます。

 

2.ICOによる調達額

世界で初めてICOが行われたのが2013年9月頃だと言われており、その調達額は日本円にして約6億円でした。当時はビットコインを活用した世界初のビットコイン2.0型のICOとして大きな話題を集めました。その後、2014年7月にビットコインの機能をより拡張させたまったく別のプラットフォームであるイーサリアムがICOを実施し、42日間で当時のビットコイン価格で約16億円相当の調達に成功しました。イーサリアムの登場を皮切りにICOプロジェクトは凄まじい速度で増加し、2016年には約150億円相当を調達するプロジェクトも現れました。イーサリアムではICOに関するライブラリやトークン規約が外部ソースで用意されており、このことがICOに関する技術的ハードルを下げ、件数増加の要因となっていることと推測できます。

II.ICOの手順

ICOには、ホワイトペーパーの作成やプレセール、クラウドセールといったいくつかの実施ステップがあります。ここでは一般的に行われている流れを紹介します。

 

1.トークンを組み込んだ事業構想

ICOを実施するにあたり、肝となるステップは事業構想です。一般的な事業構想と大きく異なり、発行するトークンを組み込んだエコシステムや仕組みを作る必要があります。これは各国の規制内容にもよるものですが、多くの国では有価証券にあたるトークンは規制対象となるため、発行するトークンには先述のとおりユーティリティ性を持たせる必要があります。しかし、ICOありきで設計を進めていくと事業本来のビジョンや実現したいビジネスモデルに、無理矢理トークンを組み込み、結果として流動性のないトークンになってしまうことに注意しなければなりません。そのため、実現したいビジネスモデルに組み込むべきトークンの議論を外部の法律や規制についての専門家を交えて進めていくことが望ましいと言えます。

 

2.ホワイトペーパーの作成および公開

ICOでは必ず、ホワイトペーパーと呼ばれる事業計画書(IPOにおける目論見書に相当)が必要となります。元々技術の詳細を記したものをホワイトーペーパーと呼ぶことに起因しているため、2013~2014年ごろの早期に行われていたプロジェクトのホワイトペーパーは技術書のような構成になっています。ここでは近年の事例から一般的に記載されている内容について紹介します(図表1参照)。

図表1 電ホワイトペーパー記載項目概要

事業関連

項目 タイトル 内容
1 サマリ 事業のエグゼクティブサマリ
2 背景 取り組もうとしている社会的な課題や事業構想に至った経緯とICO達成により目指すビジョン
3 ソリューション 社会課題を解決するための手段、プロジェクトのアプローチ方法
4 活用する技術詳細 トークンを活用したエコシステムの概要、新しくブロックチェーンを構築する場合はその詳細を記述
5 ロードマップ 海外展開や、交換所上場のタイミング、プロダクトリリース等のマイルストーンを含むプロジェクト全体のロードマップ
6 リスク プロジェクト遂行にあたって考慮すべきリスクなど昨今では管理体制やリスクコンプライアンス、免責事項等が具体的に書かれていることも増えている
7 メンバー コアとなるメンバーや、既に設立されている会社であれば会社概要を記述する。主要メンバーの経歴が投資判断にあたって非常に重要と言われている
8 アドバイザー 顧問の立場でプロジェクトに参画するメンバーを紹介する。ここに業界有名人や社会的信用の高い人物を載せられるかどうかが、大型調達プロジェクトの鍵となるといわれている

トークン関連

項目 タイトル 内容
1 トークン設計概要 トークンの総発行量や、創業者、初期投資家の保有割合、プレセール、クラウドセールでの放出割合等や、トークンの設計(ERC20など)を記述
2 サービス 販売する値段や地域、優待内容、早期購入者に対する特典などを記載
3 資金の使途 ICOで調達した資金の使途を記述します。主に開発費や運用費、創業者や初期投資家への配分割合が記載されていることが多い

3.プレセール

いわゆるプライベートセールに該当するスキームであり、特に大口で投資してもらえる個人投資家や機関投資家に向けて販売します。一般的にクラウドセールで購入するよりもプレセールで購入するトークンの方が安く、特典が付与されることもあります。それ以外の目標としては次ステップの実証実験でかかる費用をプレセールで調達するという側面もあります。プロジェクトによってはこのプレセールを、「プレプレセール実施後プレセール実施」のように、複数回に分けて実施することもあります。

 

4.実証実験

構築を予定しているエコシステムの必要最小限の機能を持つ製品であるMVP(Minimum Viable Product)等で実証実験を行い、作成した事業構想の仮説を検証します。その結果が、その後のクラウドセールの調達額に影響することも多いと言われています。従来のICOではこのスキームはなく、ホワイトペーパー1枚でクラウドセールを行うプロジェクトも多々ありましたが、近年のICOプロジェクトの乱立や詐欺の横行により、実証実験の工程を設け、信頼性と実現性を担保するプロジェクトが増えています。

 

5.クラウドセール

クラウドセールはパブリックセールとも呼ばれ、インターネット経由で全世界に向けて投資を募ります。ここが一般的なICOのイメージとなっていますが、全体的な流れとしてみれば1つのプロセスに過ぎません。昨今は本人確認の手続きの必要性などから仮想通貨販売所に販売を委託することが一般的となっています。

 

