不祥事をなくせ!会社タイプ別ソフトコントロール活用方法

本稿では、不祥事を減らすためにソフトコントロールの考え方をどのように活用可能かを、企業タイプ別に解説します。

本稿では、不祥事を減らすためにソフトコントロールの考え方をどのように活用可能かを、企業タイプ別に解説します。

昨今、国内有名企業における不祥事が後を絶ちません。その背景を紐解くと、効率性を重んじ、形式を重視し、最短距離で成果を出すことばかりを考えるようになってしまうことで、先読みする力、応用する力、現場自らが判断し改善する力など、従来日本企業が得意としてきた領域が弱くなってしまっているのではないでしょうか。そのような状況に鑑み、KPMGでは、企業におけるソフトコントロールの強化が重要であると考えています。
ソフトコントロールとは、組織風土や、従業員の心理・意識・行動原理などの目に見えない内部統制のことであって、ハードコントロール(社内規程やマニュアル、内部監査/モニタリングなど)の実効性を支える重要なものであり、企業価値向上のために最適な状態を維持することが必要です。

本稿では、不祥事を減らすためにソフトコントロールの考え方をどのように活用可能かを、企業タイプ別に解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 自社にあったルールや体制を整備し、従業員がそれを正しく守りつつ、日々の業務を行うためには、ソフトコントロールの強化が必要不可欠である。
  • ソフトコントロール強化のポイントは企業のタイプ別によって異なり、ビジネスモデルや会社の目指す姿・戦略と、従業員の意識傾向・組織カルチャーを踏まえ、ポイントをついた仕掛けとすることが重要である。
  • 2017年ノーベル経済学賞の対象となった「ナッジ理論」は、ソフトコントロールの強化に応用可能である。

I.不祥事発生の真因はこれだ!

1.ソフトコントロール強化が不祥事を防ぐ

2017年は国内企業の不祥事が目立つ一年でした。どのようにしたらそれを予防できるのか、考えさせられた経営者は多かったと思います。社内のルールを厳格化し、教育を重ね、モニタリングや内部監査を強化し・・・といった従来型の内部統制強化に限界を感じた方もおられたのではないでしょうか。KPMGではかねてから、企業のパフォーマンス向上のためには従来型の経営管理や内部統制(ハードコントロール)の強化に加えて、ソフトコントロールの強化が重要であると主張してきました(図表1参照)。

図表1 ハードコントロールとソフトコントロールの強化

図表1 ハードコントロールとソフトコントロールの強化

2.ソフトコントロールは過去数十年の研究の成果

KPMGでは、過去数十年の間に蓄積されてきた学術論文等を詳細に分析した結果を、独自のフレームワークにまとめています(図表2参照)。

図表2 ソフトコントロール強化のフレームワーク

  要素 強化施策の例

(1)明瞭性 組織として望ましい行動や従うべきルールを経営層・従業員に対しシンプルに明確化 経営者/管理者は社内規定等に反するような発言をしない
(2)規範 管理者・監督者自ら、望ましい組織的行動を実践し、範を示す(ロールモデル) 経営者から定期的に社内の好事例をメッセージ発信する
(3)コミットメント 経営層・従業員一丸となり、(望ましい組織行動下で)組織目標達成を実現する 非業務の社内イベント(運動会、部活動など)の写真を社内に掲示する
(4)達成可能性 (適切な組織行動の下)目標達成のため、時間・資源・情報・能力・権限を確保する 各業務の遂行に必要なスキルや工数、予算等を一覧にする

(5)透明性 経営層を含めた従業員の業務プロセスに対する透明性を確保する 社内置き菓子サービスの貯金箱の前に「人の目」のシールを張る
(6)議論容易性 問題点およびミスの原因や改善策などについて議論しやすい環境を整備する 「自分の業務」に対する改善提案を募集し社内に掲示

(7)報告可能性 ミス・問題・違法行為等を報告しやすい環境を整備する 「フルスイングの三振」を褒める
(8)賞罰 公正な内容の賞罰制度のもと、適切に運営する 社員同士でサンキューカードを贈りあう


