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香港証券取引所およびシンガポール取引所の最新動向

香港証券取引所およびシンガポール取引所の最新動向

本稿は、HKEx(香港証券取引所)およびSGX(シンガポール取引所)の最新動向をご紹介します。

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海外での事業展開、知名度の向上、資金調達や業務提携のため、アジア株式市場、特に香港証券取引所(Hong Kong Stock Exchange: 以下、「HKEx」という)およびシンガポール取引所(Singapore Exchange:以下、「SGX」という)への上場は、アジアに事業を展開する日本企業にとって重要な事業戦略となっています。
最近、HKEx および SGXは、資本市場の活発化や多様化のため、上場規則の重要な改正を行っています。従来、多くの日本のバイオテックやITなどニューエコノミー企業がニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック市場(NASDAQ)での上場を検討していましたが、今後、香港市場やシンガポール市場も選択肢になる可能性があります。
本稿は、HKEx およびSGXの最新動向をご紹介します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 2018年2月15日から、HKEx上場規則の改正(一部)が適用された。
  • HKExはバイオテック企業、種類株式を発行する企業、英米証券市場に上場しているニューエコノミー企業に対する上場規則草案に関するコンサルテーションペーパーを発表し、意見募集を開始した。2018年4月以降の上場規則改正を受けて上場の申請が開始される。
  • SGXは種類株式を発行する企業の上場を認めることを発表した。
  • SGXは四半期決算開示ルールの簡素化を発表し、2018年後半から新制度の導入を予定している。
  • シンガポールのコーポレートガバナンスコードをSGXの上場規則の一部として組み入れる見込みである。

I.香港証券取引所の動向

近年、IT、バイオテック、製薬やヘルスケアなどのニューエコノミーの大型企業によるIPOや資金調達額等が注目されていますが、HKExの産業別の上場企業数割合を見ると、上場企業のセクターとして、消費財、消費者サービス、不動産および金融業がその大きな割合を占めています(図表1参照)。NYSEやNASDAQなどと比較すると、ニューエコノミー産業の割合が低くなっています。その1つの原因として、HKExは、ニューエコノミー 企業が採用する、普通株式より議決権が多い種類株式を認めてこなかったため、創業者の支配権が強い企業などがHKExではなく、種類株式を容認しているNYSE、NASDAQに上場したためです。

図表1 香港証券取引所メインボード(Main Board)の産業別の上場企業数割合(2017年12月現在)

出典:香港証券取引所

図表1 香港証券取引所メインボード(Main Board)の産業別の上場企業数割合(2017年12月現在)

HKExは、世界の主要な株式市場として、香港金融市場の競争力を高める、成長性の高い企業を誘致するため、ニューエコノミー企業の香港上場誘致の見直しを検討して、2017年6月に新しい株式市場「新ボード」の新設および現行上場規則の改定に関するパブリックコメントを募集して、同年12月に意見募集の結果を発表しました。なお、「新ボード」の新設については今回の改正では見送られました。

1.上場規則改正における主要な変更点(2018年2月15日から適用)

(1)成長企業市場のリポジショニングおよびメインボードへの移行に関する規則の改正

従来、Growth Enterprise Market (成長企業市場)は新興企業向けの市場で将来メインボードへのステップアップのための市場でしたが、メインボードへ移行するための簡易なプロセスを濫用することへの懸念がありました。
今回の改正により、Growth Enterprise Marketは中小企業向け市場として位置付けし、名称を「GEM」に変更しました。また、GEMに上場している企業がメインボードへ移行する場合、従来の簡易なプロセスを廃止し、スポンサーの選任やメインボード上場時に要求される上場申請書類、目論見書の作成を義務付けました。


(2)上場要件の改正

今回の上場規則の改正によりGEMとメインボードの上場要件が変更になっています。
 

  • GEM
財務要件:
時価総額基準
上場時の時価総額が1.5億香港ドル(約22億5千万円)以上(改正前:1億香港ドル以上)
財務要件:
キャッシュフロー基準
直近2事業年度の営業キャッシュフローの合計額が3千万香港ドル(約4億5千万円)以上(改正前:2千万香港ドル以上)
浮動株時価総額 発行済み株式総数の25%以上かつ4千5百万香港ドル(約6億8千万円)以上(改正前:3千万香港ドル以上)
浮動株総数 公開募集株式は、浮動株総数の10%以上(改正前:規制なし)
ロックアップ期間 IPO後12ヵ月(改正前:6ヵ月)
ロックアップ期間終了後12ヵ月間(改正前:6ヵ月)、支配株主の地位を変更していない。

