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中東欧投資環境~ポーランド、チェコ~

中東欧投資環境~ポーランド、チェコ~

本稿は、日系企業において、新規投資先としてふたたび注目されつつある中東欧諸国の投資環境をテーマに、ポーランドとチェコに焦点を当てて解説いたします。

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本稿は、近年グローバル化が急速に進む日系企業において、新規投資先としてふたたび注目されつつある中東欧諸国の投資環境をテーマに、第1章ではポーランドにおける投資インセンティブ制度を、第2章ではチェコにおける移転価格税務調査の現状と対策について解説いたします。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

本稿は、週刊経営財務「世界の会計事務所から」(税務研究会)に寄稿した内容を一部編集し転載したものです。

ポイント

ポーランド

  • 海外直接投資が堅調に推移するポーランドにおいて、新規投資や、既存事業の拡張投資を実行する際に課題になるのが、投資インセンティブ制度の活用手法である。
  • 特に、研究開発(R&D)の要素がある活動は、ポーランドが国家プロジェクトとして戦略的に重要視しているため、優遇制度(補助金)の対象になりやすい領域といえる。


チェコ

  • 近年の地政学的な環境変化やグローバル企業による租税回避行為は、世界各国の税収に影響を与えており、チェコ税務当局も例外ではなく、移転価格税務調査において、より積極的なアプローチを採用している。
  • 移転価格文書は、チェコにおいては義務化されていないものの、税務調査執行時に当局に対して良い印象を与え、企業の作業負担を減少させる効果が期待できる。

I.ポーランド投資環境

1. 背景

昨今、ポーランドにおいて、着実な経済成長、ドイツ市場に隣接しているという地理的・地政学的な優位性、相対的に安価で優秀な労働力等の要因により、日系企業含む外資系企業からの投資が堅調に推移しています。また、投資対象も、自動車産業、消費財セクター、インフラストラクチャー、環境、シェアードサービスセンターなど多様化しているのが現状です。

新規投資や、既存事業の拡張投資を実行するにあたって、検討課題になるのが、投資インセンティブ制度の活用です。ポーランドには、企業が活用できる投資インセンティブ制度として、EU基金、地域・経済特区ごとの税制優遇措置、政府補助金、などがあり、随時公表されています。こうした情報を適時に入手することも重要です。また、制度の申請や実行にあたり、以下のような事項に留意する必要があります。

  • 投資プロジェクト実施前にインセンティブ制度の申請を完了する必要がある。
  • 当該補助を受けた企業は当局からの調査の対象となりうる。
  • 申請書に従った投資プロジェクトの実行(一定額以上の投資、人員の雇用等)を実行できなかった場合や、プロジェクト内容を事前相談なしに変更した場合などに、当局への支援金返還リスク(延滞税含む)が発生しうる。

 

2. ポーランドにおける投資インセンティブ制度の概要

2014年から2020年まで、ポーランドはEU地域政策により、EU基金として、825億ユーロ以上を受領予定です。これは、EU加盟国中で最大の割当金額です。図表1では、投資段階、操業段階での各種制度を示しています。具体的には、次のような企業活動が優遇制度の対象となります。

  1. 研究開発:新製品開発および既製品あるいは既存サービスの改善、技術開発、製造プロセス改善、研究インフラ
  2. 投資:新工場建設、既存工場拡張、新製造ライン、新技術への投資
  3. 環境:省エネ、原材料削減、再生可能エネルギー、ゴミ管理

図表1 投資段階、操業段階での各種投資インセンティブ制度

3. 優遇制度を活用しやすい領域 ~研究開発~

EU基金をはじめとして、研究開発の要素がある活動は、優遇制度(補助金)の対象になりやすいといえます。この領域は、新しい製品やテクノロジー、サービスの創出を目的とした活動であり、ポーランドが国家プロジェクトとして特に戦略的に重要視している分野です。

  1. 新しいテクノロジーの活用により、より効率的な製造プロセスを開発すること
  2. 製造における新しい原料の使用
  3. より耐久性のある素材の開発
  4. 車両システムの改良
  5. 新しい食品加工技術の開発
  6. 新しいソフト/ハードの開発

研究開発に関する優遇制度は、原則的にフェーズ別で決定されます。たとえば、基礎調査フェーズ(特別な申請や利用目的なしで、新たな知識取得を主な目的とする調査)、産業研究フェーズ(既存の製品プロセスそしてサービスをさらに改善する目的をもった理論的な研究)、そして実験開発フェーズ(特定の製品や技術に関連する開発活動)などです。

2016年より、研究開発費に関して税制面でのメリットを享受できる新たな仕組みができました。具体的には、研究開発活動に関与した従業員の給与などの一定割合(事業年度、会社規模、経済特区の恩恵を授受しているかなどによって異なります)を、税金計算上、追加で考慮することが可能になりました。

また、投資については、投資をする場所ごとに、投資金額(有形・無形固定資産の購入支出、従業員給与)に対する補助上限が定められています。たとえば、開発途上の東部地域では50%、ドイツに近い西部地域で既に投資が活発に行われている場所では25%と設定されています。補助上限は、小規模企業の場合は20%、中規模企業の場合は10%増加します。

 

4. まとめ

ポーランドにおける投資インセンティブ制度は、多岐にわたるためどのような事業領域において、どのような制度を選択し、どのような優遇措置を享受できるのか、的確に情報を収集し、状況によっては外部の専門家も活用しながら、投資活動の最適化・最大化を考慮する必要があります。

II.チェコ投資環境

1. 背景

チェコは、安定したGDP成長率、低インフレ、教育水準の高い労働者および主要マーケットである西ヨーロッパへのゲートウェイとして魅力的な投資環境にあり、外国からの直接投資を積極的に受け入れ、着実な成長を遂げてきました。日系企業は、自動車産業を中心に、現在では250社を超える企業がチェコにおいて事業展開をしています。

その一方、近年の世界的な景気の低迷やグローバル企業による租税回避行為は、世界各国の税収にマイナスの影響を与えており、チェコ税務当局も例外ではなく、移転価格にかかる税務調査において、より積極的なアプローチを採用しています。

 

2. 移転価格調査における当局のアプローチとは?

