間接材購買におけるリスク管理のありかた | KPMG | JP
close
Share with your friends

間接材購買におけるリスク管理のありかた

間接材購買におけるリスク管理のありかた

本稿では、間接材購買にかかわるリスクの低減に向けたマネジメントに焦点をあて、そのありかたについて提言します。

関連するコンテンツ

間接材※1購買には多様なリスクが内在しているにもかかわらず、直接材と比較して企業のリスクコントロールは脆弱になりがちで、重大なビジネスの中断やレピュテーションの低下に繋がる可能性があります。間接材のリスクマネジメントの強化には、明確なリスクマネジメント方針の設定、リスクの分類と購買取引との結び付け、リスクに応じた購買審査や取引契約書の法務レビューなどの内部統制の仕組みが必要です。
本稿では、間接材購買にかかわるリスクの低減に向けたマネジメントに焦点をあて、そのありかたについて提言します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

 

※1 間接材とは、製品の生産に直結する原材料・資材・部品などの直接材に対して、それ以外の資材・経費購買の対象となる業務委託費、事務用品費、修繕費、広告宣伝費、物流費、IT関連費など、事業を行う上で間接的にかかる費用のこと。

ポイント

  • 間接材購買におけるリスクの対応策は、リスクの発生可能性と発生時の影響度(一般的には損失金額)を許容可能な程度におさえるリスクの低減策を中心に検討する。
  • 間接材購買におけるリスクの第一次防御は、取引先の適切な選定と、適切な取引契約締結である。残余リスクはその他の内部統制で軽減する。
  • 取引先の選定は、供給能力、品質管理能力、研究開発力、価格競争力などの基準を定め、購買対象の物品・委託業務の性質から、各基準を重みづけして評価を行う。
  • 取引契約は、自社の不利益とならないよう必要十分な条項を含める必要があるが、一方、重要なビジネスパートナーである取引先にとって過度な圧力とならないよう、契約内容のパターン分けを行うことも有用である。

I.間接材購買のリスク対応が脆弱になっていないか?

長年に及んだ経済低迷のなかで、これまで数多くの企業がコスト削減を目的とした購買改革を進めてきました。取引金額の大きい直接材の購買改革から着手した企業も、近年では間接材購買の改革に駒を進めています。一般的に、間接材購買には多様なリスクが内在しているにもかかわらず、直接材と比較してコントロールが脆弱になりがちです。特に以下に該当する企業は、間接材購買のリスクが大きく、リスクマネジメントの強化が急務となります。

 

  1. 間接材コストの削減に取り組んでいる企業:一般的に間接材コストの削減に向けた改革は、リスクの増大に対応する内部統制の整備が追い付かず、リスクが顕在化する可能性を高め、発生時の影響も大きくなるため。
  2. EDI等による集中購買を可能にする購買システムの構築に取り組んでいる企業:自動化による効率性を追求するあまり、要求部門や購買部門で実施されていた内部統制が脆弱になりがちになるため。
  3. 過去に大規模M&Aや組織再編を実施している企業:古くに締結された基本契約が自動更新で継続されており(あるいは基本契約の所在がわからなくなっており)、契約によるカバー範囲があいまいでリスクの高い購買取引となっている可能性があるため。
  4. リスクの大きい間接材を国内・海外の各々の拠点の判断で購入している企業:リスクマネジメントの脆弱拠点で大きな問題が発生する可能性があるため。

 

近年においても、チラシや商品ラベルにおける不当表示や、下請代金の減額などの下請法違反、委託業者による廃棄物の横流し、パッケージ不良による製品の品質劣化など、間接材や業務委託に関連する事件・事故は多発しています。間接材のリスクマネジメントの失敗は、重大なビジネスの中断やレピュテーションの低下に繋がる可能性があります。間接材のリスクマネジメントの強化には、明確なリスクマネジメント方針の設定、リスクの分類と購買取引との結び付け、リスクに応じた購買審査と契約締結、契約書の法務レビューなどの仕組みが必要になります。
本稿では、間接材購買にかかわるリスクの低減に向けたマネジメントに焦点をあて、そのありかたについて提言します。

II.間接材購買におけるリスク防衛の重点ポイント

間接材購買におけるリスクマネジメントにおいて重要なことは、(1)購買における重要な関与者である「取引先」を含めて管理し、リスクの発生可能性と発生時の影響を許容可能な程度に抑えること、(2)事故や事件、トラブル発生時の損失金額を最小化すること、です。本稿では、この考え方の下、間接材購買におけるリスク防衛の要となる第一次防御を(1)取引先の選定と(2)取引先との適切な契約締結とし、第二次防御を(3)その他の内部統制による残余リスク管理、とするリスク防衛のフレームワークを用いて解説します(図表1参照)。

