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機関投資家による集団的エンゲージメント

機関投資家による集団的エンゲージメント

本稿では、日本における集団的エンゲージメントの現状と、英国Investor Forumによる集団的エンゲージメントの取組みを概観し、日本への示唆を検討します。

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わが国では集団的エンゲージメントへの関心が高まっており、具体的な動きも見られ始めています。英国では、効果的なエンゲージメントを阻害する問題の解決手段として、Investor Forumによる集団的エンゲージメントが実施されています。Investor Forumでは、企業がその活動を受入れ、建設的なエンゲージメントを行うことで、課題に対する長期的な解決策を創出できると考えられています。英国で集団的エンゲージメントの対象となった企業は、当初は躊躇していたものの、Investor Forumの活動を受け入れ、建設的なエンゲージメントを行った結果、多くの企業は価値を享受したと感じています。
本稿では、日本における集団的エンゲージメントの現状と、英国Investor Forumによる集団的エンゲージメントの取組みを概観し、日本への示唆を検討します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • わが国の「機関投資家協働対話フォーラム」は、複数の機関投資家による企業との協働対話を通じて、企業が抱える課題の認識を共有し、経営方針に基づく経営を支援するためのプラットフォームである。
  • 英国Investor Forumは、2017年までの3年間で、30社の企業に集団的エンゲージメントを提案・実施した。対象となった企業の多くは、幅広い投資家からの多様かつ客観的な視点に価値を認識するとともに、投資家とのコミュニケーションの向上に役立ったと感じている。
  • 集団的エンゲージメントは、複数の投資家との協働によって企業の問題解決を目指すものである。エンゲージメントを通じてサステナブルな価値を効果的に創出するためには、企業と投資家双方の積極的な関与が必要である。

I.日本の集団的エンゲージメントの動向

1.集団的エンゲージメントへの関心の高まり

わが国で進展しているコーポレートガバナンス改革では、機関投資家による投資先企業との建設的な目的を持った対話(エンゲージメント)を通じて、課題認識の共有と問題の解決により、企業の持続的成長が期待されています。企業と投資家の関係は、株式の売却やその脅威によって規律付けを行う伝統的なコーポレートガバナンスのパラダイムから、目的を持った対話を重視するエンゲージメントへと移行しつつあります。

エンゲージメントに関し、2017年5月に日本版スチュワードシップ・コードが改訂され、「他の機関投資家と協働して対話を行うこと(集団的エンゲージメント)が有益な場合もあり得る」ことが明確化されました(指針4-4)。金融商品取引法上の「重要提案行為等」および「共同保有者」への該当や株主アクティビズムの活動が懸念されたこともあり、2014年のコード導入時には、集団的エンゲージメントについては言及されませんでした。しかし、コーポレートガバナンス改革を「形式」から「実質」へと進化させることが期待される中、集団的エンゲージメントが、実効性のある効果を得るための有効な選択肢の1つとして考えられています。

日本の機関投資家は、集団的エンゲージメントについてどのように捉えているのでしょうか。KPMGが2017年に実施した意識調査では、62%の機関投資家が、集団的エンゲージメントについて「現在実施していないが、機会があれば検討する」と回答しています(図表1参照)。

図表1 集団的エンゲージメントに係る現状・考え方

出典:KPMGジャパン コーポレートガバナンスOverview 2017

図表1 集団的エンゲージメントに係る現状・考え方

(n=33)

集団的エンゲージメントを「実施している」および「検討中」の機関投資家を合わせると、約8割の機関投資家が、集団的エンゲージメントの実施を意識していると捉えることができます。

2.集団的エンゲージメントの動き

こうした中、集団的エンゲージメントに係る動きがありました。2017年10月、複数の機関投資家による企業との協働対話の支援を目的とした「一般社団法人 機関投資家協働対話フォーラム」が設立されました。同フォーラムは、「機関投資家協働対話プログラム」を主宰しており、設立時点では年金基金やパッシブ運用など長期投資を行う運用機関がプログラムに参加しています。