 

  • メインボード(Main Board)
上場時の時価総額 5億香港ドル(約75億円)以上(改正前:2億香港ドル以上)
浮動株時価総額 発行済み株式総数の25%以上かつ1.25億香港ドル(約18億8千万円)以上(改正前:5千万香港ドル以上)

2.ニューエコノミー企業の香港上場に関する詳細

今後バイオテック企業、種類株式を発行する企業、英米証券市場に上場しているニューエコノミー企業の香港上場に関する具体的な規定や詳細なガイドレターが発行される予定です。HKExは2018年2月23日にニューエコノミー企業向けの上場規則草案に関するコンサルテーションペーパーを発表し、意見募集を開始しました。2018年4月以降の上場規則改正を受けて上場の申請が開始されます。


(1)バイオテック企業に対する上場規則の緩和

メインボード上場規則にバイオテック企業に対する上場規則を加えました。現状の上場時における(1)利益基準、(2)時価総額/売上高基準、または(3)時価総額/売上高/キャッシュフロー基準3つの財務要件を満たさなくても、上場時に一定の時価総額(15億香港ドル(約225億円)以上)、同一マネジメントにおける事業の継続性(最低2年間)などの条件を満たす場合、創業期で売上がないあるいは赤字であるバイオテック企業でもメインボードへの上場が認められることとなります。


(2)種類株式を採用しているニューエコノミー 企業の上場を容認

メインボード上場規則に加重議決権(以下「WVR」という)など種類株式を採用している企業に対する上場規則を加えました。WVRを発行する上場申請企業は、今後も継続して高いビジネス成長が見込まれる実績を持つ会社で革新的な企業であることに加えて、上場時の時価総額(100億香港ドル(約1,500億円)以上)、売上高(上場時の時価総額は400億香港ドル(約6,000億円)未満の場合、直前1年の売上高は最低10億香港ドル(約150億円))、加重決議権の上限(1 WVR株の決議権上限は一般普通株式の10倍)などの条件がありますが、この条件を満たせばWVRを発行する企業はメインボードへの上場を認められることとなります。


(3)ニューエコノミー企業の香港でのセカンダリー上場の取扱い

NYSE、NASDAQやロンドン証券取引所のメインボードで上場しているニューエコノミー企業(WVRを発行している企業または中華圏が事業の中心となる企業含む)は、セカンダリー上場時の時価総額(100億香港ドル(約1,500億円)以上)、財務要件(WVRを発行している企業または中華圏が事業の中心となる企業によるセカンダリー上場時の時価総額は400億香港ドル(約6,000億円)未満の場合、直前1年の売上高は最低10億香港ドル(約150億円))、少なくとも直前2年間のコンプライアンス状況が良好であることなどの条件を満たす場合、上場規則の免除が自動的に与えられます。免除範囲には関連者取引、コーポレートガバナンスコードに関する要件などが含まれます。

II.シンガポール取引所の動向

SGXは、アジアの他の取引所と比較すると外国企業の上場が多く、産業別シェアで金融、消費財、消費者サービスおよび資本財が大きな割合を占めています。近年、航空宇宙産業、ヘルスケア、バイオテック、ITなど新しい産業分野の誘致も行っていますが、リーマンショック以降の外的要因等により、新規上場企業数は必ずしも伸びてはいません(図表2参照)。そこで、SGXは新しい産業分野の上場企業を増加させるための施策を導入し、一方でこれが行き過ぎた結果を招かぬよう、合わせてコーポレートガバナンスコード(以下「ガバナンスコード」という)遵守など企業の透明性を確保する施策の導入も検討しています。以下では、その施策等をご紹介させて頂きます。

図表2 シンガポール取引所メインボード(Main Board)の産業別の上場企業数割合(2017年12月現在)

出典:シンガポール取引所

図表2 シンガポール取引所メインボード(Main Board)の産業別の上場企業数割合(2017年12月現在)

