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「財務×オペレーション」でターンアラウンド2.0を実践する

「財務×オペレーション」でターンアラウンド2.0を実践する

本稿では「ターンアラウンド」をすべての企業が取り組むべき必須課題と位置づけ、今求められる「ターンアラウンド」の在り方と、その戦略的活用のポイントについて概説します。

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グローバル経済における未曾有のパラダイムシフトが進む中、企業を取り巻く環境は激変し、どんな優良企業であっても再生局面に陥ってしまう可能性はゼロではありません。日本企業が持続的な成長を遂げるためには、どのような発想の転換が求められるのか。本稿では「ターンアラウンド」をすべての企業が取り組むべき必須課題と位置づけ、今求められる「ターンアラウンド」の在り方(「ターンアラウンド2.0」)と、その戦略的活用のポイントについて概説します。

ポイント

  • 早い段階で、適切な打ち手を講じ、他力・M&Aの活用も常に視野に入れて主体的かつスピーディに取り組む。
  • 「財務×オペレーション」の経営管理フレームワークを見える化・共通言語化し、財務と事業の両輪でターンアラウンドを推進する。
  • 財務KPIとオペレーションKPIの見える化は基本の「キ」、なければ直ぐにその整備にとりかかる。
  • オペレーションを構造的にとらえ、改革施策を戦略・戦術レベル(上の階層)から考える。

I.ターンアラウンドは次なるステージへ

日本における本格的な再生市場の形成はバブル崩壊後の1990年代後半に遡ります。大企業の倒産、産業再生機構、著名な経営者、外資などによる再生の行方を、世間は固唾を呑んで見守りました。しかし企業にターンアラウンドのノウハウが定着したとは言い難いというのがKPMG FASの見解です。従来のターンアラウンドは、財務状況の悪化が進んだ終盤の財務リストラ一辺倒でした。一方、地理的要因や破壊的テクノロジーによる変革で競争環境は常に激変する現在、かつての超優良企業ですら再生局面に陥ります。企業は、常に成長と再生を繰り返さなければ生き残れず、ターンアラウンドはすべての企業が取り組むべき必須課題と位置付けられます。また、企業に求められるターンアラウンドも大きく変わりつつあります。早い段階で、適切な打ち手を講じ、他力の活用も視野に入れて主体的かつスピーディに取り組む。このような事業再生の進化形『ターンアラウンド2.0』の成功の鍵は、「財務×オペレーション」、すなわち財務とオペレーションを掛け算で考える視点です。

1.「財務×オペレーション」の視点を持つ

企業価値を財務KPIにブレークダウンするだけでなく、財務KPIをオペレーションKPIと、さらにオペレーションKPIを改革施策と連関させた経営管理フレームワークを導入することが重要です(図表1参照)。そうすることで、財務とオペレーションが両輪となり経営と現場が一体となってターンアラウンドを強力に推進できます。
また、オペレーションKPIを先行指標として環境変化や経営課題の兆候を早期に把握し迅速に対応することも可能です。

図表1 「財務×オペレーション」の視点を持った経営

そのために実践すべきことは3つ。まずは、重要課題に集中すること。財務上影響の大きい重要課題を特定し、そこに焦点の合った改革施策を採用します。つぎに、確実に効果に繋げること。改革施策をオペレーションKPIおよび財務KPIを通じて確実な効果(キャッシュ・利益・コスト)に繋げるよう設計し、オペレーションKPIごとに責任者を明確化します。さらに、この経営管理フレームワークを共通言語・羅針盤と位置づけます。向かうべき方向を社内で共有し、実行段階をモニタリングし、軌道修正することで、ターンアラウンドを経営から現場まで浸透させます。

2.財務KPIとオペレーションKPIの見える化は基本の「キ」

「財務KPI」と「オペレーションKPI」の不備によりターンアラウンドに失敗する例は、枚挙に暇がありません。図表1の真ん中の円がない状態ですので、改革施策と価値が繋がらず、目隠しをして進んでいるようなものです。そのような事業を売ろうとしても、表面的な情報を見て判断できる同業者に低廉譲渡するしかありません。また、KPMG FASがそのようなケースで再生に取り組もうとする場合、大量のスタッフを投入して紙ベースの帳票を入力し、経営情報を一から作ります。ただし、リソースや時間に限界があればデータベース化できる情報は数ヵ月分にとどまり、曖昧さやリスクが残らざるを得ません。仮に資金や時間に余裕があり、管理会計システムを導入するにしても、システム導入に半年から1年、そこからデータの蓄積にさらに半年から1年かかります。改革施策や打ち手が後手にまわり、ターンアラウンドが遅れ、最悪、失敗します。財務KPI・オペレーションKPIの見える化は、基本の「キ」なので、なければその整備に直ぐとりかかるべきです。

3.海外子会社管理における問題

海外子会社について、事業・オペレーション側に任せきりになって、コーポレイト・財務側が物理的にも心情的にも遠くなっているケースを散見します。図表1の右側と左側が間延びしている、ないし分断しているイメージです。現場やオペレーション側では日々、問題に対処しているものの、コーポレイト・財務側にその状況が伝わるのは、資金繰りに窮して追加資金要請が上がる段階で、時既に遅しです。KPMG FASが以前、海外子会社が資金繰りに窮した状態でご相談をいただいたあるケースでも、多額の追加資金が近い将来に必要な状況でした。そこで将来事業計画とそれに基づく事業価値・株式価値、資産の換価価値、企業の清算価値、金融機関の保全状況などを検討しました。結果は残念ながら、将来の事業のターンアラウンドの蓋然性が低く、資金手当ての経済合理性が担保できないことから現地金融機関からの資金調達も困難であったため、現地で法的手続を申請し、スポンサーに事業を売却することになりました。

