インド国家予算案2018 - 成長に向けた「がまんの予算案」 | KPMG | JP
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インド国家予算案2018 - 成長に向けた「がまんの予算案」

インド国家予算案2018 - 成長に向けた「がまんの予算案」

本稿では、経済指標を含めたインド国家予算案2018の概要の他、直接税、間接税に関する変更点について解説します。

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2018年2月1日、ジャイトリー財務相より2018-19年度のインド国家予算案が公表されました。インドでは、来年、総選挙が予定されており、今回の予算案は現政権にとって最後の通年予算となります。

モディ首相は事前に大衆迎合的な予算案にはならない旨、マスコミへのインタビューで語っていましたが、翌年度に総選挙を控えた状況下において、集票を意識した内容になることは、ある程度、想定されていました。

そのような中、今回の予算案では、低所得者層対策、農業分野活性化を最重要課題として位置付けており、この他、インフラ開発、雇用促進、中小零細企業活性化、税基盤の拡大などを重点政策としています。

弱者救済のための政策実現に向けた財源確保のための増税など、企業に対しては厳しい内容も含まれています。しかし、モディ首相率いるBJP(インド人民党)の政治基盤の安定は、インド経済にとって望ましいことに間違いありません。このため、今回の予算案は、日系企業にとって、将来のインド経済飛躍に向けた「がまんの予算案」と位置づけられると考えています。

本稿では、経済指標を含めたインド国家予算案2018の概要の他、直接税、間接税に関する変更点について解説します(執筆時点 2018年2月2日)。

なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 世界最大級の国民保険制度の創設など、低所得者層に配慮した予算案である。
  • 農作物の買取価格保障など、農業従事者に配慮した予算案である。
  • 総選挙や重要州の地方選挙を控え、票田を意識した政策がみられる。
  • 低減税率の適用など、雇用拡大に重要な役割を担うことが期待される中小零細企業にとって、歓迎すべき予算案といえる。
  • 基本関税率の増加やサーチャージの新設など、メークインインディア推進と共に、国内産業保護が図られている。
  • Goods and Services Tax(物品・サービス税。以下「GST」という)に関する変更はなく、今後実施されるGST評議会にて、重要内容が決定される見込みである。

I.インド国家予算案2018概要

1. はじめに

2018年2月1日、ジャイトリー財務相より、2018-19年度インド国家予算案が公表されました。予算案はこの後、国会で審議され、幾つかの修正を経て承認されることになります。例年、2月末日に公表されていた予算案ですが、新年度(4月-3月)開始と同時に予算の実行を可能とすることを目的に、昨年度の予算案公表からは、例年より1ヵ月前倒し、2月1日に公表されています。

2019年には総選挙が予定されているため、来年の予算案公表は総選挙後となります。2014年の総選挙で勝利したBJPを中核とする現政権としては、今回の予算案が、一旦、最後の通年予算となります。

有権者が8億人を超え、世界最大の民主国家といわれるインドにおいて、票田を意識した政策がとられるのは当然ですが、今回の予算案では特にその色が濃く出ています。これは、来年予定される総選挙もさることながら、今年行われる地方選挙も強く意識した結果と考えられます。

BJPはインド29州のうち19州で政権を握っており、着実に基盤を拡大していますが、2017年12月に行われたグジャラート州選挙では、過半数の議席を確保したものの議席数を減らしています。モディ首相の出身州であるグジャラート州での苦戦は、BJPにとってはショッキングな出来事であり、今後予定される選挙において、有権者へのアピールをより意識するに至り、今回の予算案に影響を与えたと考えられます。

結果として、今回の予算案は選挙対策色のより強い、つまり、企業、特に大企業にとっては好ましくない内容への変更が多くみられます。ただし、農村部、低所得者層対策は、国家運営上、大変重要であり、ボトム層の底上げによる長期の経済成長は、将来の企業利益にもつながります。

今回の予算案のインド経済界の声について、新聞紙上で拾ってみる限り、「大衆迎合的な部分はあるものの、中長期的な視点にもたっており、バランスのとれた内容である」といった総括が多い印象を持っています。

また、我が国との間に良好な関係の構築が期待できるモディ首相の政治基盤の安定は、日系企業にとって望ましく、ビジネスフレンドリーな現政権が総選挙に勝利した暁には、経済重視の国家運営を期待することができます。このようなことから、今回の予算案は、日系企業にとって、将来のインド経済飛躍に向けた「がまんの予算案」と位置付けられると考えています。

 

2. 経済指標


(1)GDP成長率

GDP成長率ですが、モディ首相率いるBJPが2014年に政権に就いて以降、平均7.3パーセントと、主要国中最速で成長してきました。しかし、直近2年度だけをみると、以下のとおり、減速しています。