1.種類株式

SGXは、2018年1月22日に普通株式とは異なる議決権や配当の権利をもつ「種類株式」を発行する企業の上場を認めることを発表しています。
種類株式は、1株につき複数の議決権を付与することも認めています。このため、マネジメントが保持すれば、上場による株式の売り出し後も、その持株割合以上の議決権を行使することができ、新興企業のマネジメントからは、導入を強く求める声がありました。たとえば、アメリカにおける新興企業やNYSEに上場している中国最大手電子商取引会社は種類株式を発行し、創業者の議決権を維持しながら多額の資金調達を行っていますが、彼らが同市場に上場した背景にはこのような種類株式の発行が可能な市場を探していたとも言われています。ただし、この発行は一方で、企業のガバナンスを緩め一般株主の利益を奪う恐れもあることから反対意見も多く、SGXは「種類株式」の導入には慎重な姿勢を貫いてきま
した。
今回この発行を認めるに至った背景には、新しい産業を誘致し魅力的な市場を設計していくには、企業の自由度を一定程度認める必要があると判断したということと、国際取引市場のライバルとされているHKExも「種類株式」の導入を発表していることが契機となったと考えられています。ただし、導入後においても企業のガバナンス体制の透明化を保つため、後述するガバナンスコード遵守も検討されていることは興味深い点と言えます。

2.四半期決算開示の簡素化

SGXは2018年1月11日に、上場企業に課している四半期決算開示ルールの簡素化を発表し、市場関係者から意見を集め2018年後半から新制度の導入を予定しています。SGXが発表した主な変更内容は以下のとおりです。
 

  • 四半期決算開示制度を維持するかどうかを検討
    • 四半期決算開示を廃止する場合でも、半期および年次の決算開示はすべての会社に求められる。
    • 四半期決算開示を維持する場合でも、四半期決算開示を義務付ける対象企業を、現在の時価総額75百万シンガポールドル(約60億円)以上の企業から150百万シンガポールドル(約120億円)以上の企業へと引き上げる。


SGXが四半期決算開示制度を見直すのは、中小企業などから情報開示にかかるコストが重いとの不満があり、また、東京証券取引所が2017年3月期より決算短信の記載内容の一部を変更できる簡素化に踏み切っているなど、国際的な動向もこの流れにあり、それを考慮しての対応と考えられています。

3.コーポレートガバナンスコード遵守への改定

コーポレートガバナンスカウンセルは、2018年1月16日にコンサルテーションペーパーを公表し、ガバナンスコードの一部を改定し、当該ガバナンスコードをSGXの上場規則の一部として組み入れることを提案しました。現在市場関係者から意見を検討中ですが、早ければ改定ガバナンスコードは2018年後半には施行される見込みです。
シンガポールではガバナンスコードは公表されているものの、その遵守は必ずしも義務化されておらず、遵守への逸脱がある場合にどのような事項を説明するかも明確ではありませんでした。ガバナンスコードがSGXのルールの一部として組み入れられると、上場企業はこの遵守が義務化され、万一ルール遵守への逸脱がある場合にどのような事項を説明するかも明確になります。たとえば独立取締役に関連するルールについては、次の3点が義務化されることになり、上場企業においてはこれまで以上にガバナンスコードを意識した企業運営が求められることになります。


(1)独立取締役の割合

これまでSGXルールでは取締役のうち少なくとも2名は企業から独立した独立取締役を任命することが求められていましたが、ガバナンスコードがSGXルールに組み入れられると上場企業は取締役構成員のうち3分の1以上かつ2名以上の独立取締役を任命することが義務化されます。


(2)株主保有割合の改正

これまでのガバナンスコードでは10%以上の大株主は、当該企業の独立取締役と看做されませんでした。この基準がガバナンスコードでは5%以上にまで引き下げられる予定です。この結果、ガバナンスコードがSGXルールに組み入れられると、5%以上の大株主が同社の独立取締役に就任することは難しくなります。


(3)就任期間に関する改正

独立取締役の就任期間は9年を超えることはできず、万一9年を超えた就任期間となる場合には、全株主の過半数以上の承認を得、かつ少数株主の過半数以上の承認を得ることが求められるようガバナンスコードが改定される予定です。ガバナンスコードがSGXルールに組み入れられると9年以上の就任期間を有する独立取締役の再任にはより慎重な対応が求められることになります。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アジア上場アドバイザーグループ

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