図表1 間接材購買におけるリスク防衛のフレームワーク

III.間接材購買におけるリスクの把握と評価方法

1.リスクの洗い出し

ここからは、具体的に間接材購買にかかわるリスクマネジメントの全体プロセスについて順を追いながら考えていきます。まずは、自社における間接材購買におけるリスクを把握することが必要です。間接材購買におけるリスクは、業種などにより潜在リスクやその大きさは異なりますが、一般的に以下のリスクが考えられます(図表2参照)。直接材ほど自社の製品・サービスの提供に直結するものでないにせよ、間接材についても、品質・安全、物品・サービスの納期、コンプライアンスなどの事業継続の視点のみならず、企業イメージへの影響など、あらゆる脅威を想定する必要があります。

図表2 間接材購買におけるリスク例

リスク分類 リスク例
下請法違反/過度な圧力 口頭発注、支払遅延、代金の減額要求等
下請法以外の法令違反 労働者派遣法違反、労働基準法違反、個人情報保護法違反、廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反等
品質不良、仕様未達 仕様定義誤り・定義不足、取引先の品質管理能力不足等
履行遅延・不履行 発注数量誤り(見込誤り含む)、取引先の供給能力不足、発注可能な取引先の制約等
不適切単価 低廉単価・高値での発注等
内部不正 キックバック、不当な仕入リベート、業務上の貸し借り等
誤支払、支払遅延 取引先における物品の横流し・不正利用等横流し/不正利用
横流し/不正利用 取引先における物品の横流し・不正利用等
所有権・危険負担 所有権を適切に得られない、不利な危険負担の設定等
情報漏えい 機密情報(開発・設計関連、新ビジネス・新製品・新地域参入関連)・個人情報の漏えい等
再委託 再委託先の能力不足、過小認識等
検収後の不具合 検収後の不具合の発生等
第三者対応 第三者からの請求、情報提供依頼等
会計・税務 寄付金・交際費等の否認、固定資産に係る資本的支出と修繕費の区分誤り、貯蔵品計上漏れ等
レピュテーション ネガティブイメージの広告宣伝によるブランドイメージの毀損、取引先に対する不当な圧力、取引先における災害・労働事故、反社会的勢力との付き合い、取引先の購買先における児童労働、特定の愛護団体からのクレーム等

リスクの把握手法は、ワークショップにおけるディスカッション、購買要求部門に対するヒアリングやアンケートなどが考えられます。どのような手法を採用する場合でも、それぞれの間接材や委託業務を取り巻く社会・環境・技術的な動向や過去に実際に生じたトラブル等を理解し、重大なリスクの把握漏れのないよう進めることが重要です。

2.リスクの評価と勘定科目との結び付け

リスクを網羅的に洗い出した後、リスクの大きさをリスクの発生可能性と発生時の影響度から評価し、重要なリスクを特定します。重要なリスクは、全社共通のルールに基づくリスクマネジメントの対象になります。この際、必要に応じて、今後のリスクマネジメントの効果・効率性を勘案し、(1)品質不良や不正利用など、購買対象の物品・業務委託に固有に潜在するリスク、(2)下請法違反など、比較的多くの物品・業務委託に共通の「購買活動」に付随するリスク、(3)重要なイベントに向けた購買などといった特定の状況において増大するケースなどに分類することも有用です。これにより、(1)が主に取引先との契約や取引先の選定を適切に行うことによりリスクを軽減できることが多いリスク、(2)が企業の内部統制によりリスクを軽減できることが多いリスク、(3)は取引先選定を適切に行うべきケースなど、対応策をある程度まとめて考えることができます。
さらに、間接材購買に使用される勘定科目を軸に各間接材の単価・年間取引金額、購買頻度などを調査し、リスクの大きな取引類型や取引先を特定し、リスク一覧と結びつけます。これにより、購買対象の物品・委託業務に潜在するリスクが明らかになり、効果的な対応策を検討することができます。

