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銀行及び企業にとっての電子記録債権の活用のメリット

銀行及び企業にとっての電子記録債権の活用のメリット

「電子記録債権」の概要について解説するとともに、企業及び銀行が電子記録債権を活用するメリットについて確認しながら紙の手形の廃止に向けた動き及び電子記録債権の普及に向けた今後の取組みについて考察します。本稿は、『リージョナルバンキング 2018年4月号』(第二地方銀行協会発行)から転載しています。

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2008年12月の電子記録債権法の施行以来徐々に利用者及び取扱高を増やしてきた「電子記録債権」に大きな変化が起こりつつある。
現在検討されている「紙の手形の廃止」は、単に手形から電子記録債権への移行が増えるだけでなく、取引相手が電子記録債権を利用していないという普及に向けた課題の克服から、周りが利用するから自身も利用するといった流れを生み出して電子記録債権の普及を加速させる可能性がある。
企業にとって電子記録債権の活用は、売掛債権管理といった経理業務を効率化するだけでなく、資金調達手段の多様化を通じた財務の高度化にもつながるなどいくつものメリットがある。
また、銀行にとっても手形に係る事務コストの削減につながるだけでなく、取引先に対して後述する一括決済方式など電子記録債権の特徴を生かしたサービス提供が可能になるほか、シンジケートローンの証券化が容易になるなど多くのメリットがある。
本稿では、「電子記録債権」の概要について解説するとともに、企業及び銀行が電子記録債権を活用するメリットについて確認しながら紙の手形の廃止に向けた動き及び電子記録債権の普及に向けた今後の取組みについて考察する。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

1.「手形の電子化」を巡る最近の議論

「普及のために必要なことは、手形を廃止すべきがトップ」

政府の成長戦略である「未来投資戦略2017」(2017年6月公表)において、「手形・小切手について、企業・金融機関双方の事務負担を削減するとともに、ITを活用した金融サービスとの連携を可能とする観点から、全面的に電子的な仕組みへと移行することについて、官民が連携した検討を推進する」と示されたことを受けて、2017年12月、「手形・小切手機能の電子化に関する検討会」(以下「検討会」)が一般社団法人全国銀行協会(以下「全銀協」)を事務局として立ち上げられた。
その検討会において行われた「手形・小切手の社会的コストの実態調査」(以下「実態調査」)では、手形・小切手の利用者が電子記録債権の普及のためには「紙の手形の廃止」が必要と考えていることが明らかとなった。検討会では手形小切手の電子化について以下の方向性で議論を進めていくことが確認されている。

  • 「目標時期」を設定して手形制度の見直しやその電子化を実現
  • 手形機能の電子化への対応として「電子記録債権」の利用を想定

今後は、上記実態調査の結果を受けて、「紙の手形の廃止」を念頭に手形制度の見直しに係る議論が進められていくと考えられる。すなわち、今後検討会では「目標時期を設定して紙の手形を廃止し、電子記録債権の利用を促す」方向で議論を進めるということになる。
執筆時点で既に検討会は2回開催されており、今後は、2018年6月に第3回の会合、7月に中間報告の公表を予定、9月に第4回、11月に第5回の会合を開催し、12月に最終報告書の公表を予定している。
当初の予定では一年程度の検討会を経て「目標時期」を正式発表するとされており、12月の最終報告書では具体的な期限が示されると考える。具体的な期限が定まることにより、その後は「紙の手形の廃止」と「電子記録債権の普及」に向けた機運が高まっていくものと考えられる。

2.電子記録債権の法的特徴

「電子記録債権」の法的位置づけは、手形を電子化したものではなく、既存の指名債権・手形債権などとは異なる「新たな金銭債権」である。
電子記録債権が手形を電子化したものではなく新たな金銭債権と法的に位置づけられた背景には、手形を規定する手形法がジュネーブ統一手形法条約に基づいて制定されているため、手形を無券面化するためには同条約を廃棄する必要があることがある。
電子記録債権制度が創設された背景には、これまで金銭債権を活用した企業の資金調達の手法として売掛債権や手形の譲渡等といった手段があったものの、それぞれにいくつかの問題点があり決して使い勝手が良いとは言えなかったこと、また、企業のIT化が進む中、電子的な手段を用いた商取引や金融取引が発達し、これに対応した金銭債権の電子的な手段を用いた譲渡等について検討が求められていたことなどがある。
このような背景を踏まえて、電子記録債権は、金銭債権を利用した企業の資金調達の円滑化を図ることを目的とし、指名債権(売掛債権等)及び手形の問題点を克服した以下のような特徴を持つ新たな金銭債権として導入された。

 