  • 2016-17年度は7.1パーセント
  • 2017-18年度は6.5パーセント

これは、次の2点が大きな理由です。

  • 高額紙幣廃止による貨幣流通量の激減
  • 物品・サービス税(以下「GST」という)導入の影響

ただし、高額紙幣の廃止、GSTの導入の、いずれも、長期的なポジティブな影響を見込んでの政策であり、現実に、各種経済指標は好転しはじめています。

インドは原油の輸入依存度が高く、国際原油価格の高止まりなど、予断を許さない状況にはありますが、2018-19年度には7パーセントを越え、それ以降も、7パーセント台後半での成長が期待されています。

なお、現在世界7位のGDPは、数年内に、イギリス、フランスを抜き5位になると予測されており、今回の予算案発表の中でも強調されていました。


(2)GDPに対する経常赤字率・財政赤字率

GDPに対する経常赤字率は、2017 - 18年度は2.6パーセントと当初計画から0.7パーセント悪化する見込みです。理由としては貿易収支の悪化につきますが、これは、原油の輸入依存度が高いことから、原油価格の高止まりが大きく影響しています。このような状況下において、政府が目安としている経常赤字率GDP比1パーセント台の達成は、2018-19年度においても難しく2.2パーセントと予想されています。ただ、良化傾向にあることから、適度にコントロール出来ているとも評価できます。

次に、財政赤字率ですが、2017-18年度は3.5パーセントと当初計画から0.3パーセント悪化、2018-19年度も3.3パーセントと、目標であるGDP比3パーセントの達成は翌年度以降に先延ばしとなっています。これは、金融機関救済のための財政出動の他、「3. 重点政策」に記載している「モディケア」実現のための支出などが影響しています。大衆迎合的な予算案にはならないとの事前コメントに反し、財政規律が犠牲にされたとの見方をされたとしても、致し方ない予算案であったと捉えています。

 

3. 重点政策

今回の予算案における主な重点政策を項目別に解説します。


(1)NHCPS - モディケアの創設

National Health Care Protection Scheme(国民保険制度。以下「NHCPS」という) として、低所得者層向けに1世帯当たり年間50万ルピーの医療費を補助する制度です。1億世帯、5億人程度が対象となる見込みであり、低所得者層の底上げに伴う経済成長、医療や保険分野の活性化、雇用促進が見込まれます。規模が大きな制度だけに、実現に向けてのハードルが指摘されています。


(2)MSP - 農業分野支援策

Minimum Support Price(以下「MSP」という) として、一定の農作物に対して、生産コストの1.5倍での買取を保償する制度です。農業従事者の所得倍増を目標として、過去から同様の政策が取られてきましたが、今回の予算案で拡大された形です。すでに設定されている複数のコストテーブルのうち、いずれを利用してMSPを算出するかなど、実現に向けてのハードルが指摘されている点は、モディケアと同様です。


(3)MSME - 中小零細企業活性化

Micro, Small and Medium Enterprises(以下「MSME」という)に対する金融支援や法人税率の引き下げ、また、輸入関税引き上げによる国内産業保護など、MSMEの活性化を目指しています。これは、中長期的な視点でのメークインインディア政策の促進、雇用の拡大、税基盤の拡大を目的とするもので、重要な政策の1つとして位置付けられます。


(4)雇用促進

新規従業員を雇用することに対する税務恩典について、過去からある制度の拡大、柔軟化が図られました(詳細は「II. 直接税」参照)。また、上述のMSME向けの対策や、新規雇用者が支払うべき年金保険料の補填、新規女性従業員が支払うべき年金保険料割合の低減など、間接的な政策も含め、雇用促進が期待される施策を多く計画しています。


(5)インフラ投資

実に歳出の約4分の1の予算が配分されており、過去最大規模となっています。鉄道分野への予算配分の他、道路網の拡充、農村部インフラ整備など、重要課題であるインフラ改善に焦点を当てた予算となっています。

II.直接税

今回の予算案における直接税の主な改正点について、項目別に解説します。

 

1. 法人所得税


(1)法人税率引き下げ

2017年3月期の売上が25億ルピー以下の企業に対する法人税率が5パーセント引き下げられ25パーセントになります。一方、これに該当しない企業には引き続き30パーセントの最高税率が課されます。2015 - 16年度の予算案では、企業規模に関係なく、2020年までに法人税率を25パーセントにするとのアナウンスがされていました。今回の施策により、インド企業の99パーセントが低減税率を享受できることになるため、大企業に対しての法人税率引き下げの可能性は低くなってしまったと考えられます。