こうした取組みをKPMGオランダのチームがリードしたのは、歴史の必然と言えるかもしれません。オランダを含め、かつて欧州列強が海外で植民地支配を進めた時代には、「ルールを作れば守られる」という状況からは程遠く、それ以前に「どうすればルールは守られるのか?」を考えざるをえなかったからです。そうした歴史を経て、ソフトコントロールのフレームワークが構築されました。

3.かつて日本はソフトコントロール強国だった・・・

図表2に、ソフトコントロール強化の施策例を記載しました。「なんだ、こんなことなの?」と思われる方が多いのではないでしょうか。かつての日本企業は、年功序列や社員全員での社員旅行、飲み会などの取組みにより組織の一体感を醸成し、経営目標に対して一致団結する取組みがなされていました。しかし、今は時代が違います。人手不足、衣食住に係る様々な状況の変化、経営環境の変化とそのスピード。日本企業はここにきて、ソフトコントロールの観点で見直しを迫られていると言えます。

II.自社にとって最適なソフトコントロールは何か?

1.ビジネスモデル・組織カルチャーにあったソフトコントロールのススメ

自社にあったルールや体制を整備し、従業員一人ひとりがそれを正しく守りつつ、日々の業務を行っていくためには、ソフトコントロールの考え方が必要不可欠です。
ソフトコントロールのあり方についても、ビジネスモデルや会社の目指す姿・戦略と、従業員の意識傾向・組織カルチャーを踏まえ、ポイントをついた仕掛けとすることが重要です(図表3参照)。

図表3 企業タイプ別ソフトコントロール強化ポイント例

図表3 企業タイプ別ソフトコントロール強化ポイント例

これら4つのタイプの企業に起こりやすいケースと、それぞれのお勧めソフトコントロール法をご紹介します。


(1)スタートアップ企業タイプ

ケース
IT企業A社では、とあるサイトが急激に人気となり、マスコミ等にも取り上げられたことから、競合等が続々と類似のサイトを立ち上げてきました。
焦ったA社は、サイト閲覧数の首位を保持したいがために、閲覧数の不正操作を行いました。しかし、その結果、SNSで「A社はサイト数を水増ししている」とのつぶやきから大炎上し、そのサイトは閉鎖に追い込まれました。

お勧めソフトコントロール:報告可能性
このタイプの企業は、競合も多く、また次々に新たな競合が現れてくるため、「勝ちに行くこと」・「他を圧倒すること」に価値を見出し、一度勝ち筋に乗ると、「まずい」と感じることがあっても後に引き返せないような空気となってしまいます。
お勧めコントロールとしては、「まずい」と感じたことを素早く関係者に発信し議論できるような仕掛けづくりが必要です。些細なことであっても発信してもらい、それがどれほど「まずい」のか、複数の目で見極めることで、行き過ぎや暴走を阻止します。
発信のハードルを下げるため、電話やメールのみでなく、チャットツールで対応する等、現場で馴染みのあるツールを活用することも、実効性を高めるカギとなります。


(2) 研究開発企業タイプ

ケース
製造業B社は、新技術を搭載した機器の発売が目前に迫っていました。上意下達の文化で、社長が命令した発売日は絶対のものとなっているなか、開発部門では、スケジュールの遅れを極度に恐れ、必要な検査工程を省略し、結果の数値だけを導き出していました。しかし、ある社員が情報をマスコミにリークしたことで、みるみるうちに大問題と発展し、その製品は販売停止となりました。

お勧めソフトコントロール:規範
このタイプの企業は、革新的技術を追求するあまり、結果主義に陥りがちです。また、高度な技術は外部からはわかりづらく、結果を出すために多少の不正をしてもばれないだろうと考えてしまうケースも見受けられます。
お勧めコントロールとしては、会社として何を守るべきか、優先順位を明確にし、またその上位に遵法精神や倫理観があることを正しく理解させることが必要です。
開発・技術系の社員は、ロジック重視の気質もあるため、単に「重要だ」ではなく、遵法や倫理観がなぜ重視されるのか、それを軽視した場合の会社に与えるダメージなどを、実例(エビデンス)を踏まえながら説明し、「腹落ち」させることが重要です。Evidence based compliance 等と銘打つと響きやすいかもしれません。


