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日本におけるFinTechの共創モデル

日本におけるFinTechの共創モデル

本稿では、主要国のFinTech業界の推進に向けたスタンスを紹介しつつ、日本におけるFinTech事業成長の課題について解説します。

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GDP上位6か国でみると日本以外の各国FinTech投資額は、日本に比べ7~200倍です。今や保険や不動産などに分化しつつあるFinTech領域において、成長しつつあるものの日本はまだまだ遅れを取っていると考えられます。本稿では、主要国のFinTech業界の推進に向けたスタンスを紹介しつつ、日本におけるFinTech事業成長の課題について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 日本において、FinTechは保険や不動産といった個別具体的な領域でのデジタル化の取組みが深化している。しかし、主要各国と比較するとまだまだ規模は小さく潜在余地は大きいと言える。
  • 今後、日本において、FinTech市場が先行諸国に追随するうえで、いわゆるハイプサイクルによる踊り場を避けつつ、いかに急速にキャッチアップするかが重要である。
  • 諸外国においては、Traditionalな金融機関とベンチャーを中心としたFinTechプレイヤーとの組み合わせによりFinTech業界が発展していくトレンドにある。
  • 日本においても、Traditionalな金融機関がテクノロジーに対する知見と中長期トレンドを踏まえた、「目利き」力をつけ、FinTechプレイヤーに対する「信用力」の補完を行う事で日本流の共創モデルを作り上げることが重要となる。

I.FinTechを取り巻くトレンド

FinTechという言葉が現れだしたのは2015年頃と記憶しています。それまでは金融機関のDigitalizationというキーワードで世の中が動き出してました。ただし、FinTechという限定されたキーワード (ある意味バズワード)から、直近では新たな展開を見せつつある、と感じます。
キーワードの検索件数に見るFinTechならびに関連キーワードのボリュームの推移に鑑みるに、その様相は明確です。FinTechそのものがキーワードとして一気に伸びたのは2015年末で、その後は横ばいとなっています。それに続くように、遅れて関連キーワードが伸びています。なかでも、仮想通貨・ICO・ブロックチェーンといったトレンディなキーワードは大きく伸びると共に、InsurTech・RegTech・ソーシャルレンディング・クラウドファンディングなど細分化され、領域特化したキーワードに派生し、Financialという曖昧模糊な範囲ではなく、より個別具体的な領域へと取組み内容が深化している様子が伺えます(図表1参照)。

図表1 FinTech関連キーワードの関心度推移

脚注:検索エンジンGoogleでキーワード検索された検索ボリューム。
出典:Google Trendsに基づいてKPMGが作成


「Google」、「Google Trends」はGoogle LLCの商標または登録商標です。

II.日本におけるFinTechの進展状況

日本国内におけるFinTech業界の発展は客観的な指標で見ると諸外国に比して差が大きいと言わざるを得ません。まず、日本におけるFinTech関連投資額は非常に小さいです。GDPのランキングに対して、FinTech関連投資の大きさを比較すると、日本は世界第3位のGDPであるものの、世界第1位のGDPで日本の4倍の規模がある米国とは206倍の差があります。米国がベンチャー企業に対して投資の集まりやすい特殊な国であるのかともとらえられますが、GDPが世界第6位で日本の半分程度の規模しかない英国においても、投資額は日本の45倍となっています(図表2参照)。

図表2 GDP Top6ヵ国におけるFinTechの規模

脚注:※1GDPとFintech投資額の2017年度数値は一部見込みの数値も含まれる
出典:Pitchbook、国際通貨基金、Cambridge Centre for Alternative Financeに基づいてKPMGが作成


また、伝統的な金融サービスである貸出を例に取っても日本は諸外国に比して非常に小規模と言わざるを得ません。ソーシャルレンディング等のFinTechによる貸出については、Lending Club等のFinTechレンダーが立ち上がっている米国においては、既に個人向け貸出領域における3割程度はFinTech事業者によるものです(米国の場合、カード会社による与信が全体の約8割であり、それを除いた範囲内での割合であることに留意)。中小企業向け貸出を含むAlternative Financeの領域では米国は日本の30倍の規模となっています。
これらを踏まえると、日本における潜在的なFinTech市場の規模は非常に大きいと言えます。