指名債権(売掛債権等)との主な違い

指名債権の問題点

  • 指名債権は、当事者の合意さえあれば譲渡が可能であり、「二重譲渡のリスク」が存在
  • 指名債権の譲渡があったことを債務者に主張するため債務者への通知または債務者の承諾が必要
  • 指名債権の譲受人には、権利発生の原因となった売買契約等が無効になったなどの事情を理由として支払を拒まれる「人的抗弁を対抗されるリスク」が存在


電子記録債権の特徴

  • 電子記録債権は、電子記録をその発生や譲渡の要件とすることで、当事者間の合意のみでは譲渡はできない仕組みにすることにより「二重譲渡のリスク」を排除
  • 電子記録債権についてはその存在・帰属が電子的に記録され、電子記録債権の債務者においてその電子的な記録(債権記録)を確認することにより、電子記録債権の債権者を確認することができるため、債務者への通知または債務者の承諾が不要
  • 電子記録債権法において電子記録債権は、手形と同様に原則として、債務者は譲受人に対して原因債権の事情等を理由として支払を拒むことができないよう規定(人的抗弁の切断)

 

手形との主な違い

手形の問題点

  • 紙媒体の使用により書面の作成・交付・保管に要するコストや盗難・紛失のリスクが存在
  • 券面に記載できる事項が限定的
  • 一部のみの譲渡は不可

電子記録債権の特徴

  • 電子記録債権は、権利内容を電子的に記録するため、紙媒体であることに伴うコストや盗難・紛失のリスクを解消または軽減
  • 電子データとして記録するものであるという特徴を活用して、多様な記録事項を許容
  • 電子記録債権の一部を「分割」して、その一部を譲渡することが可能

3.電子債権記録機関

手形の振出及び裏書譲渡に相当する概念として、電子記録債権には発生及び譲渡がある。
ただし、電子記録債権の場合は、手形にはない「電子債権記録機関」という第三者が存在し、物理的な紙による発行や送付に代わって「発生記録」・「譲渡記録」・「支払等記録」などの「電子記録」を電子債権記録機関が調製する電磁的な「記録原簿」に記録することによって行うという特徴がある。
「記録原簿」における「発生記録」や「譲渡記録」等の記載事項のイメージは以下の通りである。

記録原簿

発生記録
(金額)1,000万円
(支払期日)2018年3月31日
(債権者)A(住所・・・・・)
(債務者)B(住所・・・・・)
(支払方法)口座間送金決済による支払
(債務者口座)●●銀行▲▲支店・口座番号***
(債権者口座)○○銀行△△支店・口座番号※※※
(利息)年6%
(遅延損害金)年10%
債務者に倒産手続の開始があったときには、債務者は期限の利益を当然に喪失する。
(譲渡記録可能回数)10回
(電子記録の年月日)2018年2月1日
譲渡記録
電子記録債権を譲渡
(譲受人)C(住所・・・・・)
(払込先口座)◎◎銀行△△支店・口座番号■■■
(電子記録の年月日)2018年3月1日
保証記録
電子記録保証をする。
(保証人)A(住所・・・・・)
(主たる債務)発生記録に記録されている債務者の債務
(電子記録の年月日)2018年3月1日
支払等記録
(支払等がされた債務)発生記録に記録されている債務者の債務
(支払等の内容)1,015万円支払(元本充当額1,000万円)
(支払等があった日)2018年3月31日
(支払等をした者)B(住所・・・・・)
(電子記録の年月日)2018年3月31日

電子記録債権が「発生」・「譲渡」等の基本的な機能を果たすためには、「電子債権記録機関」の「記録原簿」に「発生記録」・「譲渡記録」等を「電子記録」することが要件とされている。このため、電子記録債権制度において中核的な役割を担う電子債権記録機関は、電子記録債権法に基づいて厳格な規制・監督を受けている。執筆時点では、<図表1>の5機関が金融庁に指定されている。

図表1 金融庁に指定されている電子債権記録機関

指定日 電子債権記録機関名 株主構成
2009年
6月24日
日本電子債権機構株式会社 三菱東京UFJ銀行(100%)
2010年
6月30日
SMBC電子債権記録株式会社 三井住友銀行(100%)
2010年
9月30日
みずほ電子債権記録株式会社 みずほ銀行(100%)
2013年
1月25日
株式会社全銀電子債権ネットワーク 全国銀行協会(100%)
2016年
7月7日
Tranzax電子債権株式会社 Tranzax(株)(100%)