(3) 販売会社タイプ

ケース
金融サービス業者Cは、営業支店に厳しい販売ノルマを課していました。目標未達支店への統括部門からの強い叱責、それを受けた支店長からの成績の悪い部員に対する恫喝等は日常茶飯事の光景でした。そのため、成績の良くない支店では、法令上必要な説明を怠ったり、顧客に対しサービス内容をごまかした状態で契約締結をさせたりしていました。
お客様相談センターに、特定の支店の問い合わせやクレームが集中していたため、不正が発覚しました。

お勧めソフトコントロール:達成可能性
このタイプの企業においては、「売上No.1すなわち勝者」という価値感は絶対であり、収益拡大のためにも必要な要素であることは否定しえません。そして、ハードな営業現場において、一人ひとりを動かすためにも、ヒエラルキーを維持し、上意下達の体制となっていることが多くあります。
お勧めコントロールとしては、経営者自らが、率先垂範して遵法精神を貫くことで、営業現場一人ひとりにまで、その精神を浸透させることが、まず必要です。
合わせて、経営者自らが、目先の利益だけに捉われず、長期的な戦略を描き、適切な目標設定を掲げることも重要です。


(4) 規制業種タイプ

ケース
インフラ事業者Dは、ある機械の異常を認識したにもかかわらず、異常発見のための判断基準が曖昧であったこと、異常検知時の手順が決められていなかったことにより、その機械を通常通りに稼働させていたところ、不具合が発生し、機械の長時間停止を余儀なくされました。そのため、利用者の生活に大きな影響を与えてしまいました。

お勧めソフトコントロール:明瞭性
このタイプの企業においては、法規制内での事業を推進することが当たり前であり、ルールや手順の不在、判断基準の不明確さ等が、問題の放置や判断ミスを誘発してしまい、結果、不祥事に発展してしまうこともあります。
お勧めコントロールとしては、当然、法規制等を踏まえ、漏れなくルール・手順を策定し、明確な判断基準を作っていくことではありますが、すべての事象において、明確な手順やわかりやすい判断基準を設定できるわけではありません。
そこで、「ルールや手順はどのようなリスクを防止するためにあるのか」を従業員自らに考えさせ、イレギュラーが発生しても、ルール等の目的を十分に理解・解釈し、援用できる力を身に着けさせることが重要です。現場の従業員に、ルールや手順を作らせ、その目的や意義を改めて意識してもらうような取組みも有効だと思われます。

III.終わりに

このように、自社がどのようなタイプなのかを理解したうえで、そのタイプにあったソフトコントロールを設定すれば、企業の問題や不祥事は、効果的・効率的に防止することができます。
単に教科書的な体制や仕組みばかりを作っても、仏作って魂入れずということになりかねません。
ソフトコントロールの考え方を活用し、生きたルール・仕組みとすることで、不祥事に強い会社となるでしょう。

図表4 よくある質問とその回答

Q:整備がハードコントロール、運用がソフトコントロールでしょ?

A:内部統制の整備/運用をハードコントロール/ソフトコントロールと表現しているわけではありません。ハードコントロールはルール、アクセス制限、上長承認といった内部統制上の取組みを、ソフトコントロールは、外的要因(社会、景気等)・内的要因(組織状況、経営者等)の影響を受け意識・行動に変化を与える、非物理的または潜在的なものを指します。


Q:統制環境とソフトコントロールって同義ですよね?

A:企業会計審議会の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」によると、「統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。」とありますので、意味としては同じものととらえても問題ありません。ただし、「ソフトコントロール」という呼び方には(所与のもの/変更できないものではなく)コントロールの対象となりうるものであるとの意味が込められています。


Q:ナッジ理論とソフトコントロールは同じですか?

A:2017年のノーベル経済学賞を受賞したセイラー教授が提唱する「ナッジ理論」。行動経済学に関するものではありますが、ついついそのように行動したくなるように人の心理を突くアプローチはソフトコントロールの強化策として応用できます。(例:レジの前に足跡の絵をかいて一列に並んでもらう、など)

執筆者

KPMG コンサルティング株式会社
パートナー 奥村 優
シニアマネジャー 木村 みさ
シニアコンサルタント 平田 篤子

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