III.FinTech発展の壁

一方でFinTechが単純に右肩上がりに発展しているか、といえば特に米国を参考にした場合事情は異なります。流行りだした特定領域のサービスは一気に膨らんだ後、その後一時的に急激にしぼむ、という現象が発生しています。これは、特定テクノロジーにおけるハイプサイクルと呼ばれる現象によく似ています。テクノロジーハイプの場合、当該テクノロジーに対する期待値の高まりにより一気に伸び、その後適正な期待値に補正されるために落ち込むという現象ですが、必ずしもFinTechサービスの場合、テクノロジーに対する過剰な期待値のみを原因とするものではありません。これは特定のFinTechサービスが流行り期待値が高まると、それに乗っかって様々なレベルのプレイヤーが参入し、また、中には詐欺的な行為も多く含まれるため、結果として業界全体に対して不信感が発生し、一気に業界がしぼむという現象です。(図表3参照)。

図表3 FinTechサービスの普及経緯

出典:KPMGが作成

現地のベンチャー企業にインタビューを行うと、この現象について「キャズム(導入期で成功後に一時的に陥る谷間)を超えていない」「キャズムの真っただ中」という声が聞こえてきます。要は、当該FinTechサービスが一般的な金融サービスとして認知・信用され普及する段階まで来ていない、という声です。たとえば、米国で先行している不動産クラウドファンディングにおいては、初期段階においてはIT知見のあるプレイヤーが参入し、単純なITプラットフォームをテコにしたビジネスを実施しましたが、低品質な不動産事業者を集めてしまい、中には詐欺まがいの案件も多くなったため、投資家からの信用を無くし、優良案件も集まりにくくなったため、業界は大きくしぼみました。今は、不動産事業をきちんと理解し、Technologyと組み合わせた優良プラットフォーマーにより、業界をいかに立て直し、キャズムを超えるか、が彼らの関心となっています。
日本においても近年関心が高く、米国で先行しているICO(イニシャルコインオファリング:仮想通貨による資金調達)は、何らかの詐欺的行為を含むものも多いとも言われています。著名なDAOの大口不祥事を契機にSECの規制強化、その他事業者への具体的な処罰適用を経て、ICOそのものの信頼が揺らいでいます。米国以外の諸外国でもICOに対してはネガティブな意見が散見され、まさに「キャズム真っただ中」となりつつある状況です。
FinTech投資や普及が諸外国に比して遅れている日本においては、これらのハイプサイクルをいかに防ぎながら、早急に諸外国にキャッチアップするか、という事が課題となります。

IV.諸外国におけるFinTech推進状況

FinTechの推進にあたっては、各国の置かれた事情により取組み方法が異なっています。各国は自国における強み・弱みを理解したうえで、自国内だけのFinTechではなく、国家戦略としてFinTechをどう活用するか、という観点で取り組んでいるように見えます。
元々、シリコンバレーを中心としたテクノロジー企業が多い米国においては、FinTechというキーワード自体既に過去のものとなっている感があります。FinTech企業というカテゴリーで特定企業を探すことは難しく、具体的に、個別のサービス種類を特定する必要があります。
元々、放任主義の様相が強い米国はウーバーショックなどに見られるようにベンチャー企業による一気呵成の事業展開が行いやすい環境にあるとも言えますが、FinTech領域においてはTraditionalな金融機関の力が強いためなかなかDisruptiveなレベルで金融機関にとって代わることは難しい環境です。そのため、FinTech事業者はTraditionalな金融機関と上手く協調する形で事業を伸ばしていく方向に舵を切りつつあるように見えます。
一方、行政主導でFinTech事業を伸ばすべく環境整備を行いつつ、米系・中国系のメガIT企業・EC企業による金融サービスから自国権益を守ることも視野に入れつつ活動している国々も存在します。
EU圏においては、GDPR(一般データ保護規則)の導入により、これらグローバルテクノロジー企業や米系巨大データブローカーが顧客データを一方的に搾取し活用することを防ぎ、個人情報を利便性の高いデータで活用し自国での金融サービスを発展させるために地場金融機関やFinTech事業をどう支援するか、に苦心しています。たとえば英国においては、Open APIの利用による銀行データをFinTech事業者に開放することでInnovativeなサービスを発展させる事を企図した政策を敷いています。
国土としては非常に小さく、GDPに占める金融の割合が大きいシンガポールにおいては、国を挙げての電子政府化国策の一環として、金融当局自ら参画したOpen APIに関するガイドラインを発表し、ブロックチェーンによる効率的な資金決済の実証実験を行っており、自国内のFinTech振興によるInnovationを図ると共に、ASEAN圏への進出も展望しています。