同プログラムでは、参加した機関投資家間で投資先企業の課題を議論し、建設的な対話に資する共通のアジェンダが設定され、アジェンダ毎に、フォーラム事務局が対象企業との協働対話を主宰し、ミーティングをファシリテートすることで、企業と機関投資家の間の建設的な対話を支援することが想定されています。

また、同フォーラムは、いわゆる株主アクティビズムのように短期的な株主利益を追求するのではなく、最終受益者の中長期的な投資リターンの拡大に結び付くように、企業の長期的な企業価値の向上と持続的成長に資することを目的としています。そのため、投資先企業の事業活動の重大な変更を要求したり、経営の細部に介入することは意図されておらず、企業が抱える課題に関して、機関投資家と企業の間の認識の共有を図ることを通じた、企業の主体的な経営方針に基づく経営を支援するための取組みといえます。

II.英国における集団的エンゲージメント

このようなプラットフォームを活用した集団的エンゲージメントは、英国では数年前から実施されています。動きが見られ始めた段階の日本にとって、先行する英国の動向は、今後の方向性の参考になると考えられることから、以下では英国における背景と取組みを概観します。

1.英国での問題意識

英国の投資運用会社の業界団体Investment Associationが実施したアンケート調査によると、英国のアセットマネジャーがエンゲージメントにおいて最も重要と考える論点は、企業業績、リーダーシップ、カルチャー・戦略、取締役会構成/サクセッションなどである一方、最も頻繁に扱われた論点は、経営者報酬であったという結果でした(図表2参照)。

図表2 英国におけるエンゲージメントのアジェンダ

これは、経営者報酬が株主総会議案とされた背景もありますが、投資家が最も重要と考える論点が、実際のエンゲージメントにおいて議論されているとは限りません。英国の投資家は、偏ったテーマの議論ではなく、より幅広い論点を含むエンゲージメントが必要であると考えていました。

また、英国政府は2015年に、英国の長期的生産性向上に向けたアジェンダを提示しており、これを受けてInvestment Associationは、会員の投資運用会社が、長期的投資によって生産性を高めることを目的としたアクションプランを作成しています。

その背景として、英国では、機関投資家がスチュワードシップ活動によって企業の生産性向上と競争力を促すためには、エンゲージメントを長期的な価値創造のドライバーとして捉える必要があるという問題意識がありました。特に、近年のエンゲージメントに関する問題点として、以下が挙げられています。
 

効果的なエンゲージメントの阻害要因

  • 国際的な株式所有および分散した株主の増加
  • 集団的エンゲージメントに関連する規制への理解不足
  • 長期的・サステナブルな価値創造の観点からのエンゲージメントの欠如

2.英国Investor Forumによる集団的エンゲージメント

(1)Investor Forumの設立
英国における上記問題を解決する手段として、ジョン・ケイ教授は報告書2の中で、スチュワードシップへのアプローチが必要であり、複数の長期投資家が集団でエンゲージメントを行うこと、そして、そのための枠組みを構築することを提言しました。
ケイ教授の提言を受けて、2014年10月、英国内外のアセットオーナーおよびアセットマネジャーで構成3するInvestor Forumが設立されました。Investor Forumは、株主のスチュワードシップの強化を通じて、長期的な投資パフォーマンスに貢献すること、また、ステークホルダーの様々な見解を取り入れたソリューションにより、エンゲージメントの障害を取り除くことを意図しています。


(2)Investor Forumによる集団的エンゲージメントの特徴

Investor Forumは集団的エンゲージメント・フレームワークを策定しており、2017年には活動結果を公表しています。以下は、Investor Forumによる集団的エンゲージメントの主な特徴です。