IV.間接材購買におけるリスク防衛策

1.取引先の選定

重要なリスクの特定後、それぞれのリスクに適切に対応する仕組みを導入します。間接材購買におけるリスクに対する全般的な第一次防御の1つは、適切な取引先選定です。そのためには自社にて適切な選定基準を明確に保持することが必要です。取引先の選定基準としては、一般的に、供給能力、品質管理能力、研究開発力、価格競争力・原価低減力、配送能力、新技術への対応力・対応姿勢、経営姿勢(機密保持体制、コンプライアンス遵守等)、サポートサービス体制、財務能力などが考えられ、自社の事業を踏まえ各基準の重要度の配分比率を決定し、評点付けを行い、選定します。
取引先と購買担当者との癒着は、購買における重要なリスクの1つであるため、通常、企業は購買要求部門と発注者(購買部門)を独立させています。取引先選定においても、取引要求部門からの申請に応じて、購買部門があらかじめ定められたルールに基づき、厳正な手続きで行います。これは、不正の防止という観点では強力な内部統制として機能し、必要な職務の分離であるものの、これを進めることにより、実際に物品・サービスを利用する購買要求部門による取引先選定能力、たとえば品質管理や研究開発の能力に関する他社比較・評価スキルや仕様等の交渉スキルを維持できなくなる可能性もあります。取引先選定の主管部門である購買部門が、技術や仕様などについて要求部門と十分にコミュニケーションを図ることは、適切な購買が可能になるだけでなく、各要求部門の取引先評価能力の維持にも効果的であると言えます。
また、選定だけでなく、継続的な審査により取引の継続可否を定期的に判定する、また、書類審査のみならず、必要性に応じて、監査を実施するなどといった対応も重要です。

2.取引先との契約

適切な取引先の選定と並び、間接材購買におけるリスク防御の要となるのは、取引先との契約になります。口頭での契約でも法律的効果は生じますが、ここでは義務と責任の明確化のため、書面による契約を前提とします。取引先との契約は、(1)要求事項の明確化と合意による仕様や納期などの誤りの防止、(2)トラブルの際の損害賠償請求の決定的証拠、(3)双務契約とすることによる取引先の責任感の醸成や監査権の明記などによる取引先における不正の牽制などのメリットがあります。
ほとんどの企業は、自社の購買契約における取引先に対する要求事項を整理し、購買取引契約書あるいは業務委託契約書の雛形を整備していると思います。通常、それらは自社に不利益にならないよう精査され、必要な条項を保守的に網羅した契約書となっていることと推察されます。
このような契約書雛形を使用することは、購買リスクの軽減の重要なコントロールとなる一方、対象となる取引の内容によっては、取引先が過度な圧力を感じるものになってしまう可能性もあります。それを防止するため、購買リスク(購買対象の物品や委託業務に潜在するリスクと発注金額を考慮)の大きさと発注頻度に応じて、契約パターンを分けることが有用です。図表3の【1】や【2】など、購買リスクが高い場合、取引の性質に応じて契約内容を個別に精査し、必ず法務部門のチェックを受けるようにします。この場合、取引におけるリスクを正確に伝えるための法務部門とのコミュニケーションが必要となり、法務部門のチェックの強度も高くなります。購買リスクがさほど大きくない【3】や【4】の場合は、原則として汎用雛形を用いることとし、変更する場合には法務部門のチェックを受けます。一方、【5】のように購買リスクが小さい場合、万が一損失が生じても十分に民法の規定により損失が抑えられる内容、たとえば、瑕疵担保責任や知的財産権、損害賠償などについては記載せず、許容できる最大限に簡素化した書式と原則として、雛形からの変更は認めません。【6】のように購買リスクが小さく、反復継続して購買する物品は、EDIを通じた電子約款を利用することも可能です。

図表3 間接材購買取引契約のパターン

3.その他の内部統制

間接材購買におけるリスクの第一次防衛として適切な取引先選定と契約締結を行い、その後の残余リスクには個別の内部統制を整備することになります。たとえば、下請法違反とならないための代金支払遅延を予防するモニタリング、仕様定義漏れ・誤りを予防する発注内容の第三者チェック、キックバックなどを予防する購買担当者のローテーションの仕組み作り、その他、工場視察の実施や購買担当者・要求部門のコンプライアンス意識を高めるための教育・研修の実施などがあります。間接材購買におけるリスクの洗い出しと並行して自社の現状の内部統制の状況を確認することにより、内部統制整備・強化に向けた課題を特定することが重要です。

V.今後に向けて

企業の間接材購買の取組みに対する社会からの期待は、以前に増して各段に大きくなっています。今では、調達ガイドラインのみならず、購入の諸条件をホームページなどで公開し、購買取引に関する姿勢を示している企業もあります。大事なビジネスパートナーである取引先と適切な関係を構築し、企業価値の増大に繋がるよう、間接材購買においても適切なリスクマネジメントが必要です。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
ディレクター 菅野 香織

お問合せ

 

RFP(提案書依頼)

 

送信