(2)Cessの増加 - Health and Education Cess

法人税には基本税率の他、目的税として機能するCess(セス)という税目が課されます。従前、教育関連支出のためのEducation Cessとして3パーセントが課されていましたが、新たにHealth Cessが1パーセント追加され、Health and Education Cessとして4パーセントの Cessが課されることになります。なお、当該追加Cessは、本予算案の重点政策であるNHCPS - モディケア実現のための財源として利用されます。


(3)PANの取得

インドでは、Permanent Account Number(以下「PAN」という) と呼ばれる税務番号の取得が、内国企業および居住者には求められています。今回の改正は、25万ルピーを超える取引がある外国企業およびその取締役に対し、内国企業と同様にPANの取得を求めるということです。不明瞭な点が多く、適用範囲が明確ではありませんが、仮に、資本取引が含まれる場合、日本親会社およびその取締役にまでPANの取得を求めるものであり、あまりに現実的ではないため、本国会での修正有無を注視する必要があります。


(4)新規雇用インセンティブ

新規従業員に対する給与の30パーセントが、課税所得計算上、追加損金として認められる制度です。これは、過去から継続の制度でありますが、今回の予算案では、雇用日数自体の緩和(240日から150日へ)や、雇用日数算出方法の柔軟化(雇用翌年度の雇用日数との通算)が図られています。産業界のリクエストに応えて、より実務的に改正し、雇用拡大を促しています。

 

2. 個人所得税


(1)Cessの増加 - Health and Education Cess

日本と同様に超過累進課税制度がとられていますが、本予算案では、基本税率および所得額の枠に変更はありませんでした。一方、法人税と同様、目的税であるCessが1パーセント増加、Health and Education Cess として4パーセントになっています。日本と同様に超過累進課税制度がとられていますが、本予算案では、基本税率および所得額の枠に変更はありませんでした。


(2)税額控除

給与所得者に対しては、これまで認められていた医療費および交通費に関する所得控除(最大34,200ルピー)がなくなり、年間40,000ルピーの基礎控除が認められることになりました。


(3)留意点

個人所得税はインド人、インド子会社としては無視できない論点ですが、日本親会社としてはケアすべき部分は多くありません。また、今回の予算案での変更点は、駐在者への影響は僅少といえます。一方、多くの駐在者に適用されていると考えられる、手取り保証制度のもとでは、親会社側での給与再計算など、特に、多くの駐在者を抱える企業にとっては、検討余地がある場合があります。

III.間接税

1. 関税


(1)基本関税率の変更

複数の品目において、基本関税率が変更されています。インドは人口ボーナス期を迎えており、増加する労働人口の受け皿たる雇用の拡大は喫緊の課題になっています。モディ首相のもと、幾つかの大きなプロジェクトが進行していますが、その中でも、「メークインインディア」は最重要プロジェクトの1つとして位置付けられており、この実現に資するべく、予算案の公表があった翌日より、基本関税率が変更されています。変更は概ね増税方向であり、現地調達率の低い企業にとっては、コスト高要因となりえます。変更があった主な品目は次のとおりです。

(%)

輸入品目 変更前 変更後
TV用のLCD、LEDパネル 7.5/10 15
自動車部品 10 15
完成車 20 25
携帯電話 15 20
特定医療機器 7.5 10

 

(2)Social Welfare Surcharge の新設

GST導入前には、基本関税の他、Special Additional Duty(以下「SAD」という)、Countervailing Duty(以下「CVD」という)およびEducation Cess(以下「Cess」という)が課税されていました。GST導入に伴い、SADおよびCVDは廃止されましたが、基本関税に対して3パーセントかかる Cessは、引き続き課税されていました。今回の予算案で、当該Cessは廃止されましたが、代わって、Social Welfare Surchargeという別の税目が新設され、Cessよりも高い、基本関税の10パーセントが課税されます。これは輸入者のコストになるため、売価への反映含め、影響が大きい企業も少なくありません。なお、予算案公表日の翌日より適用されています。


(3)修繕後設備の再輸入

輸入した製造設備について、インド国外で修繕後に再輸入した場合、関税が課税されないことが明確化されておらず、係争に発展するケースがありました。このような状況に鑑み、免除されることが明確化されました。なお、GST法上はこのようなケースについては免税であることが明確化されています。

 

2. GST - 物品・サービス税

2017年7月1日に施行されたGSTですが、適用税率の変更や当初想定していた申告方法の適用の延期など、引き続き混乱が生じています。これを受け、予算案で税率の一本化や申告方法の簡素化など、実効性のある変更が期待されましたが、具体的な言及はなく、GST評議会での決定を待つ必要があるという事でした。なお、予算案公表後、GST評議会は開催されていません。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
グローバルジャパニーズプラクティス
シニアマネジャー 宮下 準二

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