1.エスカレーションの手段
長期的な価値創造に向けたエンゲージメントのためには、企業と投資家はともに相応の時間とリソースを割く必要があります。Investor Forumに集団的エンゲージメントが提案された案件の多くは、対話に相当の時間とリソースを費やしたものの、望ましい成果が得られなかったケースです。
Investor Forumは、すべての状況におけるアプローチとしてではなく、複雑な問題の解決に向けた効果的なエスカレーションの手段として、集団的エンゲージメントを推進しています。


2.効果的なコミュニケーション
Investor Formの集団的エンゲージメント・フレームワークは、幅広い株主の意見を直接取締役会に伝達することで、効果的なコミュニケーションが可能であるとされています。企業がこのプロセスを受け入れ、建設的なエンゲージメントを行う場合には、課題に対する長期的な解決策が創出できると考えられています。Investor Forumのコミュニケーション方法は、“Hub & Spoke”アプローチ と呼ばれており、その概要と利点は次のとおりです。


“Hub & Spoke”モデル

  • 個々のメンバーとフォーラムの間ではオープンな議論を行うが、機密情報は保持する
  • 問題を主観的なものに留めず、徐々に建設的な成果を求める枠組みへと順応できるようにする
  • 状況が妥当な場合、進化し適応する柔軟性がある


3.幅広い投資家との協働
2017年に協働した投資家31機関には、Investor Forumのメンバー
以外の投資家が2機関含まれています。Investor Forumでは、対象企業の多くの株主から広範な見解を求めるために、メンバー以外の重要な株主とも協働しています。なお、2017年の集団的エンゲージメントの各案件に参加した投資家数は、2機関の案件もあれば、15機関と多くの投資家が参加する案件もあります。


(3)集団的エンゲージメントの結果

Investor Forumでは、2016年までの2年間で16社、2017年の1年間で14社の企業を対象に、集団的エンゲージメントを提案・実施しました。その結果から判明した特筆すべき事項として、以下の2点が挙げられます。


1.活動を受け入れた企業は価値を享受
集団的エンゲージメントの対象企業の大半は、当初は躊躇していたものの、Investor Forumの活動を受け入れたとされています。加えて、対象企業の多くは、幅広い投資家からの多様かつ客観的な視点に価値を認識するとともに、投資家とのコミュニケーションの向上に役立ったと感じているようです。Investor Forumは、企業が抱える問題に対して建設的な道筋を提供するプラットフォームとして、重要な役割を果たしていると考えられます。


2.幅広い論点でのエンゲージメント
Investor Forumのアプローチは、複数の投資家による包括的な視点を通じて、問題解決に貢献することが意図されています。また、投資家は、エンゲージメントにおいては財務面のみならず、より広範なステークホルダーの視点を組み込むことが重要であると考えています。図表3は、集団的エンゲージメントが実施された各企業との対話における主な論点のサマリーです。

図表3 集団的エンゲージメント・ダッシュボード

英国では、エンゲージメントにおけるテーマの偏りやサステナブルな価値創造の観点の欠如が懸念されていましたが、Investor Forumによるエンゲージメントが複数の異なる論点に及んでいることがうかがえます。

III.日本への示唆

集団的エンゲージメントにはいくつかの形態が考えられますが、本稿では、英国Investor Forumというプラットフォームによる取組みを概観しました。英国では、対象となった企業は当初は躊躇していましたが、その活動を受け入れ、建設的なエンゲージメントを行った結果、多くの企業は価値を享受したと感じています。

プラットフォームを活用した集団的エンゲージメントは、株主アクティビズムとは異なり、複数の投資家との協働によって企業の問題解決を目指すものです。企業の長期的な視点からの問題解決は、業績への貢献や、受益者の利益にも結び付くと考えられます。エンゲージメントを通じてサステナブルな価値を効果的に創出するためには、企業と投資家双方の積極的な関与が必要であることを、わが国でも広く受け入れられることが期待されます。

執筆者

KPMG ジャパン
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)
有限責任 あずさ監査法人
金融事業部 金融アドバイザリー部
ディレクター 村澤 竜一

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