V.日本流の共創モデルによるFinTechの推進

これらの状況を踏まえたうえで、日本において前述のハイプサイクルを避けるための処方箋はこれらのサービスに対する「目利き」を含めた「信用力」を行政・Traditionalな金融業界・FinTechベンチャーが一体となって醸成していく事が肝要になります。そのなかでも、Traditionalな金融機関の果たす役割は大きいと思います。
1つ目は、これらの事業に対する「目利き」です。間接金融にせよ直接金融にせよ、必要になるのは事業に対する「目利き」力です。もちろん、テクノロジーに対する目利きは今までのノウハウとは異なる部分はありますが、新たに知見を深め、短期的な視点のみならず、中長期的なトレンドを踏まえたうえでFinTechビジネスを事業として診断する「目利き」するノウハウの構築は可能ではないでしょうか。これは金融機関がこれらのノウハウを内製化する事のみならず、これらのノウハウを持つプレイヤーと協業する取組みも想定されます。
2つ目は、新しいFinTechサービスに対する「信用力」獲得のための支援です。FinTech事業者の中には金融業界出身者による規制や金融機関としての信頼性を押さえた事業も多いのですが、Innovativeな事業は金融出身者以外から創出されることも多いのもまた事実です。一方で、「金融」事業の根幹にあるのは「信用力」であり、言い換えると「金融」として信頼に足るビジネスをいかに構築できるか、がハイプサイクルを発生させず発展していくカギとなります。よって、新規サービスとしてのInnovativeさは損なわずにいかに金融として「信用力」のあるサービスを作り上げる手助けをする事で自社の金融サービスも発展させて新しいビジネスモデルを構築していく共創モデルがTraditionalな金融機関に求められているリバンドル戦略ではないかと思います。
この取組みは必ずしもメガバンク等の大手金融機関だけの役割ではなく、地方銀行を主とする地方金融機関においても同じことが言えるのではないでしょうか。ますますコンパクトになりながら、一方で地方創生の一翼を担う地方金融機関にとって、Technologyを活用して顧客にとっての金融サービスの享受をどのように確保するか、また、ベンチャーを含む新興企業や中小企業の末端まで資金面を含めた支援育成を図っていくか、は今後の重要課題です。地方金融機関にとって、自らも充分な人手が確保しにくくなる中、社内にどのような機能を保持し、強みや価値を持つ領域に経営資源を集中させ、どの機能をFinTech事業者のような外部に委ねウィンウィンの関係となるエコシステムを構築していくのかは非常に重要な経営テーマだと思います。
ただし、この取組みに対処するうえで、金融機関側にも相当なマインドチェンジが求められることになります。海外の金融機関においては、多かれ少なかれ、デジタルというキーワードの元にドラスティックに自身のビジネスモデルを見直しています。その取組みのなかでは、自社内でウエイトを置く機能の見直しに加え、デジタル人材の積極採用も実施しています。
一方で日本の金融機関においては、従来よりも取組みウエイトがデジタル寄り、になったとは言え、まだまだ既存のビジネスモデル、既存の人材モデルのうえに成り立っています。加えて、物事を検討する時間はまだまだ諸外国に比べ時間軸が長いように見えます。ベンチャー企業を中心としたFinTech事業者は特にスピーディーに活動する事を好む人材で構成されていることが多いため、これらのプレイヤーの目に魅力的なパートナーに映るのは必ずしも規模が大きいだけの金融機関ではありません。これらのプレイヤーと同様の速度で物事を考え、対処してくれる金融機関です。海外の著名ペイメントサービスに代表されるように海外産FinTechが日本に参入しつつあるなかで、和製FinTechが日本で確固たる地位を築き、さらには金融包摂のニーズによるFinTech普及が見込まれるASEAN地域への展開をにらみ、日本の金融機関が果たせる役割はまだまだ多いのです。

執筆者

株式会社KPMG FAS
フィナンシャルサービス
ディレクター 竹内 浩

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