(出典)金融庁ホームページ等を基に作成

指定電子債権記録機関のうち、全銀協の下に設立された電子債権記録機関である「株式会社全銀電子債権ネットワーク」(以下「でんさいネット」)は、利用者が取引金融機関経由でアクセスする「間接アクセス方式」を採用し、執筆時点では601の幅広い金融機関が参加している。
本稿では、実際に企業又は銀行が電子記録債権を取扱う際に利用する可能性が高いと考えられることから、電子債権記録機関の例としてでんさいネットを中心に取り上げている。
でんさいネットの2018年2月末時点での利用登録企業は約45万社となっている。2013年度の累計発生記録件数が約25万件であるのに対し、2016年度は約171万件、2017年度は2018年2月までの11か月累計で約185万件まで増加するなど着実に普及が進んでいる。
なお、従来、電子債権記録機関間での電子記録債権の移動はできなかった(A電子債権記録機関で発生させた電子記録債権は、B電子債権記録機関では利用できない)が、2017年4月にこれを可能とする改正電子記録債権法が施行された。現在、各電子債権記録機関において、システム対応が行われている。

4.電子記録債権の仕組み

企業が電子記録債権を利用する場合、電子債権記録機関に利用者登録をする必要がある。でんさいネットの場合、取引金融機関に利用申込書を提出し、一定の審査を通って利用契約を締結することにより利用可能となる。
でんさいネットの利用者は、電子記録債権の利用にあたって特別なシステム等を導入する必要はなく、原則として、取引金融機関の提供するインターネットバンキング(IB)を利用する。利用者は取引金融機関のIBサイトにログインし、IBのサービスメニューの1つとしてでんさいネットを利用する。ユーザーインターフェイスについては、金融機関側ででんさいネットの要件に合致するように独自に開発を行っており、詳細な機能面、画面構成、操作性等は金融機関によって異なっている。
なお、でんさいネットは、ファームバンキングや書面(店頭、FAX等)を利用媒体として認めているが、IBの利用を取引条件としている金融機関が大多数である。
でんさいネットにおける「発生記録」については、「債務者請求方式」と「債権者請求方式」との2方式がある。債務者請求方式は、債務者が振出人となる約束手形のような利用を想定しており、債権者請求方式は、債務者が名宛人となる為替手形のような利用を想定している。なお、債権者請求方式は、債務者の承諾が必要となるほか、債務者や取引金融機関によっては取扱わない場合がある。
でんさいネットにおける「譲渡記録」については、譲渡人の譲渡記録請求を受けてでんさいネットが譲渡記録を行うことにより譲渡される。手形にはない電子記録債権の特徴の一つである「分割」は、譲渡人が「分割記録」と「譲渡記録」を請求することにより電子記録債権の一部を譲渡することができる。
また、電子記録債権の支払いは、通常、口座間送金決済により、支払期日に債務者口座から債権者口座へ自動的に送金されることにより行われる。
上記の一連の電子記録債権取引のイメージを表したものが<図表2>である。

図表2 電子記録債権の取引のイメージ

(出典)株式会社全銀電子債権ネットワーク「でんさいネットの仕組みと実務」

5.電子記録債権の活用のメリット

企業及び銀行にとって電子記録債権を活用することには下記のように多くのメリットがある。


(1)企業が手形の代替として利用するメリット
前述のように電子記録債権は、指名債権及び手形の問題点を克服する様々な特徴があるほか、企業が実際に活用するに当たって以下のようなメリットがある。

支払企業(債務者)のメリット

  • パソコンやFAXなどで電子記録債権の発生・譲渡等を行うことにより、手形の発行・交付に係る事務負担、保管コスト、紛失・盗難リスク等を削減
  • 手形と異なり、印紙税が非課税

前述の検討会における実態調査では、手形を振出す側がでんさいを活用することによる社会的コストの削減額を497億円と算出しており、内訳として最も大きいのが手形印紙代の削減272億円、次いで事務効率化に伴う人件費削減162億円となっている。

納入企業(債権者)のメリット

  • 手形の保管コスト、紛失・盗難リスクの削減
  • 支払期日に自動的に口座入金されるため、取立手続が不要
  • 領収書を発行する場合、電子記録債権と明記することにより印紙代が不要

前述の検討会における実態調査では、手形を受取る側がでんさいを活用することによる社会的コストの削減額を617億円と算出しており、内訳として最も大きいのが領収書印紙代の削減額272億円、次いで人件費削減198億円となっているほか、銀行取立手数料も103億円の削減となっている。


(2)企業が資金調達手段として活用するメリット
電子記録債権は、売掛債権や手形と同様に、電子記録債権を担保として融資を受けたり電子記録債権を譲渡して現金化するファクタリングを利用したりすることが可能である。
むしろ、債権の不存在や前述の二重譲渡リスク、人的抗弁等のリスクが削減されている電子記録債権の方が担保融資やファクタリングを受けやすくなると考えられることは一つのメリットと考えられる。
また、電子記録債権の特徴を生かした以下のような資金調達手段の利便性が向上することもメリットと考えられる。