チェコ税務当局は、税務調査において、企業の機能とリスク・プロファイルの妥当性を証明することを求めています。たとえば、調査の際に、日系企業のチェコ子会社が、日本の親会社と価格交渉を行い、在庫リスクを取って製品を販売しているため「プリンシパル(商業活動・機能を有する本格的生産者)」である、と主張しても、契約書上、取引価格が製造費用とマージンで定められている、あるいは親会社と価格交渉した記録が保存されていないなど、本格的生産者であることの立証が難しいケースがあるため、当局はそのような企業を「コントラクトマニュファクチャラー(労働力、設備を有する委託生産者)」と認定します(図表2参照)。

図表2 移転価格の基本的な概念-期待される利益のインパクト

いったん当局によってコントラクトマニュファクチャラーであると認定されると、そもそも赤字を計上するはずがない、というロジックのもとに、移転価格設定に問題があるとされ、当局が移転価格の調整を実施し、結果的に追徴課税になります。

こうしたアプローチは特に自動車部品サプライヤーに対する移転価格の調査において顕著であり、継続して赤字を計上している多国籍企業の子会社に頻繁に適用されている状況があります。また、日系企業を含む多くの外国企業が投資インセンティブ(最大10年間の法人税免除)を適用している現状があり、当該インセンティブの対象年度は税務調査を受ける可能性が高いことにも留意する必要があります。このほか、税務当局は移転価格調査において、以下のような特徴や取引がある企業に着目する傾向があります。

  • 継続赤字
  • 経営指導料
  • ライセンスフィー
  • 金融取引および利息
  • 無形資産を含むグループ間取引

これら情報を効率的に入手するため、法人税申告の一環として、関連当事者との取引の開示義務が導入され、税務当局が税務調査の対象先選定に活用している状況です。その結果、2015年の移転価格税務調査は約800件、2016年は900件超に拡大しました(KPMG調査)。各年度において遡及的に修正された課税ベースの追徴金は図表3にて示していますが、直近2年で急上昇しており、2017年度も2016年度と同程度の調査数が実施される見込みです。

図表3 訴求的に修正された課税ベースの追徴金

年度 追徴金額
2016 13,286,185
2015 3,178,694
2014 503,834
2013 467,654

単位:千コルナ(1コルナは約5円)
出所:チェコ税務当局


3. 移転価格文書の効力

チェコはOECD加盟国であり、当該ガイドラインにおいて、関連当事者間取引は独立企業間価格による、とされています。チェコにおいては、直接または間接的に25%以上の持分所有・被所有関係がある場合、関連当事者となります。制度上、移転価格文書(ローカルファイル)の作成・提出の定めはないものの、税務調査においては、当然のこととして当局より移転価格文書の提示が要求されます。

また、当局から移転価格の設定、機能とリスクにかかる質問を含んだ包括的な質問書が発行されることがあり、企業は15日(または30日)以内に回答の提出が求められます。移転価格文書が提出されている場合、移転価格にかかる取引の妥当性の証明責任は企業側にありますが、提出されていない場合、最近の税務訴訟の判例ではその証明責任は企業側にあることが示されています。

 

4. ペナルティ

チェコにおいては、移転価格にかかる具体的な罰則の定めはなく、以下に挙げるような一般的な罰則が適用されます。

  • チェコ税務当局により移転価格に調整が加えられた場合、回避されていた税金の20%または過大計上されていた欠損金の1%。
  • 上記に加え、約15%の遅延利息(チェコ中央銀行の基準金利プラス1%)。当該遅延利息は当初の支払期日以降5営業日から起算。
  • 特別なケースにおいては、みなし配当に関する源泉税の支払が発生(ペナルティおよび遅延利息も課される)。
  • 企業が投資インセンティブ(最大10年間の法人税免除)を適用している場合、2014年またはそれ以前の場合は遡及的に税額免除の権利を失う可能性がある。2015年以降の場合は過去の税額控除の権利を失うことはないものの、虚偽申告した税額の100%をペナルティとして支払う可能性がある。なお、いずれも将来の税額控除の権利を失う可能性がある。

 

5. まとめ

一般的に移転価格文書(ローカルファイル)の存在は、チェコにおいては義務化されていないものの、移転価格調査時に税務当局に対して良い印象を与え、企業の作業負担を減少させる効果が期待できます。さらには、先述のように、移転価格文書の存在により、移転価格の妥当性にかかる証明責任を当局が負うことになります。また、税務当局からの追加質問がなくなるとは限りませんが、移転価格文書がない場合に比べて、企業は余裕を持って税務調査に対応することが可能になります。

執筆者

KPMG ポーランド
ワルシャワ事務所
グローバルジャパニーズプラクティス
シニアマネジャー 杏井 康真

KPMG チェコ
プラハ事務所
グローバルジャパニーズプラクティス
シニアマネジャー 加治 孝幸

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