II.改革施策は構造的に捉えよ

1.改革はオペレーション戦略や戦術レベル(階層の上)から進める

残念ながら、オペレーションに関して抜本的な改革施策に踏み込めている企業は多くありません。KPMGではオペレーションを「財務計画を達成するための事業活動すべて」と定義し、オペレーション戦略、戦術、業務、インフラの4階層で捉えています(図表2参照)。オペレーションは常に包括的・構造的に捉えることが重要です。そして改革を検討・実行する際は、オペレーションピラミッドの階層の上から下に向かって進めるのが最も効率よく、最大の効果を出すことが可能となります。

図表2 オペレーションピラミッド

たとえば商品の絞り込みです。研究開発や販促・広告宣伝コストの集中投下が可能になり、生産効率も向上し、かつ需要予測がシンプルになるため在庫圧縮や業務コスト削減にも繋がる等、さまざまな効果が期待できます。しかし実際には上の階層には手をつけず、下の階層で改革を対症療法的に進めたり、虫食いになっている企業が多いです。各社、業務改革や情報システム導入には熱心ですが、商品、顧客、価格の見直しといった上の階層の施策になると、実際には先送りにしているケースが少なくありません。本来は、導入が難しい施策ほど、早期に検討が必要です。また上の階層の改革ほど、感情論を廃し、徹底してデータに基づいた議論をすることも重要と言えます。ビジネスに不調の兆しが見えてから検討に着手するのではなく、商品別・顧客別の利益等を常にモニターしながら見直す姿勢が望まれます。

III.他力の活用、M&Aにおける「財務×オペレーション」

インパクトのある抜本的な改革は、通常、既存の延長線上にないことが多く、非連続の発想が求められますが、その際、他力の活用やM&Aをすることも増えています。しかし、実行段階での失敗を見ると、以下のような「分断」が見て取れますし、事業戦略との整合、オペレーション側の関与・検討が課題であることは明らかです。つまり、ここでも「財務×オペレーション」の視点が重要になります。

1.戦略と他力活用・M&Aの分断

多くの企業においてM&Aは投資銀行や外部アドバイザーから潜在案件が持ち込まれてから、はじめてコーポレイト・財務サイド主体で検討されているように見受けられます。しかし、本来は、業界動向や競合他社の状況を想定した事業戦略のなかで他力・M&Aを活用するかを、受け身でなく主体的に検討すべきです。欧米企業や先進企業は、M&Aを戦略の一オプションと捉え、常にその可能性を検討しています。

2.自力成長と他力活用・M&Aの検討の分断

ある製造業でグローバルサプライチェーンの再構築を進めていた際に、突然海外企業の買収の話がコーポレイトサイドから持ち込まれ、急きょ買収先企業とのシナジーの検討や業務・システムの連携に取り組むことになり、大幅な方向転換が必要になりました。また、そもそも日本の企業のオペレーションは、M&Aを前提にしていないつくりになっていることも多く見受けられます。ある外資グローバルハイテク系企業では「企業買収してから業務・システムを連携させてビジネスをするまでに6週間」であるのに対し、日本のある有名企業では「半年」、つまり約5倍の期間がかかるとの回答でした。また、別の外資グローバル企業では、「業務やシステムの標準型、つまり海外展開セットを持っている。そのセット一式を持って行って買収先と繋げるか、場合によっては使ってもらう。法規制などの現地の固有部分を変更さえすれば、グローバルのどの地域でもすぐにビジネスを立ち上げることができる。」といった話もありました。

3.M&Aの「ディール」と「その後の実行」の分断

M&Aそのものの検討がコーポレイトや財務サイド主体で検討され、いざ実行段階になって事業・オペレーションサイドに移管されると、想定されたオペレーションの融合や、シナジー効果の発現が不可能だったり、あるいは統合により予定されていなかったディスシナジーが発見されたりすることがよくあります。

IV.終わりに

KPMG FASはこれまで、数多くのターンアラウンドプロジェクト、再生型M&Aにかかわってきましたが、経験上、成功するケースは必ず、現状の課題や危機感、ゴールを当事者・利害関係者が共有することから始まります。そして、価値やキャッシュ(Cash is King)を判断軸の中心に据える、聖域を設けずオペレーションピラミッドの上から抜本施策を講じる、改革施策と計画にコミットする、必要なリソースを投入する、利害調整を誠実にする、実行とモニタリングを徹底する、そして、短期間でこれらを強力に推進するために、必ず「財務×オペレーション」の経営管理フレームワークを見える化・共通言語化し、財務と事業の両輪でターンアラウンドが図られてい
ます。

事業再生はもはや対岸の火事ではありません。M&Aも含めて、ターンアラウンド2.0とは経営力強化のための日常的な戦略、企業経営そのものとの視座で取り組んでいただければ幸いです。

執筆者

株式会社 KPMG FAS
パートナー 中村 吉伸
マネージング・ディレクター 稲垣 雅久

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