  • 一括決済方式への活用
    親事業者、下請業者及び銀行等の三者契約に基づく下請代金債権の銀行への債権譲渡及び銀行による下請代金債務の引受等を通じた銀行から下請業者への下請代金相当額の支払い及び親事業者から銀行への下請代金相当額の支払いを行う「一括決済方式」を指名債権の譲渡等に伴うコストとリスクを電子記録債権の活用により軽減して実施


(3)銀行が電子記録債権を活用するメリット
銀行は、手数料という形で手形を取扱うことに係る負担を一定程度カバーしていると考えられることから、直接的なメリットというよりも電子記録債権を活用することによる変化として、以下の点が挙げられる。

  • 手形の管理業務に係る負担の軽減
  • 手形交換所等を通じた銀行間の手形交換に係る負担の軽減

また、電子記録債権の特徴を生かした以下のような活用方法が銀行にとってメリットになると考えられる。

  • シンジケートローンへの活用
    複数の金融機関が協調して一つの融資契約書に基づき同一条件で融資を行うシンジケートローンに電子記録債権を活用することにより、「分割」・「譲渡」機能を活用したローン債権の流動化が容易になることで同ローンへの取組みを促進

6.電子記録債権の普及に向けた課題

検討会資料によると、2016年の全国の手形交換所における交換高は、金額ベースで424兆円となっており、ピーク時の10%未満と大幅に減少している。一方で、近年はその減少ペースが漸減傾向であり、年によっては前年を上回ることもあるなど、一定の根強いニーズがあることがうかがわれる。
前述の実態調査では、手形の利用をやめない理由として以下のような指摘がある。

  • 手形「振出」をやめられない理由は、業界慣習が61%、次いで、取引相手が電子記録債権を利用していないが41%
  • 手形「受取」をやめられない理由は、振出側の希望が70%で突出

このような調査結果から、自社の判断だけで取扱いを変更できない手形の特性を踏まえると、メリット等を勘案して手形の取扱いを廃止した企業はすでに手形の取扱いは殆ど残っていないと考えられる一方、現在も使い続けている企業は、単に電子記録債権のメリットを理由に手形からのシフトを促すだけでは不十分であると考えられる。こうした企業に対しては、実態調査が提示したように「紙の手形の廃止」が有効な解決策となり得る。
一方で、もう一つの理由として取り上げられている取引相手が電子記録債権を利用していないという課題は、言い換えれば、「紙の手形の廃止」によって企業が紙の手形の取扱いをやめた後の対応で、単に手形をやめるだけでなく、いかに電子記録債権の利用につなげるかという課題が残っているともいえる。
取引相手も利用していることが前提となる電子記録債権では、前述の調査でも見られたように取引相手の意向の影響を受けやすく、利用者が十分に拡大するまでは取引相手が利用していないことが拡大の障害となりやすい一方、一定の転換点を境に取引相手から利用を求められるように変わり、そこから普及が加速するという現象が起きやすいと考えられる。

7.今後の電子記録債権の普及と活用の促進に向けた取組みの方向性について

これまで見てきたように電子記録債権の活用は、企業にとってメリットがあると考えられるものの、電子記録債権を利用しない又は「紙の手形」を望むなどの取引先の対応に起因する課題や、特に規模の小さい企業において自身の経理業務のIT化に対するインセンティブの欠如といった課題から普及が進んでいなかった。
しかしながら、前者については、「紙の手形の廃止」により取引先が「紙の手形」を求めることはなくなり、電子記録債権に対応する可能性が高まるなど状況が大きく改善していくことが見込まれる。現時点で電子記録債権に対応していない企業は、今後検討会から公表される「目標時期」と電子記録債権への移行に向けた取組みの強化を注視しながら、電子記録債権への対応について検討していくことが求められる。
また、経理業務のIT化についても外部環境は変わりつつある。電子記録債権に対応するためにIT化するのではなく、視点を変えて、固定長電文の廃止とXML電文への移行及びクラウド会計システムの台頭や取引(トランザクション)記録を活用した融資や信用供与といった新たな資金調達手段へのアクセスなど、特に中小企業にとっては、経理を含めた業務をIT化するメリットが拡大しつつあるという視点で見れば、経理業務のIT化に対するハードルが下がりつつあるとも言える。
企業および銀行は、検討会の議論及び電子記録債権の普及状況を注視しながら、電子記録債権が普及した場合の影響と活用方法について積極的に検討していくことが求められる。

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