6.上場

クラウドセール終了後、トークンに流動性を持たせるためには自身でトークンと現金を交換できるようにする仮想通貨交換業を行うか、他の仮想通貨交換業を行っている企業に新規発行したトークンを取り扱ってもらう仕組みが必要となります。これを仮想通貨取引所への「上場」と呼ぶことが多く、上場した時点で、トークンの価値はマーケットによって変動性を持つようになります。しかし、2017年4月に施行された改正資金決済法により、日本では仮想通貨と法定通貨の交換事業を行うには金融庁への登録が必要となっており、自身で交換業を行うハードルは高いと言えます。

 

7.その他

ICOはトークンのサービス内容によっては資金決済法や金融商品取引法の規制の対象となる可能性があります。そのため、トークンの販売を委託する仮想通貨交換業者と連携を取りながら、ホワイトペーパーが出来たタイミングで金融庁への確認や報告を行わなければなりません。規制対象のサービスを必要な登録なしに行った場合は刑事罰の対象となる可能性もあります。

III.分権型トークン設計

ここまでICOの一連の流れについて解説してきました。では、なぜトークンでなければならないのか、電子マネーで作られる経済圏ではダメなのか、という論点について考えてみます。実際に存在するプロジェクトにおいて、トークンとして活用する意味をあまり持たずにローンチしている事例も存在します。電子マネーや法定通貨ではなく、トークンとしての価値を最大化するには、トークンや仮想通貨を支える技術としてのブロックチェーンの概要とその世界観を踏まえたうえでトークン設計を行うことが必要不可欠と考えます。

 

1.ブロックチェーンとは

ブロックチェーンは、取引データを管理する仕組みのことで、取引データが規則に基づき最初の取引から最後の取引までを紐付けることで非改ざん性を実現しています。従来のシステムと異なる点は中央管理する仕組みが不要ということです(図表2参照)。

 

2.ブロックチェーンの課題

ブロックチェーンには現状、スケーラビリティ(システム規模に対する拡張性)という致命的な課題が認識されています。ブロックチェーンはあくまでも取引データを管理する仕組みであると説明しましたが、ビットコインのようなシステムでやり取りされているデータは、「AさんがBさんに1ビットコインを送付した。」というような小さなサイズのデータです。このデータがブロックチェーンの参加者すべてに共有されるので、ビットコイン・コアのネットワークに参加すると、世界で最初のビットコインの取引から、現時点の取引まですべてダウンロードできるようになります。仮にブロックチェーンに画像データのような大きいサイズのデータを載せて共有すると、参加ノード(通信ネットワークを構成する、中継点、分岐点、端末のこと)のハードウェアの規格はかなりハイスペックなものを要求されてしまい、現実的ではありません。エコシステムを構想する際に抑えておくべきポイントとなります。

 

3.ブロックチェーンの思想

ブロックチェーンは、中央集権的に誰かがすべてを管理するという今までの仕組みに取って代わり、言わば民主主義をシステム的に体現したものだと言えます。オープンであり参加者全員で管理する仕組みを作るため、法定通貨のような透明性や流通性を保っていなければならないようなものと相性が良いと考えられます。ブロックチェーンには、BtoBのビジネスモデルに適用させようと、コンソーシアム型やプライベート型という亜種が存在しますが、その根本的な思想からすればパブリック型がブロックチェーンの原点と言えます。

 

4.電子マネーとトークンによるエコシステムの違い

既に、トークンとよく似た電子マネーが存在しています。電子マネーというのは、発行体の企業が管理し、商品券のような使い方をします。トークンとの決定的な違いはその価格が市場によって変動しないことです。トークンの発行体は、発行した団体であっても、経済圏の1プレイヤーとして存在するべきであり、トークンをコントロールする立場にいることは好ましくはありません。トークンを発行し、ユーザーからトークンを受け取ることで商品を返す。これではトークンを電子マネーとして使用していることに過ぎないのです(図表2参照)。

図表2 電子マネーとトークンのエコシステム

5.トークン設計時のポイント

以上をまとめると、ICOを行うために本来しなければならないトークン設計のポイントは以下になります。

  • ブロックチェーンの基本的な特性を理解したシステムの構想
  • トークンの価値は市場によって変動するものである
  • トークンの発行者は、経済圏に参加する1プレイヤーとして存在するにとどめる

IV.まとめ

現在様々なICOプロジェクトが世界中でローンチしています。しかし、ブロックチェーン本来の良さを踏襲できているプロジェクトは決して多くはありません。既存の電子マネーの域を出なかったり、ブロックチェーンの特性を理解せず、莫大な量のデータをブロックチェーンで共有したり、実現性に欠ける内容を記載したままホワイトペーパーが公開されていることもあります。ICOは従来のIPOと違い監査や審査も必要がないため、トークン発行の技術さえ持っていればホワイトペーパー1枚で全世界から資金を募ることができることが最大のメリットです。一方で、そのため詐欺やプロジェクトが途中で中止されてしまうものが数多く存在するのもまた事実です。ブロックチェーンの技術そのものは“分権”という社会的な変革を起こす可能性を秘めた技術であり、この技術を単に規制し、封じ込めることなく、現状をしっかりと注視し、既存の社会に適合させるためにルールや統制を社会で作り上げていくべきだと考えます。

執筆者

KPMGジャパン
フィンテック推進支援室
室長 ディレクター 東海林 正賢
マネジャー 伊藤 貴比古

お問合せ

 

RFP(提案書依頼)

 

送信